深海ニ咲ク花
ずっと、孤独だった。
私は誰にも愛されなかった。愛されてはいけない存在だと思っていた。
貴方に、出逢うまでは。
母が殺されから隔離され蔑まれ、ただ月を眺める日々だった。
私はこの命が尽きるまで、ずっと此処に居るものだと。
存在意義のない私は、ただ静かに、この鼓動が時を刻むのを止めるまで、ただこうして、何も出来ずにいるのだと、そう思っていた。
突如として小部屋に入って来た騎士と女性が、私を立たせて歩かせる。
もたつく足を何とか動かして歩いた先には、眩い光を放つ豪華な部屋だった。
全身を磨かれ、香油を塗られる。優しくて甘い、亡くなった母と同じ匂いがした。
着飾る私を見て、母は何を思うだろうか。
引きずるように連れられた場所は、大きく広々としたホールだった。
シャンデリアが輝き、かつても私は此処に立ったことがあった。
私は何処かへ売り飛ばされるのだろう。隅の方に佇んでいたら、貴方と目が合った。
こんなに高揚した気分は初めてで。
いつか貴方に、攫って欲しいと毎晩願った。
ある満月の夜、貴方は突然現れた。
辛うじて顔を出せる程の高さにある、鉄格子付きの窓を、あっさりと、簡単に破壊した。
「今宵の月は一際輝いて魅惑的だ。君の時間を貰えないか?」
私は微笑んだ。
「私も、あなたを待っていたの。どうか私を離さないで。」
愛しい貴方の腕の中で、私は深い眠りに落ちた。