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リリの現在と過去 4年前の事件②

「クリスティアン殿!何をまごついているのか!我が友とその婚約者への侮辱(ぶじょく)を撤回せよ!」


 怒鳴りつけたのはインディーア王国のアディナ王太子殿。王妃陛下の弟君で十六歳。赤髪と茶色い瞳と褐色の肌を持つ武人肌の王子様だ。

 インディーア王国は王妃陛下の母国であり、エデンローズ王国が最も重要視する友好国。普通なら、クリスティアン殿下が暴言を平謝りするところだけど……。


「は?なんだと?この国で最も高貴な生まれの私に対し無礼だ!汚物色の服を着た野蛮人め!弁えろ!」


「なんだと貴様ぁ!我が国の王太子殿下に対し不敬な!」


 またしても信じられない暴言を吐いたせいで、アディナ王太子殿下の側近が激怒!

 すぐさまレオナリアン殿下が謝罪し、クリスティアン殿下にも頭を下げさせたけど……当然、それで収まる訳はない。



 しかもそこに、ドラゴニア辺境伯夫妻も駆けつけた。お二人は怒気をほとばしらせ、クリスティアン殿下に詰め寄る。


「私たちの大切な娘を公然の場で侮辱するとは!クリスティアン殿下は我らドラゴニアとことを構えるおつもりか?!」


「いくら王族といえど聞き捨てなりません!」


 夫妻はどちらも辺境を守る武人だ。龍の息吹(ブレス)のような怒気を叩きつけられ、クリスティアン殿下は半泣きになった。


「わっ!私は悪くない!この蛮人どもめ!覚えていろ!」


「クリスティアン!逃げるな!待て!」


 レオナリアン殿下の声も虚しく、クリスティアン殿下は糞の役にも立たない捨て台詞を吐いて逃げたのだった。

 最低の馬鹿だ!


 馬鹿王子に逃げられた辺境伯夫妻は、レオナリアン殿下に詰め寄った。


「私どもの髪色をあのように悪様(あしざま)に言うとは。王家と中央貴族家は、いまだに我らを西方の蛮人と(さげす)んでいるということですかな?」


「ドラゴニア辺境伯!(ひか)えよ!レオナリアン殿下に対し口が過ぎる!」


「ゴールドバンデッド公爵、良い。我が弟の暴言ゆえだ。ドラゴニア辺境伯よ、改めて我が弟が失礼した。

 だが、誤解はしないで欲しい。王家も中央貴族家も、我が国の西の守護者たる其方(そのほう)らを重んじている。蔑むようなことは決してない」


「ふん。口ではどうとでも言えますな」


「ええ。こんなことがあっては不安ですわ。レオナリアン殿下も、内心では娘の黒髪を(うと)んでいらっしゃるのでは?」


 レオナリアン殿下は広間中に聞こえる大声で宣言した。


「ありえない!私はナターシャの夜空のような黒髪も!勇ましく気高いナターシャ自身も愛している!」


「レオ!私も愛しているわ!……お父様、お母様、ナターシャはレオナリアン殿下を信じます」


 お二人の仲についてはこれで解決したそう。レオナリアン殿下の愛の力ね。

 ナターシャ様が『婚約に反対するなら家族と戦うことも辞さない』と宣言されたからでもあるでしょうけど。


 次はアディナ王太子殿下への侮辱行為だ。

 王太子は馬鹿王子に対してだけお怒りだけど、お付きの侍従や大使たちは国際問題として対処すると言い出した。

 別室で話をするよう促しても従わない。そうこうしている内に、侍従の一人が近くにいたシルビアお姉様に絡みだした。


「貴女も我々の衣装を陰で嗤っているのでしょう?心にも無い否定をせずともよろしい。どうせ衣装の名も由来も知らないのでしょうから」


「恐れながら王太子殿下のお召し物は【泥濘(でいねい)の王衣】。貴方様のお召し物は【土の礼衣】ではございませんか?どちらも最上位の正装でございますね。【泥濘の王衣】は落ち着いた泥色に、絹糸とブラックダイヤモンドなどを用いた刺繍が艶やかです。【土の礼衣】も、灰色の生地にブラウンダイヤモンドとジェードの刺繍が素晴らしいですね。どちらもそれぞれお美しゅうございます」


「は?知っているのか?」


「はい。インディーア王国は、我が国の最も重要な友好国であらせられます。文化と歴史を学ぶのは当然です」


 お二人のやり取りに表情を和らげるアディナ王太子殿下。


「ふむ。ではこの【泥濘の王衣】の由来を述べてみよ」


「インディーア王国建国の祖、泥濘王ジャーカン陛下にあやかったご衣装でございます。

 泥濘王ジャーカン陛下は、泥に沈んだ大地を開墾し、戦で功績を上げ、インディーア王国の基礎を成した大英雄であらせられます。

 また弱者に対し慈悲深く寛容で、国が栄えた後も開墾と弱者救済に携われました。

 それ故に、泥中に咲く蓮が象徴の一つであらせられます。

 それにあやかり、泥染めの生地に蓮の花を刺繍した衣が、インディーア王国王家最上位の正装【泥濘の王衣】でございます」


「ほほう。なかなか学んでいるな。弱者救済に力を入れていたことも知っているとは感心だ。

 ……うむ。そなたとレオナリアンに免じて、あの愚者の戯言については不問としよう」


「殿下!甘い顔をしてはなりません!これはエデンローズ王国から我が国への侮辱です!」


「その通りです!徹底的に抗議すべきです!」


「【寛容は富める者の義務】 」


 それは泥濘王ジャーカンの逸話。自分を侮辱した貧しい病人を許し、施しを与えた。


「まだ幼いとはいえ、このような場であれほどの失言をしたのだ。あの愚者も心が病んでいるのだろう。哀れな病人の妄言を真に受けた私も浅慮だった。

 私は我が父祖たる泥濘王ジャーカンに倣い、あの哀れな病人の無礼を許す。無論、私とレオナリアンの友情にも何の支障もない」


「……殿下がそこまで仰るのでしたら」


 従者たちは矛を収めて従った。

 シルビアお姉様の博識さと機転のお陰ね!

 でもシルビアお姉様は苦笑いしてたな。

『アディナ王太子殿下が「クリスティアン殿下を幼い病人だから許した」ことで、クリスティアン殿下のお立場がさらにお悪くなられたわ。恐らく、狙っていらしたのでしょうね』と、言って。

 でもまあ、それって馬鹿王子の自業自得でしょう?シルビアお姉様が気にすることはないのに。


 シルビアお姉様はお優しすぎる。


 ともかく、アディナ王太子殿下の機嫌は治ったんだって。


「御令嬢、我が従者が失礼した」


「恐れ多いことでございます。インディーアの若き獅子君の寛大な御心に感謝いたします」


「そう畏まらずとも良い。名はなんと言う?」


 後日あちこちで噂になったのだけど、シルビアお姉様はそれはそれは美しいカーテシーを披露してご挨拶されたんですって!

 ああ!私もその場にいたかった!


「ゴールドバンデッド公爵家が三女。シルビアーナ・リリウム・ゴールドバンデッドと申します」


「宰相殿の末娘か。覚えておこう」


 こうして馬鹿王子の名は地に落ち、シルビアお姉様の名声が国内外に広まったのだけど……。


 そのせいで、シルビアお姉様は国王陛下の目に止まってしまった。


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