表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

リリの現在と過去 4年前の事件①

【傲慢で怠惰な馬鹿王子】

 それが、第二王子クリスティアン殿下の評価だ。


 クリスティアン殿下は、母親である第二側妃ティアーレ殿下によって育てられ、社交や公式行事にはほとんど参加しない。公務も担っていない。

 三歳しか歳が変わらないのに、すでに公務に邁進(まいしん)している第一王子レオナリアン殿下とは雲泥の差。評価が低いのも無理はない。


 理由としては、生まれつき病弱だからとされていた。ただし【本当は我儘で乱暴だからとても人前には出せない】という噂もある。


 私もシルビアお姉様も、噂は話し半分に聞いていた。


 シルビアお姉様曰く『病弱なのは本当ではないかしら。一度だけご挨拶したことはあるけど、その時は真っ赤になって口ごもっていらしたわ。何故か(にら)まれたのは気になったけれど……』


 噂って誇張されるものだし、国王陛下と第二側妃とその身内が不仲なのは周知の事実。そのせいで過剰に悪く言われているんだろう。そう思っていた。


 第一王子レオナリアン殿下とドラゴニア辺境伯令嬢ナターシャ様の婚約を祝う夜会が開かれるまでは。


 私はその場にいなかったけれど、シルビアお姉様からお話を聞いて絶句した。

 まさか噂の方がマシだったなんて!



◆◆◆◆◆




 レオナリアン殿下とナターシャ様の婚約祝いの夜会は、国内外の要人が招かれた華やかなものだった。

 国内の主だった貴族家当主はもちろん、デビュタント前の子女も多数招待されていたそう。

 当然、ゴールドバンデッド公爵閣下はもちろん、シルビアお姉様とご兄弟も招待を受けて参加されていた。


 シルビアお姉様にとって産まれて初めての夜会。私たち侍女は、張り切って御衣装を着付けたの。

 真珠やダイヤモンドが刺繍されたシャンパンイエローのドレス、首元や髪を飾る真珠の装飾。凛と立つ姿は黄水仙か黄色の薔薇のよう。

 夜会でも人目を引いたに違いない!私もシャンデリアの下で微笑むお姿を見たかった!


 開会してすぐ。シルビアお姉様たちは、第一王子であるレオナリアン殿下と婚約者であるドラゴニア辺境伯令嬢ナターシャ様へご挨拶とお祝いしに伺った。

 レオナリアン殿下は銀髪碧眼の十七歳。ナターシャ様は黒髪赤目の十六歳。

 シルビアお姉様はお二人のことを『とても気さくでお優しい方々だったわ。そしてすでに、未来の国王と王妃に相応しい威厳をお持ちだった』と、振り返った。


「私たちへの言祝ぎに感謝する。ゴールドバンデッド公爵令息と令嬢たちの有能さは、私も耳にしている。卿らには、ぜひ私とナターシャの側近になって欲しいものだ」


「ええ、本当に。シルビアーナ様、私のことはナターシャと呼んで下さいね」


「うむ。令息令嬢とも申し分ない。ゴールドバンデッド公爵家は安泰だな」


 そう仰ったのは、金髪碧眼の国王陛下。三十五歳とまだお若いのに貫禄と威厳に満ちていたそう。

 国王陛下のお言葉に微笑むのは、赤髪に茶色い瞳と褐色の肌の王妃陛下と、銀髪に灰色の瞳の第一側妃殿下。


「あら。レオナリアンとナターシャばかりずるいですよ。ねえ、エスタリリー」


「全くです。ぜひ配下に欲しゅうございます」


 王妃陛下は十八歳、第一側妃殿下は三十四歳、見た目も性格も違うお二人だけど、まるで姉妹のように仲がいいそう。


「国王陛下、王妃陛下、第一側妃殿下、若輩者どもに軽々しくお褒めの言葉を与えないで下さい。つけ上がります」


「氷の宰相閣下は相変わらず固いわねえ」


 ちなみにゴールドバンデッド公爵閣下は、この中では一番年嵩(としかさ)の三十九歳。国王陛下と比較的年齢が近いので、幼馴染のような関係だとか。


 しばらくは、和気藹々(わきあいあい)と話されていたのだけど……。


「第二側妃ティアーレ・ガーデニア・コーヴェルディル殿下、第二王子クリスティアン・カルヴィーン・コーヴェルディル殿下ご入場!」


 王族の入場を告げる声にざわめきが走る。

 ピンクブロンドに空色の瞳の第二側妃ティアーレ殿下、国王陛下と同じく金髪碧眼のクリスティアン殿下が入場される。


【病弱ゆえ、クリスティアン殿下は招待されていない。ティアーレ殿下もそれにならい参加されない】


 事前にそう案内されていたはずなのに。

 ざわめくなか国王陛下たちはお二人に歩み寄り、冷ややかな眼差しを向けた。


「クリスティアン。体調が悪く公務もままならない其方(そのほう)が、なぜここに居る?」


「う……ち、父上?何を怒っているのですか?私はただ夜会に参加したいだけです。怒られるようなことは……」


「祝いの席とはいえ公務中だ。父と呼ぶな」


「ひっ……」


 ティアーレ殿下は何を勘違いしたのか、二人のやり取りを幸せそうに眺めながら口を開く。三十四歳、しかも側妃という重積をおっているとは思えないあどけない笑顔で。


「愛おしい我が陛下。クリスティアンへのお気遣いありがとうございます。回復いたしましたので、私ともどもお祝いに馳せ参じた次第でございま……」


「要らぬ。招待もされていないというのに勝手に参加するとは何事か。クリスティアンと共に今すぐ失せよ」


「そんな!それではクリスティアンが可哀想です!」


 怒りを滲ませティアーレ殿下をにらむ国王陛下。悲鳴じみた声を上げるティアーレ殿下。

 そこに第三者が現れる。

 ティアーレ殿下の父、ガーデニア公爵だ。広大な領地を持つ大貴族であり、国政においては財務大臣を勤めている。


「まあまあ陛下。クリスティアン殿下もレオナリアン殿下をお祝いしたかったのでしょう。この素晴らしい日に免じて、兄君様とその婚約者様に祝いの言葉を捧げることをお許しください」


 確かに祝いの席でのこと。あまり角が立つのは望ましくない。


「陛下、私も弟からの祝いの言葉を受けたく存じます」


 レオナリアン殿下からの取り直しもあり、国王陛下はクリスティアン殿下の参加をお許しした。


 国王陛下はその代わりというように、ティアーレ殿下とガーデニア公爵を厳しく(にら)み、別室へと伴った。


『王妃陛下と第一側妃殿下も同行されていたわ。クリスティアン殿下を夜会に参加させるに至った経緯と、その手段を聞き出すためだったのでしょう』とは、シルビアお姉様の言。


 とにかく場は納まった。後はクリスティアン殿下が祝いを述べ、出来るだけ大人しくしていればいい。

 ……そのはずだったのに、馬鹿王子はやらかした。


「クリスティアン、久しぶりだな。君が祝いを述べてくれるとは嬉し……」


「ふん。相変わらず第一側妃ゆずりの老人のような白髪だな。そっちの黒髪女は田舎の蛮人か。王侯貴族の証である金髪でもピンクブロンドでもない貴様と、実に似合いの不細工さだな」


 いくらなんでもあんまりな暴言。何を考えてこんな発言をしたのかは、その場にいたシルビアお姉様たちにもわからなかったそう。


『後でわかったのだけど、クリスティアン殿下にはレオナリアン殿下をお祝いする気持ちはなかったの。当日になってから、ご自分が夜会に参加した事がないのに気づかれた。気づいたら行ってみたくなって駄々をこねて……クリスティアン殿下を溺愛するティアーレ殿下が、国王陛下にお伺いせずに叶えてしまったのですって』


 そして、前々から蔑んでいたレオナリアン殿下を公然の場で罵ったと。


 いや、どういう理屈?理解できない。大体、たかが髪の色が何ですって?


 もちろんレオナリアン殿下は、この理不尽な侮辱に抗議した。


「クリスティアン。お前はまだ幼い。私への暴言は許してやろう。だが、我が婚約者への暴言と侮辱は許さん。即刻発言を撤回し、ナターシャに謝罪せよ」


「はぁ?許してやる?撤回?謝罪しろだと?何故だ?私は本当のことを言っただけ……」


「私は貴様に罵られたところでなんとも思わないが、ナターシャへの侮辱は許さん。彼女は人品と武勇に優れた素晴らしい女性だ。私がぜひ妻にと願った愛しい婚約者だ。侮辱は許さん。

 クリスティアン、発言を撤回し謝罪せよ」


 レオナリアン殿下の静かな怒りが場を圧倒する。

 その場にいた全員、シルビアお姉様ですら跪きたくなる威厳(いぎょう)があったそう。


「ひぃ……!うっ……!な、なにを偉そうに……」


 クリスティアン殿下も圧倒されていたけれど、謝らない。

 膠着(こうちゃく)状態になりかけたその時。


閲覧ありがとうございます。よろしければ、ブクマ、評価、いいね、感想、レビューなどお願いいたします。皆様の反応が励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ