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さよなら愚かな婚約者様。私は愛する少女と幸せになります  作者: 花房いちご


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本編最終話 シルビアーナとリリは永遠に

 処刑見物とクリスティアンとの面会後。

 シルビアーナとリリは馬車の中にいた。お互いに着替えていて、温かいワンピース姿だ。そして、一枚の分厚いショールを共に羽織り、小鳥のように囁きあっている。


「シルビアお姉様、やっと終わったね」


「ええ。そうね。しばらくはゆっくりできるわ。視察じゃない旅行だなんて久しぶり」


 そう。お忍び用の馬車の目的地は、ゴールドバンデッド公爵家ではなく、王都から南東にある観光地だ。

 様々なことが済み、久しぶりにまとまった自由時間が出来た。せっかくなので、休暇を楽しむことにしたのだ。


 これからが楽しみで仕方ない。けれど、シルビアーナは少しだけ自嘲した。クリスティアンに対し、あまりに冷淡過ぎた気がしたのだ。


「リリ、貴女は私を優しいと言ってくれたけど、全然優しく出来なかったわ。

 ふふ。先ほどまでの私は、まるで本当に悪役令嬢みたいだったわね」


「シルビアお姉様は優しいよ。誰だって、誰にでも優しくするのは無理だもの。特に、あんなに自分を嫌ってきた人なんて、嫌い返して当然だよ」


「ええ、それはその通りね」


(でもねリリ。最後に気づいたのだけど、クリスティアン殿下が私を愛しているという言葉に嘘はなかった。……リリ、そうまでして私を奪われたくないのね)


 シルビアーナはうっとり微笑む。


「あんな人のことは忘れて、ゆっくり過ごそう。しばらくは、シルビアお姉様への求婚も無いでしょうし……」


 シルビアーナは、その言葉で思い出した。


「リリ、インディーア王国では、後宮内闘争が苛烈(かれつ)を増しているそうよ。貴女はなにか知っていて?」


 ぎくっとした顔になるリリ。


(リリって間諜をしていた割に、意外と分かりやすいのよね。私の前でだけかもしれないけど)


 内心で悦に浸りながら目を細めれば、リリはあっさり白状する。


「えーっと。ツテを使って、ちょっと情報を流しただけよ?」


 流した情報を要約すると、こうだ。


【アジュナ王太子殿下は、シルビアーナをはじめ多数の他国の令嬢に求婚している。

 しかも全員を上級妃待遇にし、今いる妃たちのほとんどを下賜(かし)するか離縁して家下がりさせるつもりだ。

 立太子されて以降、外交に力を入れて各国に出向いているのもその一環だ】


「『ほとんどを下賜か離縁させるつもり』という以外は嘘じゃないよ。アジュナ王太子殿下が、色んな国の御令嬢を後宮妃にしたがってたのは本当だし」


 この情報は、ローズメロウ・コットン時代に掴んだ。インディーアからの外交官が、酒の席でこぼしたのだ。


『アジュナ王太子殿下は、他国の花がお好きなようだ。貴国においては白百合の姫にご執心だな。決して手折られない気高さにそそられるのだろう。別の国でも才女に求婚していらした』


 ふーん。あの王太子、他にも粉をかけてたの。などと呆れつつ、リリは注意深く情報を集めた。

 結果。アジュナ王太子殿下は、エデンローズ王国以外の国でも優秀な令嬢に声をかけている事、本国には声をかけた半数以上を報告していない事がわかった。

 相手がその気になってから本国には伝えればいいと思っていたのか、半数は遊びだったのかは定かではない。

『アジュナ王太子殿下はクリスティアンを散々馬鹿にしていたけれど、本人も相当なものだ』そう、リリは呆れた。


「私はインディーアの後宮に伝わるよう、別のインディーア人に囁いただけ」


 そのインディーア人とは、クリスティアンが呼び寄せ、リリにドレスの生地を選ばせた大商人のことだ。


 大商人は複数の娘を後宮に嫁がせていたし、その場には他のインディーア人もいた。

 彼らがどう動いたかは知らないが、それから後宮内闘争が激しくなったのは間違いない。


 お陰でアディナ王太子殿下は、正妃や家臣たちから新たに妃を迎えることは控えるよう言われたのだとか。


「シルビアお姉様に求婚する虫がいなくなるからいいかなって……ここまで話が大きくなるとは思わなかったけど」


「あらあら。リリったらいけない子ね」


 そう言いながら、シルビアーナはとても嬉しかった。

 シルビアーナは、筆頭公爵家であるゴールドバンデッド公爵家の令嬢だ。そして実務面でも有能だ。

 王族に婚約破棄されても、国内外の貴族から求められる立場である。実際、水面下での打診がいくつもあった。

 ただ、大粛清があったので正式な申し出は今のところない。

 その間に、国王陛下より爵位と家名と領地を賜り生涯未婚でいる事を宣言するつもりだった。

 唯一の懸念はその辺りの機微を読まない、むしろ分かっていて無視しそうなアジュナ王太子殿下の動きだった。


(うふふ。私のリリは、なんて頼もしいのかしら)


 賞賛を伝えようとする前に、リリが少し気遣わし気な顔になる。


「シルビアお姉様だって、あんな場所でキスしたじゃない。いいの?近衛騎士だけじゃなくて【影】もいたし、国王陛下に報告されると思うけど」


「陛下には隠していないからいいのよ」


「え?そうなの?」


「ええ。隠すようなことでもないしね。私はリリが愛おしい」


「……嬉しい。私も愛してる」


 どちらともなく唇が重なる。羽根が触れ合うような軽い口付け。


「リリ、私を守ってくれてありがとう。これからも共にいるため、邪魔者は片付けていきましょう」


「シルビアお姉様……」


「優しくないことを言う私は嫌?」


「まさか。惚れ直したよ。シルビアお姉さ……」


 シルビアーナは人差し指で、リリの唇を閉じた。


「これからは『シルビアお姉様』より、もっと親しい呼び方にして」


「ふふ。わかったよ。私の愛しいシルビアーナ」


 シルビアーナとリリは、再び唇を重ねて恍惚とした表情を浮かべた。


 数ヶ月後。

 シルビアーナは、婚約破棄の慰謝料として新たな家名、爵位、かねてより運営に携わっていた王領マートルを賜った。

 これに伴い、シルビアーナ・リリウム・ゴールドバンデッド公爵令嬢から、シルビアーナ・リリウム・マートル伯爵に名を改めた。


【クリスティアン殿下をお諌め出来なかった罪を償うため、生涯結婚せず国に貢献し続けます。賜った家名、爵位、王領も、死後返還することをここに誓います】


 国王の後押しもあり、彼女の宣言は驚きと敬意を持って受け入れられた。

 以後、彼女の手腕によってマートル領は大いに発展していった。

 領地と国の発展に貢献し続けた彼女の傍には、常に一人の女性がいたという。



 本編完




◆◆◆◆


ここまでお読みいただきありがとうございます。

おまけの番外編を更新して完結予定です。番外編は三連休中には書き上がる予定です。

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