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リリの現在と過去 1年前 破滅のはじまり②

 夜会は穏やかに進む。

 シルビアお姉様とクリスティアン殿下は一曲踊った後、国内外の要人とご挨拶し歓談していた。

 クリスティアン殿下は、ほぼシルビアお姉様に囁かれた言葉を話していただけだけど。


 私はお側にひかえながら『まあ、三年前よりはマシか。少なくとも喧嘩は売っていないし。多少は成長されたんだなあ』と、思っていた。

 このまま問題なく終わるかと期待したのだけど……。


「あぁん!クリスティアン殿下ぁ!お探ししましたぁ!」


「殿下、今日もご立派な貴公子ぶりですな!」


「さあ、あちらで語り合いましょう!」


 いつもの取り巻きが群がり、クリスティアン殿下は彼らと合流しようとしてしまう。


「お待ちくださいクリスティアン殿下。まだご挨拶がお済みではございません」


「はっはっは!妬くなシルビアーナ!すぐお前の元に帰ってきてやるから、挨拶は適当にしておけ!」


「なっ……!」


 多数の臣下がご挨拶のため待っているというのにこの発言。流石のシルビアお姉様も動きが遅れた。

 その間にクリスティアン殿下はさっさと動いてしまった。


「皆様、申し訳ございませんが失礼します。後ほど、改めてご挨拶させてください」


 シルビアお姉様は、まずその場にいた方々に謝罪した。私も一緒に頭を下げる。

 何人かは、クリスティアン殿下の暴走を止めれなかったことを非難したり揶揄したけど、ほとんどの方はシルビアお姉様に同情的だった。

 謝罪が済み、ドレスで許される限界の速さでクリスティアン殿下を追う。

 目で追っていたし、あの集団は目立つから場所はわかる。


「シルビアーナ様、あちらです」


「ええ」


 やがて近づき、クリスティアン殿下と取り巻きたちの会話が聞こえてきた。


「ところでクリスティアン殿下、今宵は普段お会いできないような方々もいらしているとか」


「私たちのことも紹介して下さいませ!お金持ちそうな方がいいわ!」


「はっはっは。任せろ。ん?ちょうどいい所に……」


 そこにいたのは、第一王子レオナリアン殿下と、他国からの要人らしき赤髪に褐色の肌の男性だ。服装の色味は地味だが、一目でわかるほど技巧を凝らしている。

 ヒュッと、シルビアお姉様が息を呑む。私も気づいた。

 まずい!あのお方は!


「レオナリアン、そちらの方はどなたかな?ぜひ、ご挨拶させて頂きたい」


「クリスティアン、何を言って……」


 ああ、間に合わなかった。クリスティアン殿下は、レオナリアン殿下を押し退けてご挨拶してしまった。


「お初にお目にかかる。私はエデンローズ王国の第二王子クリスティア……」


「どなたかと思えば、お気の毒なクリスティアン殿ではないか」


 挨拶をさえぎって発言した赤髪の男性は、インディーア王国のアジュナ王太子殿下だった。

 三年前、クリスティアン殿下が侮辱(ぶじょく)した一人だ。シルビアお姉様が何回も『絶対に話しかけてはなりません。先方のご希望です』と、言っていたのに!


「おや?どこかでお会いしましたか?」


 アディナ王太子殿下は、憐れみの眼差しを向けた。


「インディーア王国の王太子と言えばわかるか?」


「おお!我が国最大の友好国ですな!」


 クリスティアン殿下は、アジュナ王太子殿下を侮辱したことも、出会ったことも忘れていた。

 アジュナ王太子殿下は呆れ果てた様子で息を吐く。


「レオナリアン、弟君のご病状はよろしくないようだ。実にお気の毒なことだな。……私は三年前と同じ愚を犯したく無い。適切な場所へ移して差し上げたらどうだ?」


「ああ、貴殿の寛容(かんよう)に感謝する」


「は?何を言って……」


 レオナリアン殿下は静かに、しかし威圧と威厳を持って告げる。


「クリスティアン、これ以上の無礼は許さん。即刻、退席せよ」


「な、なんだと?きさ……っ!し、シルビアーナ?」


 反論しようとするクリスティアン殿下。シルビアお姉様は、その前に歩み出て発言した。


「レオナリアン殿下、アディナ王太子殿下、無作法をお許し下さいませ。クリスティアン殿下は、先程からご気分が優れぬご様子でした。控えの間にお送りするのが遅れた私の責任でございます」


 レオナリアン殿下は少しだけ表情を和らげる。


「ゴールドバンデッド公爵令嬢、弟への配慮に感謝する。そなたに罪はない。重ねて手数をかけるが、弟を送ってやってくれ」


「承知いたしました。それでは御前を失礼致します」


 私たちは、クリスティアン殿下を挟むようにして退席しようとした。流石のクリスティアン殿下も空気を読んだのか大人しい。

 でも。


「シルビアーナ嬢、待たれよ」


 アジュナ王太子殿下が呼びかけた。シルビアお姉様も無視するわけにはいかず、足を止めて向き直る。


「ご挨拶もなく失礼いたしました。アジュナ王太子殿下におかれましてはご機嫌麗しく……」


「いや、挨拶はいい。呼び止めてすまない。どうしても伝えたいことがあるのだ」


 アジュナ王太子殿下の茶色い瞳に熱が籠る。


「シルビアーナ嬢、以前の申し出を覚えているだろうか?私の想いは変わっていない。インディーアのアジュナは、いつでもそなたを歓迎する」


 周囲がざわめく。

 舌打ちしかけた。アジュナ王太子殿下は、シルビアお姉様を諦めてなかったのね。

 三年前に持ち上がったアジュナ殿下とシルビアお姉様の縁談は、クリスティアン殿下との婚約で無くなった。正式に縁談が申し込まれる前なのもあって公表されてなかったけど、これで明らかになってしまった。


「我が国の後宮には他国の姫も多い。エデンローズ王国は素晴らしい国だ。()()()()()()()()()()()()()()。だが、そなたへの扱いはいささか不適切ではないか?

 我が国には、そなたの才覚を適切に生かし愛でる準備がある。安心して私を頼って欲しい」


「っ!!このっ……!」


「クリスティアン殿下、声を荒げてはなりません。国際問題になります」


 間一髪。私は怒鳴ろうとしたクリスティアン殿下に囁いた。歯ぎしりしながらだが、こらえてくれたようだ。

 シルビアお姉様は、何の熱も浮かべていない瞳と声で返事をした。


「過分なお言葉ありがとうございます。ですが、私の答えは変わりません。

 私は王家に忠誠を捧げております。この生命尽きるまでお仕えし、エデンローズ王国の発展に貢献することこそ私の本望でございます」


 断られたというのに、茶色の瞳はますます熱を帯びる。


「……そなたは白百合の花のように気高く美しく、薔薇の棘より鋭く近寄り難いな。ますます気に入った。

 引き止めて悪かった。クリスティアン殿、お大事にな」


「……御前を失礼致します」


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