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リリの現在と過去 2年前 進まぬ教育と悪意

 シルビアお姉様とクリスティアン殿下が婚約して、二年ほど過ぎた。


 最悪の初顔合わせ以降も、あの馬鹿王子は最悪を更新し続けている。


 相変わらず国王陛下の説教は聞き流し、シルビアお姉様と教師たちから逃げては遊んでいるのだ。

 しかもこの二年で女遊びを覚えたらしく、婚約者であるシルビアお姉様の前ですら自嘲しない。あまりに見苦し過ぎて、腹が立つのを通り過ぎて呆れている。


「嫌だ嫌だ嫌だー!」


 今日も、クリスティアン殿下は執務室で駄々をこねている。幼児か?十六歳のデビュタントを迎えたはずだけど?


「公務だと!ふざけるな!この私に労働しろというのか!勉強も嫌だ!高貴で完璧な私には必要ない!」


 クリスティアン殿下は、捨て台詞を吐いて逃げ出した。シルビアお姉様たちは後を追う。

 そして母后であるティアーレ殿下や祖父であるガーデニア公爵が用意した取り巻きを侍らせ、酒を飲んでは戯れているところを見つけるのだ。


 そして、国王陛下かシルビアお姉様と教師たちが苦言をていして止めるのがいつもの流れだ。

 最初は、国王陛下が用意した側近候補たちがその役割を担っていた。けれど、クリスティアン殿下に嫌気がさしたりガーデニア公爵たちから嫌がらせをされてやめてからは、シルビアお姉様たちの負担が増える一方だ。

 シルビアお姉様は決して弱音を吐かないけれど、お労しい。


「クリスティアン殿下、失礼します」


 返事を待たずにドアを開ける。シルビアお姉様は、国王陛下よりクリスティアン殿下の居室に入ることを許されている。もちろん、二人きりでない状況に限るけどね。


「なっ!また勝手に私の部屋に……!」


「いやぁん。殿下ぁ。怖いですぅ」


 クリスティアン殿下は、今日も金髪とピンクブロンドの令嬢たちを連れ込んでいた。どちらもデコルテを大胆にさらしたドレスをまとい、甘ったるい声でさえずっている。

 クリスティアン殿下は、彼女たちを両脇に侍らせて胸や膝を撫でていたらしい。

 醜悪すぎて吐き気がした。


「シルビアーナ!取り込み中だ!失せろ!貴様の小言など聞きたくない!」


「きゃっクリスティアン殿下ぁ!カッコいいわぁ!」


「素敵ですぅ。頼もしいわぁ」


「お前たちも、どこかの誰かと違って愛らしいぞ。やはり女は、甘い声で可愛く鳴いてこそだな」


 黄色い声に鼻の下をだらしなく伸ばすクリスティアン殿下。いやらしく令嬢たちの身体を弄りながら、シルビアお姉様をニヤニヤと見た。


「ああん。クリスティアン殿下ぁ。まだ日が高いですよぉ」


「固いことを言うな」


 女たちとは一線を越えてはないらしいが、不実にも程がある。私も教師たちも険しい顔だが、シルビアお姉様は淡々と告げる。


「クリスティアン殿下、公務にお戻り下さい」


 ニヤついた顔がまた怒りに染まった。


「嫌だ!シルビアーナが口うるさくて醜いからやる気が出ない!癒しが必要なのだ!」


「さようでございますか。では、そちらの御令嬢方に癒して頂いた後は公務にお戻り下さい。本日は明日からの視察の打ち合わせも……」


「黙れ!白髪頭の醜女(しこめ)め!見た目が醜い上に、言葉にも可愛げがないな!田舎にはお前だけで行け!」


「田舎などと言っては不敬です。国王陛下直々に、クリスティアン殿下が管理すべしとされた王領でございますよ」


「うるさいうるさーい!とにかく私は行かないからな!」


「なりません。……仕方ありません。騎士様方、よろしくお願いします」


「お、おい!離せ!私は第二王子だぞ!」


 我儘ばかりの馬鹿王子をなだめ、注意し、説明し。それでも駄目なら、近衛騎士たちに運ばせて公務と勉強をさせるのが恒例になっていた。


 その後もつきっきりで面倒を見る。


「クリスティアン殿下、お見事でございます。先日よりも書類を読む時間が早くなっておりますし、誤字も減っています」


「ふふん。当然だ。私は真に高貴な存在だからな!」


 少しでも興味を持てるよう工夫し、褒めて讃えて、ようやくほんの少しだけやる気を出すクリスティアン殿下。


「お前のような可愛げのない女など、婚約してやるのは私ぐらいだろう。感謝するのだな!」


 挙げ句の果てには、シルビアお姉様を口汚く罵る。

 しかも、クリスティアン殿下の能力では公務も勉強も進みは遅い。それらを補うシルビアお姉様の負担は凄まじい。


 シルビアお姉様は、クリスティアン殿下に献身的にお使えし、教育を与え公務を補っている。すでに幾つか功績を上げてすらいる。

 なのにクリスティアン殿下はシルビアお姉様に感謝しないし、自らの行いを反省しない。

 恥知らずにも、母后であるティアーレ殿下に愚痴ったり泣き付いたりしてるらしい。

 そのせいで、シルビアお姉様の負担がさらに増えている。




 ◆◆◆◆◆




 ティアーレ殿下は、いまだに離宮に謹慎されている。王城には行けないし、夜会や茶会への参加やガーデニア公爵家への里帰りも禁じられている。

 ただし、離宮に他人を招くことは禁止されていない。


 毎週のように【未来の義母と義娘のお茶会】と称してシルビアお姉様を呼び出す。

 ご多忙を理由にお断りするけれど、数回に一度程度はお招きに応えなければならない。


 離宮は、数代前の国王陛下が愛妾のために建てさせたもの。

 壮麗さと歴史を備え、見事な庭園と相まって美しい。

 けれど王城から馬車で半日かかる郊外にある。いかに、国王陛下がティアーレ殿下を苦手とされているかを表していた。


 離宮の中に入ると、今日はサンルームに通された。

 室内は明るく、大きな窓からは庭園がよく見える。季節の花々が美しい。

 ここの主人は、庭園の趣味だけはいい。


「良く来たわね。恥を知らないのかしら」


 招いた癖に嫌味を吐くのは、第二側妃ティアーレ殿下。

 ピンクブロンドの豊かな髪、大きな空色の瞳、庇護欲を誘う顔立ちの美女だ。とうに三十歳を過ぎ四十路になろうという年齢だけど、言われなければ二十歳そこそこに見える。

 フリルとリボンたっぷりのドレスがよく似合う。まるで物語のお姫様みたい。

 だけど性格はクソ。


「また私のクリスティアンに、公務をしろだの勉強をするだのと言ったんですってね。おまけに、田舎に行くよう言ったとか?髪色だけでなく、余計なことしかしないところも似ているわねえ」


 空色の瞳が憎悪、いや殺意に濁る。


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