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リリの現在と過去 4年前の顔合わせと内緒話

 婚約が決まってすぐ、シルビアお姉様とクリスティアン殿下の顔合わせの場が整えられた。


 王城の謁見室。

 ゴールドバンデッド公爵閣下とシルビアお姉様と私たち御付きの者が入室すると、国王陛下とクリスティアン殿下が先に座っていた。国王陛下の侍従は五人、近衛騎士は十人。前回の倍以上だ。


「国王陛下とクリスティアン殿下におかれましては、ご機嫌麗しく……」


 先にお座りになっている国王陛下方に対し、まずゴールドバンデッド公爵がご挨拶をする。

 次はシルビアお姉様なのだけど……。私は斜め後ろの壁際に控えながら、内心で首を傾げた。

 クリスティアン殿下が、青い瞳でじっとシルビアお姉様を見ている。なんだか熱がこもっているような?


 シルビアお姉様のご挨拶。美しい口上とカーテシーを披露したところで、ぽつりと言葉がこぼれます。


「あ、ああ。シルビアーナ。貴様……そ、そなたとは会ったことがあるな」


 国王陛下に睨まれて訂正するクリスティアン殿下。シルビアお姉様は微笑んだ。


「はい。お久しゅうございます」


 クリスティアン殿下は、シルビアお姉様と昔ご挨拶したことを覚えていた様子。


「おお。二年前の新年の宴で顔を合わせたのを覚えていたか。シルビアーナ嬢は飛び抜けて美しく優雅であるから当然だな」


「過分なお言葉に恐れ入ります」


 国王陛下はどこか嬉しそう。クリスティアン殿下は、人の顔と名前を覚えるのが苦手という噂は本当みたいね。まあ、見目も中身も素晴らしいシルビアお姉様を覚えているのは当然ね。

 ゴールドバンデッド公爵も『当然だな』といった顔をしている。

 シルビアお姉様は柔らかな笑みを浮かべた。


「覚えて頂き嬉しゅうございます。クリスティアン殿下、不束者(ふつつかもの)ですがよろしくお願い申し上げま……」


「よろしく?何をよろしくするのだ?」


 和みかけた空気が強張る。

 は?何をって。まさか、この顔合わせの意味も、シルビアお姉様と婚約したことも知らないの?


「はあ……クリスティアン、また余の話を聞いていなかったか。シルビアーナ嬢はお前の婚約者になったのだ。今日はその顔合わせだ」


「は?」


 は?じゃない!本当にわかってなかったの!?嘘でしょ!?


「……シルビアーナ嬢、ゴールドバンデッド公爵、愚息(ぐそく)が失礼した」


「なっ!こ、この私が愚息……!」


 クリスティアン殿下は国王陛下のシルビアお姉様への謝罪を聞きながら顔を歪ませた。

 ギッと、シルビアお姉様を睨む。


「父上!このような醜い女が私の婚約者だなんて何かの間違いです!きっと、この老婆のような白髪頭どもが陰謀を……!」


「クリスティアン!発言を撤回し、シルビアーナ嬢とゴールドバンデッド公爵に謝罪せよ!」


 クリスティアン殿下は涙を浮かべて「私は悪くない!醜いこいつが悪い!」「金髪とピンクブロンド以外は下民の色!狼のような金眼も不吉だ!」と、泣き喚くばかり。

 最終的には、侍従や近衛騎士に取り押さえさせていた。


 収集がつかなくなり、顔合わせは終わった。




 ◆◆◆◆◆





 初顔合わせの帰り。馬車の中。

 ゴールドバンデッド公爵閣下は、皮肉気に口元を歪めた。


「あの王子は、夜会の時から成長していないな。国王陛下直々のご指導があって、アレか。

 シルビアーナ、お前の行く道は私たちの想像以上に険しい。……無理はするな。お前に相応しい人物と結婚し、お前の能力を生かす道を用意してやる」


「お父様、お気遣い痛み入ります。ですが、まだ始まったばかりです」


 シルビアお姉様の言葉にも眼差しにも迷いはない。やり遂げるおつもりだ。この方なら出来るかもしれないと思う。

 けれど、あの馬鹿王子が王族に相応しい品位と教養を身につける日が来るとは思えなかった。

 何よりも。


 シルビアお姉様を醜いと罵った!絶対に許さない!なんとかして王子の座から引きずり下ろしてやる!


 でも、一番腹が立つのは自分に対してだ。

 シルビアお姉様をお守りしたい。幸せにしたいのに。

 私ができるのは、お側にいて身の回りを整え労わることだけ。

 間諜として、また護衛として鍛えられているけれど、それは王族相手には活かせない。

 所詮は一介の侍女の身。クリスティアン殿下の暴言に抗議することも出来ない。


 怒りと嫌悪。何よりもシルビアお姉様の今後が心配で不安で仕方ない。シルビアお姉様の夜の支度を終え、下がる頃になっても落ち着かなかった。

 それは、シルビアお姉様も同じだったみたい。


「リリ、今夜は私と寝て。お願いよ」


 寝台に横たわるシルビアお姉様から誘われて、私に断れる訳はない。

 すぐ近くにある私の控えの間に行き、寝衣に着替えて戻った。




 ◆◆◆◆◆




 薄い寝衣に包まれたシルビアお姉様が、私の身体を抱きしめる。

 お互いの鼻先がくっつく近さ。


「一緒に寝るのは久しぶりね。ふふ。リリの良い香りがするわ」


「シルビアお姉様も良い香り。お花みたい」


「貴女たちが磨いてくれているからね」


 それ以上に、貴女こそが香り高い。


 心地いいのに落ち着かなくて、身じろぎしそうになって止める。

 侍女に支給されている寝衣は麻生地で、質はいいが少し固い。

 シルビアお姉様の、百合かマグノリアの花びらのような白い柔肌が傷つかないか。怖くて心配で動けなくて、ドキドキして……。

 でもそれ以上に、布越しに感じる華奢な肉体の感触と温度、私に無防備に触れ合う姿にときめいている。

 私の心臓の音、シルビアお姉様に聞こえてないかな?

 私の胸、最近大きくなったから伝わらないで済むかな?


 そんな風に考えていると、シルビアお姉様が身じろぎする。

 お顔を私の胸に埋めるようにして。


「ちょ、し、シルビアお姉様?」


 髪や肌がくすぐったい。シルビアお姉様は小さな声で呟く。


「リリは良い香りで、柔らかくて、小さくて……とっても頼もしくて素敵ね。大好きよ」


「えぇ?頼もしくなんて……」


「頼もしいわ。いつも私を甘やかして、守ってくれている。私の大切な女の子」


「シルビアお姉様……」


 胸がきゅっと痛くなる。抱きしめ返すと、微かに震えた。


 婚約について。私やゴールドバンデッド公爵閣下以上に、シルビアお姉様は不安で心配なのかもしれない。


「シルビアお姉様、大丈夫よ。私に出来ることはなんでもするし、側を離れないよ」


「うん……」


 シルビアお姉様の声が、少し明るくなった。私も少し心が軽い。

 でも、これからへの不安は完全には消えない。


 思えば、すでにこの婚約が悲惨な結末を迎えることは、この頃には決まっていたのだと思う。


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