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爛れ顔の聖女は北を往く  作者:
4.聖女、北の地に立つ

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59.失言

 機嫌の悪そうなヴィルから意識を逸らすためにも、シャナは覚えている限り詳細にこれまでの経緯を語った。

 その後は基本的に聞かれたことに答えるだけだが、それを報告書用にメモを取るヴィルは大変そうである。特に隣のフロスティと対面のハンナからのチェックが厳しい。そりゃあ機嫌も悪くなろうというものだ。


「――なるほどな。ったく、これだからお貴族様ってのは好かねぇんだ」


 召喚から今日までの経緯を説明したところで、辺境伯家に仕えるためにS級への昇格を蹴った元冒険者の言である。同じく昇格を断った妻も隣で頷いているので、シャナは何もコメントしないことにした。


「シャナさんの希望として戦争への加担は拒否とのことですが、魔物討伐はどうです?」

「……それは、聖女としてですか?」

「ええ。現在のところ魔の森やダンジョンにスタンピードの兆候はありませんが、この先はわかりません」


 フロスティからの問いに、シャナは少し考える。

 確かにイェーレブルーに来てまだ二日だが、それでもこの地がいかに厳しい環境であるのかは理解できた。冬の寒さや雪はもちろん、魔物対策にも非常に力を入れているのだと肌で感じたばかりだ。

 この土地に住む者たちにとって魔物という脅威は常に付き纏う。


「……正直、聖女とか言われてもよくわからないし、過去の聖女や聖人の記録を見ても、自分に同じことはできないと思うんです……。細雪だって、本物の聖女だったら浄化で消えちゃってたはずなんでしょ?」

「記録上ではな。誇張されてる可能性もある」


 がりがりと強い筆圧で紙にペンを走らせながらヴィルが頷いた。

 二人で話してからというもの、彼の機嫌はすこぶる悪い。それでもきちんと返事はしてくれるのでシャナは戸惑いつつもこの場では触れないことにしている。

 さすがに二つしか年が離れていないのに父親扱いは失礼だった、と今更ながらに思うので、また二人の時にでも謝るべきだろう。この場で掘り返して、他人にまで知られたくはないはずだ。

 

「あの時はとにかく必死で……また細雪の時と同じことができるかもわからないですし。ただの冒険者としての私はそれこそ役に立たないだろうなっていうのが正直なところです」

「ふむ、聖女の力については私も、いえ、誰にもわからないでしょうね。ただ、冒険者でなら経験を積み、レベルを上げれば魔法使いとして高ランクも夢ではないと思いますよ」

「そうね、シャナの魔力はとても……それこそこの世界でも類を見ないほど多いのだと思うわ」

「えっ」


 しれっととんでもないことを言われた気がして、シャナは反射的にヴィルの横顔を伺った。

 眉間にしわを寄せて手元の紙に視線を落としたまま、ヴィルが小さく頷いたのを見て、シャナは恐る恐るフロスティとハンナ、それぞれへ目を向けた。


「正直なところ、シャナさんの魔法は無駄が多いというか、本来の用途と違うのに望んだ効果を得られているのは魔力でごり押ししているからです」

「なるほど……」

「これはわかってないときのやつだぞ」


 神妙な顔で頷いて見せたら、即座にヴィルにばらされてフロスティの笑みが深くなった。柔和な印象のフロスティだが、その笑みを見て背筋が震える。ヴィルめ、余計なことを。

 

「シャナさん、”浄化”の魔法はどんなイメージで使っていますか?」

「え、うーんと衛生管理、かな? 病気の元になる菌とかウイルスを綺麗さっぱり消毒したり、汚れを洗い流したり」

「本来の”浄化”魔法は、アンデッド系の魔物への主な攻撃手段です」

「エッ、それって……”浄化”は攻撃魔法……ってコト?!」


 裏返った声を上げながら他の面々へも視線を走らせれば、全員が肯定するように頷いているではないか。フロスティに至っては「そう言いましたよね」と笑みを深めている。

 小さくて可愛かろうと彼には効果がないようだ。小さくも可愛くもないので当然と言えば当然だが。


「ちょ、ヴィルさん?! なんで教えてくれないの!?」

「俺かよ! だからなんかおかしいっつったろ」

「全然違うじゃん! なんかおかしいとか、そういうレベルじゃないじゃん!?」

「ヴィルは火魔法を習得するときも、魔力操作だけでひと月かかった馬鹿……いえ、脳筋ですからねぇ」

「それ言い換えられてねぇし、俺はアロルドよりマシだ!」

「私はその辺の五歳児より世間知らずなんだから、ヴィルが保護者としてしっかりしてくれないともっと困らせることになるよ!?」

「誰が父親だ!!」


「「……あっ」」


 真っ先に噴出したアロルドとフィリップにつられるように笑いが伝播していき、ついには寡黙なラウリッツまで肩を震わせる。

 自らの失言に言葉もなくしたヴィルの肩を叩いたシャナに、「元はお前が原因だからな」となじる声は覇気のないものだった。

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