58.質疑応答
自分の思いを明確に把握したシャナと、同年代の女から父親扱いされたヴィルの話し合いはその後、辺境伯にすべてを報告し保護を求める方向ですぐに決着した。
<獅子の尾>の老夫婦を通じて辺境伯へヴィルがまとめた聖女召喚からイェーレブルー到着までの経緯が報告されることとなり、<北辰の牙>の面々も含めて情報を共有することになった。
そして旅の間にヴィルが書き留めてくれていた報告書を読んだフロスティから笑顔で書き直しが言い渡され、七人で食卓を囲みながらシャナへの質疑応答のかたちで説明は始まった。
まさに「異世界召喚されて監禁された聖女だけど、何か質問ある?」である。スレッドではなく対面形式だが。
ヴィルの書いた報告書を見ながら、当時を思い出しつつ説明をしていく。
途中、トルトゥでの話になると同じ女性であるハンナだけでなく、男性陣もみな眉を寄せた。シャナとしては今となっては「そんなこともあったなぁ」くらいに思っているのだが、やはり冒険者ギルドの職員というところが特に問題らしい。
「その受付は?」
「俺の名前で抗議した」
「北辰のヴィルヘルムからの抗議ならもうクビになってるか」
「職員としての立場がなくなっても似たようなことを繰り返していそうではありますが……」
「その辺は街の警備隊が何とかするだろう」
やるとは言っていたが、本当にやっていたとは。確かにアスローの近くの滝でそんな話をした覚えはある。だが街に戻ってからもとくにそれらしい行動をヴィルが行っていた様子はなかったように思う。
とはいえ冒険者ギルドでのやり取りは基本的にヴィルとエドガー任せで二人の後ろにくっついているだけだったシャナなので、気づいていないだけだろう。
「あ、そういえばトルトゥの冒険者ギルドでその職員から一度助けてくれた冒険者がいて――」
不意に、くるりと毛先の巻いた明るい茶色のショートヘアと健康的に焼けた小麦色の肌の冒険者を思い出した。
ギルドの受け付けで例の職員に絡まれた際、後ろに並んでいた女性冒険者だ。鍛え抜かれた長身で金属鎧を身に着けていたのもあって男性にも見えたが、女性冒険者の先輩として助けてくれた彼女の優しさはとてもうれしかった。
あの時は名前も聞けなかったが、S級冒険者の<北辰の牙>なら顔も広いだろうしもしかしたら知っているかもしれない。
「うーん……、せめて名前がわからないと難しいですね」
「腕の立つ奴なら名前だけは知れ渡るし、聞いたことあると思うんだがなぁ」
「やっぱわからないですよねぇ……」
外見的特徴だけではさすがにわからなかった。当たり前である。
冒険者なら日焼けしていて当然だし、金属鎧も装備としてはありきたり。パーティ名だけでもわかれば別だったかもしれないが、当時のシャナはそこまで気が回っていなかった。
可能ならもう一度会ってきちんとお礼を言いたかったが、やはり難しいらしい。
「で、そいつがかっこよかったって?」
「はぁ?!」
この話になってから口を閉ざしていたヴィルが急に声を上げた。対面でからかったアロルドも予想外の反応だったようできょとんとしている。
「お前、前は言ってなかっただろ……」
「そうだっけ? 忘れてたっていうか、たぶん限界でしんどいことだけばーって話しちゃったからかな」
ほう・れん・そうのできない社会人である。いや、それだけ精神的に限界まで追い込まれていたのだ。優しさに気付くにも余裕が必要なのだ。そういうことで許されたい。
それはそうとしてアロルドの問いだ。
困っていたところを颯爽と助け、しかも名乗りもせず後輩指導だけする先輩冒険者がかっこよくないはずがないではないか。少なくともシャナは憧れた。
「まぁ確かにかっこよかったけど、助けられたら普通そう感じません?」
「シャナさん、これがそんな経験と感性を持っていると思いますか?」
「あー……、はは」
これ、とアロルドを指さすフロスティに思わず頷きかけたがすんでのところで思いとどまれた。助けられた経験がないのはともかく、感性がないことを肯定するのは失礼すぎる。
とはいえ本人が「持ってねぇな!」と大笑いしていたので頷いてしまっても問題なかったかもしれないが。
「……今思うと、この世界に来て初めて自分の利益とか関係なく優しくしてくれた他人だったなぁって。あの職員の言うこと聞く気はなかったけど、どうしていいかわからなかったし、できればちゃんとお礼したいなってだけですよ」
「まぁなんかわかれば教えるよ」
「ありがとうございます。まぁダメ元なんでそんなに気にしないでください」
気安く請け負うアロルドだが、シャナもそこまで期待してはいないので何かの拍子に会えれば良いな、ぐらいだ。
この話題になってから眉を寄せて苦い顔をしっぱなしのヴィルの機嫌の方が今のシャナには気がかりである。




