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爛れ顔の聖女は北を往く  作者:
3.聖女、ダンジョンに入る

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45.S級冒険者の困惑

 阿鼻叫喚(したのは主にシャナだけである)のダンジョン主との邂逅は思わぬ形で終焉を迎えた。


 半狂乱だったシャナを落ち着かせ、視界の戻ったエドガーに預けたのち、すっかり小さくなってしまったダンジョン主――元ダンジョン主の白蛇を摘まみ上げたヴィルは内心で頭を抱えた。


 魔物とダンジョンは共存関係にあると言っても過言ではない。ダンジョンはその存続のため、魔物は生存や糧のための縄張りとして。

 特にダンジョン主となる魔物は、まるでその地の王かのように特異な力を持つこともあり、ダンジョンが主を強化・守護することで自らを守ろうとしているのだ。

 ダンジョン主とは、コアのエネルギーを摂取し強化されたとはいえ、魔物である。

 魔物の発生には親となる魔物同士の交配から生まれる場合と、野生の動植物が瘴気に侵され魔物化する場合の二種類があるが、どちらの場合にも首を落とすか心臓を止める等、手段はともかく生物であるので殺すことは可能だ。

 

 

 ただ、こんな状況はさすがのヴィルも初めてだった。

 きちんと姿を確認する暇もなかったが、おおよそ普通の蛇が巨大化した姿だったことから、野生の蛇が瘴気に侵され魔物化していたのだろう。

 ダンジョン主が巨大な蛇だと知った時点で、ヴィルはその首を落とすつもりでいた。しかしその前にシャナが放った魔法により、その巨体が消えた。

 何を言っているのか自分でもわからないヴィルだが、実際に目の前で起きたことである。何度思い返して考えても意味が分からない。


 落ち着いたシャナ曰く「汚いしアレにびっくりして反射的に力いっぱい”浄化”しちゃってた」とのことである。虫という単語すら口にしたくないらしかった。

 これまでにも食事の前後や戦闘後、化粧水やリンス液作成の時などシャナが常日頃から気軽に”浄化”を多用している様子は確認しており、本人としては一番使い慣れた魔法なのだろう。


 実際にはシャナの使い方とその効果を見るに、本来の”浄化”とは異なる使い方をしているようだったが、ヴィルはあいにくと光魔法には詳しくない。なんか違くね? とは思ってもシャナにうまく説明できる気がしなかったので、イェーレブルーに着いてから<北辰の牙>のメンバーであり本職の魔法使いであるフロスティに任せ(丸投げ)るつもりでいた。

 シャナの魔力量についても同様にするつもりであったが、さすがに魔物化した蛇を元の(?)白蛇に戻し、ダンジョン内を一掃するほどの威力の魔法を放ったのを見ればそうもいかない。

 魔力切れで昏倒、下手すれば死んでもおかしくはないのだ。

 だというのに、虫を怖がる以外、特に普段と変わった様子もなく、「なんかごっそり魔力持ってかれた気はするけど、特に問題ないよ」とけろっとした顔で言われてしまった。


 

 ――魔法とは、魔力による脳内イメージの具現化である。

 だから同じ水を出す魔法でも人によって温度が違ったり、光を灯す魔法で色合いが違ったりする。

 もちろん、風のように目に見えない魔法などはイメージしやすいように教本では細かな仕様が図説されている場合もあるので、使用者による違いが生じにくいものもある。

 なのでシャナの”浄化”が教本に書いてあるものとその効果が違うといっても「イメージの違い」による誤差の範囲、と言えなくもない。……かもしれない。


 誤差というにはあまりに効果に違いがありすぎるし、聖女・聖人の使う”浄化”では魔物はその生じ方に問わず、すべて無に帰すと記されていたが。


「――とりあえず、こいつはシャナに任せる」


 摘まみ上げた気絶中の白蛇をシャナの手に乗せた。ちょっと不満そうな残念がるような顔をしたが、両手でしっかり受け止めてはわずかな凹凸のあるつるりとした体表を指先で撫でてすぐに顔を綻ばせたので大丈夫だろう。

 それだけ確認してから、ヴィルは遠く――いまだダンジョン内のため物理的な意味ではなく心理的にだが――を見た。


「……あの大きさの蛇なら皮と牙がいい値になったし、肉も多くとれたのになぁ」


 現実逃避である。

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