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爛れ顔の聖女は北を往く  作者:
3.聖女、ダンジョンに入る

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42.トマトスープとダンジョン

 山中の斜面にぽっかりと空いた洞窟が今夜の野営地だった。

 休憩をした川からさらに山を登り、鬱蒼とした木々の合間に見つけた洞窟は恐らく二メートル近い長身のヴィルが背を伸ばして歩けるほど大きく、それなりの深さもあった。人の手によるものかと思ったが、エドガーが問うたところ熊などの大型の獣が冬を越すために作った巣穴だろうとのことだった。

 シャナは動物園で遠目にしか熊を見たことがないので詳しいことはわからないが、立ち上がった熊は確かに人間と同じかそれ以上の大きさだろうとは思う。通常、四足歩行をする生き物だったと記憶していたが……と、洞窟の天井を見上げて恐ろしくなったのでそれ以上考えるのはやめた。緑色の犬がペットとして飼われている異世界だ。異世界生物にシャナの常識が通じるはずがないのだ。


 そんなわけで無事、今夜の寝床を見つけた三人は、それぞれ野営の準備に取り掛かった。

 ヴィルが周辺の見回りをし、エドガーは寝床の整備をうけもった。シャナは食事作りを担当することになっている。

 エドガーの質問に答えつつ、シャナのリード(命綱)を引いて歩かせ、野営地の洞窟まで見つけたうえでさらに周囲の警戒まで行うヴィルの無限の体力とマルチタスクぶりに恐れ入るばかりである。今のところシャナは足手まといの荷物にしかなれていないというのに。

 挽回する名誉はもとよりないが、せめて”足手まといの荷物”から、”おいしい食事を作る荷物”くらいには昇格したい。

 そんな気合を入れたシャナはナイフを握りしめ、簡易かまどに向き合った。なお、このかまどもヴィルがささっと作ってくれたものである。


 とはいえもう疲労困憊で一歩も歩けないし腕も力が入らない。

 街で購入した食材のうち足の早いものを優先的に使いつつ、道中でエドガーが仕留めた野兎の肉と固く焼しめられたパンでそれほど手間をかけずにおいしく食べたい。

 幸い、シャナが水魔法を使えるようになったおかげで使える水に制限はないので、具だくさんのスープにしてしまうことにした。

 そうと決まれば一口大に肉を切り分け、先に焼き目がつくまで焼いておく。これでスープに入れたときに香ばしい風味がプラスされて食欲をそそるだろう。

 野菜はトマトがあったのでこれ幸いと味のベースにし、他の野菜は一口大に切って火の通りにくいものから先に鍋に放り込んだ。焼いた肉も加えて具材にしっかりと火が入るまで煮て、最後に塩コショウと手持ちのハーブで味を調えれば完成だ。

 煮込んでいる間にスライスして軽く火に当てて温めたパンをスープの脇に添えれば、水分を吸って柔らかく食べられるだろう。


「ご飯できたよー」

「待ってた! お腹空いてたんだぁ」


 言葉通りにエドガーがいそいそと足早にやってくる。

 寝床の準備をしながら、肉を焼く音やトマトスープの匂いにつられてちらちらと視線を向けられていたことには、さすがのシャナも気付いていた。

 具だくさんのスープをよそった器を目をキラキラさせて涎を垂らさんばかりに見つめるも、まだ戻らないヴィルに遠慮してかスプーンに手を伸ばさずにいる姿は「待て」をされた犬そのものである。

 ぐぅ、とエドガーの腹が鳴いた。気恥ずかし気にへら、と笑みを浮かべる様子にシャナは苦笑して自分の分のパンを一つ、エドガーの器に移してやった。

 

「待たせた」

「ヴィルさん! お帰りなさい!」

「お帰り、ご飯できてるよ」

「ああ、悪いな」


 カサリと葉擦れの音がしたかと思えば、いつの間にか木々の合間からヴィルが枝を潜り姿を現した。

 空いたスペースに腰を下ろしながらシャナが差し出した器を受け取り、ヴィルは「先に食べててよかったんだぞ」というが、彼の信者たるエドガーは「そんなことできません」と即答していた。

 シャナも散々足を引っ張っている自覚があるだけにエドガーに賛成である。

 そうしてやっと夕飯を食べ始めた。

 トマトの酸味と野菜の甘味、香ばしい肉とハーブの香りが食欲をそそり、大き目具材も程よく火が通っていい出来だった。

 始めのうちは空腹から一様にスプーンを往復させることに集中していたが、それも落ち着いてくる頃にヴィルが口を開いた。


「食べながら聞いてくれ」

「ん、んぐ」

「んん?」


 口いっぱいに頬張ったエドガーが頬を膨らませたまま顔を上げた。シャナもちょうどかじりついたばかりのパンを咥えたままヴィルを見る。


「この先に小さいダンジョンが発生している」

「んっ!? ……っぐ、ぷは。ダンジョンですか?!」

「ああ、本来ならギルドに報告すべきだが、こんな道もねぇ山奥じゃ資源としての活用は難しいだろうし、潰しちまおうと思う」


 この世界のダンジョンはある日突然変異的に自然発生する異空間を指す。大きなものは何百という階層に分かれていて、その中では洞窟から雪山に放り込まれたかと思えば次の階層は砂漠だったりと一切の常識が通じない。

 共通しているのは最深部にあるコアを破壊するとダンジョンはその存在を維持できなくなるということだけだ。

 ダンジョンには魔物も出るが貴重な資源の宝庫でもあるため、未発見のダンジョンは冒険者ギルド等に報告をあげる義務があるが、今回のように人が踏み入れない場所や、資源としての価値が低いものであれば最深部のダンジョンコアを破壊し事故報告でも良いという。

 むろん、失敗しても自己責任であるし、故意に報告をせず占有したことがわかれば国益を損なったとして国家反逆罪となることもある。

 

「軽く中を見た感じ、お前らでも戦える程度の魔物しかいなそうだし、見学と思ってついてくるだけでいい」


 野営地を決めてからの短時間で周辺の探索どころか、発見したダンジョンまで見回ってきたらしい。実は分身の術が使えると言われても、シャナは納得こそすれ驚かないだろう。

 こともなげに言ってスープに浸したパンにかじりつくヴィルに、エドガーは興奮気味に「わかりました!」と拳を握っていた。

 

 こうしてシャナがまだ硬かったパンに苦戦している間に、明日の予定は決まったのだった。拒否権などない。

本作の投稿開始から約1年が経ちました。

読んでくださる方々に心より感謝申し上げます。

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