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爛れ顔の聖女は北を往く  作者:
2.聖女、旅の仲間を得る

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33.水魔法

 禊と称して滝行もどきを行って(できていない)みた結果、ヴィルに異世界から召喚された聖女(誤植)であることがバレた。

 いや、正確には王都での初対面時点でもしかして、と思われており、王都での仕事を終えてシャナを探して追いかけてきたのだという。


 平原で助けられたときのヴィルの「どっかで見たことある顔だな」という顔は、実際には「こいつこんなに弱くて大丈夫か……」であったらしい。

 シャナはまったく表情も空気も読めていなかったようである。空気の読めない日本人で申し訳ない。

 

 ヴィルはもともと隣国との戦争に関する情報収集の依頼で王都にいたらしく、聖女召喚の噂を聞いていたのもあってシャナの正体に勘付いたとのことである。

 ひとまず王城からの追手ではないとわかって安心したし、自分の状況を分かってくれる存在に安堵した。ら、いろいろと決壊して大泣きしてしまった。

 

 シャナ自身、自分の精神状態が不安定なことは自覚していたが、思っていた以上に限界だったようだ。

 いい年した大人が、と自制する間もなかった。

 もとより自分で自分の機嫌を取るのが上手いタイプだけに、おそらく物心ついてから初めて「うわぁーん」などと声を上げて泣いた。「もうやだ、おうちかえるー」とか口走った気もする。


 いい年した女の本気のギャン泣きに、歴戦の猛者たるヴィルも大慌てで荷物をひっくり返してハンカチを探してくれた。

 残念ながら彼の荷物の中にハンカチはなく、剣を整備するための端切れで顔を拭かれたが。ちょっと鉄臭かったしザリッとしたが、シャナも鼻水まで拭いてもらったのでおあいこということにした。鼻の下がヒリヒリする。


 一度タガが外れてしまえば、涙の次はこの世界に来てからの苦労や愚痴が垂れ流れた。

 自分はあまり口数の多い方ではないとシャナは思っていたが、自分でも驚くほどつらつらと言葉が口から零れ出た。よほど溜まっていたらしい。


「……長々とすいません、なんか止まらなくなっちゃって」

「いや……」

 話し疲れて呂律が回らず、喉も痛み出したころには、ヴィルは完全に両手で顔を覆って項垂れていた。ちょっと呻き声も聞こえる。

 シャナの溜まりに溜まった長々とした愚痴に辟易したのだろう。

 またも申し訳ないことをしてしまったが、ここまで来たらもう一つも二つも同じ、くらいの心持ちである。開き直り……いや、居直りである。


 目覚めたときにはまだ夜明け前だったのに、気づけばすでに日が高い位置まで昇っていた。

 エドガーに何も告げていないことも思い出し、二人は慌てて帰り支度を始めた。


 よく考えると肌着一枚でびしょ濡れの姿をヴィルに見られてしまったのだが、命の恩人にそれを指摘するのは憚られる。

 というか男物の服を着ている以外は特に何もしていないのに、女だとバレていないシャナである。

 ()()()()()とは言わないが、そういうことである。お察しいただきたい。

 

 脱いでいた服を着こみながら、禊は失敗したが念のためステータスを確認すると、レベルや状態に変化はなかったが、スキルに水魔法が増えていた。


「あれ?」

「どうした?」


 思わず漏れた小さなつぶやきに、散らかした荷物を拾い集めていたヴィルが振り返った。

 着替え終わっていたからよかったが、状況によってはセクハラだった。通報は勘弁してほしい。シャナに露出の癖はないのだ。


「なんか水魔法が生えてる……」

「魔法は生えない。もともと覚えていなかったのか?」


 的確にツッコまれながら、シャナの元のステータスを知らないのだったと思い出した。

 あんなに長々話しておいて、まだ言っていないことがあったことに驚きである。どれだけ愚痴ったというのか。


「もともとは魔法適正とかいうよくわかんないのと光魔法だけだったんだけど、王城を抜け出してヴィルに出会ったときには闇魔法が増えてて、今は滝行前になかった水魔法が増えてる」

 

 なんでだろう、と首を傾げつつこの世界のことならわかるだろうとヴィルを見上げた。

 しかしヴィルも首を傾げている。なんでだ。


「滝に打たれただけで覚えられるもんじゃないんだが……」

「そうなの? でも闇魔法も、もっと言うなら光魔法もいつ覚えたかわかんないよ」


 脱出方法を求めて適当に「ステータス」について考えたら、たまたま当たって、たまたま判明しただけである。

 召喚特典の言語翻訳機能のように召喚時にインストールされた可能性もあるが、シャナはまだ三十歳を迎えていないので魔法使いにはなっていないはずだ。いや、そういうことではないのだが。


 ヴィル曰く、魔法は適性がある者が知識を深め、修練を積み、ようやく会得することができるスキルで、ちょっと滝に打たれた程度で覚えたなんて世の魔法使いたちに言ったら解剖されるぞ、とまで言われた。やっぱり異世界怖すぎる。

 ヴィル自身も野営に便利だからと仲間内で一番適性があった火魔法を覚えたが、会得にはひと月以上かかったという。


 ちなみに適性は専用の魔道具で調べられ、冒険者ギルドでも希望すれば行えるらしい。

 野営を繰り返すうちに火や水魔法の有用性に気付いて、戦闘で魔力を使わない前衛職が後から適性を調べて会得を目指すのはわりによくあることなのだとか。


 意外と説明漏れがあるな、とギルドの美人な受付嬢を思い出しつつ、シャナは水魔法を発動してみる。

 空中に浮かんだ拳ほどの大きさの水球がぎゅるぎゅると回転し、――ヴィルの肩を掠めてその後ろにある木に着弾した。


「あっ……ぶねぇ!」

「ごめんなさい!」


 さすがの反射神経で避けたものの、掠めた肩がわずかに濡れているヴィルの声と、シャナの謝罪が重なった。

 ()()()()()()()()()()()()()()発動させてしまったが、よく考えるまでもなく人様に向けてはいけない。いや、そもそもそんなつもりもシャナにはなかったのだが。


 

 光魔法も闇魔法も、シャナが実際に魔法を発動させることができたのは、具体的な使い方や効果を教本で学んでからだった。

 だが、シャナはまだ水魔法の使い方を()()()()()()


 ――魔法は適性のある者が、知識を深め、修練を積んでようやく会得できるものである。


 シャナの特異性にヴィルが気付くのは、魔法の危険性やフレンドリーファイアについての説教を終えた後だった。

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