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爛れ顔の聖女は北を往く  作者:
2.聖女、旅の仲間を得る

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23.水浴びとハーブ

 翌日、結局共に宿を出て冒険者ギルドへ向かったシャナとエドガーは、受付で勧められた依頼をいくつか受注して街の外へ出た。

 昨日に引き続き、街道に出没する角兎(ホーンラビット)大野鼠(プレインズラット)などの討伐と、合間に薬草採取も行う予定だ。

 

 大野鼠はシャナがトルトゥ滞在中に初めて倒した魔物だ。見た目はドブネズミそのものだが、大きさは地球産の倍ほどと大きい。しかし魔物とはいえ使うのは弱い身体強化のみで角兎よりも弱いとされている。

 もちろん、シャナからすれば気の抜けない強敵ではあるが――

 

「右から角兎四、足止めする!」

「了解! こっちももう終わる!」

 

 エドガーという前衛を得たおかげで、三匹の大野鼠との戦闘中に角兎が乱入してきても余裕をもって戦う事ができていた。


 乱入した角兎と、その後さらに戦闘音や血の匂いに誘き寄せられた大野鼠の群れも全て倒し終え、二人は大きく息を吐いた。幸いにも怪我はないが、連戦で気が抜けず疲れ切っていた。

 

「さ、さすがに……多すぎる……ぉえ、」

「ちょ、吐くなよ?! でもシャナのおかげでなんとか戦えたよ」

 

 ぜぇはぁと肩で息をしてはちょっと失敗してえずくシャナとは対照的に、さわやかな笑みと共に浮かんだ汗を拭ったエドガーである。

 前衛と後衛の差以前に、基礎体力が違い過ぎる。

 これが若さか、と自分の体力のなさを棚上げしてもさらに空しくなるだけだった。

 

 シャナが呼吸を整えている間に、先に回復したエドガーが倒した魔物を大きな革袋へ詰め込み終えていた。

 

「ここで解体するとまた血の匂いに群れが襲って来るかもしれないから、この先の川まで行こう。……歩ける?」

「だ、だいじょうぶ……」

 

 今回の報酬で少し余裕が出たら後衛らしく杖を買おう。

 シャナは心に決めた。主に歩くときの支えとして、早急に必要性を感じていた。


 エドガーの先導で(だいぶ気を遣われて)着いた川は、領境となっているだけあってそれなりに幅の広いものだった。

 流れは穏やかだが、場所によっては深いところもあったり突き出た岩により水面に渦が巻いている様子も見えた。

 

 その川辺に着くなり、装備を解いたエドガーが下着一枚で水の中に入っていった。思わずぎょっとしてそのまま見てしまっていたが、上裸になった辺りで「セクハラ!」と脳内倫理委員会が警報を鳴らしてくれたおかげで我に返り、顔を逸らす事ができた。

 ――テレビや雑誌以外で初めて割れた腹筋というものを見てしまった。無加工なのにすごい。人体の神秘を感じた。


「――っぷは、冷たくて気持ちいいよ、シャナも先に汗流したら?」

「あー、いや、えっと……泳げない、かも? だから……」

 

 幼少期のスイミングスクール通いと夏の海水浴旅行のおかげで泳ぎで困った事などないが、頷くことはできない。

 しどろもどろになりつつ誤魔化して、代わりに濡らした布で顔を拭いた。

 日頃から”浄化”魔法で清潔にはしているが、エドガー程動いてないというのに彼以上に汗だくになっていたし、なによりやはり日本人としてはこの際、川でもいいので水に浸かりたい欲求がある。

 しかし今のシャナは男性ということになっている。自らそう明言はしていないが、男物の服を着て、男に見えるように振る舞っている。なお、体形は特に何もしていないが()()()バレない。異世界はとかく不思議である。

 

 さっぱりした二人は気を取り直して倒した魔物の解体に取り掛かった。

 大物ではないが数が多い。ぽつぽつと話しながらも無心で手を動かす。なお、買い取りで割り引かれそうな物については二人の昼食とするため、シャナは解体を終えた角兎を一口大に切って支度も始めている。

 拾った枝をナイフで削り、”浄化”魔法で綺麗にした即席の串に、切り分けた肉を刺して街で買った塩と胡椒をかける。あとはエドガーが水浴びで冷えた身体を温めるために熾した焚火で焼くだけだ。

 

 この世界、胡椒は金と同等なんてことはなく、調味料として塩や砂糖と共に普通に売られていたので野営用に購入したのだ。

 どうやらダンジョンで採れるらしく、常に一定の供給量がある。肉も野菜もダンジョンで手に入るため、畜産や農業はあまり発達していないようだった。

 

 内政チートフラグかと密かにそわついたシャナだが、よく考えなくともどちらも知識はない。なんせ虫が大の苦手なもので、田舎暮らしには憧れるより虫への恐怖で慄く。フラグは立つ前に折れていた。


 焼くだけとなった肉串を見つめながら、塩胡椒だけでは味気ない気がしてシャナは周囲の草原に目を向けた。

 地球でいうところのミントやバジルなど、見覚えのあるハーブに似た草木も生えていたのを思い出したのだ。

 

「――確かその辺に……あった」

 

 試しに目に付いたバジルを毟って嗅いでみれば、日本で馴染んだ通りの爽やかな香りがした。

 バジルは生でも食べられるうえ、乾燥させればひと月は保管できる。さらに肉や魚はもちろん、パンやパスタ、野菜など様々な食材との相性も良くて使いやすいハーブだ。

 野営での食事にバリエーションが増えるのを確信して、内心で飛び上がって喜んだ。実際に跳ねていたかもしれない。

 そのまましゃがみ込んで空の麻袋へ摘んだバジルを放り入れていく。

 

「……あ、ローズマリーまである!」

 

 夢中になってバジルを摘んでいれば、前方にローズマリーが小さな茂みを作っているではないか。

 嬉々として近付いて香りを胸いっぱいに吸い込んだ。バジルとはまた違う爽やかな香りで、気分までスッキリと爽快な心地にさせてくれる。

 さらに目を凝らせばあちらこちらに日本でもポピュラーな様々なハーブたちが生えているではないか。

 これらもバジル同様、使い勝手の良いハーブだ。料理以外にも、香料としての使い道もある。

 その上、繁殖力も強いので初夏に差し掛かるこの時期ならばすぐにわさわさと増えていく。つまり、これらのハーブは保存用にたくさん摘んでも問題ない。

 

「んっふふふふ……」

 

 香り豊かな食事と生活の質を向上させるべく、感動の再会を果たしたハーブたちを小躍りしたいほどの心地で摘みまくった。

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