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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第八章 メスガキ転生
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第67話 快進撃

 コールガはエルミアの見える建物の屋根で気配を消していた。

 勇敢な海の開拓者(ヴァイキング)は獲物に悟られないように、口に氷を詰めて息を止めるという。

 コールガは三十分なら呼吸を止めるのは容易い。

 例えエルフといえど本気で潜伏するコールガを見つけるのは容易ではないのだ。


 何故コールガはこんな厳重な対応をとったのか?

 それだけコールガは転生教団を高く評価しているのだ。

 転生教団は海神(エーギル)の目を奪い、利用した。

 コールガにとって、それは絶対に許せないことだ。

 だが勇敢な海の開拓者(ヴァイキング)を出し抜き、海神(エーギル)の目を奪ったやり方は高く評価する。

 コールガは美辞麗句で飾ることはない、彼女はいたって素直な性格だ。

 それは敵であっても、評価を下げる理由にはならないということだ。

 だからこそ彼女は冷酷な狩人(ハンター)になる。


 彼女は今エルミアがある倉庫のような建物に入ったのを目撃した。


 「おお、父祖なる海神よ、小さき者に加護を」


 エルミアは空に独特な印を結ぶと、祝詞(のりと)を納め動き出した。

 彼女は足音を消して屋根から飛び降りる。

 素人なら足を骨折して大怪我、あるいは死んでしまうような高さからの飛び降りだが、彼女は転がるように、地面にぶつかる衝撃を分散させると、平然と立ち上がった。


 「……魔女様を助けた時を思い出しますね」


 コールガはエルミアを追いかけながら、オーグとの馴れ初めを思い出した。

 あの時は敵の数が少なかったから良かったものの、コールガとしてはらしくないことの連続だった。

 今回はアクシデントなくいけるかしら?


 階段を下るコールガ、エルミア達はどこへ行った?

 コールガは階段を降りきると、分岐路が彼女の前に立ちはだかった。


 「なるほど……想像以上に厳重なのですね」


 エルミアの行方はわからない。

 コールガが気づかれないギリギリを優先したからだ。

 だが彼女は構わないと思っていた。何故なら彼女には力があるのだから。


 「《《揺蕩う(フロウ)》……《指し示す(レフアンタ)》……《海馬(ケルピー)》!》」


 彼女は空に踊るように印を刻み、祝詞を捧げた。

 紋章魔法の《誘う雨の海馬(ケルピー)》はこの複雑な術式によって、幻想の海馬を顕現させる。


 「ケルピー、エルミア様への道を示して」


 ケルピーはエルミアを探すと、分岐路のある方角を示した。

 ケルピーには大雑把な方角でしか探しものは出来ない。

 それでもこれは啓示だ。その大雑把さの中でコールガは生きる。


 「ありがとうケルピー」


 コールガはケルピーの(たてがみ)を優しく撫でると、ケルピーは「ぶるる」と(いなな)いた。

 啓示があれば後は迷わず進むのみ、コールガは足早にエルミアを追いかけた。

 ケルピーの示した道を何度も曲がりながらコールガはどんどん地下へと潜っていく。

 やがて彼女は地下には似合わない光り輝く神殿のような場所に辿り着いた。


 (地下神殿……? 故郷のそれとはやはり違いますね)


 コールガは油断せず慎重に祭壇に向かって歩いていった。

 しかし周囲の殺気に気がつくとコールガは足を止めた。


 「ノコノコとターゲットの方から来るか」


 コールガは祭壇を見上げた。祭壇にハーフエルフがいた。

 ハーフエルフの隣にはエルミアもいた、まだ無事だと分かると彼女は安堵した。


 「エルミア様、ご無事ですね?」

 「コールガ……ちょっと不安だったわよもう!」

 「エルフを取り戻しに来たか……けど、遅かったね、ここがどこだかわかるかい?」


 ここがどこか、確信はないが推測はできる。

 転生教団の神殿……というより教会だろう。

 祭壇に掲げられているのは眩い光の象徴、そして星に向かって飛翔する紅蓮の鳥。


 「転生教団の祭事場でしょうか?」

 「ククク……わかっていてノコノコくるなんて! 君も利用価値があるからな! お前達かかれ!」


 ハーフエルフの一声に、周囲から黒尽くめの暗殺者のような者達が一斉に武器を構えて前に出た。

 コールガは周囲を警戒しながら、無手で牽制した。


 「いかに能力のある戦士といえど、訓練された兵士に囲まれればひとたまりもないだろう?」

 「一角(ひとかど)の戦士として評価して貰えたこと、感謝します……けれど」


 コールガは迷わず印を刻みだした。

 紋章魔法だ、ハーフエルフはドラゴンの皮膚さえ破ったその威力を報告で聞いている。


 「魔法を使わせるな! かかれ!」


 号令に暗殺者紛いの者達は一斉に襲いかかった。

 だがコールガはそれを待っていたというように踊った。

 美しい異国風の舞踏は、暗殺者の攻撃を(ことごと)(かわ)す。


 「《押し寄せる(フォーリ)! 荒波(ルガ)!》」


 なんとコールガは攻撃を躱しながら、詠唱している!

 そのまま彼女は最後の祝詞を詠唱した。


 「《鱈の群れ(アトラコット)!》」


 コールガの頭上に現れたのは巨大な魔法陣。

 ハーフエルフはあ然としたことだろう。その巨大な魔法陣からは巨大な魚――(タラ)の群れが押し寄せた!

 鱈の群れは暗殺者の頭上に降り注ぎ、その殆どを巨体と重量で押し潰した。


 「馬鹿な!? なんだこのふざけた魔法は!」


 磯臭さが充満する戦場に、コールガはあっという間に暗殺者を一掃した。

 残すはハーフエルフだけか、彼女は涼やかに睨みつけた。


 「次は貴方です」

 「うく……! 来るな! 近寄ったらこのエルフがどうなるか分かっているのか!」


 ハーフエルフはなんとエルミアを人質にした!

 コールガはこの外道に目を細めた。

 どうする? コールガは動かない。

 それを見てハーフエルフは薄ら笑った。

 コールガは強い、控えめに見てもハーフエルフが手に終える相手ではない。

 だがエルミアは手元にあるのだ、これで負ける筈がない。


 「ククク、そうだそれでいい……それで――」

 「おい、汚い顔を近づけるな」

 「アイエ―――ぶが!」


 なんということか! エルミアはその場で回転するとハーフエルフの顔面に踵が突き刺さった!

 例え手を縛られてもエルミアは戦闘出来ないなんて誰が言っただろうか?

 この戦闘狂がその程度で止められるなら苦労はしない。

 エルミアはそのまま足技だけで、ハーフエルフを平伏せ、頭を踏みつけた。


 「おい下郎(げろう)! 頭をトマトケチャップみたいにされたくなかったら質問に答えろ」

 「く、くそ……!」

 「貴様らのボスはどこ? ボスの下に案内して貰おうかしら?」


 エルミアは踏みつける足をグリグリと押し付けながら圧を強める。

 しかしハーフエルフも転生教団への忠誠は並ではない。


 「誰が言うものか! 汚らわしいエルフが!」

 「おい、言葉には気をつけろ……こうなりたくなければ」


 エルミアはそう言うと手を縛っている縄を力任せにひきちぎった。

 その光景にハーフエルフは顔を青ざめさせる。


 「ヒィ! ま、魔法で力を強化(バフ)したのか!」

 「バフ? 何言っているの? こんなことに魔法を使うなんて馬鹿らしい」

 「……え?」


 しかり、エルミアはそれを力任せに引き千切ったのだ。

 断じて縛り方が緩かった訳ではない。

 ハーフエルフを騙す為にも強固に結ばれた縄を彼女は力任せに引き千切ったのだ。

 それが意味する所、冗談でもなんでもなくエルミアはハーフエルフの頭を踏み潰してトマトケチャップめいて飛び散らせるのは容易だということだ。


 「う……く!」

 「さぁ解答はいかに?」

 「……やむを得ん! 貴様の肉体ここで!」


 ハーフエルフは邪悪なる禁呪を唱えると、体に邪悪な闇が纏われた。

 エルミアは咄嗟にその場を離れるとハーフエルフの口から邪悪なエクトプラズムが飛び出した。

 ハーフエルフ……いや、その体を奪った張本人の魂はエルミアに迫る。

 その悍ましさ、エルミアは思わず飛び退いた。

 だが邪悪な魂はエルミアをどこまでも追いかける。

 エルミアは過去の記憶から竦み、怯えた顔をするが、直ぐに首を振った。


 「コールガ! 私の剣は!」

 「こちらに!」


 コールガは魔法剣を鞘ごとエルミアに投げた。

 エルミアは受け取ると、魔法剣を抜き取る。


 「舐めるなよ……そうそう簡単にやれるものか!」


 エルミア両手で剣を構えると、彼女は剣に魔力を送った。

 セラミック製の魔法剣は魔力を帯びると、薄っすらと輝き出す。


 「邪悪なる魂を断て! ムーライトスラッシュ!」


 彼女は渾身の力を込めて、魔力が邪悪なる魂を――断ち切った!

 邪悪なる魂は「ば、馬鹿な」と呟いた気がした。

 エルミアは実体を持たぬ魂を切り裂いたのだ。

 そのままハーフエルフの身体は赤黒い染みとなって、肉体は塵となった。

 禁呪に身を染めたものの末路は、まともな死さえ許されないのか。

 エルミアは剣を振り払うと、鞘に戻す。

 なにも言うことはない、当然の末路だというように彼女は整然としていた。


 「コールガ、無事に潜入は出来たわね……勿論(もちろん)覚悟は出来ているわよね?」

 「無論です。例え地獄であろうと」


 彼女もまた、転生教団を叩き潰す為に覚悟は出来ている。

 奇しくもこの教団本部にベーオウルフの一行はそれぞれ潜入に成功していた。

 物語は終幕へと加速していく――――。

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