第53話 必ず殺す技
メルとエルミアが模擬戦を終えて一休みしている間も、コールガとリンは激しく武器をぶつけていた。
コールガは氷の槍を武器にも盾にも使ってリンの激しい猛攻を凌ぐ。
リンは相手に反撃の余地を与えないように、短剣で短い連打を浴びせた。
「ふっ!」
キィン、キィン、キィン!
メル達とは違い、こっちは激しい打ち合いだ。
コールガはなんとか隙を見て、石突きで殴打を狙うも、リンの反応には追いつかない。
「もらったっ!」
リンはトドメの一撃をコールガの石突きによる殴打を回避すると同時に放つ。
色付きの風となって、短刀はコールガの首を狙う、が。
「やあ!」
コールガは仰け反るようにリンの間合いから離れる、と同時にリンの下から蹴りが跳ね上がった。
リンは咄嗟に横に飛んでケリを回避、コールガは体操選手のごとく後方倒立回転飛びをして再び槍を構えた。
「ヒュー、こりゃすごい! まさしく大道芸だな!」
オーグも感心するように口笛を吹いた。
コールガの戦運びは、エルミアでさえ目を開く。
「コールガは攻守バランスが良い。私でも正面から突破は困難だわ」
エルミアにさえそう言わせるコールガだが、本職は紋章魔法使いだ。
純粋な戦闘能力の高さは、ベルナ族という辺境の異民族ゆえか。
コールガはその中でも勇敢で思慮深い、欠点は正義感が強過ぎるなんていわれるが、それも彼女の個性だろう。
「うー、一筋縄ではいかない」
対してリンは猫のように態勢を低くするといつでも飛び掛かれる態勢だ。
あくまで守りの戦いをするつもりはない、リンは目を細め、極限まで集中した。
「リンは本来暗殺みたいなさ、隠密任務が得意であって、正面から切った張ったは得意じゃないんだ」
「確かに山猫にはパワーが足りないっ!」
エルミアはドーンと胸を張るとそう宣言する。
体格には恵まれないこともあり、リンがまともに正面から当たればまずパワー負けする。
だからこそ小柄で俊敏さを利用して撹乱するのがリンの戦法、しかしコールガはそれを簡単には許さない。
槍のリーチに加えて、コールガは体術が一番得意のようで、踏み込んだ時が一番危険な距離とも言えるのだ。
瞬間的な動きではリンが圧勝しているが、地力はコールガが上か。
さぁ、どうするとオーグは腕組みをして見守った。
「ふっ!」
リンが短剣を投擲する。リンが最も得意としているのがこの投げナイフで、その命中精度は百発百中。三十mの距離から厚さ五cmのベニヤ板を貫通する威力がある。
とえいえドラゴンにクイーンスライムと、イマイチ攻撃力の低さが原因で活躍しないのが玉に瑕だが。
コールガはそんな投げナイフを冷静に槍で払った。
だがその動きをリンは待っていた、リンは同時に飛び出すと短刀を逆手に構える。
コールガはリンを迎撃する。しかしリンはその上をいった!
「ハァッ!」
リンは素早く跳躍すると、コールガの頭上を取る。
そのまま背後を取ると同時に天地が逆さまになったリンは逆刃でコールガの首筋に一閃。
コールガは反応が間に合わず、振り向いた時にはリンは手を着いて着地していた。
「あっ……」
「そこまで! リンの勝ちだな」
「おいコールガ、お前実戦なら死んでいたぞ?」
呆気にとられるコールガ、逆刃は寸止めで止められ、コールガに傷はない。
リンは立ち上がると「ふぅ」と疲れた吐息を吐いた。
「紙一重だった……成功するかは五分五分」
「それでも凄いであります! あれも奥義と呼べるのでは?」
そうだなとオーグは頷く。
リンの奇策による不意の一撃だが、実際コールガは反応出来ていない。
必ず殺す技なら、正しく必殺技だ。
専用技の類を持たないメルからすれば、まさに全貌の眼差しだろう。
「はぁ申し訳ありません、父祖なる海神よ、勝利を奉納できず」
コールガは気落ちすると、空に謎の紋章を刻む。
模擬戦なんだからそこまで気負う必要もないが、コールガにとって戦は神聖なものだ。
無様な敗北は許されない覚悟、それこそがベルナ族の強さの秘訣なのだ。
「最後はオーグ殿が誰かと」
「おっと、用事を思い出した! 俺様はスタコラサッサだぜーっ!」
これで模擬戦を行っていないのはオーグだけ。しかしオーグは模擬戦をするつもりは毛頭ない。
というかメスガキエルフの弱々貧弱ボディで、切った張ったは無理がある。
魔法を使っても良いのなら相手も出来るが、それは殺るか殺られるかの賭けだ。
詠唱出来なければ負けで、詠唱出来たら即死魔法ブッパのクソ試合だ。
そんな疲れることはゴメンだねと、ここまで余らせた体力を活かしてオーグは全力で逃走した。
「あ、逃げたであります!」
「おっ、よーし追いついたら私とプロレスごっこだ、ヒャッホーイ!」
「あの脳筋桃色クソエルフ……絶対お頭には手出しさせない……!」
エルミアは邪な笑みを浮かべ、ヨダレを垂らしながら飛び出した。
それをゾッとするような闇を携えたリンが追走する。
勝手にどっかに行く三人を呆然と見るメルはコールガと視線を合わせると、ニッコリ微笑んだ。
「私たちも行くでありますか」
「そうですね、夕日に向かって走るのも悪くないわね」
やがて全力で逃亡するオーグ、それを追いかけるエルミアにリン。そして後ろからそれを見守るメルとコールガ。
すぐにスタミナ切れするメスガキエルフはリンに捕まると、そのままリンはオーグを米俵のように抱きかかえ、エルミアを引き剥がす。
エルミアは肉食獣のような目つきで、世紀末の住人のごとく奇妙な雄叫びを上げて追い上げる。
コールガは止めようかメルに相談するが、ひとまず置いておくことに。
本当にやばければオーグは力ずくで止める筈だからと、納得させた。




