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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第七章 転生教団の闇
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第50話 走れ走れ野戦行軍訓練

 戦闘訓練は野外で執り行う。

 メルはその内容を集まった全員に説明した。


 「これから皆さんにしてもらうのは野戦行軍訓練になるであります」

 「具体的には何をするのかしら?」


 こちらの文化には疎いコールガは手を挙げて質問する。

 メルは小高い丘を指差した。


 「簡単であります、あの丘まで走るでありますよ」

 「簡単……ねぇ?」


 オーグはとんがり帽子を目深(まぶか)に被ると、丘の天辺を見上げた。

 勾配はやや高め、距離も結構あるな。

 オーグは足も遅ければ体力もない。これは圧倒的不利だぞ、とげんなり顔色を悪くした。


 「誰が一番ではなく、自分に挑戦し、過去の自分を越える努力をしましょう! それでは位置について……よーい、ドン!」


 メルの号令に一斉に走り出すと、最初に抜け出したのはエルミアだ。

 中々の快速っぷりを披露している、伊達に『閃闘姫(せんとうき)』の二つ名ではないか。

 一方団子状態の集団で一番後方はやはりオーグだ。彼女は直ぐに息切れし始めていた。


 「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、キツい……!」

 「頑張れ頑張れ、でありますよ。限界を越えるには限界に挑むであります!」


 サイズの合わない鎧をガシャガシャ煩く揺らすメルは、極めて笑顔でオーグに無茶振りをした。

 初めてメルにオーグは殺意を抱いたかもしれない、ギリッと歯軋りすると、怨念めいた視線をメルに向けた。

 しかし超絶爽やか少年のメルに、そんな負の念は効かないし通じない。彼は爽やかな汗を流しながらスピードを上げた。


 「えっほ、えっほ! 皆さん頑張ってー、頑張らないと意味はないでありますよー!」

 「うぅ……うざい、メルの熱血さがうざいと思う日がくるなんて」


 とはいえ負けず嫌いのオーグは諦めない。ましてかつての肉体の時は龍のキバで一番の巨体でありながら、走れば馬のように早く、一日に地平線まで走るスタミナもあった。

 一人で一国とさえ評価されたオーグの輝かしき筋肉伝説も今や昔。

 鍛える喜びを知っているだけに、ただただメスガキエルフの肉体の脆弱さが恨めしい。


 「フッ!」


 一方エルミアがリードする中盤戦、リンが加速する。

 リンは集団を抜け出すと、どんどんエルミアに追いつこうとした。


 「来たか山猫!」

 「……っ!」


 エルミアも速度を上げる。リンに追いつかせまいとその美顔が歪んでいた。


 「エルミア殿は逃げ切り、リン殿は差しを狙っているでありますね……それでは私も!」


 エルミアは最初に先行した分スタミナは消耗している。

 それを計算高く見越したリンは自分のペース配分で追い込んだのだ。

 一方、後方から加速するメルとコールガ。ややコールガが早い。

 先頭は以前エルミア、最後尾はオーグ。

 けれどオーグも諦めてはいない。

 脚がふらつく、呼吸が苦しい。

 まさかただ丘まで走るのがこんなに厳しいなんて。


 「ま、けるかぁぁぁ!」

 「うぅぅぅ!」


 丘の傾斜はエルミアとリンの体力を特に削る。

 エルミアは必死な形相でスプリントした。

 しかし瞬発力で山猫とさえ評価されるリンに敵うはずもない。

 リンは更に加速し、ゴールの直前、鼻差でリンが一着ゴールした。


 「はぁはぁ! 悔しい! 悔しい悔しい悔しいー! 負けたーっ!」


 エルミアはゴールすると、前のめりに倒れた。

 そのまま年甲斐もなく負けたことを悔しがる。

 一方リンは息を荒くしながも、倒れることはなかった。

 ただ玉のような汗が流れ、リンは鬱陶しそうに汗を拭った。


 「はぁ、はぁ! ゴールっ」


 遅れてコールガがゴール、その顔はどこか爽やかだ。

 コールガも単純な足の速さやスタミナならこの程度だろう。

 改めてリンの速さは称賛できる。


 「はぁ、はぁ、キツ、いであります!」


 ガシャンガシャン鎧を揺らすメルは四着だ、彼も全力を出し切っていた。


 「メル……貴方鎧を脱がないの?」


 リンは呼吸を真っ先に整え終えると、メルに疑問を覚えた。

 なんで彼は鎧を着たまま走っているのだろう?


 「き、騎士たるもの、鎧のまま行軍するのは当然であります!」


 と言っておりますが、実際は行軍中は鎧は付けないそうです。

 単純に彼なりの努力の証ですね。


 「脱いだらコールガ、ううんエルミアよりも早そうだけど」

 「なにをっ! 私を三番とあざ笑うかっ!」


 二番も許せないが、三番はもっと許せないエルミアはガバっと顔を上げて抗議した。


 「確かに足の速さに自信はあるでありますが、これは白銀の鎧に誓ったものでありますから」


 メルは謙虚にエルミアに勝てるとは言わなかった。

 ただ彼は風呂に入る時と寝る時以外は鎧を脱がないので、かなり体が鍛えられているのは確かだ。

 ただそれが原因で身長が伸びない疑惑もあり、父ヴァサラガや次男シルヴァンと高身長が揃うので、そこはメルにも悩ましい問題だった。

 因みに今は首都にいる長男もこれまた長身美形のお兄様らしいが、これは閑話休題。


 「む? そういえばオーグは?」


 ようやく体力も回復したのか、ムクッとエルミアは起き上がるとオーグを探した。

 オーグはどこか、それは下だった。


 「ふ、ん、ぬぅぅぅ!」


 物凄く遅くではあるが、オーグは汗だくだくで必死に脚を前に出して坂を登っていた。

 まるで産まれたての子鹿のように腰をぷるぷるさせて、健気で可愛いね。


 「オーグ、頑張れー!」


 エルミアはそんな必死なオーグを見て、精一杯叫んだ。

 それを見て、メルも元気に声をあげる。


 「魔女殿頑張るでありますー!」

 「魔女様、負けないで!」

 「もう少し、お頭!」


 子分どもの声が聞こえる。

 意識が朦朧する中、オーグは死力を尽くした。

 タイムは絶望的だ。

 だが彼女の脚は決して止まらず……ゴールした。


 「やったぁぁぁ! オーグがゴールしたぁぁぁ! ヒーハーッ!」


 オーグのゴールに誰よりもテンション上げて喜んだのはエルミアだった。

 だがオーグのゴールの感動したのはメルもだった。

 メルは感動の涙を指で拭うと、その努力を称賛した。


 「おめでとうであります! 魔女殿は今限界を超越したであります!」

 「すごいですわ魔女様、コングラチュレーション」


 コールガはパチパチと拍手した。

 はぁはぁ、と正常に空気を取り込めないオーグは酸素欠乏症で顔を青くしていた。

 そんな彼女はフルフルと全身を震わせると。


 「ざっけんなぁぁぁ! 頑張れとか負けるなとか、根性論で走れるかボケェェェ!」


 根性論ばかり押し付ける子分共にブチ切れました。

 そんなオーグを一番理解しているリンはいつものようにオチを締めます。


 「馬鹿ばっか」

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