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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第一章 転生したらメスガキだった件
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第4話 アリスというエルフについて

 『――けて、助けて……!』


 女の声……それはどこかで同じことを聞いた。

 そうだ。それは死にかけたあの時だ。


 『死にたくない……! 死にたくない』


 死にたくないのはオーグだって一緒だ。

 オーグは死に抗った。生に必死でしがみついた。でも駄目だった。

 視界が血のように赤く染まる。赤黒(あかぐろ)い輝きがまるで炎のように燃え上がった。


 「つう……頭痛ぇ」


 メスガキエルフは二日酔いに苦しみながら意識を取り戻すと、そこはベッドの上だった。

 妙に視界がクリアになる中、オーグは周囲を伺う。

 宿屋だろうか? 窓から外を覗くと、ここは二階のようだ。


 「うぅ情けねぇ。あの程度で酔いつぶれるとは、龍のキバの頭領も地に落ちたな」


 二日酔いには慣れている。とはいえアルコールに弱くなったのは内心ショックだった。

 宴会では誰よりもウワバミだったのに、今や酒瓶一本でこのザマか。


 「あ、そうだリンは? あとベン!」


 ベッドから起き上がると、全身がふらつく。まだ体調は万全ではなかった。

 だが丁度その時一つだけある扉が開くと、リンが部屋の外から入ってきた。

 リンはお頭が起きているのを確認すると、すぐに駆け寄った。


 「お頭、大丈夫?」

 「気分悪いぃ……水」

 「はい、これ」


 随分用意が良いことで、彼女はコップに注がれた水を差し出した。

 オーグはそれを乱暴に分捕(ぶんど)ると、一気に(あお)る。

 多少は気分がマシになっただろうか。


 「リン? ここはどこだ?」

 「ベンの店、二階を貸してもらった」


 てことは下は酒場か。なんとか思考は回り始めている。


 「あの騎士の坊主は?」

 「お頭のこと最後まで心配してたけど、私が引き取ると言ったら帰っていったわ」

 「ガドウィン家とか言ってたな……?」

 「ガドウィン家って、この辺り一帯支配している筆頭貴族ね。あの子ガドウィン家の三男で、メルディック・ガドウィンよ」

 「貴族の三男坊ね……人質にしたら身代金がっぽだな」


 いかにも騙しやすそうな少年だった。

 オーグは悪い顔をするも、リンは呆れて否定する。


 「多分身代金は取れない。あの家は三男が人質になったら賊ごと切り捨てると思う」

 「まじか……」

 「だって、彼貴族でありながら冒険者よ? まあ家督を継ぐのは長男でしょうけど」


 龍のキバは横の繋がりの集団だが、貴族は縦の繋がりの集団だ。

 長男が家督を継げない時に次男や三男にお鉢は回ってくるが、長男が無事であるなら、却って兄弟は邪魔でさえある。

 故に三男坊に人質としての価値は無いらしい。


 「それよりもアリスってお頭のこと言ってた」

 「ああ、この身体の本当の主ってやつか」

 「軽く調べたけど、とんでもない奴かもアリスって」

 「どういう意味だ?」


 リンは首を振ると、言葉を選んで話し始める。

 なるべくお頭を動転させないように、けれどお頭はちゃんと聞けるだろうか?

 アリスというエルフの正体を。


 「アリス・マリク。エルフ国の出身の魔法使いで年齢は不明。判明しているのは、エルフの国を永久追放されているって話ね」

 「永久追放? とんでもないワルなのか?」

 「(うわさ)(いき)を出なかったけど、天才魔法使いと(うた)われながら、あまりにも傍若無人(ぼうじゃくぶじん)倫理観(りんりかん)に欠けていて、禁呪にまで手を出したって」


 聞けば聞くほど、オーグが顔をしかめるには充分だった。

 あの少年があまり良い噂を聞かないと言うのは、相当オブラートに包んだ言い方だったのだろう。


 「アリスはエルフ国を出てからは冒険者になったみたいだけど、兎に角性格が悪くて誰もパーティを組みたがらなかったみたい。そして半年ほど前に失踪したそう」


 思えば最初に彼女をアリスと言った魔法使いも久し振りに見たと言っていた。

 流石にリンも失踪した理由までは掴めなかったようだが、オーグもそこまでは求めちゃいない。

 ただ分かったことは、この身体の主はやはりアリスなのだろう。

 何故そんな少女の身体にオーグの魂が宿っているのかわからないが、今はどうすることも出来ない。

 オーグは少しだけ合点がいったと小さく頷く。一先ず納得すると「よっ」とベッドから起き上がる。


 「とりあえず腹が減った。メシだメシ!」

 「お頭、気にしてないの?」

 「気にしたって俺様やアリスがどうなるってんだ。第二の人生が得られたなら、俺様はそれを享受(きょうじゅ)するぜ」


 リンはそうやって明るく振る舞うオーグを見ると、微笑を浮かべた。

 そうか、お頭はやっぱり強いな。リンは安心する。


 「ベンになにか作らせよう」

 「おう! そういえばなんでアイツが酒場の店主なんかやってんだ?」

 「なんでもお金を稼ぐ方法がこれしか分からなかったとか」

 「ガリ勉の癖にか?」

 「結婚資金を稼いでいるなんて噂もあるけど」


 オーグは一番まさかの言葉に目を丸くする。

 あくまでも噂、念を入れるが、ベンとて男である。

 惚れた女がいるのなら、男として祝福してやらねばならんだろう。

 ――まぁ今は女だが。


 (死の間際に聞いた声。それじゃアレがアリスの声か、アイツ助けてって……どういうこった?)


 アリスでありオーグである。

 このある意味で不完全な存在は何故生まれたのだろう。

 その馬鹿な頭では到底思いつきもしないこの世界の神秘。

 時折出てくる毒舌(どくぜつ)にはアリス本来のメスガキとしての性格が含まれるのか。

 オーグとアリス、あるいは惹かれ合う何かが存在したのか。

 しかし知ることは出来ない、それがオーグの限界だからだ。

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