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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第一章 転生したらメスガキだった件
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第3話 メスガキ不完全燃焼

 子分達を埋葬してから早くも一週間、オーグとリンは城塞都市メメントに身を寄せていた。

 幸いなことに誰も手をつけていなかった龍のキバの財宝のお陰で、ただ密やかに暮らすだなら問題なかった。

 とはいえ虚無感(きょむかん)に囚われたように、オーグには覇気(はき)もなくただ時間だけが過ぎていたある日。


 「お頭、どこ行くの?」

 「知らない、どうするかねー」


 リンは時々オーグの前から姿を消すが、その日は付きっきりだった。

 きっと心配しているのだろう。今のオーグは生きている感じがしないから。


 「そうだお頭、今日は久し振りに宴会しよう」

 「宴会? 二人で?」

 「そう、宴会好きでしょ?」

 「好きだけど……」

 「なら決定」


 リンはそう言うと、オーグの手を引っ張った。

 オーグは転びそうになりながら、慌ててついて行く。

 悔しいが今は体格差でリンが有利、オーグが振り回される側である。


 「おい、どこへ行く?」

 「うーん、ここにしよう」


 リンはキョロキョロと手頃な店を探すと、ある程度大きな酒場を見つけた。

 迷わずリンは酒場の扉を潜ると中に入る。

 後ろでオーグは「昼間から酒ー?」と彼女らしくない不満を零していた。


 「いらっしゃいませー……げ!?」


 来客に対応したのは黄土色のエプロンを着た線の細い男だった。

 男はリンを見て、ギョッとする。


 「あん? 知り合い?」

 「ううん、でもどこかで……?」


 オーグは気にも留めなかったが、リンは顎に手を当て記憶を辿る。

 線の細い男は「あわあわ」と慌てながら、二人を席に案内した。


 「ちゅ、注文が決まりましたら、呼び鈴でお、お呼びに」

 「うーん? よく見たらこいつどこかで?」


 オーグまでもが首を傾げると、男は更に挙動不審(きょどうふしん)になる。

 リンはこの男の正体を思い出すと、ポンと手を叩いた。


 「ガリ勉じゃない」

 「ひい!? リンさん粛清(しゅくせい)っすか!? お願い見逃して!?」

 「ガリ勉……ああ、ベンかー!」


 その男――通称ガリ勉のベンは、元龍のキバの子分だった。

 子分の中で最もひ弱で臆病だが、代わりに頭がよく、いつも本を読んでいたのを思い出した。

 リンは合点がいくと、何故ベンがリンを見て怯えていたのか、ようやく理解した。


 「粛清なんてしない。団は解散」

 「じゃ、じゃあなんでウチの店に?」

 「ウチの店って、これお前の店?」

 「う、うん。ていうかこのおっぱいが大きいエルフ誰?」

 「喧嘩売ってるのベン?」

 「かっかっか! お前も下半身で考えるようになったかー!」

 「お頭笑い事じゃない」


 ベンはこの色白のメスガキエルフの正体を当然知らない。

 オーグもそれをあえて面白がったのか、正体を明かす気はなさそうだった。


 「お兄さん気持ち悪い視線で見ないでくれるー? 雑魚雑魚チンポ立ってるのバレバレー♥」

 「えええっ!」

 「ベン……?」


 気持ち悪い位スルスルとオーグからそんな(あお)り言葉が出てきた。

 果たして今の彼女はオーグなのかそれとも……?

 兎も角変に事態を悪化させるオーグ、リンはベンを殺気の()もる目で見ていた。


 「ヒイィ!? そんなつもりない! そんなつもりないから!」


 ベンはそう言うと逃げ出すように厨房へと走っていった。

 ケラケラ笑うオーグは、幾分(いくぶん)上機嫌だった。


 「でもそうか……良かった。ベンが生きててくれて」

 「ベンも性格的にまず逃げると思った。でも店を構えていたなんて」

 「貯金を切り崩したのか?」


 一国一城の主は男なら誰もが望むだろう。

 あの気弱なベンがというのは驚きだが、盗賊から足を洗った姿を見て、オーグはどこか寂しげだ。


 「改めて俺様にはなーんにも残ってないんだな」

 「お頭……」


 ここ最近のオーグの覇気のなさ、その原因は消失感だった。

 なにか彼女をやる気にさせることさえ出来れば、またかつての勢いを取り戻すだろう。

 それはリンの願いでもある。けれども馬鹿なお頭が調子に乗らないかも心配だった。


 「おー、こんな所に酒場なんてあったか?」

 「まあまあ中は綺麗じゃん」


 リンとオーグの視線が入り口に向いた。

 入ってきたのは鎧姿の冒険者二人だった。

 いずれも屈強な男で、二人は迷わずカウンター席に向かった。


 「い、いらっしゃいませ! な、なににしましょう?」

 「あー? そりゃ頼むもんつったら酒だろう! 酒を出せ!」

 「え、あの……銘柄がございまして、どれを?」

 「なんでもいい! さっさとしろ!」

 「は、ハイヨロコンデー!」


 随分横暴(おうぼう)な客だな、リンはそう思った。

 気の弱いベンは大丈夫か心配になるが、それよりも優先すべきはお頭である。

 ベンには悪いがアレも社会経験だ。無情にも放置する事を決定するが、対面に座るメスガキは違う。

 あからさまに不機嫌(ふきげん)顔、今は愛らしいエルフの姿なこともあるだろうが、可愛い膨れっ面だった。

 そんなお頭の顔を見てリンは不味いと思った。

 けれどお頭を静止するより先に彼女は立ち上がる。


 「お、お頭……」


 ズカズカと、何が気に食わないのかオーグは冒険者の席に迫る。

 カウンターではベンが酒の用意をしていた……が。


 「あっ!」


 ベンは緊張のあまり、グラスを倒してしまう。

 カウンター席は溢れた酒で(まみ)れる。


 「ちっ! なにやってんだこの間抜け!」

 「す、すいませんすいません!」


 ベンは平謝りだ。カウンターテーブルを拭くのも忘れて。

 しどろもどろになっているベンの姿を見たオーグはフッと微笑した。

 なんも変わらねえな、この鼻垂れ坊主は。

 オーグはあえて冒険者の隣に乱暴に座ると、当然周囲の視界はこのチビエルフに向かった。


 「あん? なんでガキが酒場にいる?」

 「エルフか? ガキの癖にデケェもんぶら下げやがって」

 「あ、あのリンさんのお連れ様ですよね? 今はその……」

 「いいから! それよりさっさとテーブルを拭け! それと俺様も酒だ! 一番度数が高いのだ!」


 オーグは冒険者を無視してふんぞり返った。

 リンはそんなオーグの小さな背中を見てハラハラする。

 オーグは馬鹿だが、とても独占欲が強い。

 一度手に入れた物は中々手放さず、それは人間であっても同じだった。

 だからこそオーグはこの横暴な冒険者に怒っている。

 ベンを馬鹿にしていいのは俺様だけ、とそれはもう分かりやすいオーラだった。


 一番高い度数、「フフン」と鼻を鳴らすメスガキエルフに、ベンは目を丸くした。


 「えと、え? 一番度数の高い酒って、本当に?」

 「ガッハッハ! チビはママのミルクの方がいいんじゃねぇか?」

 「言えてる! 大体ここはガキの来る場所じゃねぇ!」


 恐らく冒険者達はこれでも穏便な方なのだろう。

 ガラの悪さはならず者と五十歩百歩だが、生憎(あいにく)こちらはそれ以上の札付きのワルだ。

 ベンはそんな正体も知らないオーグの心配をしながらまずは冒険者に酒を出す。


 「お、お待たせしました!」

 「おう、遅えぞ店主!」

 「す、すみません! えとそっちは」


 ベンはオーグを見る。

 リンの連れである以上のっぴきならないエルフなのだろうが、どう見ても子供なのだ。

 長寿なエルフを見た目で判断するべきじゃないのはベンも知っている。

 けれどどうしてもその見た目では抵抗を感じるのだ。


 「あ、因みにグラスに注がなくていい。瓶ごと渡せ」

 「え? はい?」


 ベンは思わず茫然と首を傾げてしまった。

 そんな豪快な飲み方まるで頭領のようだなと、思ってしまうがエルフ娘は至って本気のようだ。

 ベンはもうままよと、一番アルコール度数の高い酒を瓶ごと彼女の前に置いた。

 オーグは慣れた手付きで、酒瓶を開けると、そのままラッパ飲みに興じる。

 当然ベンはドン引きした。さっき倒したグラスを丁寧に拭きながら。

 思わず呆気に取られ、ベンはグラスを落とすと、ガシャンと砕け散った。


 「あっ、すいません!」

 「てめぇ客を怪我させる気かー? おう!」


 冒険者はベンの首元を掴むと、ベンは「うっ!?」と呻いた。

 山賊まがいの冒険者達はそんな横暴にギャハハと笑う。

 だがそれがいけなかった。グビグビと一気に酒を浴びるように呑むオーグの目は据わっている。

 彼女は瓶を逆さまに握り込むとおもむろに――。


 「俺様の子分に何してんだボケナスがーっ!」


 なんとオーグは酒瓶で冒険者の頭をフルスイング!

 ガシャアアンと酒瓶が砕け散ると、冒険者達は呆然とした。

 だが直ぐに逆上すると、今度は冒険者からオーグに敵意を向ける。


 「何しやがるクソガキ!」

 「うるせー! このでくのぼう! 威張り散らかすしか能のないド底辺ども! ヒック!」


 リンは頭を抱えた。予想通り冒険者に手を出した。

 お頭らしい行動だが、今は完全にマイナス効果だ。

 リンは忍ばせていた短刀を取り出すと、いつでも仕掛ける準備が出来ていた。

 お頭に手を出したら細切れにしてやる。何気にこの子も大概蛮族思考である。


 「ヒック! 稼ぎも少ない冒険者なんて可哀相♥ ざぁこざーこ♥」

 「テメェ言わせておけば!」

 「そこまでであります!」


 大乱闘寸前、新たに店に足を踏み入れた小さな騎士がいた。

 全身を白銀の鎧に包んだ、ハスキーボイスの少年だった。

 冒険者も、ベンも、リンでさえ呆気に取られる中、チャキチャキと甲冑を揺らしながら小さな騎士が冒険者とオーグの前に向かう。


 「冒険者が街で問題を起こすなど以ての外であります! ましてか弱い女性に手をあげようなど言語道断であります!」

 「こいつ思い出した。あの白銀の鎧、ガドウィン家か!」

 「ち! 貴族だかなんだかしらねえが! 面白くねぇ! おい、引き上げだ!」


 冒険者達は小さな騎士に恐れをなしてか店を退散する。

 恐らくは本人というより、ガドウィン家を敵に回したくないというのが本音だろう。


 「あ、代金……」

 「全く失礼な輩であります! よければ私が支払いましょう!」

 「ヒック! 変な奴だなーお前、なんでアイツらのー、代わりにお前が支払うんだよー?」

 「罪を憎んで人を憎まずであります! 困っている人を見たら助けるのが騎士であります!」


 少年騎士は当然というように言いきった。

 見た目こそ全く頼りないが、悪いが奴ではないようだ。

 オーグは泥酔しながら、そんな少年騎士に好感を持った。

 こんなバカ正直な奴もいるんだな、と。


 「ところで貴方よく見たらアリス殿では?」

 「アリス……?」


 微睡む意識の中、オーグはまたもやその名前を聞いた。

 少年騎士は朗らかな顔でオーグではないアリスという少女に問いかける。


 「最近冒険にも出ていないようですし、どこで何をしていたでありますか?」

 「うー、どこで?」

 「アリス殿に関してはあまり良い噂は聞かないでありますが、私はアリス殿を信用しているであります!」


 やめろ――その言葉は口にはできなかった。

 オーグはアリスではない。アリス扱いされるのはオーグとしての自我が消えてしまいそうで恐ろしかった。

 身体は泥のように重くいうことを効いてくれない。このエルフ娘の身体はアルコールに対してあまり強くないようだ。


 「―――――――――? ――――!」


 次第に声さえ聞こえなくなった。

 少年騎士がなにか叫んでいる。けれどオーグは段々それもどうでもよくなり、彼女は酔い潰れて眠ってしまった。

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