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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第五章 囚われた姫君、反魂の法
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第37話 ドラゴンの猛威、英霊の一撃

 クラリスの怨念の絶叫が邪悪な龍の石像から放たれた?

 石像だったそれは、今や命を得て、邪悪な龍へと变化(へんげ)した。

 その魂に使われたのはクラリスか? その龍の声には彼女の名残がある。


 「騙した? 何を言っている。君は最強の生物の肉体を手に入れたのだぞ。人の器に拘る必要は我ら教団には必要ない」

 「アァァァァァ! 意識ガ、侵食、サレ―――ル!」


 ドラゴンは暴れ狂った、そこにクラリスの面影はもうない。

 ただ災害じみた怪物がいただけだ。


 「これが反魂の法だってのか?」


 オーグは戦慄しながらクラリスだったものを見た。

 一方老人はそんなオーグを見て考察する。


 「何者か知らんが、我らの秘技を見られた以上生かして帰す訳にはいかん。まして『アリス君の記憶が混ざっている』のなら尚更な」


 アリスの記憶だって? オーグは心当たりがない。

 だが嫌な予感だけはあった。お願いだから外れてくれ、と。


 「俺様も、反魂の法で生きてるって言いてえのか?」

 「なんですって魔女殿!」

 「お頭……」


 違ってほしいと心から願っている。

 けれど死にかけのクラリスが、あの邪悪な龍になって生き返った。

 老人の足元には瞳孔を開いたクラリスの華奢な骸が横たわる。

 やがてそれは限界を迎え、クラリスの肉体は赤黒い染みだけを残して灰となって霧散した。

 その光景、あまりにも(むご)くて、オーグだけでなく、メルやコールガでも目を背けた。

 だがオーグは自分もああやって灰になり、この肉体を奪ったんじゃないかと思ってしまう。

 もしそうなら、どこで反魂の法と関わった? いやそれこそがあの暗殺者に狙われた理由なのか?

 本当に、本当にこの体を反魂の法という身勝手な禁呪で奪ったのなら、どうアリスに詫びればいい。

 アリスの心はなにもオーグに響かない。

 あたかもアリスとオーグ、二人がその魂を拒絶しあっているように。


 「グオオオオオ!」


 だが考えてる暇などなかった。

 邪竜と混ざりあったクラリスの人間性はもうない。

 海神の瞳に宿るエーギルの化身(アバター)が、身勝手な力に利用されている事に憤怒(ふんぬ)していた。

 圧倒的な龍の意思が、ちっぽけなクラリス……いや、もはや名もわからぬ少女の自我を食い破った。

 ドラゴンそのものになった邪龍は当然、目の前の供仏に狙いを定めた。

 エルミアが危ない、オーグは迷わず魔法を使った。


 「俺様のエルミアに触れんじゃねえー! ストーンブラスト!」


 オーグの強大な魔力から放たれる現実を改変する超自然の石粒がドラゴンの全身を襲った。

 ドラゴンは体を震わせ暴れて抵抗する。

 ドラゴンの体はあまりに巨大、それ故に暴れただけでその場全体は破壊され、全員が危険な状態に陥っている。


 「ククク………ワシはここでお暇させてもらおう。実験データも得られたことだ、エルフの肉体はちと惜しいが」

 「待ちなさい! あっ―――!」


 コールガは老人に槍を向けて突撃するが、一瞬早く老人は転移魔法でその場から消え去った。

 ドラゴンの暴威、それは当然最も近くにいる動けないエルミアが危険だ。

 オーグは迷わず駆けると、エルミアを抱きしめる。

 天井が崩落して降り注ぐ中、オーグはエルミアを救う覚悟を決めた。


 「ドラゴンがなんだ! 俺様を誰だと思ってやがる! 天上天下絶対無敵のオーグ様だぞっ!!」


 拘束していた壁そのものが壊れると、エルミアは目を恋する乙女のように輝かせ、メスガキエルフに抱きついていた。

 その顔は気丈な姫騎士ではなく、一人の女の子であった。


 「オーグなの? 本当に?」

 「……あぁ、こんな小さい姿になっちまったがな」


 オーグはエルミアを見ない。

 だがエルミアの盾のように前に立ち、ドラゴンを睨みつけた。


 「グオオオオオ!」


 ドラゴンはその巨大な爪を振り下ろす。

 直撃すれば容易く命をズタズタに引き裂く一撃だ。


 「うおおおお! 姐さんやらせるかあああっ!」

 「吶喊(とっかん)するでありますーっ!」


 だが白黒の鎧に身を包んだ二人の騎士はそんなドラゴンに斬りこむ。

 漆黒の剣がドラゴン皮膚に当たる! しかし硬い! その鱗は砕けない!

 続いてメルも斬りこむが、白銀剣を持ってしても、ドラゴンの皮膚の硬さはグレンデル以上だ!


 「グオオオオオッ!」


 ドラゴンはメルに狙いをつけると爪を振り下ろす。

 メルは防御を構えるが耐えられるか?

 否、ここで耐えねばなにが騎士か!


 「くうぅぅっ!」


 凄まじい衝撃にメルが呻く、ドラゴンの一撃は城さえ破壊する威力だ。

 しかし耐えた! メルは白銀剣を強く握り込むと、ドラゴンを睨みつける。

 ドラゴンは再びメルにもう一度爪を下ろす気だ。

 だがそこへ短刀がドラゴンの目を狙って投げつけられた。


 「グオオオオオ!」

 「二人とも今のうち!」


 ドラゴンの目に短剣は刺さらなかった。瞼が短剣を弾いたのだ。

 恐るべきドラゴンの硬さ、リンは気にしなかった。目的はお頭だからだ。

 一瞬の隙さえ作れれば十分で、すかさずリンはエルミアの体を引き、後ろに後退した。

 オーグもそれに続くと、オーグはコールガに相談する。


 「おい、エーギルってのはどんな神様なんだ?」

 「海神、海の神であり、ベルナ族の父祖、荒ぶる海の側面を持ち、龍にも喩えられますわ」

 「ならアレは実質エーギルなのか?」

 「海神の目を触媒にしているのはアバターを生み出す為?」


 エーギルのアバター。それがドラゴンなら、奴は自然災害そのものだ。

 だが本当にエーギルといえる程なのか? コールガは少なくとも難しい顔だが否定した。


 「ともかく奴を仕留める方法だ、メル達の攻撃も通じねえとはな」

 「ドラゴンは世界で最強の生物……しかし、天上天下絶対無敵の魔女様にきっと(かな)いませんわ」


 聞いたら死ぬほど恥ずかしいな、オーグは顔を赤くするととんがり帽子を目深に被って誤魔化した。

 いじらしく笑うコールガには、まだ余裕が感じられる。

 あるいは怒りがプッツンして、逆に冷静になっているのだろうか。


 「……弱点があるのか?」

 「ドラゴンならば古来より氷が弱点なれば、後は聖なる力」


 ドラゴンといってもエーギルなら海竜だろうと疑問に思うが、コールガはフッと微笑する。

 今の所ドラゴンは火を吹く様子もなく、まさに怪獣そのものだった。


 「魔女様、少しだけ時間を稼いで貰えますか?」

 「時間を、だと――?」

 「(わたくし)も怒っているんですよ? 我が一族の秘宝をこんな風に悪用して……!」


 それは静かな怒りだった。

 恐らく憤怒を氷の精神で閉じ込めているのだろう。

 何故あの老人が海神の目を持っていたのか。そして今目の前にそれはある。

 彼女は静かなる怒りを闘志に変えて、紋章魔法の祝詞を詠唱した。


 「《雪よ(シベ)……氷よ(クオル)……大いなる(トラスマード)……》」

 「ちぃ! やるだけやったらあ!」


 オーグはコールガが紋章魔法の準備に入ると、直ぐにマナを全身から取り込み次の魔法に取り掛かる。

 氷か……と脳内にイメージしたのは、あの魔法だ。


 「ブリザード!」


 そう、オーグが初めて使った魔法ブリザードだった。

 超自然の冷気はドラゴンを襲い、その身体に霜が降りる。

 だがドラゴンは冷気に耐えた! 雄々しく咆哮をあげる!


 「ガオオオオオン!」

 「くぅ! かなりのMPを使ったのに、これで駄目なのか……!」

 「オーグ! 私の力を受け取って!」


 リンによって拘束を解除されたエルミアはオーグの小さな背中に手を当てると、魔力を練りだした。

 魔法が使えたのか、と驚くが彼女が使った魔法は。


 「マジックギフト!」


 エルミアのMPがオーグの身体に注がれる。

 それはMP転換魔法であった。

 エルミアは剣士であると同時補助魔法使い(サポーター)なのだ。

 とはいえ魔力量はオーグに比べてそれほど多くない。エルミアは滝のような汗を流し、肩で息をしてなんとか魔力をオーグへと譲渡したのだ。


 「はぁ、はぁ! かなり魔力の差があるわね、同じエルフなのに」

 「ありがとなエルミア、休んでてくれ」

 「なんの、剣はないが、支援位は出来るわよ」


 エルミアはそう言うと、疲れた顔でも典雅(てんが)な笑みを浮かべた。


 ドラゴンは暴れる。それは明確な敵意を持たぬ暴走に近かった。

 なんとか前線でメルとシルヴァンは助け合いながら持ちこたえているが、それもいつまで保つのか。

 オーグはコールガを見る―――コールガの準備はどうだ。


 「《大雪原(フィード)……英霊よ(シモヘイヘ)……降臨(ボース)!》」


 全身を使う複雑な印、そして祝詞を組み合わせた紋章魔法。

 コールガはそれを完成させると、周囲が吹雪始めた。


 「な、なんだこれ寒い!」


 領域(フィールド)魔法大雪原(アイスランド)、コールガは瞬く間に戦場を猛吹雪で覆ってしまう。

 それは普段のコールガと違い、敵味方無差別に力を発揮していた。

 ドラゴンも当然その急激な環境変化に僅かに動きを鈍らした。


 「コールガ! この吹雪どうかならねえのか!」


 オーグの悲鳴めいた声も吹雪にかき消される。

 僅かに目を細めて見たのは、コールガの異常な姿だった。


 「―――!」


 コールガの身体はいつの間にか雪上迷彩めいた真っ白いコートで隠され、その手にはモシンナガン(見たことのない武器)が握られていた。

 コールガは中膝立ちでその武器(ライフル)を構える。

 吹雪はコールガを完全に覆い隠し呼吸さえも止めて、その気配はオーグの知覚能力を持ってして完全に隠蔽していた。


 (呼吸止めてんのか! どんな魔法だよこれ!)


 ダァン!


 乾いた音が鳴ると、コールガの持つ武器から氷の弾丸が発射された。

 それは鋭く固く、絶対零度の弾丸だった。

 弾丸は音速でドラゴンを額貫通(ヘッドショット)! なんたる鋭い一撃か!

 これは細く鋭い一撃だ、如何に鋼鉄の如く硬い龍鱗があれど、一点に集中した絶対零度の弾丸は額を貫通し、頭蓋に達した。

 ドラゴンは皮膚を破られたことに狂乱する。初めての痛打は想像しなかっただろう。

 だが、弾丸の効果はそれだけではない。ドラゴンの身体は徐々に凍結していくではないか。


 「コールガ、おしえッ……! ――こうなりゃ俺様の全力で!」


 もはや姿さえも確認できない雪上の狙撃手(コールガ)の確かな一撃、それに応えるべくオーグは全ての魔力を杖に注ぎ込む。

 超自然の風はオーグを逆向きに取り囲んだ。


 「燃えつきろ! フレアボム!」


 超高温の爆発が、凍りついたドラゴンを呑み込んだ。

 極度冷却された反動にくる超高温、その温度差がドラゴンの鉄よりも硬かった鱗をボロボロにして焼き尽くした。

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