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メスガキ転生  作者: KaZuKiNa919
第五章 囚われた姫君、反魂の法
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第31話 フロスガール城攻略

 フロスガール城跡、そこは城塞都市メメントから南部アルバシア地方の南の端であった。

 過去幾度も領土を巡って戦争が行われた地であり、フロスガール城は最前線の要塞として建てられたという歴史を持つ。

 かつて最も堅牢な『フロスガールの乙女』とさえ謳われた城塞も、今は時の彼方に流れ去っていた。

 そんなフロスガール城跡が小さく見える丘の上にオーグ達はやってきた。

 木々が点在し、やや荒涼とした地にはヴァサラガが送った騎士が先にいた。


 「フロスガール城の様子はいかがでありますか?」

 「はっメル様、跡地を調べたところ、最近になって使われた痕跡がありました」


 騎士は若い男性のようだ。メルに対しても遺恨無礼に振る舞い、騎士としての本分を務める。

 オーグは優れたエルフ族の視力で、フロスガール城を凝視した。

 その翠星石の瞳には何が映っているのだろう。

 伝説のエルフヒーローはこの距離でさえ、獲物を認識し、なおかつ弓矢を射掛けるというが、オーグにそのようなおとぎ話の力はない。

 エルフはそこまで人間を超越した存在ではないのだ。たしかに視力も、特に聴力はかなり優れているが、その分筋力はない。

 エルミアとて、エルフにしては馬鹿力だが、それでも鍛えた人族に力では敵わない。

 それが種族の壁である。


 「お頭、なにか見えるの?」


 リンはオーグの横に立った。

 目を猫のように細め、じっと城を見つめるが、当然彼女にはなにも分かるまい。


 「見えないわね……けれど、なんとなくいる……そんな気がするの」

 「お頭、段々女の子になっていってる」

 「え? そうか?」

 「気づいてなかったの?」

 「気づかなかった」


 もうすっかりメスガキなのだろうか。

 自我は認識すらせずアリスになっていってる?

 いや、アリスの記憶や自意識はオーグにはない、心はオーグのままだ。

 ただ女である時間が長くなればなるほど、オーグの精神が女に変化していく。

 オーグは既に意識すらしていない、指摘されると少し恐ろしかった。


 「リンは……俺様が女になって、どう思った?」

 「これで力ずくで押し倒せると思った」

 「この野郎……力ずくか……」

 「野郎じゃない、アタシ女よ」


 言葉で負けて不機嫌になるオーグ、フフンとリンは勝ち誇った。

 昔から口じゃリンには敵わなかったが、今はちょっと悔しくてメスガキ魂が刺激される。

 これじゃ駄目だな。オーグは髪の毛をワシャワシャ激しく搔くと、コールガの方を見た。

 コールガは少し離れた場所でケルピーの様子を見ている。

 ケルピーはやはりフロスガール城を見つめて(いなな)いていた。

 間違いなさそうだが。


 「コールガ、ケルピーは?」

 「ケルピーが興奮している、多分あそこよ」


 ならここで待つ必要はなさそうだな。

 オーグのとんがり帽子を目深に被ると、杖を握り込む。


 「皆……エルミアを取り戻すぞ!」


 オーグの号令、メル達ははっきり頷いた。




          §




 薄明が大地と空を照らす。日の入りはこの夏の季節には遅い。

 本来なら奇襲は夜になってから行いたいが、エルミアの状態がどうなっているのかも分からないのでは、待っている余裕はなかった。


 「本来なら日の出前が一番なんだがな」

 「うん? 何故であります魔女殿?」

 「一番人間が辛いのは寝起きよ、寝起きの奇襲は一番効く」


 リンはオーグの変わりに説明した。

 夜襲と一言言っても、一番辛いのが夜明け前。

 最も眠りが深く、夜警の観点からも最も眠たい時間は効果的なのである。

 とはいえ戦術の為に時間を犠牲になど出来ない。せめてエルミアが無事であればいいが。


 「他の騎士様はどうなっているのでしょうか?」


 コールガは後ろを振り返ると呟いた。

 周囲に騎士の姿はない。

 ヴァサラガは可能な限り騎士を派遣してくれたが、それも数に限りがある。

 確証の取れない場所に軍は動かせない。

 だから少数の信用が出来る兵士が派遣され、数箇所からフロスガール城跡に侵攻する手筈だ。


 「さてと……エルミア、あなたはどこにいるの?」


 城塞に潜入する頃にはその場は非常に暗かった。

 空には星空が広がり、かつて堅牢だった城を照らしている。

 オーグは舌舐めずりすると、集中するため目を閉じて、聴力に集中した。


 「メル様、リン様は夜目は?」

 「……問題ない」

 「私は全くであります……」


 盗賊故に夜に慣れているリンとは違い、メルはまるで慣れていない。

 もっともそれを恥じる必要はない、誰にだって適材適所はあるのだ。

 リンは盗賊故に夜目は効くが、それも夜行性の猫獣人と比べればまるで大したことはないだろう。

 耳や視力ならオーグはこの中でトップだ。しかし水中ならコールガに敵う者はいまい。

 メルはその分、戦いにおいて(タンク)として支えればいいのだから。


 「コールガ殿はどうなのであります?」

 「夜目は効く方だと思いますが、自信はありませんね」


 夜の海さえ潜るコールガの視力は頼れるが、そこは謙遜する。

 決して驕るべからず、コールガのいつもの謎の持論だ。


 「オーグ殿、灯りはどうするでありますか?」


 メルは一応松明を持ってきていた。

 通称冒険者初心者キット呼ばれるポーチに入った道具たち、いつか役に立つのかも知れない。

 オーグは目を閉じたまま、静かに言った。


 「今はまだ……だ」


 オーグは極度の集中状態だった。ずっと訓練してきた魔法使いに必要な集中力を鍛える訓練が実に成ろうとしている。

 彼女は瞑想状態で、どんな小さな音も見逃すまいとした。

 その音は、遠く離れ場所で、水滴が落ちる音さえ捉えている。

 雨漏りがあるのか、ボロボロの城では水漏れもあるだろう。

 どこか、どこかに生物の音があるはず……オーグは必死にそれを捜索する。


 「ッ……大きな音! こっちか?」


 オーグは目を開くと、迷わず歩き出した。

 本当は走りたい、けれどオーグは必死に逸る気持ちを抑え、足音を消すことを優先する。

 視界の悪い通路を歩く一行、メルは緊張の面持ちで周囲を伺った。

 ここに敵がいるのか? そう思うと震えてくる。

 もしもシルヴァン兄さんが出てきたら、それを考えたら足が怯えて竦むのだ。


 「メル、無理はするな」


 そんなメルに声をかけたのはまさかのオーグだった。

 だがオーグは優しさでそんなことを言ったんじゃない。

 はっきり言えば、「足手まといはここで置いていくぞ」という警告だった。


 「……大丈夫、やれるであります」

 「そうか」

 「待って、ここ……地下に空間がある?」


 リンが歩くのを静止した。

 足元を見ると穴が空いている。地下にも空間が広がっていた。


 「音は地下からか」


 オーグは迷わず穴に飛び込む。

 ストンと着地すると、続いてリンも飛び込んだ。


 「メル、いけるか?」

 「あ、えと……ちょっと待ってください!」


 メルは流石に装備が重装だ。飛び降りたら足が骨折しかねない。

 だからこそこういう時は冒険者キットの出番だ。

 彼は縄付きの鉤爪(かぎづめ)を取り出すと、鉤爪を適当な壁に噛ませると、縄を穴に落とした。

 メルは体重を縄に掛けても大丈夫か確認すると、穴を降りてくる。


 「へぇそんな装備もあるのか」

 「あると便利、それが冒険者キットであります」


 最後にコールガは鉤爪を外して手に持つと、彼女も穴を飛び降りる。

 リンやオーグに比べて身長がある分体重負担は大きい筈だが、流石勇敢な海の開拓者(ヴァイキング)か。


 「灯りがないとなにも見えないであります」

 「松明を灯せ、不意打ちを食らうよりマシだ」


 オーグはそう言うと闇の中へと歩き出す。

 メルは松明に火打ち石で火を点けると、一番後ろから着いて行った。

 一行は自然とオーグが先頭、リン、コールガ、メルだった。

 メルは後ろを警戒し、オーグはエルフの優れた聴力と視力で敵を先に発見する。

 戦闘になればすぐにリンが居場所を入れ替えるだろう。

 優れたパーティとはいえないが、彼らにとってこれは初めてのパーティによるダンジョン攻略(アタック)だといえた。


 「不気味ですわね」


 誰でもなく、コールガがそう呟いた。

 メルは無言で同意する。敵地にしては妙に静かじゃないだろうか。

 オーグは目を細め、僅かな光源を頼りに通路を進む。

 やがて一行は狭い通路から四方に広がる広間に入った。


 「ここは?」

 「詰め所か?」


 大部屋は真四角で天井も高かった。

 一体なんの為の部屋かは分からないが、今の所敵もエミリアも見つからない。

 オーグはチッと舌打ちする。イライラが集ってくるが、冷静にオーグは考える。


 「音はたしかにこの辺りだったんだが……」

 「特になにもいないようでありますが―――」


 ガララ、何かが崩れた?

 一行の目が音の方に向くと、部屋の隅に何かがいた。

 醜い猿のような顔をした巨人だ。巨人はオーグ達を発見すると、雄叫びを上げた。

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