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戦う理由

 みんなでそろって朝食をとっている。和やかな雰囲気の中、唐突にノエルが軽い口調で告げた。


「四人のディアージェスのうち三人を倒したことだし、今日は魔王を倒しに行こっか」


 みんなの顔にそれほど驚きは見られない。むしろやる気になっているようだ。みんな心の準備ができているんだね。でも、俺は……。


「あのー、まだ時間はあるんだろ? そんなに慌てなくても……」


 俺がノエルの顔色を窺うと、彼女は呆れたのか半眼で俺を見た。


「カイトはまだあの子を倒す決意ができてないの?」


 俺は言葉に詰まりつつ、後頭部をかく。するとノエルの目つきが変わった。


「魔王は力を使いこなせるように毎日鍛錬しているし、レベル上げにも余念がない。このまま時間を与えると魔王がどんどん強くなる。だから今日、魔王を倒すよ」


 ああ、この目はノエルが本気の時のやつだな。これは俺も腹をくくらなければ。


「分かった、行こう。女神を倒すためにも、足踏みなんてしていられないもんな」


 食事を終えると、しっかりと準備をしてみんなで魔王城目指して飛んだ。




 * * *




 ナロッパニア王国の西を目指して飛んでいくと、険しい山脈を越えたところで、大きな城が突如姿を現した。


 あれが魔王城か……。想像してたのと随分違うな。まるで上品なお姫様でも住んでいそうな美しい城だ。


 俺達がその城に見惚れつつ近づくと、城からは強大な波動が二つ感じられる。リーゼロッテとラフィードだろうな。


 俺達が城の中庭に降りると、リーゼロッテとラフィードが出て来た。リーゼロッテは見るからに機嫌が悪そうだ。


「大勢でぞろぞろと。ほんっと煩わしいわね。ラフィード、頼んだわよ」


「御意」


 リーゼロッテの指示を受けて、ラフィードは何らかの魔道具を掲げて魔力を込める。すると、この場にいる俺とリーゼロッテ以外の全員の姿が消えた。しかも、魂の繋がりが途切れてしまっている。


「みんなをどこにやった!?」


「うっさいわねー。いちいち大声出さないでよ。女神様にもらった魔道具で、ちょっと異空間に閉じ込めただけよ。二時間もすればここにまた戻ってくるから。ほら、ウチのラフィードも一緒にいなくなってるでしょ?」


 女神の魔道具……。どうやら女神は、俺とリーゼロッテをどうしても一騎打ちさせたいようだな。


「私、この城気に入ってるからさー、場所変えない? 私が全力出すと、壊れちゃうから」


「別に構わない」


「じゃ、付いてきて」


 リーゼロッテは飛び立ったので、俺はそれについて行く。しばらく飛んで荒野に降りた。


「そーいやあんた、ウチのバルガロスとイグニスとレクトールを殺したんだよね?」


「ああ。お前にとっては大切な人だったかのもしれんが、放っておけば多くの人を殺すのが明らかだったからな」


 リーゼロッテは腕を組んで、俺を小馬鹿にするように笑う。


「ふーん、正義の勇者様気取りってわけ? カッコイイねー」


「別にそんなんじゃないさ。この世界の情勢が安定してないと、俺と大切な人たちが楽しく暮らせないって思っただけだ」


「大切な人、か。あんたが殺した三人は、別に大切な人でもなかったんだよね。確かにイケメンだし、私を甘やかしてくれた。でもあいつら、私のこと本気で好きになったわけでもなさそうだったし。ま、私の体は好きだったのか、ヤるときだけは本気で夢中になってたけど」


 リーゼロッテは、話しながら自嘲するように笑う。俺はそれを黙って聞く。


「さっきラフィードってのがいたでしょ? あいつは他と違って、私のことが大好きってオーラが思いっきり出てるんだけど、そういうのもちょっと違うのよねー」


「……何が言いたいんだ?」


「別に。大勢のイケメンにチヤホヤされて楽しくやってたのに、あんたに邪魔されてウザイってことかな? あんたを殺して、女神様にまた新しいイケメンを出してもらって、楽しく暮らすわ」


 言い終わると、リーゼロッテは剣を取り出した。深い紫色の刀身から、黒いオーラが溢れ出ている。


「あんたと戦うために、女神様がくれた剣、神剣エターナルシャインよ。いいでしょ? 私にはね、女神様に与えられた大事な使命があるの。腐敗した人類を滅ぼして、この世界を救済する使命が!」


 あの見た目で、神剣エターナルシャイン……、何とも皮肉の効いた名前だ。女神に与えられた使命ってのも適当すぎる。でも、そんな大義名分があれば、自分の欲を満たすだけの行動も正当化できるのか。


 俺も借り物の力で、散々自分の欲望を満たし続けている。彼女の考え方とか行動を批判するなんて、出来るわけないのだが。


 しかし、この状況。あの女神は、この瞬間も天界から見物しながら、ほくそ笑んでいるに違いない。


 ……考えるのは後だ。こいつくらい簡単に倒せないようでは、女神に敵うはずもないからな。俺は神剣ベイルスティングを取りだして握り締める。リーゼロッテも剣を構えて魔力を解放した。


「いくわよ!」


 リーゼロッテが軽く跳ぶと、瞬く間に距離が縮まる。振り上げた剣に突進の勢いを乗せ、叩きつけるように振り下ろす。俺は落ち着いてそれを神剣ベイルスティングで受けた。超越者同士の濃密な魔力がぶつかって爆ぜる。発生した暴風のような余波で、地面がひび割れ捲りあがった。


 リーゼロッテの一撃をまともに受けたにもかかわらず、神剣ベイルスティングはびくともしない。強度が大きく上がっているんだろう。俺のレベルも上がっているので、リーゼロッテの一撃も以前よりは重くない気がする。だが、俺がそうであるように、彼女も全力ではないだろう。俺から仕掛けてみるか。


「チェーンバインド」


 光る鎖がいくつも現れ。リーゼロッテに絡みつこうとするが、彼女は剣を振ってそれを断ち切った。


「バカにしてるの!? 今更こんな小技を!」


「小技だからって油断して、大振りになってるよ。ペネレイトグリーム!!」


 リーゼロッテが剣を大振りしてできた一瞬の隙を突いて、俺の魔法による光の柱が次々と命中する。


「痛いわねっ! 何すんのよ!」


 この程度では倒せないのは分かってはいるが、リーゼロッテの体にかすり傷の一つもつけられないのか。


 リーゼロッテがお返しとばかりに「ダークバレット!」と叫んで、紫の魔弾を連射する。俺はそれを剣で叩き落としつつ、右に駆けて回避すると、彼女は、魔弾を撃ったまま剣を逆手に持って構え、魔力を込めて斬撃を飛ばしてきた。


 げ、速い! 攻撃範囲が広すぎて回避できない!


 咄嗟に神剣ベイルスティングに魔力を集中させて、斬撃を受けた。黒い斬撃は神剣ベイルスティングのオーラに激突して爆発する。その威力を殺しきれずに全身に痛みが走る。


 間髪入れず、リーゼロッテの追撃がくる。彼女は飛び上がって剣を両手持ちし、魔力を込めて叩きつける。俺はそれを辛うじて受けるが、パワーで押し負けて地に片膝をついた。


 彼女の一撃の余波で、地面が窪み亀裂が走る。


 くそ、俺が想定していたよりも強いかもしれない。こいつは意外と真面目に鍛錬してたのかものな……。


「どうしたの? この程度でへばったのかしら?」


 俺に剣を押し付けながら、見下して嘲笑うリーゼロッテ。


「まだだ!」


 俺は気合を入れて剣を振るい、リーゼロッテを押し飛ばす。彼女は空中で一回転して華麗に着地した。


 俺は治癒魔法で傷を治し、魔力を全解放して体に纏う。それに応えるようにリーゼロッテの魔力も膨れ上がった。


「おおおおおっ!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 気合を入れてお互いの剣がぶつかる。俺の青白いオーラと、リーゼロッテの黒紫のオーラが相手を呑み込もうとせめぎ合う。


 斬って斬られ、魔法を撃ち合う。傷付くたびに魔法で治癒し、肉体と霊体を修復する。


 俺とリーゼロッテの実力は拮抗しているようで、なかなか決着はつかないでいた。でも二人とも、確実に消耗しているのは分かる。


 この勝負は、信念のぶつかり合いのような高尚な物じゃない。自分の欲望を満たしたいという思いが大きいのはどちらか、ただそれだけの戦いだ。


 でも、こんな俺のことを大切に想ってくれている人達がいるからには、絶対に負けられない。


 俺は恋人たちへの想いと意地を神剣ベイルスティングに乗せて、リーゼロッテと戦い続けるのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 人間らしい戦いですね(`・ω・´) そしてそれ故に……思いが別んトコに多く向いている魔王と違って大切な人が誰かをちゃんと限定しているカイトが有利だぜ。
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