鑑定 挿絵有
しばらく森の中を歩いていると、ちょっとした高台に出た。眼下には夕日に照らされた集落があった。
この光景……、いかにも異世界っぽい。思わず「おぉっ」と声が漏れる。
「ワシの住んでいるヨクア村だ」
家々が並んでいる集落を木で出来た柵が囲っており、柵のところどころにぼんやりと光る球体が取り付けてあった。
物知りさん、あの光ってるのなに?
「あれはお守りだね。人を襲う獣が村に近づかないようにしてるんだよ。大きな街の神殿で買えるよ」
獣除けかー、モンスターも防げるの?
「防げるよ。あのお守りが発している波動には弱い獣やモンスターは近づけないから。ちなみにモンスターは基本的にはダンジョンの中にしかいないよ。もちろん例外はあるけどねー」
物知りさんと頭の中で話しながら、オウデルさんに付いていく。柵が途切れている村の入り口と思われる場所から入ってしばらく歩いた。夕方だが外に出ている人は少ない。
たくさんの家が立ち並んでいる。あばら家などではなく木造のしっかりした家だ。
ファンタジーな村の雰囲気に、軽く感激しながらキョロキョロと村の様子を見まわしつつオウデルさんに付いていくと、オウデルさんが立ち止まる。
「ここがワシの家じゃ」
そこには丸太を組んで作られた、趣のある家が建っていた。
家に入るとオウデルさんは「帰ったぞー」と家の中に向かって声を掛けた。
すると、家の奥から赤い髪をポニーテールにした綺麗な女の子が出てきた。
その子は俺にちらりと視線を向けると、オウデルさんに問う。
「父さん、この人は?」
「森でダイアウルフに襲われていた異世界人のカイトだ。野垂れ死にされても気分が良くないので、世話してやることした」
オウデルさんの答えに、赤い髪の美少女は眉を寄せた。ものすごく嫌そうだな。
「まーた父さんが野良異世界人拾ってきたー。ウチでは面倒見れないんだから、元の場所に捨ててきなさい!」
「しかし……、野垂れ死んだらかわいそうじゃろ」
マッチョなおじさんが身を縮こませて美少女に訴える。俺は拾われた野良猫ポジションかよ、と思いながらも黙って二人のやり取りを見ていた。
「どうせ異世界人は、強力な呪いが掛かっていたり、重い病に侵されてたりするからすぐ死んじゃうでしょ?」
「ワシがちゃんと面倒見るから……、それに異世界人は変わった能力を持っている奴が多いじゃろ?」
「いっつもそう言うけど、結局は私が面倒見てるでしょ! それに変わった能力持っていたってすぐに死んじゃったら意味ないし! ちゃんと捨ててきてよ!」
口論は美少女の方が優勢だな。このままじゃ俺、捨てられちゃうよ。物知りさんどうしよう?
「鑑定してって言えば?」
鑑定? ここは素直に物知りさんの助言通りにしてみた。
「鑑定してください」
俺がビビりながらそう口にすると、美少女との口論に劣勢だったオウデルさんは攻勢に転じる。
「そうじゃ! 何か呪いやら病気にかかっていないかまずは鑑定しよう」
美少女はため息をつきながらも、家の奥に入って行き、何かを取って戻ってきた。そして面倒くさそうに息を吐く。
「じゃあ、鑑定するよ」
美少女は、虫眼鏡の形をしたものを通して俺を見ている。物知りさん、これ何してるの?
「鑑定眼鏡っていう鑑定魔法を付与された道具だよ。レベルとステータスとコモンスキルとレアスキル、それに状態異常が簡易鑑定できる道具でカイトを鑑定してるんだよ」
コモンスキル、レアスキル?
「そ、スキルにはその希少性と効果の強さによって、コモン、レア、ノーブル、チートの等級があって、そのうちノーブルとチートは鑑定眼鏡や並みの鑑定士では判別できない。アイギスの盾、天才、物知りさんは女神様から賜ったチートスキルだから滅多な事では判別できないんだよ」
頭の中で物知りさんと話していると、美少女は鑑定眼鏡越しに俺を覗きながら言う。
「レベルは当然1ね……、うっわ、全身真っ青。それもかなり暗い青だよ。」
青いってどういうことだ?
「鑑定眼鏡ではステータスを正確な数値で見る事は出来なくて、色で大まかに強さを判別するよ。青系の色が一番弱くて、強くなるにつれて緑、黄、橙、赤と変わっていくよ。鑑定眼鏡で全ステータスが0のカイトを見たら黒に近い青に見えるだろうね」
「ちなみに、『ステータス』の合言葉で出したウインドウは物知りさんの権能で表示したんだよ。他の人はそんなことできないから注意してね」
そうなのか……。物知りさんの解説を聞いていると、美少女は鑑定眼鏡越しに俺を見ながら「うーん」と唸っている。
「でも呪いや病気の類は無さそうね。所持スキルは……、え? アイテムボックス持ち!?」
美少女の表情がぱぁっと明るくなった。
「父さん! この子すごいよ! レアスキルのアイテムボックス持ってるよ! よく見たら私好みの顔してるし!」
アイテムボックスが性能制限中で1個しか入らない事は黙っておこう……。
オウデルさんはほっとした様子で「なら、置いてやってもいいのか?」と伺いを立てると、美少女は頷いた。
「アイリです。よろしく」
美少女は微笑みながら名乗ってくれたので、俺も「よろしく」と軽く頭を下げた。
こんなに可愛い子と一つ屋根の下で暮らせるのか。異世界転生っぽくなってきぞ……。
「この子に手を出したら叩っ切ってやるからな」
オウデルさんは釘を刺すが、俺には絶対防御スキルがある。切られたところで、どうという事は無いのだよ。ほくそ笑んでいると、物知りさんの助言が聞こえる。
「このおじさん、レベル82だよ。カイトのスキルで防げるレベルより上だから、カイトが攻撃食らうとすぐ死ぬからね」
なん……だと?
俺は背筋をピンと伸ばして「はい」と返事したのだった。




