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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

海龍戦隊カイリンジャー 《レッド、女幹部ひとりに敗れたり》

作者: E.C.ユーキ

 《(おんな)幹部(かんぶ)マゾーナ》。悪辣(あくらつ)海賊(かいぞく)ポリューガイの紅一点(こういってん)武勇(ぶゆう)でも賢才(けんさい)でもなく、その女体(にょたい)使(つか)って幹部(かんぶ)(のぼ)()めた絶世(ぜっせい)美女(びじょ)単純(たんじゅん)戦闘力(せんとうりょく)は、ポリューガイのどの怪人(かいじん)よりも(おと)っている――。

 そう、(たし)かにそのはずだった。



 カイリンレッドは、マゾーナひとりに苦戦(くせん)していた。



 1(たい)1の決闘(けっとう)岩石(がんせき)海岸(かいがん)沿()いの広場(ひろば)で、正義(せいぎ)海戦士(かいせんし)・カイリンレッドは、悪辣(あくらつ)海賊(かいぞく)(おんな)幹部(かんぶ)・マゾーナひとりに苦戦(くせん)していた。マゾーナの華麗(かれい)(むち)さばき、(へび)のようにうねりながら()んでくる(むち)(まえ)で、レッドは(まも)(かた)まるばかりだった。

 次々(つぎつぎ)波打(なみう)っては(せま)りくるマゾーナの(むち)を、レッドは愛用(あいよう)(けん)・レッドサーベルを()(ふせ)(つづ)ける。しかし懸命(けんめい)防御(ぼうぎょ)もむなしく――ついに片膝(かたひざ)()いてしまった。うずくまり直撃(ちょくげき)覚悟(かくご)するレッド、(すき)だらけの戦士(せんし)()んできたのは、(むち)ではなく、(たか)らかに(わら)()ろす女声(じょせい)だった。



「オーホッホッホッ! どうしたのかしらカイリンレッド。(まも)ってばかりでは()てなくてよ?」



 片膝(かたひざ)()き、(けん)(つえ)()わりにして、カイリンレッドは(かた)(いき)をする。そのマスクのバイザーには、(てき)姿(すがた)――片手(かたて)悠々(ゆうゆう)(こし)()てて、不敵(ふてき)微笑(ほほえ)むマゾーナの姿(すがた)(うつ)っていた。



 漆黒(しっこく)のマーメイドドレスをまとった、絶世(ぜっせい)美女(びじょ)

 ()かけ20(だい)美貌(びぼう)を、肉付(にくづ)いた女体(にょたい)をひけらかす。

 ふくよかな乳房(ちぶさ)、くびれた(こし)(まる)みを()びたお(しり)

 胸元(むなもと)(ひろ)(はだ)けて、スカートは片側(かたがわ)(ふか)()れて。

 あられもなく露出(ろしゅつ)した(しろ)(はだ)が、むちむちと(のぞ)く。

 (ゆた)かなふとももの(さき)には、(かかと)10㎝(ちょう)のハイヒール。

 (くつ)(ふく)め190㎝(ちょう)長身(ちょうしん)が、すらりと(たか)くそびえ()つ。



 レッドは(いま)一度(いちど)(てき)分析(ぶんせき)するも、やはり苦戦(くせん)原因(げんいん)()つからない。マゾーナの外観(がいかん)戦闘(せんとう)()きではない(うえ)に、(かん)じる戦闘力(せんとうりょく)もたいしたことはない。(むち)さばきも強烈(きょうれつ)には(ちが)いないが、事実(じじつ)として(ほか)怪人(かいじん)ほどの(おも)みはなく、カイリンマスクのバイザーは(むち)(うご)きを完全(かんぜん)にとらえていて、スローモーション同然(どうぜん)()えていた。どれだけレッドが分析(ぶんせき)しても、(こた)えは()まってひとつだった。

 ――こんなザコに苦戦(くせん)するなど、あり()ない。

「なぁに? そんなにわたくしの身体(からだ)()になるの? おチビちゃん」

 その肢体(したい)をくねらせて挑発(ちょうはつ)するマゾーナの(まえ)で、レッドはマスクの(した)()ぎしりをした。

 カイリンレッドは《海龍(かいりゅう)戦隊(せんたい)カイリンジャー》のリーダーであり、3(にん)隊員(たいいん)(なか)唯一(ゆいいつ)男性(だんせい)である。大学(だいがく)浪人(ろうにん)(ちゅう)の19(さい)で、身長(しんちょう)は168㎝のやせ(がた)だ。かっこいい(おとこ)ではないと自覚(じかく)している。しかし、これまでに(おお)くの怪人(かいじん)(たお)してきたエースであることに(ちが)いはない。仲間(なかま)からならまだしも、悪人(あくにん)にチビ()ばわりされるいわれはなかった。

 しかし、この戦況(せんきょう)をどうすれば――……。

「どうしたの? かかっていらっしゃい」

 レッドは(けん)(かま)えたまま(かた)まってしまった。――もう(わざ)がないのだ。(いま)まで怪人(かいじん)(たお)してきた(わざ)、そのすべてが、変幻(へんげん)自在(じざい)(むち)でいなされてしまったのだ。打開策(だかいさく)をめぐらせるレッドに()かって、マゾーナがにんまりと言葉(ことば)でなじる。

「あらあら。いつもの2人(ふたり)のお(ねえ)さんがいないと、(なに)もできなくて?」

 マゾーナの()2人(ふたり)のお(ねえ)さんとは、カイリンブルーとカイリンイエローのことだろう。イエローは(たし)かに最年長(さいねんちょう)、23(さい)のOLで、()もすらりと(たか)く、クールなお(ねえ)さんという(かん)じではあるが、ブルーは女子高生(じょしこうせい)だ。(とし)はレッドより2つも年下(としした)の17(さい)()もレッドより(すこ)しばかり(たか)いだけで、お(ねえ)さんと()ぶには程遠(ほどとお)()ねっ(かえ)(むすめ)である。

 (いま)は3(にん)個別(こべつ)任務(にんむ)(ちゅう)(はな)ればなれだ。だからこそ個々(ここ)が、(とく)にリーダーはしっかりしないといけない。決意(けつい)(かた)めるレッドには、マゾーナの挑発(ちょうはつ)()()いていても、()()てるわけにはいかなかった。

 (むち)間合(まあ)いに()てはされるがままだ。とにかく距離(きょり)()めなければ(はじ)まらない。レッドは一番(いちばん)(おお)怪人(かいじん)(たお)してきた(わざ)を、(いま)一度(いちど)、よりエネルギーを(たか)めて()()した。

 《火炎一突(かえんいっとつ)》。レッドが(もっと)得意(とくい)とする突進(とっしん)刺突(しとつ)(わざ)だ。

 しかし――やはり(つう)じない。(ぎゃく)(むち)(はじ)(かえ)され、レッドの身体(からだ)はきりもみ回転(かいてん)しながら()()んでいき、地面(じめん)(たお)れた。

「だらしないわね。先代(せんだい)のカイリンレッドなら、こんな(むち)なんてわけなかったわよ」

 マゾーナの言葉(ことば)にレッドは(おどろ)いた。先代(せんだい)のことはレッド自身(じしん)又聞(またぎ)きでしか()らされていないからだ。

 先代(せんだい)のカイリンレッドは、とても優秀(ゆうしゅう)(おんな)だったと()いている。まだブルーもイエローも存在(そんざい)しなかった(ころ)、たったひとりでポリューガイと互角(ごかく)以上(いじょう)(たたか)っていたらしい。

 しかしそれを()()いに()されては、(おとこ)として(だま)ってはおけない。レッドは全身(ぜんしん)(ちから)()(しぼ)り、(いきお)いよく()()がった。



 ……こうなったら、奥義(おうぎ)()すしかない。



 これまでに幾度(いくど)勝負(しょうぶ)()(かえ)してきた、ポリューガイの首領(しゅりょう)、ヤツとの最終(さいしゅう)決戦(けっせん)のためにとっておいた奥義(おうぎ)使(つか)わざるを()ない。

 レッドは(けん)()たない()にエネルギーを集中(しゅうちゅう)させた。(つづ)けて(あし)(ひら)いて(ふか)(こし)()とし、エネルギーを(さや)見立(みた)てて(けん)(おさ)め、(こし)()える。(かま)えるレッドの(まわ)りには(ほのお)()()め、やがて爆炎(ばくえん)渦巻(うずま)(はじ)めた。その様子(ようす)をマゾーナは(みずか)らの(かみ)をいじりながら「ふーん」と感心(かんしん)するように()(ほそ)めて()ている。そして――

 《爆龍一刀閃ばくりゅういっとうせん》。カイリンレッドは奥義(おうぎ)居合(いあい)(はな)った。

 爆炎(ばくえん)とともに超速(ちょうそく)突進(とっしん)し、抜剣(ばっけん)(はな)をくすぐる(おんな)(あま)(かお)りに、マゾーナとの距離(きょり)()め、(はじ)めて密着(みっちゃく)できたことを確信(かくしん)する。そして(ほのお)(やいば)がマゾーナのか(ぼそ)(どう)一刀両断(いっとうりょうだん)した――はずだった。

 ――(けん)が、()けていない。

 レッドが(みずか)らの手元(てもと)()ると、(けん)()った()が――しなやかな(しろ)()に、ぐっとつかまれていた。奥義(おうぎ)(はな)直前(ちょくぜん)、マゾーナが一歩(いっぽ)()()んできて、手首(てくび)をつかんできたのだ。

 言葉(ことば)(うしな)うレッドに、マゾーナは身体(からだ)をさらに密着(みっちゃく)させながら(かた)りかける。

「なかなかよくできてたわよ。でもね、(いま)(わざ)は――」

 マゾーナの(かお)(ちか)づいてくる。(かた)まるレッドのマスク()しに、耳元(みみもと)()()(くちびる)があてられる。



「――先代(せんだい)のカイリンレッドが、一番(いちばん)得意(とくい)だった(わざ)なの」



 (つぎ)瞬間(しゅんかん)、マゾーナの(あし)がレッドの(ひら)いたままの股間(こかん)()()げた。レッドは(いた)みを(とお)()して全身(ぜんしん)硬直(こうちょく)し、マゾーナの足元(あしもと)(たお)れ、うめき、(もだ)え、(ころ)げまわった。そんなレッドを、マゾーナは(まえ)かがみになって(うえ)からのぞき()む。

「うふふ、ごめんあそばせ。でも無防備(むぼうび)すぎるわよ? (おとこ)()って大変(たいへん)ね。こんな弱点(じゃくてん)をぶら()げてなきゃならないんだもの」

 ()(こう)(くち)にあてて(わら)うマゾーナに見下(みお)ろされながら、レッドは(けん)(つえ)()わりにして、なんとか()()がった。

「さすが(おとこ)()ね。でも――そんな状態(じょうたい)で、まだ(たたか)うつもり?」

 (あし)(ふる)えなど関係(かんけい)ない。正義(せいぎ)戦士(せんし)がこんなことであきらめてはならない。レッドは(ふたた)びマゾーナに()りかかった。しかし――やはり(けん)()(まえ)に、手首(てくび)をつかまれた。

 ――(さき)ほど()()ったときと(おな)体勢(たいせい)だ。反射的(はんしゃてき)にレッドは(あし)()じた。すると――

「だーめっ」

 お茶目(ちゃめ)(こえ)とともに、マゾーナの(ひざ)がレッドの(はら)にめり()んだ。

「ふふっ、ちゃんとお勉強(べんきょう)できるのね。(えら)いわ。でも、今度(こんど)はお(なか)がお留守(るす)になっちゃったわね」

 (ふたた)地面(じめん)(ころ)がるレッド、五臓(ごぞう)()さぶられる(いた)みの(なか)重大(じゅうだい)なことに()()いた。

 ――(けん)がないのだ。

 怪人(かいじん)たちを両断(りょうだん)してきた無敵(むてき)(けん)が ()(なか)にないのだ。(あた)りを見回(みまわ)してもどこにも()ちていない。どこにいったんだ。レッドが夢中(むちゅう)であちこちを見回(みまわ)していると、ほどなくして()つかった。――最悪(さいあく)(かたち)で。

「ふーん……これが(いま)のレッドサーベルなのね」

 正義(せいぎ)海戦士(かいせんし)・カイリンレッドの(けん)を、悪辣(あくらつ)海賊(かいぞく)(おんな)幹部(かんぶ)・マゾーナが()()り、剣身(けんしん)()隅々(すみずみ)までを(なが)めている。仲間(なかま)のブルーやイエローにすら()たせたことのない(けん)である。(うご)けないはずのレッドの身体(からだ)に、(あつ)()える(ちから)()いた。



『か、(かえ)せ……! (けん)(かえ)せ……!』



 レッドは(けん)()がけて()びかかり、()()ばした。しかしあと(すこ)しのところで(とお)ざかってしまう。マゾーナが(たか)()(かか)げて、(けん)(とお)ざけたのだ。

「だめよ。これはもうわたくしのものなの」

 190㎝(ちょう)(おんな)が、168㎝の(おとこ)(まえ)にそびえ()つ。しかしレッドはあきらめない。『(かえ)せ! (かえ)せ……!』と何度(なんど)()()がる。ビルをも()()える(いきお)いで()()ったはずだが、実際(じっさい)にはうさぎのように、ぴょんぴょんとしか()べていない。なりふり(かま)っている余裕(よゆう)など、もはやなかった。

「そんなにこれが大事(だいじ)なの? こんなもので、本当(ほんとう)世界(せかい)(まも)れるとでも(おも)っていて?」

 長身(ちょうしん)のマゾーナが(なが)()(うえ)(かか)げれば、(いま)のレッドにとっては(はる)上空(じょうくう)同然(どうぜん)だった。しかしそれでもあきらめめるわけにはいかない。あの(けん)こそが、無敵(むてき)のカイリンレッドの象徴(しょうちょう)なのだから。

「うふふ、そんなに大事(だいじ)なものなのね。……いいわよ。(かえ)してあげる」

 ぴょんぴょんと()(つづ)けるレッドを、マゾーナは(みぎ)(ひだり)(けん)(とお)ざけて()(まわ)しながら、いじわるな()みを()かべた。

「ほーら! ()ってらっしゃい」

 マゾーナは(けん)(ほう)()げた。くるくると回転(かいてん)しながら()んでいく(けん)を、レッドはすぐさま()いかけ、そして()()ちて(ころ)がった(けん)全身(ぜんしん)()びついた。ようやく()(もど)したレッドサーベル、しかし感傷(かんしょう)(ひた)っているときではない。レッドは()()がり、剣先(けんさき)(てき)()けた。……(ふる)えが()まらない剣先(けんさき)を。

「……あきらめないのね。うふふ、いいのよ。お(ねえ)さんはね、()()けの(わる)()大好(だいす)きなの」

 大上段(だいじょうだん)(むち)(かま)()げるマゾーナ、レッドはそれを()ただけだというのに、さらに(ふる)えが(つよ)くなってしまう。こんなことではいけないと、レッドは(こころ)(なか)()(かえ)鼓舞(こぶ)した。

 ()げるわけにはいかない。このままではイエローにもブルーにも()ける(かお)がない。自分(じぶん)は《海龍(かいりゅう)戦隊(せんたい)カイリンジャー》のリーダーなんだ。だからどんな(とき)でも、どんな相手(あいて)でも、(あく)には()()かわなくてはいけないんだ――。

 そう、(たと)勝負(しょうぶ)(けっ)していても。




「さあ――おしおきの時間(じかん)よ」




 (むち)(あらし)が、一方的(いっぽうてき)蹂躙(じゅうりん)(はじ)まった。

 (おんな)幹部(かんぶ)マゾーナの(あやつ)(むち)が、カイリンレッドを(みだ)()つ。(むち)間合(まあ)いから()められず、(のが)れられず、ただその()にとどまって、(けん)(たて)にしてひたすら()(つづ)ける。やはり(むち)のスピードは、たいしたことはない。カイリンマスクのバイザーは完全(かんぜん)(むち)挙動(きょどう)をとらえ、(いま)もスローモーションのように()えている。なのに――身体(からだ)(うご)かない。(あし)(うで)(ふる)えるばかりで、()うことを()かない。あれだけして()(もど)した(けん)も、マゾーナが(あやつ)(むち)(あらし)(まえ)に、とうとう()としてしまった。

「オーホッホッホッ! ほらほら。(おど)りなさい。(うた)いなさい」

 丸腰(まるごし)のカイリンレッドを、(むち)()がさない。背中(せなか)(まる)めて、両腕(りょううで)(かた)めて懸命(けんめい)(まも)るも、(むち)はするりと()けてくる。(はら)()たれ、背中(せなか)()たれ、(しり)()たれ、やがてくるくると(まわ)されていく。(むち)(おど)らされる。()たれる(たび)にはしる激痛(げきつう)に、(おも)わず()れかける(こえ)必死(ひっし)()(ころ)す。(けん)もなくなり、奥義(おうぎ)もなくなり、もうレッドにできることは(なに)もない。ただ(むち)(おど)らされながら、(てき)(なが)めているしかなかった。

 (むち)()るう(たび)()ねて(はず)む、(おお)きな(ちち)()ているしかなかった。



 百千(ひゃくせん)(むち)(あらし)がようやく()む。

 カイリンスーツは完全(かんぜん)にパワーダウンし、実質的(じっしつてき)にも戦闘(せんとう)継続(けいぞく)困難(こんなん)となってしまった。レッドが(ちから)なく両膝(りょうひざ)()き、(たお)()すその直前(ちょくぜん)――片腕(かたうで)(むち)先端(せんたん)(から)めとられ、(いきお)いよく()()られる。レッドはまるでコマのようにくるくると(まわ)され、直立(ちょくりつ)姿勢(しせい)(むち)身体(からだ)()かれながら、マゾーナへと()()せられていった。

「つかまえたわ」

 レッドは、やわらかな女体(にょたい)()()められた。

 直立(ちょくりつ)姿勢(しせい)(むち)にぐるぐる()きにされたまま、レッドはマゾーナの長身(ちょうしん)()かい()(かたち)密着(みっちゃく)させられた。マスクのバイザーの下半分(したはんぶん)乳房(ちぶさ)()りつく(なか)、レッドは必死(ひっし)抵抗(ていこう)する。しかし(むち)隙間(すきま)なくレッドの身体(からだ)()めていて、びくともしない。それでもあばれるレッドを、マゾーナは(くび)をかしげて見下(みお)ろしながら、笑顔(えがお)(かた)りかけた。

「ねえ、(いま)どんなお(かお)をしているの?」

 マゾーナはにんまりと(わら)いながら、両手(りょうて)をカイリンレッドのマスクへと()ばしてきた。

『やめろ! やめろ!』

 ぐるぐる()きのレッドには、(なに)もできない。(はず)されていくマスクの(なか)に、ただ(ふる)えた(さけ)びがむなしく(ひび)くだけだった。

「うふふ。やっぱり、そういうお(かお)をしてたのね」

 とうとうカイリンマスクを(はず)され、()てられてしまう。()られたくないものが()られてしまう。マゾーナはレッドの素顔(すがお)を、(いま)表情(ひょうじょう)を、興味津々(きょうみしんしん)観察(かんさつ)していた。ひとしきり観察(かんさつ)()えると、レッドは――身体(からだ)()き、(あし)()(はな)れる感覚(かんかく)(おぼ)えた。

 ――マゾーナに()()げられたのだ。

 マゾーナは、ぐるぐる()きにした(むち)一端(いったん)である()と、もう一端(いったん)である(むち)(さき)左右(さゆう)()()ち、(よこ)へと(ひろ)げるように()()った。するとレッドの身体(からだ)はぎゅうぎゅうに()めつけられるとともに、(あし)()()がった。ハイヒールを(ふく)めて190㎝(ちょう)(おんな)(かか)()げられたら、168㎝の(おとこ)(あし)()けない。身体(からだ)身体(からだ)はより密着(みっちゃく)し、レッドの(かお)はちょうど――ふくよかな乳房(ちぶさ)()もれてしまった。

 ひと(たま)がレッドの(あたま)ほどの(おお)きさの乳房(ちぶさ)(あいだ)で、(ほお)をはさまれ、もみくちゃにされる。人肌(ひとはだ)(あたた)かな体温(たいおん)、より()(あま)(おんな)(かお)り、やわらかな(ろう)堪能(たんのう)させられるレッドの(みみ)に――ばちばちと、不吉(ふきつ)(おと)(とど)いた。

 マゾーナが、両手(りょうて)閃光(せんこう)をくすぶらせている。

 バチバチと、まるで(あらし)(まえ)とばかりに。



「――覚悟(かくご)はよろしくて?」



 無慈悲(むじひ)電撃(でんげき)()(はな)たれた。

 《おしおき》はまだ()わらない。マゾーナの両手(りょうて)から(はな)たれる、(あつ)く、(するど)く、(しび)れる電撃(でんげき)が、カイリンレッドを(はげ)しく()()てる。(むち)全身(ぜんしん)隙間(すきま)なく()めあげられ、(かか)()げられ、(あし)()き、マスクまではがれて()()のないレッドに、さらに高圧(こうあつ)電流(でんりゅう)()()ちをかける。(はげ)しく()()火花(ひばな)(なか)で、マゾーナは笑顔(えがお)(くず)さず平気(へいき)様子(ようす)だが、レッドにはひとたまりもない。ぎゅうぎゅうに()()げる(むち)が、バチバチと(いた)めつける電撃(でんげき)が、カイリンレッドが()()げてきた《絶対(ぜったい)無敵(むてき)》を、またひとつ、またひとつと、()きはがしていく。もう……()()んではおけない。ここまでずっと必死(ひっし)(ふた)をしてきたものが、マゾーナの()によって、ついに――(あば)かれてしまった。

 (あた)りに(はじ)めて、カイリンレッドの悲鳴(ひめい)(ひび)(わた)った。

 その瞬間(しゅんかん)、マゾーナは表情(ひょうじょう)()えた。(いま)までの不敵(ふてき)()みが、さらにいじわるに、けれども――まるで赤子(あかご)()けるような満面(まんめん)()みへと()わったのだ。その(かお)今度(こんど)はレッドを、内側(うちがわ)から(こわ)す。(そと)からは(むち)()()けと電撃(でんげき)(なか)からは庇護(ひご)(てき)笑顔(えがお)と、レッドの崩壊(ほうかい)()まらない。

 そして――最後(さいご)(とりで)も、いよいよ決壊(けっかい)する。

「あらあら、(なみだ)()まらないのね」

 レッドはマゾーナが(なに)()っているかわからなかった。しかしレッドが『ちがう! ちがうっ!』と否定(ひてい)する(あいだ)にも、視界(しかい)(にじ)みが()まらない。

「いいわよ。わたくしの(むね)に、ぜんぶ(なが)しておしまいなさい」

 (あま)(やさ)しい(さそ)いが、(よわ)()ったレッドに()()んでくる。カイリンジャーのリーダーとして(たも)ってきた(こころ)が、最大(さいだい)危機(きき)にさらされる。

大丈夫(だいじょうぶ)よ。()(かた)(わす)れてしまっていても大丈夫(だいじょうぶ)。お(ねえ)さんが(おも)()させてあげるからね。……こんな(ふう)にっ!」

 電撃(でんげき)が、一気(いっき)二段(にだん)も三(だん)(つよ)くなる。

 この瞬間(しゅんかん)、カイリンレッドは陥落(かんらく)した。(いま)まで(おさ)えていたものが、()()電撃(でんげき)によって()きずり()される。(なみだ)となって、(さけ)びとなって、(かく)していたものが次々(つぎつぎ)()さぶり()される。(ころ)がり(はじ)めたら()まらない。崩壊(ほうかい)はさらに(ふか)くへと加速(かそく)していく。

「あははっ! お上手(じょうず)よ。でも、もっと……もっとよ。あなたの本当(ほんとう)(こえ)()かせて……!」

 もうレッドには()められない。(つよ)さを()していく電撃(でんげき)(なか)で、なにもかもをリードされるがままに、本能(ほんのう)のままに、(こころ)(そこ)からあふれ()(こえ)を、衝動(しょうどう)を、女体(にょたい)にぶつけ、まき()らす。()いたままの(あし)をばたつかせ、身体(からだ)海老(えび)()らせ、どれだけあばれ(くる)っても、マゾーナは凶悪(きょうあく)抱擁(ほうよう)()かない。女体(にょたい)に、乳房(ちぶさ)にぷにぷにと(おさ)()まれ、()きとめられてしまう。(なに)をしても、(なに)()わらない。()えられない。だからレッドは――(むち)()めつけと電撃(でんげき)素直(すなお)享受(きょうじゅ)しながら、あるがままにしているしかなかった。

 ()(わめ)き、マゾーナにおしおきされているしかなかった。



 どれくらいの(とき)()ったのだろうか。レッドの(あし)久方(ひさかた)ぶりに()()ろされた。

 ――レッドはもう、ぐちゃぐちゃだった。カイリンスーツからは(けむり)()()め、あちこちが(くろ)()()がり、(なに)よりもひどいのは(かお)だった。(なみだ)はもちろん、よだれも鼻水(はなみず)()(なが)したままで、()(うつ)ろである。(いま)なお直立(ちょくりつ)姿勢(しせい)のまま、(むち)でぎゅうぎゅうに()めつけられ、時折(ときおり)ぴくぴくと身体(からだ)(ふる)わすばかりだった。《絶対(ぜったい)無敵(むてき)》の面影(おもかげ)は、もう欠片(かけら)(のこ)っていなかった。

 マゾーナはそんなレッドを、ぎゅうと乳房(ちぶさ)(あいだ)()しつけ、両手(りょうて)でレッドの(あたま)(かか)えながら、うっとりと見下(みお)ろしていた。

「これでわかったでしょう? あなたは絶対(ぜったい)に、わたくしには()てないの。なぜなら、あなたが(おとこ)だから。わたくしが(おんな)だから。どれだけ(うで)(ちから)(つよ)くたって、どれだけ(あたま)(かしこ)くたって、(おとこ)(おんな)魅力(みりょく)(まえ)では無力(むりょく)なの。だから絶対(ぜったい)に、()かされちゃうの。――(いま)のあなたみたいにね」

 (なに)()うでもなく乳房(ちぶさ)(かお)(うず)めるばかりのレッドを、マゾーナは(やさ)しく(かみ)()でた。(なみだ)()れたのに()(つづ)けるレッドの(あたま)を、(やさ)しく()(つづ)けた。

 ようやくレッドが()()いてくると、マゾーナは「さて、そろそろ――」と()()した。



「――よい()は、おねんねの時間(じかん)よ」



 (つぎ)瞬間(しゅんかん)、レッドはマゾーナに(くび)をくくられ、つま先立(さきだ)ちにされた。

 依然(いぜん)としてレッドの身体(からだ)をぐるぐる()きにしたままの(むち)、マゾーナはその()(がわ)(あま)りをレッドの(くび)にひと(まわ)りさせ、(にぎ)りしめた()(よこ)(ひろ)げたのだ。レッドは(くび)圧迫(あっぱく)されたまま、身体(からだ)(うえ)へと()()られ、つま先立(さきだ)ちを()いられる。乳房(ちぶさ)両頬(りょうほお)をはさまれながら、まるで金魚(きんぎょ)のように(うえ)()いて(くち)をぱくぱくさせて、か(ぼそ)(いき)懸命(けんめい)につなぐ。そんなレッドにマゾーナは、(やさ)しく(かた)りかけた。

「もう二()と、(おんな)(さか)らってはだめよ。()まれ()わっても、その(つぎ)()まれ()わっても。その(つぎ)も、そのまた(つぎ)も。(おとこ)()まれた以上(いじょう)は、(おんな)一生(いっしょう)をささげるのよ。いいわね?」

 レッドにはもう、マゾーナが(なに)()っているかわからなかった。しかしレッドの(くび)は、勝手(かって)(たて)(うなず)いていた。そんなレッドを()()げ、見下(みお)ろしながら、マゾーナは(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。




「――おやすみなさい」




 レッドの(あし)が、ふわりと()()がる。

 どれだけ(あし)をばたつかせても(とど)かない。

 ()にも(うみ)にも、もうどこにも、(とど)かない。

 いつまでも、(ちゅう)ぶらりんにされたまま――。



 まぶたの(うら)仲間(なかま)(かお)が、(とお)くへ()えていく。

 (ちが)(おんな)の、(やさ)しい笑顔(えがお)(えが)()わっていく。

 (やわ)らかな乳房(ちぶさ)両頬(りょうほお)をはさまれながら。

 (おんな)(あま)(かお)りに全身(ぜんしん)(つつ)まれながら。 

 絶対(ぜったい)無敵(むてき)のカイリンレッドは――。

 (はじ)めての敗北(はいぼく)(しず)んでいった。



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