海龍戦隊カイリンジャー 《レッド、女幹部ひとりに敗れたり》
《女幹部マゾーナ》。悪辣海賊ポリューガイの紅一点。武勇でも賢才でもなく、その女体を使って幹部に登り詰めた絶世の美女。単純な戦闘力は、ポリューガイのどの怪人よりも劣っている――。
そう、確かにそのはずだった。
カイリンレッドは、マゾーナひとりに苦戦していた。
1対1の決闘、岩石海岸沿いの広場で、正義の海戦士・カイリンレッドは、悪辣海賊の女幹部・マゾーナひとりに苦戦していた。マゾーナの華麗な鞭さばき、蛇のようにうねりながら飛んでくる鞭の前で、レッドは守り固まるばかりだった。
次々と波打っては迫りくるマゾーナの鞭を、レッドは愛用の剣・レッドサーベルを手に防ぎ続ける。しかし懸命な防御もむなしく――ついに片膝を着いてしまった。うずくまり直撃を覚悟するレッド、隙だらけの戦士に飛んできたのは、鞭ではなく、高らかに笑い下ろす女声だった。
「オーホッホッホッ! どうしたのかしらカイリンレッド。守ってばかりでは勝てなくてよ?」
片膝を着き、剣を杖代わりにして、カイリンレッドは肩で息をする。そのマスクのバイザーには、敵の姿――片手を悠々と腰に当てて、不敵に微笑むマゾーナの姿が映っていた。
漆黒のマーメイドドレスをまとった、絶世の美女。
見かけ20代の美貌を、肉付いた女体をひけらかす。
ふくよかな乳房、くびれた腰、丸みを帯びたお尻。
胸元は広く開けて、スカートは片側が深く切れて。
あられもなく露出した白い肌が、むちむちと覗く。
豊かなふとももの先には、踵10㎝超のハイヒール。
靴含め190㎝超の長身が、すらりと高くそびえ立つ。
レッドは今一度敵を分析するも、やはり苦戦の原因が見つからない。マゾーナの外観は戦闘向きではない上に、感じる戦闘力もたいしたことはない。鞭さばきも強烈には違いないが、事実として他の怪人ほどの重みはなく、カイリンマスクのバイザーは鞭の動きを完全にとらえていて、スローモーション同然に見えていた。どれだけレッドが分析しても、答えは決まってひとつだった。
――こんなザコに苦戦するなど、あり得ない。
「なぁに? そんなにわたくしの身体が気になるの? おチビちゃん」
その肢体をくねらせて挑発するマゾーナの前で、レッドはマスクの下で歯ぎしりをした。
カイリンレッドは《海龍戦隊カイリンジャー》のリーダーであり、3人の隊員の中で唯一の男性である。大学を浪人中の19歳で、身長は168㎝のやせ型だ。かっこいい男ではないと自覚している。しかし、これまでに多くの怪人を倒してきたエースであることに違いはない。仲間からならまだしも、悪人にチビ呼ばわりされるいわれはなかった。
しかし、この戦況をどうすれば――……。
「どうしたの? かかっていらっしゃい」
レッドは剣を構えたまま固まってしまった。――もう技がないのだ。今まで怪人を倒してきた技、そのすべてが、変幻自在の鞭でいなされてしまったのだ。打開策をめぐらせるレッドに向かって、マゾーナがにんまりと言葉でなじる。
「あらあら。いつもの2人のお姉さんがいないと、何もできなくて?」
マゾーナの言う2人のお姉さんとは、カイリンブルーとカイリンイエローのことだろう。イエローは確かに最年長、23歳のOLで、背もすらりと高く、クールなお姉さんという感じではあるが、ブルーは女子高生だ。歳はレッドより2つも年下の17歳、背もレッドより少しばかり高いだけで、お姉さんと呼ぶには程遠い跳ねっ返り娘である。
今は3人が個別任務中で離ればなれだ。だからこそ個々が、特にリーダーはしっかりしないといけない。決意を固めるレッドには、マゾーナの挑発は見え透いていても、聞き捨てるわけにはいかなかった。
鞭の間合いに居てはされるがままだ。とにかく距離を詰めなければ始まらない。レッドは一番多く怪人を倒してきた技を、今一度、よりエネルギーを高めて繰り出した。
《火炎一突》。レッドが最も得意とする突進刺突技だ。
しかし――やはり通じない。逆に鞭で弾き返され、レッドの身体はきりもみ回転しながら吹き飛んでいき、地面に倒れた。
「だらしないわね。先代のカイリンレッドなら、こんな鞭なんてわけなかったわよ」
マゾーナの言葉にレッドは驚いた。先代のことはレッド自身も又聞きでしか知らされていないからだ。
先代のカイリンレッドは、とても優秀な女だったと聞いている。まだブルーもイエローも存在しなかった頃、たったひとりでポリューガイと互角以上に戦っていたらしい。
しかしそれを引き合いに出されては、男として黙ってはおけない。レッドは全身の力を振り絞り、勢いよく立ち上がった。
……こうなったら、奥義を出すしかない。
これまでに幾度も勝負を繰り返してきた、ポリューガイの首領、ヤツとの最終決戦のためにとっておいた奥義を使わざるを得ない。
レッドは剣を持たない手にエネルギーを集中させた。続けて脚を開いて深く腰を落とし、エネルギーを鞘に見立てて剣を納め、腰に据える。構えるレッドの周りには炎が立ち込め、やがて爆炎が渦巻き始めた。その様子をマゾーナは自らの髪をいじりながら「ふーん」と感心するように目を細めて見ている。そして――
《爆龍一刀閃》。カイリンレッドは奥義の居合を放った。
爆炎とともに超速突進し、抜剣。鼻をくすぐる女の甘い香りに、マゾーナとの距離を詰め、初めて密着できたことを確信する。そして炎の刃がマゾーナのか細い胴を一刀両断した――はずだった。
――剣が、抜けていない。
レッドが自らの手元を見ると、剣を持った手が――しなやかな白い手に、ぐっとつかまれていた。奥義を放つ直前、マゾーナが一歩踏み込んできて、手首をつかんできたのだ。
言葉を失うレッドに、マゾーナは身体をさらに密着させながら語りかける。
「なかなかよくできてたわよ。でもね、今の技は――」
マゾーナの顔が近づいてくる。固まるレッドのマスク越しに、耳元に真っ赤な唇があてられる。
「――先代のカイリンレッドが、一番得意だった技なの」
次の瞬間、マゾーナの足がレッドの開いたままの股間を蹴り上げた。レッドは痛みを通り越して全身が硬直し、マゾーナの足元に倒れ、うめき、悶え、転げまわった。そんなレッドを、マゾーナは前かがみになって上からのぞき込む。
「うふふ、ごめんあそばせ。でも無防備すぎるわよ? 男の子って大変ね。こんな弱点をぶら下げてなきゃならないんだもの」
手の甲を口にあてて笑うマゾーナに見下ろされながら、レッドは剣を杖代わりにして、なんとか立ち上がった。
「さすが男の子ね。でも――そんな状態で、まだ戦うつもり?」
脚の震えなど関係ない。正義の戦士がこんなことであきらめてはならない。レッドは再びマゾーナに斬りかかった。しかし――やはり剣を振る前に、手首をつかまれた。
――先ほど組み合ったときと同じ体勢だ。反射的にレッドは脚を閉じた。すると――
「だーめっ」
お茶目な声とともに、マゾーナの膝がレッドの腹にめり込んだ。
「ふふっ、ちゃんとお勉強できるのね。偉いわ。でも、今度はお腹がお留守になっちゃったわね」
再び地面に転がるレッド、五臓を揺さぶられる痛みの中、重大なことに気が付いた。
――剣がないのだ。
怪人たちを両断してきた無敵の剣が 手の中にないのだ。辺りを見回してもどこにも落ちていない。どこにいったんだ。レッドが夢中であちこちを見回していると、ほどなくして見つかった。――最悪の形で。
「ふーん……これが今のレッドサーベルなのね」
正義の海戦士・カイリンレッドの剣を、悪辣海賊の女幹部・マゾーナが手に取り、剣身や柄の隅々までを眺めている。仲間のブルーやイエローにすら持たせたことのない剣である。動けないはずのレッドの身体に、熱く燃える力が湧いた。
『か、返せ……! 剣を返せ……!』
レッドは剣を目がけて飛びかかり、手を伸ばした。しかしあと少しのところで遠ざかってしまう。マゾーナが高く手を掲げて、剣を遠ざけたのだ。
「だめよ。これはもうわたくしのものなの」
190㎝超の女が、168㎝の男の前にそびえ立つ。しかしレッドはあきらめない。『返せ! 返せ……!』と何度も飛び上がる。ビルをも飛び越える勢いで地を蹴ったはずだが、実際にはうさぎのように、ぴょんぴょんとしか跳べていない。なりふり構っている余裕など、もはやなかった。
「そんなにこれが大事なの? こんなもので、本当に世界を守れるとでも思っていて?」
長身のマゾーナが長い手を上に掲げれば、今のレッドにとっては遥か上空も同然だった。しかしそれでもあきらめめるわけにはいかない。あの剣こそが、無敵のカイリンレッドの象徴なのだから。
「うふふ、そんなに大事なものなのね。……いいわよ。返してあげる」
ぴょんぴょんと跳ね続けるレッドを、マゾーナは右に左に剣を遠ざけて振り回しながら、いじわるな笑みを浮かべた。
「ほーら! 取ってらっしゃい」
マゾーナは剣を放り投げた。くるくると回転しながら飛んでいく剣を、レッドはすぐさま追いかけ、そして地に落ちて転がった剣に全身で飛びついた。ようやく取り戻したレッドサーベル、しかし感傷に浸っているときではない。レッドは立ち上がり、剣先を敵に向けた。……震えが止まらない剣先を。
「……あきらめないのね。うふふ、いいのよ。お姉さんはね、聞き分けの悪い子が大好きなの」
大上段に鞭を構え上げるマゾーナ、レッドはそれを見ただけだというのに、さらに震えが強くなってしまう。こんなことではいけないと、レッドは心の中で繰り返し鼓舞した。
逃げるわけにはいかない。このままではイエローにもブルーにも向ける顔がない。自分は《海龍戦隊カイリンジャー》のリーダーなんだ。だからどんな時でも、どんな相手でも、悪には立ち向かわなくてはいけないんだ――。
そう、例え勝負は決していても。
「さあ――おしおきの時間よ」
鞭の嵐が、一方的な蹂躙が始まった。
女幹部マゾーナの操る鞭が、カイリンレッドを乱れ打つ。鞭の間合いから詰められず、逃れられず、ただその場にとどまって、剣を盾にしてひたすら耐え続ける。やはり鞭のスピードは、たいしたことはない。カイリンマスクのバイザーは完全に鞭の挙動をとらえ、今もスローモーションのように見えている。なのに――身体が動かない。脚も腕も震えるばかりで、言うことを聞かない。あれだけして取り戻した剣も、マゾーナが操る鞭の嵐の前に、とうとう落としてしまった。
「オーホッホッホッ! ほらほら。踊りなさい。歌いなさい」
丸腰のカイリンレッドを、鞭は逃がさない。背中を丸めて、両腕を固めて懸命に守るも、鞭はするりと抜けてくる。腹を打たれ、背中を打たれ、尻を打たれ、やがてくるくると回されていく。鞭に踊らされる。打たれる度にはしる激痛に、思わず漏れかける声を必死に押し殺す。剣もなくなり、奥義もなくなり、もうレッドにできることは何もない。ただ鞭に踊らされながら、敵を眺めているしかなかった。
鞭を振るう度に跳ねて弾む、大きな乳を見ているしかなかった。
百千の鞭の嵐がようやく止む。
カイリンスーツは完全にパワーダウンし、実質的にも戦闘継続は困難となってしまった。レッドが力なく両膝を着き、倒れ伏すその直前――片腕を鞭の先端に絡めとられ、勢いよく引っ張られる。レッドはまるでコマのようにくるくると回され、直立の姿勢で鞭に身体を巻かれながら、マゾーナへと引き寄せられていった。
「つかまえたわ」
レッドは、やわらかな女体に受け止められた。
直立の姿勢で鞭にぐるぐる巻きにされたまま、レッドはマゾーナの長身に向かい合う形で密着させられた。マスクのバイザーの下半分に乳房が張りつく中、レッドは必死に抵抗する。しかし鞭は隙間なくレッドの身体を締めていて、びくともしない。それでもあばれるレッドを、マゾーナは首をかしげて見下ろしながら、笑顔で語りかけた。
「ねえ、今どんなお顔をしているの?」
マゾーナはにんまりと笑いながら、両手をカイリンレッドのマスクへと伸ばしてきた。
『やめろ! やめろ!』
ぐるぐる巻きのレッドには、何もできない。外されていくマスクの中に、ただ震えた叫びがむなしく響くだけだった。
「うふふ。やっぱり、そういうお顔をしてたのね」
とうとうカイリンマスクを外され、捨てられてしまう。見られたくないものが見られてしまう。マゾーナはレッドの素顔を、今の表情を、興味津々と観察していた。ひとしきり観察を終えると、レッドは――身体が浮き、足が地を離れる感覚を覚えた。
――マゾーナに抱き上げられたのだ。
マゾーナは、ぐるぐる巻きにした鞭の一端である柄と、もう一端である鞭先を左右の手で持ち、横へと広げるように引っ張った。するとレッドの身体はぎゅうぎゅうに締めつけられるとともに、足が浮き上がった。ハイヒールを含めて190㎝超の女に抱え上げられたら、168㎝の男は足を着けない。身体と身体はより密着し、レッドの顔はちょうど――ふくよかな乳房に埋もれてしまった。
ひと玉がレッドの頭ほどの大きさの乳房の間で、頬をはさまれ、もみくちゃにされる。人肌に温かな体温、より濃く甘い女の香り、やわらかな牢を堪能させられるレッドの耳に――ばちばちと、不吉な音が届いた。
マゾーナが、両手に閃光をくすぶらせている。
バチバチと、まるで嵐の前とばかりに。
「――覚悟はよろしくて?」
無慈悲な電撃が解き放たれた。
《おしおき》はまだ終わらない。マゾーナの両手から放たれる、熱く、鋭く、痺れる電撃が、カイリンレッドを激しく責め立てる。鞭で全身を隙間なく締めあげられ、抱え上げられ、足が浮き、マスクまではがれて逃げ場のないレッドに、さらに高圧の電流が追い打ちをかける。激しく飛び散る火花の中で、マゾーナは笑顔を崩さず平気な様子だが、レッドにはひとたまりもない。ぎゅうぎゅうに締め上げる鞭が、バチバチと痛めつける電撃が、カイリンレッドが積み上げてきた《絶対無敵》を、またひとつ、またひとつと、引きはがしていく。もう……押し込んではおけない。ここまでずっと必死に蓋をしてきたものが、マゾーナの手によって、ついに――暴かれてしまった。
辺りに初めて、カイリンレッドの悲鳴が響き渡った。
その瞬間、マゾーナは表情を変えた。今までの不敵な笑みが、さらにいじわるに、けれども――まるで赤子に向けるような満面の笑みへと変わったのだ。その顔が今度はレッドを、内側から壊す。外からは鞭の締め付けと電撃、中からは庇護的な笑顔と、レッドの崩壊は止まらない。
そして――最後の砦も、いよいよ決壊する。
「あらあら、涙が止まらないのね」
レッドはマゾーナが何を言っているかわからなかった。しかしレッドが『ちがう! ちがうっ!』と否定する間にも、視界の滲みが止まらない。
「いいわよ。わたくしの胸に、ぜんぶ流しておしまいなさい」
甘く優しい誘いが、弱り切ったレッドに染み込んでくる。カイリンジャーのリーダーとして保ってきた心が、最大の危機にさらされる。
「大丈夫よ。泣き方を忘れてしまっていても大丈夫。お姉さんが思い出させてあげるからね。……こんな風にっ!」
電撃が、一気に二段も三段も強くなる。
この瞬間、カイリンレッドは陥落した。今まで抑えていたものが、身を裂く電撃によって引きずり出される。涙となって、叫びとなって、隠していたものが次々と揺さぶり出される。転がり始めたら止まらない。崩壊はさらに深くへと加速していく。
「あははっ! お上手よ。でも、もっと……もっとよ。あなたの本当の声を聞かせて……!」
もうレッドには止められない。強さを増していく電撃の中で、なにもかもをリードされるがままに、本能のままに、心の底からあふれ出る声を、衝動を、女体にぶつけ、まき散らす。浮いたままの足をばたつかせ、身体を海老反らせ、どれだけあばれ狂っても、マゾーナは凶悪な抱擁を解かない。女体に、乳房にぷにぷにと抑え込まれ、抱きとめられてしまう。何をしても、何も変わらない。変えられない。だからレッドは――鞭の締めつけと電撃を素直に享受しながら、あるがままにしているしかなかった。
泣き喚き、マゾーナにおしおきされているしかなかった。
どれくらいの時が経ったのだろうか。レッドの足が久方ぶりに地に下ろされた。
――レッドはもう、ぐちゃぐちゃだった。カイリンスーツからは煙が立ち込め、あちこちが黒く焦げ上がり、何よりもひどいのは顔だった。涙はもちろん、よだれも鼻水も垂れ流したままで、目も虚ろである。今なお直立の姿勢のまま、鞭でぎゅうぎゅうに締めつけられ、時折ぴくぴくと身体を震わすばかりだった。《絶対無敵》の面影は、もう欠片も残っていなかった。
マゾーナはそんなレッドを、ぎゅうと乳房の間に押しつけ、両手でレッドの頭を抱えながら、うっとりと見下ろしていた。
「これでわかったでしょう? あなたは絶対に、わたくしには勝てないの。なぜなら、あなたが男だから。わたくしが女だから。どれだけ腕の力が強くたって、どれだけ頭が賢くたって、男は女の魅力の前では無力なの。だから絶対に、負かされちゃうの。――今のあなたみたいにね」
何を言うでもなく乳房に顔を埋めるばかりのレッドを、マゾーナは優しく髪を撫でた。涙も枯れたのに泣き続けるレッドの頭を、優しく撫で続けた。
ようやくレッドが落ち着いてくると、マゾーナは「さて、そろそろ――」と切り出した。
「――よい子は、おねんねの時間よ」
次の瞬間、レッドはマゾーナに首をくくられ、つま先立ちにされた。
依然としてレッドの身体をぐるぐる巻きにしたままの鞭、マゾーナはその柄側の余りをレッドの首にひと回りさせ、握りしめた手を横に広げたのだ。レッドは首を圧迫されたまま、身体は上へと引っ張られ、つま先立ちを強いられる。乳房に両頬をはさまれながら、まるで金魚のように上を向いて口をぱくぱくさせて、か細い息を懸命につなぐ。そんなレッドにマゾーナは、優しく語りかけた。
「もう二度と、女に逆らってはだめよ。生まれ変わっても、その次に生まれ変わっても。その次も、そのまた次も。男に生まれた以上は、女に一生をささげるのよ。いいわね?」
レッドにはもう、マゾーナが何を言っているかわからなかった。しかしレッドの首は、勝手に縦に頷いていた。そんなレッドを絞め上げ、見下ろしながら、マゾーナは優しく微笑んだ。
「――おやすみなさい」
レッドの足が、ふわりと浮き上がる。
どれだけ足をばたつかせても届かない。
地にも海にも、もうどこにも、届かない。
いつまでも、宙ぶらりんにされたまま――。
まぶたの裏の仲間の顔が、遠くへ消えていく。
違う女の、優しい笑顔に描き変わっていく。
柔らかな乳房に両頬をはさまれながら。
女の甘い香りに全身を包まれながら。
絶対無敵のカイリンレッドは――。
初めての敗北に沈んでいった。