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野良猫ナナシ②

いらっしゃいませ!

ご来店ありがとうございます!

 ライオンのバナン、白熊のウララ、ウサギのムギ、鹿のソラ、イタチのモーニング、セントバーナードのコタロウ、チワワのぼたもち、大蛇ののんべえ、カエルのアメフラシ、猫のナナシ。


<動物園>はいいギルドだった。


 色んなことがあって、そしていろんなことがあって、今はナナシ一人が残っている。


 きっと今後も一人なのだろう。彼らがこの世界に戻ってくるとことはないのだろう。でももしも戻って来たなら。


 そんな日が来ないことが分かっていても、自分から終わりにしてしまうことはできなかった。


 ギルドのメンバーが一人だからと言って困ることもない。ネオデはソロでも楽しめるし、ナナシはその気になれば自分一人でどのモンスターでも倒すことができる。


 まあそれでもネットゲームだ。


「猫さん、ちょっと手伝ってくれない?」


 声を掛けてくる奴がいるのはいいことだ。


 ナゴミヤはナナシを「猫」と呼ぶ。ナナシがギルド<動物園>とその思い出を大事にしていると知っているからだ。「猫」はナナシの街中での姿であると同時に、かつてのナナシのあだ名でもあった。<動物園>のメンバーは皆、何かの動物の姿を取り、互いをその動物の名前で呼んでいたのだ。


 ナゴミヤとは気が合った。リアルに旅立っていった大事な仲間たちともまた違う、この世界に取り残された自分と似た臭いをナナシはナゴミヤに感じていた。


 だからナゴミヤがギルド<なごみ家>を作りナナシにも声を掛けてきた時、少しだけ迷ったのだ。変わることを恐れるナナシは結局断ってしまったのだが。


 ギルドに入ることは断ったが、それでもナゴミヤとの関係は変わらなかった。


 ナゴミヤはいいヤツだ。


 ただ一つ。問題というわけではないのだが気になることが。


 ナナシは自分のことを男だと思っているようだった。人間の姿でいることはほとんどないとはいえ、ナナシのアバターは女なのにである。そのこと自体は構わない。寧ろ同性だと思わえていた方が気が楽なくらいだ。


 でもナゴミヤが、ナナシが実は男ではないと知ったらどんな反応を示すだろうか。裏切られたと思うのではないか。気持ち悪がられるのではないか。


 それとも。


 時々そんなことを考えた。


 怖いような、面白いような、もしかしたら何かが変わるような。


 所詮これはただの空想だ。どんなことが起きるだろうと想像してみるだけの脳内シミュレーションだ。


 ネットゲームではアバターを介して触れ合う。それが全てだ。自分のリアルの性別がナゴミヤに知れることは絶対にない。


 そんな日は絶対に来ないはずだった。ネットゲームの知り合いと顔を合わせるなんてことは、絶対にないはずだった。だから臆病なナナシでも想像してみることが出来たのだ。


 所詮想像は想像。そこから現実に何か変化が起きるにはいくつもの壁がある。


 それでも想像を現実にしてしまう者もいる。<なごみ家>のメンバーであるショウスケとブンプクはネオオデッセイの中で出会い、リアルでの交際を経て結婚すると言うのである。そんなとんでもないことをやって退けた二人に引っ張られ、ナナシはネットゲームの友人たちと現実で顔を合わせることになった。


 二人と親しくしていたとはいえ、式の招待客の中でギルドメンバーでないのは自分だけ。特別待遇だと言って差し支えないだろう。そこで疎外感を感じるのは失礼という物だ。そもそも自分一人だけが違うギルドであるという状況は今に始まったことではない。


 ナゴミヤはやはりナナシを男だと思っていたようだった。そのことでひとしきりナゴミヤを責めるのは楽しかった。


 ナゴミヤに自分が女であると言うことが知れても、何も変わることは無かった。当然であり、想像通りでもあり、ありがたいことでもある。


 ただありがたいと同時に、なんとなく拍子抜けのような気分があったのも事実だ。男だと思っていたことでナゴミヤを責めることが出来ても、何も変わらなかったことで攻めることはできまい。そもそも変化はナナシの望みではない。


 もし、現実で出会ったなら。


 ありえない想像が現実になるにはいくつもの壁がある。タイミングだったり、出来事の順番だったり、その時の自分の心の状態だったり、想像した内容の楽しさや嬉しさ、あるいは面倒くささや恐ろしさの加減だったり。


 その壁を壊すことが出来るのは強い思いを持つ者だけだ。想像の中から一つを選んで願いに変え、それを叶えるために行動することができる、ショウスケやブンプクのようなとても強い人間だけだ。


 そして。


 現実で出会ったナゴミヤの側には自分では到底かなわないような、それでいて思わず応援してしまいたくなるような、そんな強い思いを持った女性(ひと)がいたのだった。




 ■■■



 トパーズドラコのトパコ君と子猫の猫さんが開いてくれた道を辿って、私たち十一人はダンジョンのボス、人工精霊ウモの所にたどり着いた。


 ウモさんの見た目は宙に浮く茶色の正八面体といったカンジ。表面に光る幾何学模様が描かれていて、精霊と言うより人工物の印象の方が強い。攻撃手段は石礫や地の槍のような地属性の遠距離魔法と、同じく地属性の衝撃波のような広範囲への攻撃。


 離れていては不利なので近づくと地面に潜って逃げ、別の場所に現れて魔法を放ってくる。そこでまた近づいて攻撃する。


 つまりモグラたたきだ。


 護衛として召喚するゴーレムのような見た目のアースエレメンタルも、ここまでたどり着くことが出来る冒険者にとってはそれほど恐ろしい相手ではない。


 出現するたびに寄ってたかってみんなで叩けば、ウモさんはあっというまに強い光となって空へと散っていく。


 なんだ拍子抜け、と思いきや。


 散らばっていった光は部屋の中央で再び集まりだす。今度は不定形の、黄色のもやのような姿。その内側に、ばちばちと紫色の光がはじけている。


 ウモさんの第二体型だ。


 ウモさん第二形態の内側の紫の光が一際強く輝き、八方向に電撃の魔法が放たれる。ほぼ全員が被弾してしまい、大ダメージを受けた。でも死んでしまった人はいない。前もって師匠が全体に雷耐性を上げる魔法を掛けているからだ。


「今のはしばらく来ないから落ち着いて回復してね」


 言いながら師匠はダメージの多い人に回復魔法をかけて行く。


 第二体型のウモさんは雷属性のモンスター。茶色の八面体だった時には大活躍していたトパコ君だけど、この体型のときにはあんまりダメージを与えられない。でも盾役としては大活躍だ。


 第二体型のもやのようなウモさんは大きな鹿、ヘビ、巨人と次々に姿を変えながら攻撃を仕掛けてくる。そして変身の度に同じ姿をした雷の精霊をお供として召喚してくる。


 お供達はさっきのアースエレメンタルとは段違いの強さだし、数が多いのは厄介だけど、それぞれの姿毎に攻撃方法が決まっているので対策は取りやすい。


 ダメージを与え続けているとウモさんはやがて最初のもやスタイルに戻る。


「雷くるよー」


 師匠が言うけど初めての人たちがはいそうですかと対応できるわけはない。さっき同様ほとんどの人が大ダメージをうけた。


 ちなみに私は今回も前回もほぼノーダメージである。ふふふ、ソロ討伐の経験は伊達ではないのだよ。


 HPバーが減ってきたウモさんが、壊れた機械みたいにばんばん雷の魔法をまき散らし、雷の精霊たちをランダムに召喚しだす。こうなればある程度被弾は覚悟しなくてはならない。連続して攻撃を受け、死亡するメンバーも増えてきた。


 とはいってもこれだけの人数。みんなでダメージを与えればウモさんの抵抗も長くは続かない。


 ウモさんは再び光となって散っていった。


 ふう、という安堵感がパーティーを包む。思ったより簡単かと思ったけど、やっぱりボスって難しいんだ。倒せてよかったね。よかったよかった、面白かったね。


「まだだよー。もう一回!」


 師匠が叫ぶ。


 その言葉通り、再び部屋の中央に光が集まる。


 ぱきぱきぱき。画面の中の風景を、氷が覆っていく。


 ざりっ、ざりっ。さっきまでより一段と早く、HPバーが削れる。


 部屋の中央に現れようとしている存在によって、気温が著しく下がっているのだ。


 光は青く色を変え、ある生き物の形をとる。それはファンタジー世界における絶対の力の象徴。始めて見ても誰もが「これはヤバい」と理解できる非常にわかりやすい姿。


「これ倒せばほんとにおしまいだからね。頑張ろう!」


 水晶の様に青く透き通る巨大な竜。


<大氷結孔ウモ>のボス、人工精霊<ウモ>が、その正体を現した。


 第三体型のウモさんはこれまでとは別次元の強さだ。通常攻撃が普通に痛いし、全身から冷気をまき散らし、近づくだけでダメージを受けてしまう。時折放ってくる冷気の波動は躱しようもない。盾を持っていない人にはつらい相手だ。


 でも事前に氷耐性上げてくるようにと引率の師匠がお話してたからね。召喚される眷属も氷属性の攻撃しかしてこないし、冷気耐性のバフも掛けているからみんななんとか戦えている。


 ここから先登場するのは氷属性のモンスターだけ。本来なら先日手に入れた<コヒナブレード・炎>が唸るところなんだけど、火の精霊力が働かないこのダンジョンでは使えない。残念。


 私が得意としているライトニングストライクはこのダンジョンでは非常に有効である。


 有効なはずなんだけど、師匠が戦士系の人みんなにライトニングウエポンの魔法をかけるもんだからイマイチ目立たないな。不満。


 ウモさん最終体型ではこれまで以上の速さでこちらのHPが削られる。回復のためにスキルを使うと大技が使えない。ウモさん攻略にはこの辺りをどうするかが攻略の鍵になってくる。


 でも師匠のお陰でみんな攻撃力が上がっているし、回復魔法も掛けてくれる。ハクイさん程じゃないにしても他人を回復できる師匠が一緒というのはかなりの安心感がある。


 戦線が危なそうな所には猫さんが行ってサポートしてくれるし。及ばずながら私もいるし。


 大活躍したのは勿論、トパーズドラコのトパコ君だ。お供モンスターとウモさん本体をいっぺんに攻撃する雷のブレスは圧巻。


 最後はバフの乗ったカオリンさんの槍が貫いて、今度こそ本当にウモさんは光になって消えた。


 あちこちで歓声が上がる。


「最後やばかったよねー」

「俺、魔物使いやってみようかな」

「絶対死んだと思った」

「ていうか疲れたー」


 興奮冷めやらぬメンバーが口々に戦闘の感想を口にする。


「私ボス倒したの初めてです。ギルドマスターさん、ありがとう!」


 カオリンさんみたいに初めてボスを倒した人は感動も一際だろう。


「あー、いや俺ボスに一回もダメージ当ててないし。周りもあんまり……。ていうか一匹も……」


 そういういいかたするなし。真に受ける人もいるんだから。


「一匹も倒してないとかwww何ww」


 ほらいた。しかしこの人は回復して貰ってもしてもらわなくてもいちゃもん付けるんだな。


「あー。すいません。とりあえず転移禁止が始まる前に撤退しましょうかー」


 何はともあれ強敵の討伐に成功。初めての人が多い中よく頑張りました。私たちは意気揚々と引き上げたのだった。



 □□□


「じゃあ戦利品分配しますかー」


「いえーい!」


 強敵討伐後のお宝山分けはネオデの醍醐味。


 ま、今日はお宝も沢山だけど、人数もたくさん。分け前が少なくなってしまうのは仕方ない。それもネオデの醍醐味だ。ふんふーん。なにが出てるかな?


「いや、何でアンタがシキってんのwwww」


 ……は?


 何を選ぼうかとわくわくしながら戦利品を眺めていた私はダーニンさんの言葉に凍り付いた。


 え、何言ってるの? その人ギルドマスターだよ?


「当てたダメージほぼゼロじゃんwwwそれで分配シキるとか乞食かよwww」


 ダーニンさんの主張はおかしい。だけど師匠がサポートしてたのはボス討伐に慣れてない人たちで、何をして貰っていたかわからない人もいるかもしれない。


 ネオデはパーティーを組んで戦うこともできるし、ボスなんかはパーティーを組むことを前提にしている。でもそれは「大人数の個人」で戦うということなのだ。縁の下の力持ちはこのゲームでは目立たない。


 ダーニンさんの主張を真に受ける人がいてもおかしくない。


 そして師匠自身もそれを否定しない。


「あー、たしかに。俺が分け前貰うのはおかしいね」


「師匠、それは……」


 おかしくない。全然おかしくない。なのに何でこんな時いっつも言葉が出てこないんだろう。


 師匠はギルドマスターで、ダメージは当ててなくても凄く活躍してて、でもそれは目立たなくて、師匠はそれを主張しなくて。


 そもそもどんな意図でダーニンさんはそんなことを。いくつもの「おかしい」がいっぱいになって何から話していいかわからない。


「いやいやいや、マスター殿、それはいけませんじゃ。うちのトパーズもお世話になっておりましたじゃ」


「あー、トパコ君強かったですね。ブレス一発で雑魚吹き飛びましたもん」


「ええ。トパコのブレスは……。いや、今はそれはどうでもいいですじゃ」


 オンジさんの言葉に賛成の声も上がるけど、何も言わない人もいる。みんな私と同じなんだろう。何を言っていいかわかんないんだろう。


 でも中には、ダーニンさんに賛成している人もいるかもしれない。


「あのにゃ、ダーニン。はっきり言って今日の一番の功績はナゴミーだぞ。試しにナゴミー抜きでウモと戦って見れにゃ。ぜってー全滅してたにゃ」


 いつもの子猫姿に戻っている猫さんがダーニンさんと周りに言い聞かせるように言った。でも師匠が何をしていたか理解できないダーニンさんには届かない。


「いやwwwギルド外から口出されてもww」


 !


「そもそもwwこの人何でいんのwwwwいきなり来てww」


 本当に何を言って!


「ダーニンさん」


 尚も言葉を続けようとするダーニンさんを師匠が遮った。


「今の、二度と言わないでね」


 師匠が怒ってる。乞食呼ばわりされてもへらへらしていた師匠が、凄く怒っている。それは私だけではなく周りにも、ダーニンさんにも伝わったようだ。


「w」


 捨て台詞のように一文字打ち込んで、ダーニンさんは黙った。だけど、さっきの言葉は消えない。口を塞ぐことはできても、なかったことにすることは誰にもできない。


「いや、ナゴミヤ。そいつの言う通りだにゃ。オレが甘えすぎてたんだにゃ」


「猫さん、そんなこと」


「わりい、邪魔したにゃ」


 猫さんはそう言うと転移魔法で飛んで行ってしまった。


 しばしの沈黙の後、師匠が言う。


「ごめんねえ、雰囲気悪くしちゃって。みんな楽しんでね。俺、猫さんとこに行くよ。もちろん分け前はいらないから」


「逃げんなよwwwマスターの癖にギルド外のやつ優先すんのww」


 ダーニンさんが嫌な選択を突きつけてくる。私ならまたどうしていいかわからなくなってただろう。でも師匠は揺るがなかった。


「優先も何も。ギルドは友達の集まりだよ。そして猫さんは俺の大事な友達だ」


 やりこめられてダーニンさんはまた「w」と一文字だけ発言した。ヤバい。こんな時になんだけど、私の師匠、めちゃくちゃかっこいい。


「私も行きます!」


「ええっ、でも……」


「絶対行きますからね。置いて行っても追いかけますから!」


「そう? ありがと。じゃあいこっか」


 しゃらん、と杖をふって師匠がゲートの魔法を唱える。こういう所頑固な師匠だけど、思ったより早く折れてくれた。


「今日はどうもありがとう。この通り何もできないマスターだけど、これからもよろしくね」


 ギルドメンバーを置き去りにして、私たちは大事な友達の所に向かったのだった。



 ■■■



「おーい、猫さんー!」


「なんで来るんだにゃおめえら」



 ゲートの先はマディアの町。銀行近くの宿屋さんの看板の上が猫さんのお気に入りスポットだ。


「ごめんよ猫さん。嫌な思いさせたねえ」


 ぴょんぴょん、と看板から猫さんが下りてきた。


「どーってことねえにゃ。それよりとっとと帰れにゃ。おめーはギルドマスターだろうにゃあ」


「そうなんだけどねえ。まあマスターって言っても名前だけだしねえ」


「んなこと言ってっから本気にするやつも出てくるんだろうにゃ」


 小さな猫の猫さんががやれやれと言うように首を振った。


「こっひー、お前もだにゃ。この馬鹿に付き合うこたあねえにゃ」


 まあ師匠のやったことは馬鹿なことなのかもしれないし、私がついてきちゃったのも問題あると思う。でも一番最初に馬鹿なことをしたのは実は猫さんだ。


「無理やりついて来たんです。猫さん、師匠のこと庇ってくれてありがとうございます」


 ダーニンさんが師匠のことを酷く言った時、私は何もできなかった。言いたいことがいっぱいあったのに、何も言えなかった。ぜんぶ代わりに言ってくれた猫さんが言ってくれたのだ。


「庇ってねえにゃ。ナゴミーがいなかったら全滅はマジだろうにゃ」


「えええ、いっぱいいたしそれはないんじゃない?」


 猫さんはまたはあとため息をついた。


「嫌味ではねえんだろうにゃあ」


「困ったものですね~」


 自分の代わりなんか誰でもできる。師匠は本気でそう思っているんだろう。


 当たり前だけど師匠は師匠がいない戦いに参加したことは無い。だから師匠のありがたみは師匠にはわかんないのだ。


 今日一緒に戦った人の中にはダーニンさんの言うことを真に受けちゃう人もいるんだろうけど、師匠の凄さに気が付いた人も絶対いる。オンジさんやカオリンさんはきっと気が付いてる。


 ……待てよ。それはそれでまずいんじゃないか?


 最後の師匠のかっこよさ、ヤバかったぞ?


 そうだ猫さんにも報告しとかないと。


「猫さん聞いてください。猫さんが行っちゃった後に師匠がみんなに」


「わあ、コヒナさんストップ!」


 もがもが。なんでですか。言わせてください止めないでください。師匠がどれだけかっこよかったか、是非猫さんに主張せねばならない。


「よしこっひー。今度ゆっくり聞かせれにゃ。なごみーのいないときににゃ」


「はい!」


「あー、変なこと言っちゃったよなあ……。暑苦しいと思われてないかなあ」


 乞食呼ばわりされてもへらへらしてるくせに暑苦しく思われるのは嫌なんだ。師匠の感覚はわからない。


「暑苦しくないですよ。すごくかっこよかったです」


「あああ、やめて、やめて」


 言いながら師匠は頭を抱えて蹲ってしまった。


 褒めてるのに何でダメージうけるんだろねこの人は。こういう反応するだろうなってわかってるからこっちも素直に褒められるんだけど。


「オンジさんからメッセージ来てるよ。こっちのことは任せてって。あの人も気を使う人だねえ」


「あー、おんじーじな。アイツはまあ、全部わかってるだろうにゃ」


 オンジさんも優しい人なんだな。今度お礼言っておこう。トパコ君も可愛かったし。また撫でさせてもらいたいな。


「しかしおんじーじもギルドじゃ新人だろうがにゃ。迷惑かけてるんじゃねえにゃ。この駄目マスターが」


「まったくだねえ」


 師匠は全然駄目マスターじゃないけど、猫語の駄目マスターはきっと意味が違うんだろう。


「まあ、今度はもっとうまくやるからさ。また来てよ」


「おう、気が向いたらにゃ」


「……そっか。ごめんね」


 私はこれで終わったと思っていた。嫌なことはあったけど、それはふわっと解決してまた同じような日が来ると思っていた。私には二人のやりとりの意味が分かっていなかったのだ。


 その日以降。


 猫さんがギルドの拠点に顔を出すことは無かった。


お読みいただきありがとうございました。

このお話はカクヨムさんでも投稿しているのですが、カクヨムさんには後書きってないんですよね。読んでいただいた方と少しお話しできる気がする後書き欄が好きですが、しゃべりすぎないように気を付けないとです。

長いお話になりました。ここまでお付き合いいただける皆様に感謝です。

次回も張り切ってまいります。

また見に来ていただけたら、とても嬉しいです。

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