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植物迷宮の女帝《エンプレス》②

いらっしゃいませ!

ご来店ありがとうございます。一話で終わる予定だった植物迷宮の女帝の第二話です!

 タロットカードにはいくつもの解釈がある。


 一説には大アルカナは人の一生を一連の物語として描いたものであるとされる。この解釈では人は様々なアルカナと出会いながら最後にそれぞれの幸福、<世界(ワールド)>にたどり着くとされる。途中で出会うアルカナはどれも強力だ。自分を成長させてくれるものではあるけれど、出会い方を間違えると<世界(ワールド)>への道を見失ってしまう。


 ただ、一度出会い方を間違えたとしてもそれで<世界(ワールド)>に行けなくなってしまうわけではない。それぞれのアルカナとの出会いは生涯に一度きりではない。私たちは何度も同じアルカナと出会い、自分の中にそれぞれ自分だけのアルカナを作っていく。そうしてできた新たな道をたどって<世界(ワールド)>を目指す。


 だからこそタロットカードは占いの道具足りえるし、占いのタロットカードの解釈も人によって時によって様々なのだ。



 □■□



「じゃあ~、三人で行ける所まで行ってみよう~~」


 ブンプクさんの指揮の下、私とレナルドさんの三人はダンジョン<モグイ>へと潜入した。


 私がレナルドさんに感じている気味の悪さはぬぐい切れないけれど、ブンプクさん登場のお陰で我慢しようと思える位にはなっている。


 私一人だとモグイは地下三階くらいまでは余裕。四階だとちょっと頑張らなくちゃいけなくて、ボスであるドライアードの女王アブダニティアさんの住んでいる五階は長時間の滞在は厳しい感じ。皆さんに助けて貰ってアブダニティアさんを倒したこともあるけれど、ひとりでは無理。大体一、二階は何度も来たので迷うことは少ないけど、三階以降は一人で目的の場所にたどり着くのは無理だし、転移魔法なしでは帰ることもできない。


 人数が増えれば深い階層まで行けるかというとそうでもない。モンスター討伐スピードは速くなるし狩りの効率は上がるけど、その分モンスターの再出現(リポップ)も早くなるので、場所によってはかえってピンチに陥ったりもする。


 防御や回復に特化した人がいればまた話は違うのだけど、そもそもソロでの活動がメインとなるネオデでは基本的に攻撃力が高い方が有利だ。守りに強いショウスケさんや回復特化のハクイさん、攻撃魔法が使えない師匠などのスキル構成を取っている人はちょっと変わった、もとい貴重な存在なのだ。


 ブンプクさんは刀を使うサムライスタイル。細かい違いはあるんだけど私と同じ戦士系の構成で、盾がない分私より攻撃力が高い。


 レナルドさんは死霊術を中心としたスキル構成のようだった。強力なアンデットを召喚するにはMPや触媒のコストも高いけれど、召喚とは別に死体を操ることが出来るのでターゲットを決めて同じ場所にとどまって戦うときにはかなり強力。モンスターでもプレイヤーでもその場に死体があれば操れてしまうのだ。つまり狩りを続けるほどに強力な軍勢が出来上がっていくわけだ。


 いろいろと制限はあるみたいだけど。だってドラゴンゾンビが十匹、二十匹いたら世界征服が出来てしまうものね。


 召喚や死体の操作は強力なスキルではあるんだけど、出てきたアンデットはみんな動きが遅い。魔物使いさんみたいにリダクトケージに入れて連れて歩けるわけでもない。今回のように動きながら戦うのには向いていないのだ。


 モンスターを倒しながら進んでみた所三階まではやっぱり余裕がある。レナルドさんはモグイ初めてっぽいし、ここで草に覆われた緑の巨人<グリーンマン>や這いまわる蔦みたいなモンスター<ヴィネリアン>を狩っててもいいんだけど、もう少し手応えのあるやつの方が楽しいかもしれない。


「どうしよっか~~。レナルド君、ここで狩り続けるのと四階行ってみるのとどっちがいいかな? ちょっと手ごわくなるから死んじゃうかもだけど~~」


「えと、四階行ってみたいです」


「了解~~。コヒナちゃんもいいよね~~?」


「はい、大丈夫です」


 まあ移動が大変なレナルドさんがそう言うなら。新しいとこって楽しいしね。


「はいは~~い。じゃあもし死んじゃったらレナルド君にゾンビにしてもらおうか~~」


 おお、ブンプクさんジョーク。私はスケルトンの方がいいなあ。


「アバターの死体から作ったゾンビはアバターそのものとは無関係になって」


「わかってるよう~~。真面目だなあレナルド君は~~」


「すいません」


「謝んないでよう~~。真面目だなあ~~w」


「すいまs、あっ、すいません」


 ……。くっ。レナルドさんが謝ったのを謝っている。しかも焦って噛んでいる。


 そこまで悪い人じゃないのかな。っていや駄目だめ。師匠の悪口言ったんだから!


 許さないけど、折角始めてきたダンジョンなら楽しんで欲しいかな。私も先輩たちにたくさん助けてもらったわけだし。レナルドさんはネオデ歴は私より長いのだろうけどこのダンジョンでは私の方が先輩だ。先輩に受けた恩は後輩に返すものだ。これはお仕事でも部活でも、ネットゲームでも一緒だろう。


 少し私も反省するか。あまり冷たい態度は取らないようにしよう。


 こうして我々三人はさらにジャングルの、じゃなかったダンジョンの奥へと向かったのだった。


 四階ともなると強力なモンスターが増えてくる。件のドライアードにまじって上位種の<ドライアードノーブル>、同じく植物系女性型モンスターの<アルラウネ>。


 ドライアードが葉っぱと枝でできた緑色の真面目系女子といった見た目なのに対し、アルラウネは花がいっぱい咲いててカラフルなおしゃれ系女子。色ごとに特徴があって青のソルジャー型や赤のウイッチ型なんかはかなり手ごわい。


 見た目の差に反してドライアードとアルラウネは仲が良いらしく、一方がやられているのを発見するともう一方が慌てて助けにやってくる。この習性がまた厄介で、上位種の集団に囲まれてしまうと全滅しかねない。


 また場所によっては木の巨人<トレント>もでてくる。HPと防御力が高く、時折凄まじいクリティカルダメージの物理攻撃を放ってくるこれまた恐ろしい相手だ。


 トレントにはレナルドさんの操る植物ゾンビがとても有効だけど、ドライアードやアルラウネは<退去>の魔法でゾンビを消してしまう。ドライアードノーブルなどは<集団退去>まで使ってくるのでゾンビ君たちの盾役としての効果が著しく落ちてしまうのだ。


 ううん、この三人では四階に長時間滞在は厳しいかな? 召喚と死体操作を延々と続けるレナルドさんのMP消費も激しいし、こまめな休憩を心がけないと。


 しかしそこでギルドチャットに通信が入った。


『ただいま。今日は誰がいるんだ?』


 やった、リンゴさんだ!


『リンゴさんおかえりなさい~』


『リンゴちゃんおひさ~~』


『おお、コヒナに、ブンプクもいるのか。久しぶりだな。具合はどうだ』


『元気! そんなことよりここに新人がいるんだよ。レナルド君、挨拶してみて~』


『こんにちは』


『なんだと? いや失礼。レナルドさんこんにちは。リンゴです。ブンプク、今どこだ? みんな一緒なのか?』


『一緒~~。モグイの四階だよ~~』


『モグイだと!? くそ、なんでモグイなんだ!』


 リンゴさんはモグイが嫌いだ。モグイのモンスターは毒のダメージを受けにくいから。でもリンゴさんとモグイに来るととても楽ちん。モグイのモンスターの毒はリンゴさんには全く通用しないのだ。


 ドライアードやアルラウネの使う魔法も毒属性のダメージが多い。なのでこのダンジョンではリンゴさんはショウスケさん張りの防御力を誇るのである。


『え~~、リンゴちゃん来ないの~~?』


『行かないわけがないだろう! どのあたりだ?』


『あ、じゃあ真ん中の緑部屋で待ってるね~~』


 お、緑部屋いいですね。


 転移可能エリアから離れた場所にいるのでリンゴさんが到着するには少し時間がかかる。ブンプクさんの提案で私たちは四階の真中にある安全地帯、通称「緑部屋」で休むことにした。モグイは巨大な植物の根の間にできた空洞なので部屋と言うよりただの開けた空間なんだけど、じゃあその場所を何て言うのかって聞かれたらわかんないので部屋でいいかもしれない。


 ほとんどのダンジョンには安全地帯が所々に用意されている。特に意味もなく安全であることも多いのだけど、ちゃんと理由があって安全である場合もある。<モグイ>のダンジョンにある優しい緑の光につつまれた安全地帯「緑部屋」はそんな理由があって安全な場所の一つだ。


「レナルド君~~、MP回復した~~? じゃあ部屋の中ぐるぐる歩き回ってみて~~」


「? こうですか?」


 ブンプクさんに言われた通りレナルドさんが緑の部屋の中を歩き回る。素直だ。


「そうそう、周り見渡しながらね~~。一瞬しか出てこないから~~」


 私もやろっと。ぐるぐる。あれは何度見てもいいものだからね。


「あれ、今何か」


 そういってレナルドさんが立ち止まる。


「見えた~~? ぐるぐる回ってたらまた出てくるよ~~?」


「はい」


 再びレナルドさんはぐるぐると歩き出す。


「あっ、いた! 見えました!」


 緑部屋を歩いていると時折視界の片隅にモンスターの影が映る。驚いてそちらをみても何もいない。でもしばらく歩いているとまた、この部屋を照らす緑の光と同じ色をしたモンスターが視界をかすめる。まるでモンスターの幽霊だ。


 モンスターの幽霊って変かな?


「あれはノーブル? じゃ、ない?」


 レナルドさんが言うようにそのモンスターはドライアードの上位種であるドライアードノーブルに似ている。でも葉の冠を被って花の杖を持った姿はノーブルよりももっと高貴な存在に見える。


 それに似ているというなら実はもっとよく似たモンスターがいる。レナルドさんはまだそのモンスターに会ったことがないけど。


 緑部屋に現れる幽霊はモグイ五階に住むドライアードクイーンのアブダニティアさんに、とてもよく似ているのだ。つまりこの幽霊の正体は。


「多分なんだけどね~~。その子、ドライアードのお姫様なんだよ~~」


「!」


 ネオデというゲームにはいろんな隠されたギミックがあるのだけど、その多くは「それがなんなのか」が明らかにされていない。緑部屋に現れるアブダニティアさんによく似た、アブダニティアさんより幼くて少し控えめな印象の「何か」が何なのか、本当の所は誰にもわからない。


 結局想像するしかないんだけど、彼女はやっぱりお姫様の幽霊であり、お母さんを止めたがってるんじゃないかなというのが私の意見だ。心までモンスターになってしまったお母さんを止めたくて、それができる冒険者を手引きするためにモグイの中に安全地帯を作ってるんじゃないかなって。


 尚この説は師匠には好意的解釈過ぎじゃないかと言われている。私もそうかもしれないとも思っている。でもここが安全地帯なのは確かなのだ。 物語の解釈は人それぞれ。ブンプクさんやレナルドさんにはどんな物語が見えてるんだろうな。


「レナルド君どう~~?」


 ドライアードのお姫様を探しながら部屋を回るレナルドさんにブンプクさんが声を掛けた。


「すごくたのしいです」


「そっか~~、よかった~~」


 レナルドさんの答えもそれに対するブンプクさんの返事も何かが省略されてて私には難しいけど、二人の間ではしっかり成立しているんだな。


 などと感心していた直後、レナルドさんは衝撃発言を放った。


「ブンプクさん、お母さんみたい」


 うわ。


 ぞぞぞ。


 私の中に忘れかけていたレナルドさんへの不信感と気持ち悪さのようなものがまた生まれる。やっぱりこの人どこかおかしい。


「え、ええ、ええ~~~~?」


 流石のブンプクさんも戸惑いを隠せないようだ。


「あ、違うんです。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 レナルドさんも自分の発言のヤバさに気が付いたようだけど、一度文字にしてしまった発言は元には戻せない。ブンプクさんもドン引きだろう。こっちに向かっているリンゴさんには申し訳ないけど、今日はここでお開きかもしれない。


 ———等と思っていた私は、全然ブンプクさんのことをわかってなかった。


 一年以上一緒にいるのにね。会ったばかりのレナルドさんについては言わずもがなだ。


「ええええ~~、やだ、どうしよ、どうしよ。わああ~~~。ありがとうね、レナルド君。すっごい嬉しい~~~」


「え」


「えっ」


 いや、なんでレナルドさんまで驚いてるんだ。私たち二人の驚きを他所にブンプクさんは続ける。


「あああ~~、もう。嬉しいなあ。レナルド君私ね、もうちょっとでお母さんになるんだ~~」


 !


「それはすっごく嬉しいことなんだけど、でも同じくらいすっごく怖いんだ~~。私、ちゃんとお母さんになれるかなって不安で仕方なかったんだ~~」


 そっか。そうなんだ。


 ショウスケさんという優しい旦那さんがいて、私には無敵の怖い物なしに見えるブンプクさんだって、お母さんになるのは初めてで、やっぱりそれは怖いことなんだ。


 まあそれにしてもお母さんみたいはちょっとどうかと思うけど。ブンプクさんが喜んでるならいい……のかな?


「そんなことないです。ブンプクさんは優しいです。優しいお母さんになると思います」


「ありがとう~~。ありがとうね~~。私、いいお母さんになれるよう頑張るね~~。優しいのはレナルド君のほうだよ~~」


「そ、そんなの」


「レナルド君がこんなに優しいんなら、レナルド君のお母さんもきっと凄く優しいんだね~~」


「うん。お母さんは優しい。でも忙しいからあまり家にいないんだ」


「そっか~~。じゃあその間は私と遊ぼうね~~。しばらくは日中もインできそうだし~~」


「ホント!?」



 あ、あれ?


 レナルドさん、急に話し方がかわって、なんだか子供みたいな……。 ってもしかしてレナルドさんって子供!?


 ネオデは古いゲームなのでやってる人は大人ばかりだ。しかも私より年上の人ばかり。それに慣れてしまっていた。それにずっと甘えてきた。レナルドさんのアバターは細身の青年。でもネットゲームでは見た目から中の人を推測するのは難しい。


 もしレナルドさんが子供で、背伸びしながらずっと大人であることを演じて(ロールプレイして)いたなら。ブンプクさんのような本当の「大人」に会えて今それが解けてしまったのだとしたら。


 私は大変なことをしてしまったことになる。私だって年齢的には大人に入る部類だ。レナルドさんを許してあげるとかあげないとかそんなこと言っている場合じゃない。寧ろ許してもらわなくちゃいけないのは私の方だ。


 自分だってさんざん皆さんに甘やかしてもらいながらゲームを続けてきた。占い屋さんなんて変わったことをしながらそれを受け入れて貰って来た。


 返さなきゃいけない。私が皆さんにしてもらったことをレナルド君に返さなきゃいけない。


 ごめんなさいなんて言うことはできない。それは独りよがりだ。だからその代わりに、このモグイのダンジョンをレナルド君に思い切り楽しんでもらう。私がそうしてもらってきたように。


 でもなんでブンプクさんは気が付いたんだろ。まあブンプクさんだしな。


 私の中でレナルドさんがレナルド君に変わって、変な人から大事なギルドの後輩になった時、丁度緑部屋に真っ赤な頭巾に籐篭を持った可愛いアバターが到着した。リンゴさんだ。


「やっと着いたぞ。新人はどちらだ?」


「リンゴちゃんおかえり~~。この人だよ~~。レナルド君」


「こんにちは」


 レナルド君はブンプクさんの言いつけ通りまっすぐリンゴさんの方を向いて挨拶した。


 ……レナルド君子供だと思ってみるとめちゃくちゃいい子に見えてくるな。改めて反省。


「レナルドさんこんにちは。リンゴです。中身は男です」


「中身?」


「ああ、中身というのはリアルの話だ」


「えっ」


 あっ、まずいぞ。レナルド君には男の人が女性アバターを使っているのは変に写ってしまうかもしれない。


「む、君は中身の性別が違うのに抵抗があるタイプの人か?」


「だって、そんなの変です。そんなことしたら駄目です。おかしいです」


 あああ、違うんですよリンゴさん。レナルドさんはお子さんで。


「そうか。その感覚には共感はできないが理解はできる。なのでそちらも慣れてくれ」


「え」


 慣れてくれて。リンゴさん強いな。個人チャットで耳打ちしようかと思ったけど、その必要はなかったようだ。むしろレナルド君の方が困ってしまっている。


 ここは助けるべきか、それともネットにはいろんな人がいるんだよと学ぶいい機会とすべきか。私が悩んでいる間にも見た目は可愛い女の子であるリンゴさんの主張は続く。


「そもそも何がおかしいことがあるものか。男ならば可愛い女の子が好きなのは当然だろう?」


「え」


「自分のアバターはゲームをやっている間中ずっと見るんだぞ。僕にしてみれば男のアバターを使う連中の方が気が知れない」


「え、ええ?」


「それとも君は可愛い女の子が好きではないのか?」


「いえ、……そんなことないけど」


「だろう? ならば男である僕が女性アバターを使い可愛い恰好をするのが非常に合理的だというのが理解できるはずだ」


「う、ううん?」


 が、頑張れ、レナルド君頑張れ!


「ふむ? まだ納得がいかないか? ならば試しに一度やってみるといい。色々と満たされるぞ?」


 色々って何!


「え、ええ、そんなの駄目だよ。それにキャラ作り直すの大変だし」


「お、なんだ。意外と乗り気じゃないか。そういうことなら僕に任せろ。男性アバターでも可愛く見せる方法はいくらでもあるんだ」


「え、ええええ」


 リンゴさんリンゴさん、その辺にしましょう。レナルド君の性癖が心配になってしまいます。


「だがまあ、それはおいおいだな。とりあえず今日はこれでも食べてくれ。きっとおいしいはずだ」


 リンゴさんがそう言いながらレナルド君に何か渡そうとしている。とりあえず話が変わってほっとし……


 あっ!


 レナルド君あぶなーーーい!


 ざしゅん。


 私は咄嗟にリンゴさんにライトニングスラッシュを放つ。



「おお~~、コヒナちゃんありがと~~。危なかったね、レナルド君~~」


「え、え?」


「げふっ。やるじゃないかコヒナ。ハクイ並みの……。いやナゴミヤ並みの反応速度だ。成長したな」


 結構なダメージを受けたリンゴさんがよろめいてみせる。


 そ、そうですか? えへへへ。


 リンゴさんは師匠のことをライバルだと思っているのでこれはかなりの高評価と言える。まあ師匠の方はライバルだと思われてることも理解してないっぽいけど。


 いや、今はそんなことよりレナルドさんに大事なことを教えなければ。


「レナルドさん、いいですか? リンゴさんからもらった食べ物は絶対食べてはいけませんよ?」


「え、なんで?」


 あ、レナルド君私にも子供っぽい話し方になってきた。よしよし。コヒナお姉ちゃんが守ってあげるからね。


「リンゴさんは毒使いなんです。リンゴさんが持ってる食べ物の中には全部毒が入ってると思って下さい」


「え、ええええ」


 レナルド君さっきからずっとええしか言ってないな。そうだよね。こんなギルドに来たらそうなるよね。ごめんね、変な人ばっかりで。


「……リンゴさんって、悪い人なんですか?」


「違うんですレナルドさん。リンゴさんは悪い人なんじゃなくて、いい人なんですけどちょっと変なだけなんです!」


 ちょっと変わってるだけでとっても優しい人なんですよ!


「え、え?」


「コヒナ、フォローになってないぞ。それに僕は間違いなく悪人だ。殺人者(PK)のランキングにも乗ってるくらいの極悪人だからな」


 可愛いアバターに右手を斜め上、左手を斜め下にして膝を付く例の変なポーズを取らせながらリンゴさんが言う。あああ、駄目ですリンゴさん。そんなこと言ったらレナルド君がさらに引いちゃいます。


「え、本当?」


 ほら。私の心配した通りだ。かわいそうにレナルド君がこんなに怖がってるじゃないですか。


「本当だとも。あとで酒場の殺人者ランキングを見てみるといい」


「マジで? スゲー! リンゴさんスゲーー!」


 あれ? 意外に好感触? レナルド君が目をきらきらさせた子供みたいになってる。アバターだからわかんないけどきっと画面の向こうではそうなってる。


「なんだレナルド。可愛いやつだな。よし、これは本物のプレゼントだ。機会があったら使ってみるといい。うっかり自分に刺すんじゃないぞ。マジでな。ここでは治療が面倒だからな」


 そういってリンゴさんが渡したのはリンゴさん特性のレベル5毒の投げナイフ。レナルドさんいいな~。


「わ、スゲエ。いいの? これ貰って」


「ああ。次からはお代を頂くぞ? あとは、とりあえずこれだな」


 リンゴさんはそう言いながらもう一つレナルドさんに何か小さいものを手渡した。


「え、これは……」


「<暗視>の効果のある装備品だ。試しに着けてみるといい」


「え~、……でもコレ……変だよ」


 レナルド君が困りだしてしまった。なんだろう。リンゴさん何渡したんだ?


「まあ、物は試しだ。着けて見て気に入らなかったらやめればいいだけの話だ。違うか?」


「う、うん。違わない。……じゃあつけてみるね」


 何故かレナルド君は後ろを向いてリンゴさんが渡したアイテムを身に着けた。さっきまで話すのにも向きとか気にしなかったのに、急になんだろ?


「どうだ?」


「うん、えーと、どうなんだろう」


「まあとりあえずこっちを向いて見せてみろ」


「ううん。なんか恥ずかしい」


 な、なんだ。何のイベントなんだこれ。二人が何やってるのかわからないけどこっちまでなんか恥ずかしくなってきたぞ。コヒナお姉ちゃんは心配です。お母さん、ブンプクお母さん、取り締まらなくていいんですかこれ?


「ええと、やっぱり変だよ」


 そう言いながらレナルド君は振り向いた。


「あっ可愛い!」


 つい言葉が出てしまう。君は頭に小さな黄色いお花の髪飾りを付けていた。


「なんだ、よく似合ってるじゃないか」


「わ~~、レナルド君可愛い~~。さすがリンゴちゃんだね~~」


 男性型だけど優しい顔立ちのレナルド君には良く似合っている。ブンプクさんの言う通りさすが毒と可愛いの専門家であるリンゴさんの見立てだ。


「そ、そうかな。へんじゃない?」


 そう言いながらもレナルド君はちょっと嬉しそうで。


「全然変じゃないです。可愛いと思います!」


「そかな。じゃあつけておこっと」


 うんうん。それがいいと思います。お姉ちゃんも賛成です。


「レナルドのアバターならもっといくらでも可愛くできるぞ」


「えっ」


 あああ、だめですよリンゴさん。レナルド君の性癖が歪んでしまう。お姉ちゃんは心配です。ちょっと興味もありますが心配なので我慢して心配します。何だろうこういうの。尊いってこういうことを言うのかな。私はお兄ちゃんズの影響で年上属性なんだけど、それでもなんかもんもんする。いかん、いかんぞ。


「さっきも言ったが男型のアバターでも可愛くする方法はいくらでもあるんだ。ヴァンクのような筋肉ダルマだと流石に厳しいがな。まあそれもやり方次第ではあるが」


「ヴァンク? 筋肉ダルマ?」


「おや、ヴァンクにはまだ会ってなかったか? 一度会えば忘れることは無いだろうが」


「あ、リンゴさん、レナルドさんがうちに来たの今日なんです」


 リンゴさんもここ数日インしてなかったからな。でもこのところはみんな忙しいみたいで、ヴァンクさんの方がもっとインしてないくらいだ。


 あとヴァンクさんを可愛くする方法、ちょっと気になる。


「なんと、それはいい日に入れたな。レナルド、今後とも宜しくだ」


「うん。よろしく。ヴァンクさんもギルドの人?」


「そうだよ~~。ヴァンク君はねえ、パンツ一丁の人だよ~~」


「えっ」


 あ、ああああ、ブンプクさん何もその情報をピックアップしなくても。ヴァンクさんの特徴と言えば他にもいろいろとほら、ええと。


 ええと、ええと。


 駄目だどうしても一番最初に筋肉パンツが出て来てしまう。他の事他の事って一生懸命考えると、時々色が違うこととかを詳細に思い出してしまう。ちなみに赤いの履いてるときは次の日リアルで大事なお仕事がある時。


 改めてひどいなうちのギルド。ほんと、変人ばっかりだよ。


お読みいただきありがとうございました。

次回は一話で終わる予定だった「植物迷宮の女帝」の第三話になります。プロットでは三行くらいで書いてあるお話が勝手に伸びていく。困ったものです。

また見に来ていただけたらとても嬉しいです!


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