表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界渡りの占い師は NPCなので世界を救わない  作者: 琴葉 刀火
第一章 世界渡りの占い師
8/122

旅の仲間

前回のギンエイさんのお話の続きになります。


お付き合いいただけたら、幸いです。

 初めてその占い師に会ったのは、二年前だった。

それはとても衝撃的な出会いで。


 ネットゲームなんかやっていると、毎日色々なことが起きるが、ゲームを始めたあの日の衝撃を越えるような出来事にはまだ出会っていない。


 初めて会った日。

 その占い師は「あああああああああ!」と大声を上げながらモンスターの餌食になっていた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※


 中央都市ダージールにたどり着いた時には、ゲームを始めた日から既に一月くらい経っていた。レベルを上げながら進めばそれほど苦労する道でもない。自分より先にゲームを始めていた友人ゴウの助言もあり、楽しい道中ではあった。それでもやはり、先を急いでしまう。せっかくゲームをすることの楽しさを思い出したのだから、もっとゆっくり楽しむべきなのかもしれない。しかしながら、先を急がなくてはいけない理由があるのだ。


 ダージールの町の広場。毎日通い詰めてやっと目的の人物を発見した。ネット上にいろいろな攻略動画をアップしている人で、名前をギンエイという。ちょっと変わった、セオリー通りではない攻略法を編み出すことを得意としているという。この人物ならば、何かいい方法を授けてくれるかもしれないと期待していた。変人だが面白いと思った事には力を貸してくれる人だという噂もある。この状況を何とかしてくれるなら、多少変人でも構いはしない。自分が今受けたいクエストはかなり難易度が高く、普通に攻略サイトを検索しても出てこない。かといってのんびり自分で方法をさがしている時間はない。もちろんゴウにも相談してみたが、いい知恵は浮かばなかった。


 あれから一月。いつ他の冒険者がクエストを達成してしまわないとも限らない。このクエストを受けられるのは一組だけだ。ギンエイの知識や力は、今の自分にはどうしても必要だった。


 センチャの町から、マッチャ市、さらには大ダンジョン<嘆きの洞窟>を越えて。


 <占い師コヒナをダージールまで連れてくる>


 エルフの戦士メルロンこと峰岸雅人に、そのクエストを誰かに譲るつもりはなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※ 



 「あの、突然すいません。ギンエイさんですよね。<吟遊詩人の詩集め>の」


 「ああ、はい。私ですよ」


 近づけば名前が表示される世界なので、目の前の人物が「ギンエイ」という名前なのは間違いない。しかし同姓同名は普通にあり得るし、ギンエイほどの大物なら、ニセモノがいても不思議ではない。メルロンはそっとステータス画面を確認した。攻略サイト<吟遊詩人の詩集め>に掲載されているデータと一致する。別人である可能性は低そうだった。


 「実はお願いがあって来たのですが」


 「お願い?ああ、攻略のお手伝いですか?すいません。今はやってないんですよ」


 さらりと断られるが、簡単に引き下がるわけにもいかない。


 「アドバイスだけでも構いません。お礼に関しては、すぐには無理ですが、必ず用意します」


 「アドバイスと言われましても……。それなら攻略サイトなどを見てもらった方がいいんじゃないかと思いますが」


 「いえ。どの攻略サイトにも載っていません。どうか、お話だけでも」


 「ううん。昔私が助っ人業なんてのをやっていたのを聞いて、ということですかね。でもそういうの、今ほんとやってないんですよ。まあ、お話だけというのなら聞きますけど。攻略サイト以上のことは言えないと思いますよ?」


 助っ人業なんていう物をやっていたことは、もちろんメルロンは知らなかったし、あからさまに迷惑がられているのもわかったが、とりあえず話は聞いて貰えそうだ。


 「ありがとうございます」


 「で、どのボスの攻略ですか?」


 「いえ、ボスではないんです」


 「はあ」


 「レベル1で、嘆きの洞窟を抜ける方法に、心当たりはありませんか?」


 「は?ええとそれは…。姫プレイか何かですか?」


 姫プレイという言葉は知らなかったが、なんとなくはわかる。特殊なアイテムでレベル上げを手伝ったり、強い装備品を与えたりして、女の子を接待して、楽しく遊んでもらおうとするものだろう。


 「いや、そうじゃなくて、あれ?」


 戦闘はしないと宣言しているコヒナの手助けをして、ダージールまで連れてこようというのだから、大差はない気もする。それでも、やっぱり違うと言いたくなる。そもそもあの人には、本当は手助けなど必要ないのだ。


 「ああ、すいません。そういった手伝いということでしたら、他を当たってください。あまり好きじゃないんです」


 「いや、まってください。そうじゃないんです」


 具体的にどう違うのかはうまく言えない。ただ、「姫プレイ」なんて言う言葉とあの頑なな占い師とは絶対に一緒ではない。むしろ対極ではないかと思う。放っておいてもそのうち自分で方法を見つけてここまでやってくるかもしれない。ただ、自分がそれに手を貸したいというだけで。


 「その人は、占い師で……。占い師だから、戦闘はできないんです。冒険者じゃなくて。ただ都会にでて占い師としてやっていきたいだけの、普通の一般人なんです」


 とにかく興味を持ってもらわなければ話が終わってしまう。なんとか伝えようとして出てきた言葉は、伝えたいことそのままであるというのに、とても相手に意味が伝わるとは思えなかった。


 「…もしかして、ロールプレイで占い師をやってるということですか?戦闘なしの縛りで?」


 「そう、それだ。そうなんです」


 奇跡的に話が通じた


 「それは、貴方の別キャラとかですか?」


 「え?あ、いや違う。そういうんじゃない」


 なるほど、そういう可能性もあるのか。


 「ふむ。わかりました。とりあえず話をお伺いしましょう」


 どうやら、第一関門はクリアのようだ。メルロンはリアルの手のひらにかいた大量の汗をズボンの膝でぬぐった。


 それからメルロンはギンエイに事の顛末を話した。


 最初は簡潔に事情を説明ようとした。ホジチャ村で出会った占い師を名乗るちょっと変わったプレイヤーの事。その人をレベル1のままセンチャまで送ったこと。その人をダージールの町まで護衛したいということ。なるべく戦闘は避けたいこと。


 事情を聴くうちにギンエイの態度は軟化していき、途中途中に詳しい説明を求めた。最後まで話し終わった後、ギンエイはクエストとはあまり関係なさそうなことを色々と聞いてきた。


 「その占い師さんは、なんというお名前ですか?」


 「何故お声を掛けようと?」


 「戦闘を避けたいのはなぜですか?」


 「最後の占いというのは、どんな結果が?」


 「しかし何故そんなに急いでいるのです?」


 手伝ってもらう手前、機嫌を損ねたくなかったので答えていったが、どうにも下世話な感が否めない。最後の質問に、渋々誰かに先を越されたくないからだと返答すると、


 「ああ、それは確かに。急がなくてはいけませんね。うふふふふふふふ」


 この流れでわざわざ「うふふふ」と打ち込んで発言するというのは、少々以上に気味が悪い。ギンエイの戦闘に関しての能力がどれほどなのかは今のところ分からないが、変人という噂の方は間違っていないようだ。人選を間違えたのではないかと不安にもなってくるが、今大切なのは一刻も早くクエストを受注―準備をしたうえでコヒナさんに声を掛けることだ。代わりを探す時間が惜しい。

 

 「ええと…メルロンさんでしたね。いや、先ほどは大変失礼しました。私に声を掛けてくれたことを感謝します。久々に、面白い」


 …今、面白いって言ったな。どういう意味だろうか。


 「では早速、ちょっと失礼して」


 ギンエイは何やらメルロンの周りを回りだした。恐らくステータスや装備をチェックしているのだろう。


 「レベルは…42ですか。装備も…これはひどい。相当急いでここまで来ましたね。作戦云々よりまず自キャラですね。今のままでは話になりません。そうですね、まずレベルを55まで上げること。それと、これから言う装備を用意してください」


 レベル55。今から10以上上げなければいけない。


 「しかし、それでは時間が」


 「ああ、それ以下では無理ですよ。どうしてもと言うなら何とかしますが。その場合、メルロンさん、貴方はお荷物になります。その、占い師さん…コヒナさんでしたか?その方と同じように守られる立場です。足を引っ張ることになるので戦闘には参加しないでいただきます。それでも良ければ今すぐにでも。どっちがいいですか?」


 頷かざるをえなかった。


 「わかりました」


 「よろしい。早くお迎えに行きたいのであれば、早くレベルを上げることです。それと、私のことは先生と呼んでください」


 「は?」


 「ギンエイ先生、でも構いません。私は貴方をメルロン君と呼ばせていただきます」


 「はあ……」


 「いいですね?」


 「……わかりました」


 変人だとしても心強い味方には間違いない。面白いと思ったら手を貸してくれるというのも嘘ではなかったようだ。だがどちらかと言うと、面白がって手を出す、の方が正しいのじゃないかと思った。それに正直、若干鬱陶しいし、胡散臭い気もする。


 「では改めてメルロン君。レベル上げと装備品以外にもいくつか宿題を出します。後ほどフレンドメッセージでまとめて送ります。全てクリアしたら連絡ください。クエストを開始しましょう。ああ、占い師さんのスケジュールの確認もお任せしますよ。それでは、私も早速準備にかかりますので」


 ギンエイは上機嫌らしく、ピロン、ピロンと頭の上に音符のエフェクトをいくつも出したあと、飛んで行ってしまった。


 少しの間放心してしまった。どんな宿題が来るのかはわからないが、今できそうなことはレベル上げと装備新調の資金集めだ。とりあえず、ゴウに連絡を取ることにした。


 ≪レベル上げと資金集めがしたい≫


 フレンドメッセージを送信。他の人に送るなら失礼にもなりかねない文面だが、ゴウなら話は別だ。小学校に上がる前から、二十年近い付き合いである。あたりまえだがその頃にはエターナルリリックという世界は存在していないので、ゴウという名前ではなく、川村進という名前だった。小学校卒業後つい一月前まで顔を合わせていなかったので、二十年の付き合いというと誇張になるかもしれない。しかし再開してからほぼ毎日、リアルではないにせよ顔を合わせている為か、十年間会っていなかったということを今は感じない。


 すぐにゴウから返信があった。


 ≪了解。今行く≫


 予想通りの内容だ。ゴウはこのゲームの発売当初から続けているので、レベルはギンエイと同じ最大値の70。職業は騎士。戦士よりも攻撃力は低いがその分防御力の高い職で、攻撃をひきつけパーティーを守る役割を担う。装備品やスキルにしても、ギンエイ程ではないにせよ所謂ガチ勢といって差し支えない状態だ。ストーリーを追って移動可能エリアが広がっていくこの世界では、ゴウが資金を稼ぐ気ならメルロンの行けないような狩場で荒稼ぎした方がずっと効率がいい。


 だがゴウに言わせると、やることが無くなって暇をしているので手伝わせろということになる。そういうことならとありがたく付き合ってもらうことにしている。ゴウに助けてもらえば、レベル上げにしろ白金銭集めにしろ効率は段違いである。ゴウは普段「狩場を自分で探すのも楽しみだから」と言って教えないという体でいるが、その実、言いたくて教えたくてウズウズしているのは知っている。


 ゴウはすぐに来た。


 「ギンエイさん見つかった?」


 ゴウにはギンエイに協力を仰ぎに行くことは伝えてある。そもそも協力を仰ぐべき人物としてギンエイの名前を出してきたのはゴウである。


 「ああ。協力も取り付けた。でも宿題、とか言ってレベル上げその他諸々条件出された」

 

 「マジかよ。ギンエイってマジすごかったんだよ。いやマジでよ。んで、諸々って?」


 短い言葉の中にマジが三回出てきた。ゴウの語彙力には、寧ろ感心する。


 「装備と…詳しくは後でメッセージくれることになってる」


 「ほー。んじゃ、とりあえずレベルな。ジョダさんもインしてるみたいだから、声かけてみるか」


 「そうか。じゃあ、頼む」


 ゴウは以前一緒に遊んだジョダの名前を出してきた。ドワーフの男性キャラで槍戦士をしている。レベルは50ちょっと。自分と同じころに始めたということで親近感を感じているが、リアルの彼女だったか奥さんだったかと一緒にゲームをしていることが多くて声を掛けづらい。ちなみに彼女の方は見たことがない。


 程なくしてジョダもやってきた。


 「ゴウさんこんちはー。メルロンさん、今日はよろしくっす」


 「よおー、こんちはー」


 「こんちわっす。今日は彼女さん平気なのですか?」

 

 「あっ、今日は遅くなるみたいなんで、戻ってくるまでっす。スマセン」


 ドワーフのジョダが右手を前に立ててお辞儀をする。すいませんのポーズだがずんぐりむっくりしたドワーフの体系と合わせて、相撲の「ごっつあんです」みたいに見える。


 「んじゃ、早速行こうか。メルロンの行けるとこで効率いいところだと、精霊洞の二階層あたりかな」


 「了解」


 「OKっす」


 それぞれで転移呪文を唱え、精霊洞の入口へと飛んだ。


 <精霊洞>は、ダージールの近くにあるダンジョンだ。「精霊力の強いダンジョン」と設定されていて、階層ごとに様々な精霊が住んでいる。奥の方まで行くと<闇の精霊>、<光の精霊>、といった現在のメルロンでは全く歯が立たないような強力な精霊たちも住んでいるが、浅い階層にいるゴーレムに似た<土の精霊>やその強力版の<鉄の精霊>は倒すことで得られる経験値や所持金も高いので人気の狩場となっている。


 加えてこのダンジョンは<リーパー種>の発生率が低い。リーパー種はエタリリ内で発生する死神のような鎌を持ったモンスターだ。マップ上で固定で設置されている他、一定条件を満たすと出現する。強敵である上倒しても旨味のないモンスターであるので、基本的にリーパー種が出現しないように行動するのがこの世界の常識となっている。ストーリー上重要な役割を持つモンスターであるのと同時に、狩場の独占やbot―人間による操作ではなくプログラムによって自動で狩や採取を行う違法プレイヤー―の対策も兼ねている。その為場所によって発生頻度や発生条件の優先度が変わる。


 尚、リーパー種の発生条件の一つに、同じキャラクターが同じ場所で何度も死ぬこと、と言うのがあり、それを知った時メルロンは大いに納得したものだった。初期町から二つ目の町までの間で、同じプレイヤーが繰り返し死亡するという事態は、運営にとっても予想外だったのだろう。


 精霊洞の第二階層でしばらく土の精霊を相手にしていると、ギンエイからメッセージが届いた。二人にそれを告げると、一旦休憩しようということになった。全員でモンスターの湧かない休憩ポイントへ移動する。


 「ギンエイって、あのギンエイ?知り合いなんすか?」


 ジョダもギンエイのことを知っているらしい。


 「いや、知り合いというか、今日のついさっき、流れで弟子にされて…」


 「えっ!?メルロンさんギンエイの弟子なんすか!?」


 「ああ、うん…。そうらしい…。先生と呼べと言われたし…。このクエスト終わるまでは…多分。」


 「っカーッ。すげーっ!」


 ゴウだけでなくジョダまでこの反応だ。余程の有名なのだろう。メルロンとしてはそのような人物の協力を取り付けることができたのは嬉しいことのはずだが、さっきの「うふふふ」を思い出すとどうにも素直に喜べない。


 「んで、そのクエストってなんすか?どこかのボス攻略とか?できればご一緒したいなーなんて」


 「いや、ジョダさん違うんだよ。メルロンが、気になってる子がいてさ、その子の護衛なんだよ」


 自分もギンエイの指導を受けたいと思ったらしいジョダに、ゴウが余計なことを言う。


 「えっ、なんすかそれ。ネット恋愛すか?ちょっ、詳しく」


 「いや、そういうんじゃないです。ゴウも適当なこと言ってんなよ」

 

 「なんだよー。俺は嘘は言ってないだろー」


 ゴウは悪びれた様子もなく言ってのける。ログを確認してみたら、確かに嘘は言っていない。


 「余計なこと言ってんのは確かだろう」


 ここははっきり否定しておかなければいけない。ギンエイも何やら勘違いしていた風があるが、顔も知らない、会った事もない人を好きになったりするなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことがあり得るはずがない。


 「そういうんじゃなくて。ただ、面白い人だったんで、手伝ってあげたくなったんですよ。それだけです」


 それでもとジョダが聞きたがるので、今日二回目の、占い師との出会いの話をした。ゴウが余計なことを言ったせいでどうにも気恥ずかしい。


 「なるほど。確かに変な…面白い人すね。その占いっていうのは、当たるんすか?」


 「……そうですね。自分の時は当たりでしたね」


 それはもう怖いくらいに。


 ゲームの中で興味を惹かれることや人と出会って楽しくなってしまう、そんな風に言われた。エタリリを始める前なら、あの占い師に会う前なら、馬鹿馬鹿しくて話にもならない占い結果だ。だが実際はあの日から古い友人だったゴウとの交友が再開し、毎日仕事が終わってからゲームをするのが楽しみで仕方がない。


 「メルロンさんは、何占ってもらったんすか?」


 「それは……。まあ、その……」


 普通にゲームのこれからのこと、とでも答えればよかったのだが、思い出していた最中だったのでつい言い淀んでしまった。


 「そういや俺もそれは聞いてないな。何占ってもらったんだ?」


  ゴウも一緒になって聞いてくるので、おもいきり頭を殴ってやった


 「いってー。なんだよお」


 「うるさい。痛くはないだろう」


 エターナルリリックではプレイヤー同士が攻撃しあうことはできるが、その際は一切ダメージが発生せず、ひるんだりよろめいたりと言った効果も一切起きない。いきなり知らない人に殴りかかったりすればもちろんマナー違反だが、余計なことばかり言うゴウなら問題ないだろう。


 「ジョダさん、もし興味があるなら、その占い師紹介しますよ」


 うまく質問の件を有耶無耶にしてジョダさんに聞いてみたが、


 「んー、面白そうではあるんすが。怖いんでやめとくっす」


 と断られた。なるほど、そういう考え方もあるのか。確かに良くない結果が出ることだってあるだろう。お客さんを紹介すれば喜んでもらえたかもしれないので残念だ。


 「んで、ギンエイさんのメッセージは何だって?」


 「気になるっすね」


 「確認してみる」


 ギンエイメッセージには「メルロン君への宿題」という鬱陶しいタイトルと共にいくつかの条件がかかれていた


・メルロン自身のレベルを55以上にすること

・同行者の確保。メルロンを含め四人。多くても少なくても駄目。近いレベル帯が望ましい。

・この四人で<精霊洞>に住む<汚れた水の精霊>の討伐が可能であること。

・ダージールの町までで入手可能な最高レベルの武器、防具をそろえること。

・コヒナの分も含めた<安らぎのピアス>を人数分用意すること。

 


 「何で4人なんだ?もっと多くてもいいんじゃないか?」


  メルロンの疑問にゴウが答えた。


 「あそこ、嘆きの洞窟、リーパー種激湧きスポットだからじゃない?」


 「そうなのか?」


 リーパー種出現の条件に最も大きく絡むのが同一エリア内に存在するプレイヤーの人数だ。


 「1パーティーで行動しててもグリムリーパーは普通に出てくるし、2パーティー以上で長時間行動してるとダブルサイスもあるぞ。大人数だとラスボスまである」


 「なるほど…」


 メルロンがコヒナとともに遭遇したのはリーパー種では最下級の<リーパー>。その上に<グリムリーパー>、<ダブルサイス>と続く。ダブルサイスはリーパー種で唯一足が速く、テレポート能力もあるので、これが出てきてしまえばコヒナを守ることは事実上不可能となる。ゴウクラスの高レベル冒険者が大人数いれば可能なのかもしれないが、今はそれを望むことはできない。


 「四人と、コヒナさん、ギンエイ…先生含めて六人ってことか」


  1パーティーのシステム上の上限が六人だ。


 「レベルを揃えろ、ってのは何なんだろう」


 「それは俺もわかんね」


 「謎っすね」


 二人もわからないようなら、今考えても仕方ないだろう。「望ましい」となっているのだからその通りでなくてもよいはずだ。どのみちレベル70のゴウには来てもらわないといけない。


 「一人はゴウとして。あと二人か…」


 「おいおい、確認も取らずに俺を人数にいれるなよ?」


 「そうか。わかった。他を当たるよ」


 「悪かった!連れてけ」


 最初からそう言えばいいのだ。


 「ハイハイ!俺!行きたいっす!」


 ジョダがそう言ってくれた。ジョダのレベルは現在52。ギンエイの言うレベル帯が近いという条件にも当てはまる。正直こちらからお願いできないか頼んでみようと思っていた所だ。


 「ジョダさん。助かりますが、その……特に報酬というか、意味というか、あまり無いクエストですし、時間もかかると思うのですが……。いいのですか?」


 「いやあ、超楽しそうじゃないっすか。ここまで話聞いといて仲間外れとかナシっすよ」


 「……ありがとうございます」


 ギンエイといい、ジョダといい、ゲームの中でちょっと変わった出会いや経験を求める人というのは案外多いのかもしれない。


 「んじゃ、もう一人はジョダさんの彼女?」


 ゴウが聞く。それが可能ならこれで人数の問題は解決だったが、そううまくはいかなかった。


 「いやあ、あいつはまだレベル40ないんで、ちょっと無理っすね」


 それでは流石に無理があるか。


 「あ、ちょうどいい人がいるよ。今インしてきたみたいだから聞いてみようか」


 フレンドのリストから候補者を探していたらしいゴウがそう言った。


 「どんな人なんだ?」


 「レベル61で、回復職やってる人。パーティーのバランス的にも丁度いいと思う」


 そうだった。パーティーの編成には職業も考慮しないといけない。しかしレベル等よりももっと重要なことがある。


 「それは確かに丁度いいのかもしれないが。こういうのに付き合ってくれる人なのか?」


 「それはダイジョブ。大人しくて口数少ないけど実はノリノリの人だから」


 チャットでしか意思を伝える手段のない世界で、「大人しくて口数が少ない人」が何故「実はノリノリ」なのが分かるのか。本当に理解できないが、ゴウが言うのならきっとそうなのだろう。

 

 「すぐ来てくれるって」


 「何?もう呼んだのか?」


 「いや、呼んでないんだけど、事情話したら今から行くからそこにいてって」


 なるほど、ノリノリなのは本当のようだ。


 休憩スポットから少しずれた辺りで三人で土の精霊を狩りながら待っていると、その場目掛けて遠くから突っ込んできた人物がいた。


 青く縁どられた白地のローブ姿の人間族の神官。三人がいる所を若干通り過ぎた後、ぴたり、と止まってくるり、と向き直った。そしてそのまま停止、そして完全な無表情。この人物が件の回復職だと思われるが。


 ≪おい、女の人じゃないか≫


 メルロンは個人メッセージでゴウに抗議した。


 ≪え、うん。女の子だけど……≫


 ≪聞いてないぞ≫


 ≪なんでだよう。いいだろう、女の子でも。何が問題なんだ≫


 ≪いや、問題はないけど、お前……≫

 

 問題はないが、予想外だったのと、もう一つ。この先に少々気の進まない出来事が予測される。


 ≪ないなら話進めるぞ≫


「こちら、ルリマキさん。こちら、メルロンとジョダさん」


「よろしくお願いします」

「ルリマキさんっすね。よろしくっす」


 ゴウのこの上なく簡潔なお互いの紹介に続き、メルロンとジョダが挨拶をする。それに対しルリマキという女神官は、不思議なことにまったく表情を動かさずに


 「ルリマキです」


 とだけ言って頭を下げた。エターナルリリックではキャラを操作する際にある程度自動で表情が変わる。ダメージを受ければ苦しそうな顔をするし、お辞儀をしたり、手を振ったりするときにはそれに合った表情になる。


 コヒナはこの設定を細かく行って、他の動作と組み合させているため、アニメのキャラクターのように動く。


 ルリマキは逆に、全ての動作で起きる表情の変化をゼロに設定しているようだ。それでいて「動作」自体は色々と操作する。コヒナがアニメのキャラクターなら、ルリマキは人形劇の人形だ。なるほど、大人しくて口数が少なくても、ノリノリというわけだ。


「んじゃ、自己紹介も済んだところで、クエストの詳細を、メルロンから」


 予想通りの展開だったが、メルロン、いや雅人はリアルでため息をつく。


 かくして初対面の女性の前で、メルロンは本日三回目となるクエストの説明をすることになった。


お読みいただき、ありがとうございます。

タロットカードが1枚も出てきませんでした。すいません。

また、お察しの通りこのお話はまだ続きます。

続けてきた2章構成が早くも崩れてしまってお恥ずかしいですが、この章だけで8000字を越えてしまい、読みづらくなることを避けるため、お話を分割することにいたしました。


お知らせですが、やご八郎さんに、コヒナさんの絵を書いていただきました。やご八郎さん、ありがとうございます。この場を借りまして、自慢させていただきます。


私、とーかのツイッターのトップに頂いた絵があります。また、やご八郎さんの小説へのリンクが張ってあります。

シミュラクル、設定の練りこまれたファンタジーがお好きな方に、オススメです。


https://twitter.com/Touka_Kotonoha


次のお話は2週間後位になるかと思います。

また、見に来ていただけたら、とても嬉しいです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ