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世界渡りの占い師は NPCなので世界を救わない  作者: 琴葉 刀火
第一章 世界渡りの占い師
7/122

吟遊詩人

さあさ、皆様お立合い!


ご来店ありがとうございます。

今回は、コヒナさん以外のエタリリで活躍するNPCさんをご紹介させていただきます。

あとは、少しだけ他の占いのこともご紹介させていただいております。

お口に合えば幸いでございます。

 夢に、神様が出てきた



「コヒナよ、頑張っているようじゃな」



 あれ?師匠?


 神様は、師匠の顔をしていた。



 「師匠?tんでもねえ、あたしゃ神様だよ」



 そのチャットの噛みっぷり、やっぱり師匠だ!わーい、師匠~~!


 駆け寄ろうとしたら



 「ええい、違うといっとろうが!」



 といって、師匠の顔の神様が手に持った杖を掲げた。


 ばりばりばり、びかーん、と空中が光って、凄い稲妻が私に落ちる。


 ぎゃあああああああ~~~~、って、全然痛くな~~~い!?



 師匠はいろんな魔法を使えるのにどの魔法も威力が低くて、全然ダメージが当たらない。スキル構成や全部の指にごちゃごちゃ付けた指輪で徹底的に魔法のダメージを抑えているからだ。理由は、「ツッコミに使うのに便利だから」。



 雷撃の魔法でほとんどダメージが当たらないなんて、流石だよ師匠。



「雷撃魔法?ふはははは。今のは雷撃魔法ではない。極大雷撃魔法だ」



 ええええええ、この威力で!?



 通りですごいエフェクトだと思った。

 って、師匠すごいどや顔だな。今の言いたくて仕方なかったんだな。



 そういえば、「ネオオデッセイ広しと言えども、沼スライムに火球魔法打ち込んでも生きてるのは自分位だ」って威張ってたなあ。しょぼいんだか凄くないんだか。



「魔法を受けた時のリアクションといい、その後のツッコミといい、見事であったぞ。10ポイントやる」



 やった~。これで1260ポイント!



「え、なんでsdsんnに貯めてんの。うわあ」



 噛みすぎ。んでなんで引いてるんだ。自分でポイント発行しといて。自慢じゃないけどちゃんと数えてるの私くらいなんだからね!



「今日は頑張ってるお主にお告げを持ってきてやったぞ」



 無視か!

 師匠、私占い師だよ。お告げとかいいから一緒に遊ぼうよ。



「えっとね、どこだったっけ」



 お師神様は懐とかポケットとかをガサゴソと探り出した。のポケットからボロボロといろんなものが零れ落ちる。ああもう、ほんと師匠は私がいないとだめなんだから。



「あ、めっけた。えっとね」



 お告げあんちょこに書いてくるんだ。そのくらい覚えて来てよ。



 「ええっと、なんだって?…うお、まじか、おおお、mjdk」



 え、なに。何かいてあんの?



 「うっひょ~、こいつはスゲエや」



 なに、早く教えてよ。



 「ど~すっかな~。教えてもいいんだけどなあ。でもなあ」



 めんどくさいな師匠!



 「そうかそうか、そんなに聞kたいか。ならば教えてやろう。おぬしはこの先2qqv@うb@n7sw@34w@3¥4」



 なんて!?



「でわさらばだ。ふはhははは」



 ああ、師匠、待って、師匠~~~!ポッケから落ちた物全部忘れて行ったよ~~~~!?



 お師神様は一通り持ちネタを披露した後、結局何もしないでどこかに行ってしまった。まあ、どうせ夢で出てくるお告げなんて役に立たない。夢なんて大体が意味不明なものだろうし。


 それにしてもひどい夢だった


 以前、ネットゲーム内で占い師をやるにあたって、タロットだけだと商品が少ないということで他に何かゲーム内でできる占いがないか検討してみたことがある。


 でも、所謂「(めい)」と呼ばれる、誕生日から諸々を読み解くようなのは、ネット上で見るには個人情報保護の観点から好ましくない。手相だの人相といった「(そう)」は見られない。アバターの人相とか服装とかは性格診断に使えるかもしれないけれど、かなり勉強しないと難しい。資料も少ない。


 風水も考えたけど、間取りとか教えてって言っても多分無理だし。私、方向音痴だし。東西南北はおろか左右も時々怪しい。でも勉強した過程で西側に黄色いものを置くと良いと知ったので、部屋の西の出窓には大きな黄色い十万ボルトのネズミのぬいぐるみが置いてある。出窓が狭く、ベッドと距離が近いので、寝返りの度に落ちてきて、寝づらいことこの上ない。


 となると、実際にできるのはタロットと同じような、何かを並べたり転がしたりする「(ぼく)」というタイプの占いになるのだけど。それならタロットがいいなあ、ということになる。昔からやってるし。


 目新しいものとして一つ思いついたのが「夢占い」だ。これなら夢の内容を話してもらえば出来そうな気もする。そんなわけで目下勉強中であるが、私は今のところ、「何でこんな夢を見たのだろう」という所までは考えることはできても、その夢を未来のお告げと解釈する方法が良くわからない。


 フロイトさんだかユングさんだかが、夢は願望が形を変えたものだ、ということを言ったそうだ。ただ、願望をそのまま夢にしちゃうと倫理規定に引っかかるので、脳が検閲して歪めるのだそうだ。要は夢はモザイクのかかった願望だということだ。夢とはいえ願望は直視してはいけないものらしい。


 夢を見せているのは自分の願望。夢で出てきたものは願望が形を変えたもの。そう考えてみると、「何でこんな夢を見たのか」は解析できる…時もある。モザイクを剝がしていくわけだ。


 タロット占いと、夢の解析はよく似ている。


 夢で出てきたものを何かの象徴ととらえる作業は、タロットカードの象徴を読み解く作業に通じるところがあり、共通するモチーフも多い。


 以上を踏まえて、今日見た夢を解析してみると、あの夢からわかる私の願望は。


 解析するまでもない。


 私は師匠に会いたいのだ。


 本当にひどい夢だ。


 ダージールの町の大広場から少しわき道に入ったところ。

 NPC商店街の不真面目プレイヤー達のたまり場では、マーフォーク族の吟遊詩人、ギンエイさんがリュートを引きながら歌っている。


 マーフォーク族はスラっと細見の身体と高い身長が特徴の種族で、身体の外側、背中や腕がキラキラの鱗で覆われている。リザードマン族ほどではないけれど、鎧を着なくてもある程度刃物に対して耐性がある種族だ。鱗が覆う部位、範囲、色は任意で設定可能で、猫小人族の体毛と同様にプレイヤーのアイデンティティーの確立に一役買っている。


 今日の詩は、新米ギルドマスターさんの不安な日々。


 主人公のギルドマスターさんは、自分のギルドを守るために奔走するのだけど、その頑張りはどこか空回りで。でもその空回りがギルドの絆が深めていく。そういうストーリーだ。


少々の脚色はあるものの、この詩の内容はこの世界、「エターナルリリック」で実際に起こった出来事だ。


 冒険者さんたちが足を止めて詩を聞いていく。「お、ギンエイだ」「本物かよ。ゲリラライブ初めてかも」などと言った声も聞こえる。


 歌が終わり、ギンエイさんは最後に元ネタになったブログの宣伝をしてから、大きな羽飾りのついた二角帽子をとり、通りに向かって丁寧に頭を下げた。冒険者さんたちが、おひねりを投げている。今日も盛況のようだ。



 頭を上げたギンエイさんが私に気が付いた。



「コヒナ殿~っ。お久しゅうございますな!」


「ギンエイさん~。お久しぶりです~」



 私も手を振ってそれに答える。ギンエイさんと私は不良冒険者集団「帽子の会」のメンバーだ。会長は私で副会長がギンエイさん。正規会員はこの二人だけれど、準会員はいっぱいいて、このところさらに増えてきている。



「お戻りとは伺っておりましたが。また旅立たれる前にお会い出来て嬉しゅうございますぞ」



 口上口調というのだろうか。ギンエイさんは独特の喋り方をする。



「こちらこそです~」



 ギンエイさんのやっている「吟遊詩人」は、エタリリのシステム上の職業としての吟遊詩人ではなく、冒険者から冒険譚を買い取ってそれを詩にして歌っている、ある意味で本物である意味で偽物の吟遊詩人だ。文字チャットの世界だから歌といっても歌詞だけだけど、奏でるリュートやアコーディオンのメロディーはパソコンを通じて伝わってきて、なかなか本格的だ。



 最近ではお客さんも増え、扱っている冒険譚も「買い取ってもらえないか」という持ち込みがあったり、逆に歌ってくれとお金を渡されたりすることもあって、かなりの盛況らしい。



 でも始めたころは、冒険譚を買い取るというのは、先方の不信感もあってとても大変だったことも私は知っている。



 初めてギンエイさんと会ったのは二年前。私がダージールの町に来たばかりで、まだこの帽子は色が付いておらず、ドレスも持っていない頃だった。



*****************************************



 ちくちくちく。


 お裁縫をしながらお客様が来るのを待つ。人通りの多いダージールの町でも、占い屋さんに声を掛けてくれる冒険者さんはそうそう現れない。冒険者さんたちはみんな忙しいのだ。


 お裁縫はいい。占い師の内職としてはぴったりだ。占いで稼いだお金で糸や布を買って、お洋服に仕立てていく。お洋服を作るのも手作業だ。NPCのお店に行けばミシンを借りることもできるけれど、システム上、手縫いでもミシンでも手間は変わらない。お裁縫用の針は消耗品なので、時々補充に行かないといけないけれど。出来上がったお洋服をNPCのお店にもっていくと、割といい値段で買い取ってくれて、不本意なことに本業の占いよりよっぽど稼ぎがいい。お裁縫のスキルも上がってきて最近は帽子が作れるようになった。


 ネットゲームを始めて最初の世界、<ネオオデッセイ>で被っていた、お気に入りの大きな魔法使い帽子に似たものも作れるようになった。でも残念なことに、この世界で装備に色を付けるためのアイテム「染料」は、恐ろしく高価だった。残念ながら当分は手が届きそうにない。だから今被っているのは生成り色の魔法使い帽子だ。この帽子を緑色に染める。それは私にとってとても重要なことなのだ。



 「あの~、すいません」



 ちくちくに集中してしまって気づかなかった。お客様だ。



 「はい~、いらっしゃいませ~」

 


 「ええと、貴女が噂の占い師さんですか?」



 なんですと?噂とな?


 ほほう、噂になっていますか、そうですかそうですか。

 そうです、私が噂の占い師さんですよ。



 「はい~、占い屋です~。何か見て行かれますか~?」



 声を掛けてくれたのが、当時はまだ普通の冒険者さんだったギンエイさんだった。今みたいな派手な見た目ではなく、性能重視の飾り気のないローブ姿で、しゃべり方も今のギンエイさんみたいな独特の口調ではなかった。



「ゲームの中のことも、占ってもらえるのですよね?」



「はい~。どちらでもお伺いしますよ~」



「その、お恥ずかしい話なのですが、自分のプレイスタイルについてなのですが、ちょっと行き詰っていまして。この先どうしていったらいいかわからなくなってしまって」



 プレイスタイルというのは人それぞれだ。この世界にいる時間は、とても貴重な「遊び」の時間。だから、基本的には自分のしたいことをするのが一番だ。でも、ゲームを長く続けていると、それができない場合も理由も、色々と出てくる。


 そんな相談する相手としては、私みたいな同じ世界で生きる占い師は、きっと適役だと思う。ただ、ちょっとばかりこの世界の知識には自信がないけれど。



 「ご自身の、プレイスタイルについてですね~?何か気になることがあればお先にお伺いします~。話しづらければ、先にカード開かせていただいて、結果に応じて改めてお伺いさせていただくこともできます。いかがいたしましょうか~?」


 「では、先に占いをお願いします」


 「はあい。では~。カードを三枚使いまして、見て行きますね~」



 ゆっくりカードを混ぜる。この問題を見るのにふさわしいと思えるまで混ぜたら、まとめて形を整え、三枚開いていく。この方がこの先どうしていくべきなのか、教えて下さい。


 一枚目、<皇帝(エンペラー)、逆位置>

 <皇帝>は全ての王様の王様。正位置では自身に満ち溢れた、成功者のカード。

 逆位置になると、失われた自信と名誉。これが、過去の位置。


 二枚目、<(ワンド)の10、逆位置>

 十本の棒と、それを運ぶ人物の描かれたカード。逆位置では重荷を運び続け、いつしか疲れ切ってしまっていることを示す。


 三枚目、<隠者(ハーミット)、正位置>

 隠者は心の中を探す探索者。本当に求めているものは何なのか、答えを探す必要があること。あるいは答えが見つかる暗示。



 この三枚のカードが見せるストーリーは、どんなものだろうか。



 「お待たせしました~。お伝えさせていただきます~」


 「はい、お願いします」


 「一枚目過去の位置に出ているのは、<皇帝>というカードの逆位置です。失われた名声、自信を示すカード。お心当たりはありますか~?」


 「過去…、過去ですか…」


 「過去というか~、この問題の原因になっている部分かもしれません~」


 「なるほど、確かに。思い当たる部分もあります」


 「二枚目に出ていますのは~、<棒の10、逆位置>です~。このカードには、重い荷物を運んで、疲れてしまった人物が描かれています~。何か、疲れてしまうようなことがあったのかもしれませんね~」


 「ああ~、そうですねえ」



 二枚目のカードにも思い当たるところがあるようだ



 「三枚目のカードは、<隠者>というカード。自分の中にある答えを見つけるカード。ご自身にとって、何が本当に大事なことなのかを、考えてみるといいかもしれません~」



 「本当に大事なことか……」



 「カードの暗示は、以上になります。如何でしょうか。占いの中で気になったカードや暗示があれば、教えて下さい~。その他にも、思い当たることや、具体的に確認したいことがありましたら、お伺いします~」



 タロットカードの暗示は抽象的だ。細かくお話を聞けばそれなりに細かいアドバイスができるし、逆にまったくお悩みを聞かずに暗示だけをお伝えして、解釈をお客様に任せてしまうこともできる。どちらのやり方も一長一短だ。大体はその真ん中位のやり方をとる。



 ギンエイさんはしばらく悩んでいたけれど、「せっかくなので」と話し始めてくれた。



「実は、ちょっと行き詰っていまして。ちょっと長くなるのですが、お話しても?」


「はい~。どうぞ、お待ちの方もいらっしゃいませんので~」



 当占い屋では、ゆっくりお話をお伺いすることを信条としている。なので並んでいる方をお待たせしてしまうことはあるのだけれど、その分順番が回ってきたときにはご納得いただけるまでお話しさせていただく。せっかく占いなんていう物をするのに、もやもやを残して帰らせるのは申し訳ないと思うのだ。


 さんざん待たせた挙句に、お客様がログアウトする時間になったり、閉店時間になってしまうこともあって悩ましいのだけれど、致し方ない。以上をご了承下さいということで、占いがハズレても怒らないでね、といった注意書きとともに、看板にくどくどと書き連ねている。



 では、お言葉に甘えて、とギンエイさんはお話をしてくれた。



「コヒナさんは、ギンエイ、つまり私のことを何処かで聞いたことはありますか?」



 おおう、もしかして有名なプレイヤーさんでしたか。



「すいません~。存じておりません~」


「ああ、いえいえ、ご存じだと話が速いと思ったものですから。一部界隈では知ってる人もいるというだけです」



 不真面目プレイヤーの私は、この世界では常識なのに知らない、といった事が度々ある。有名プレイヤーさんだと、知らないと怒られたりもするので怖かったが、ギンエイさんはそういう怖い人ではないようだ。



 「一部界隈というと~?」


 「吟遊詩人の職でボス攻略の動画を上げたりしてるんですよ」


 「吟遊詩人さんですか~」



 吟遊詩人は、歌や楽器でパーティーをサポートする役割で、味方を強くしたり、回復したり、逆に相手を弱くしたり、場合によっては操って同士討ちさせたりもできるらしい。


 聞くだけで強そうなお仕事だけど、それだけに立ち振る舞いが非常に難しい。色々なことができるので、逆に今何をするのか、しなくてはならないのか判断する必要があるのだ。吟遊詩人はプレイヤー個人の能力によって、パーティー全体が非常に強力になったり、逆にそうでもなくなったりする、そういう職業なのだそうだ。


 この吟遊詩人という職業の特性を解説したり実践したりして、ギンエイさんは有名になったのだという。試しに「ギンエイ、吟遊詩人」で検索してみたらいっぱいヒットした。



 「お名前検索してみましたら、いっぱい出てきました~。凄いですねえ。エタリリ最強!って書いてあります~」


 「あはは、お恥ずかしい」


 「動画もたくさん出てきますね~。ご自身でアップされてるんですか?」


 「そうですね、以前は色々と上げていました」



 なるほど。「以前は」。

どうやらそのあたりが<皇帝>が逆位置で出た理由のようだ。



「最近はあまり?」


「そうですね。いろいろと時間がなかったり。あとは…ちょっと疲れちゃったり」



 やはり、疲れてしまった、という言葉は出てくる。



「現在の位置<棒の10、逆位置>、重荷に疲れてしまう暗示。ここにつながっていくのですね~。ですと~、ギンエイさんが運んでいる重荷というのは、先に出ている<皇帝>のカード、<エタリリ最強の称号>ということでしょうか~?」



「ああ、あはは。本当に分かるんですね。話に聞いた通りだ」



 殆どがギンエイさん自身の口から出ていることなので、わかるというのとは違うと思うけれど、そのことには触れない。カードの暗示がきっかけになっているのも嘘ではないし、何より、そこにギンエイさんのお悩みがあることに間違いはない。



「そんな風に言ってくれた人もいたというだけで、自分で名乗ったことはないんです。元々、最強なんてガラじゃないんですよ」



 画面の向こうで、ギンエイさんが苦笑しているのを感じる。



「動画のアップ始めたのも、こんなやり方もあるよ、なんて紹介するのが楽しくてやってただけなんです。一人でやったわけじゃないし。でも、「最強」なんていわれてしまうとつい、そんな気になってしまったのも本当ですね」


「では何故嫌になってしまったのでしょう~?」


「「最強」と呼ばれるのが嫌になったんじゃないですね。「最強」から転落した、みたいな見方をされたくなかったんです」 


「誰かに嫌なことを言われたということですか~?ネット上の中傷とか~」



 先程検索した結果の中には、ギンエイさんを最強と讃える人たちに混じって「誰でもできる」「勘違いキツイ」「自作自演乙」と言った中身のない批判もぱらぱら見受けられた。



「いえ。ああ、でもそうなのかなあ」



 ギンエイさんは完全に否定した後で急に曖昧になった。



「中傷自体は元々あってそんなに気にしてたつもりもなかったんですが。リアル事情でログインする時間ががっつり減った時期がありまして。その時にステータスの維持が厳しくなって」



 ギンエイさんは、そこで色々思い出してきたみたいだ。



「ああ、そうだった。初めの頃そんなの気にしたことなかったのになあ。なんでだろう。とにかくその頃はステータスも装備も最高でなければいけないと思い込んでた気がします。でも同時にステータスのためにゲームしてるのが嫌になって」



 お話をしているうちに、自分で何かに気づいたようだった。


 ネットゲームにおいてログインできる時間はそのまま力だ。ネットゲームには時間がかかる。ゲームにかけた時間だけアイテムもレベルもお金も増えていく。プレイヤースキルと言われるものも上達していく。ことギンエイさんのような最上級のプレイヤーさんにとってそれは顕著だ。


 さらにはキャラクターには数字で表される「ステータス」がある。レベル、スキル、装備品などの合計で決まる「ステータス」。最上級プレイヤーさんは常に最高の数字を維持しなくてはならない。


 皇帝であり続けるため、ギンエイさんは少なくなってしまったログインできる時間をフルに使ってこの世界の最高のステータスを維持し続けた。結果としてゲームは義務になり、ちょっとずつ楽しくなくなっていった。



 そういうことなのだろう。



 ゲームをしている時間を楽しく過ごせないのは、とても悲しいことだ。ここに来るために、一生懸命頑張って作った大事な時間でログインするのだから。中には暇つぶしにゲームをする人もいるのかもしれないけれど、私にとってのネットゲームは、とても貴重な自分のための時間だ。楽しくないゲームをするくらいなら、どうせ大変であろう明日に備えて、早く寝てしまった方がいい。


 だから、ギンエイさんにも楽しい時間を過ごしてほしいと思う。そのカギはきっと、最後のカードが示している。



「となりますと~、最後の一枚、<隠者>は、<皇帝>であること以外に何か、本当にギンエイさんが求めていることがあるということになりますね~」



「ああ~。ん~。本当に大事なこと、求めていることか~。なんだろうなあ。どんなことかとかわかりますか?」



 自分が求めていることを人に聞くなんて、ちょっと変にも聞こえるけれど、タロット占いというのは、自分が本当にしたいことを教えてくれたり、後押ししてくれたり、そういうことは得意だ。



 あまり先のことはわからない。運命を変える、なんていう大げさなことも難しい。



 でも、疲れてしまった時や迷った時のアドバイスは、タロットが得意とするところ。タロットと占い師のコヒナさんにお任せ下さい、だ。



 「では~、アドバイスとしてもう1枚、開いてみますね~。よろしいでしょうか~」


 「はい、お願いします」



 三枚のカードの横に、デッキからもう一枚カードを開く。


 出てきたカードは、<聖杯のナイト、正位置>

 聖杯はトランプで言うところのハート。「心」を意味する。聖杯のナイトは、心を運ぶもの。

 このカードの、意味するところは。



 ええと、思ったより抽象的なカードが出たけど、アドバイスになるかな。大丈夫ですか、占い師のコヒナさん。


 

「出ているのは、聖杯のナイトですね~。心を通わせる、人同士をつなぐ、といった意味のカードです~。皇帝が戦闘のことを指していたので、それ以外の方法がいいと思います~」



 言っては見たものの、戦闘以外で心をつないで、ゲームを楽しむ。そんな遊び方なんて、あるのだろうか。それも、戦闘コンテンツで第一線でやってきた人が満足できるような。



 「戦闘以外で、人をつなぐ…。何すればいいんだろ」



 ギンエイさんも困惑気味だ。いたたまれない。


 ネットゲームの中では自由度が高くていろいろなことができるエタリリだけれど、メインコンテンツはやはり戦闘である。戦闘から遠ざかってしまえば、普通にゲームを楽しむのは難しくなる。よほど変わった楽しみが必要になってくる。それこそ、私みたいな。



 「占い師、とか~」



 我ながらひどい提案だ。とにかく具体例をと思ったが、戦闘なしでできるコンテンツなんて、そうそう思いつかない。



 「あははは、いいですね、コヒナさんは弟子とってますか?」


 「あうう、すいません~。何も出てこなくて~」


 「ああ、いえいえ。元々、誰かに愚痴言ってみたかっただけなのかもしれません。話したらすっきりしました。何か面白いこと考えてみます」



 そう言ってギンエイさんは立ち上がった。



 「お力になれず、申し訳ありません~」



 「いえいえ、そんなことは。本当にね、すっきりしました。勝手に独り相撲取っていただけみたいな気もしてきましたし。心をつなぐ何か、考えてみますよ。占い師も楽しそうですしね。他の何か、それこそ、吟遊詩人とか……あれ?」



 そこまで言うとギンエイさんは固まってしまった。



 「えと、あの、ギンエイさん?」



 あまりに長いこと動かないので声を掛けてみると、いきなり大量のゴールドを押し付けられた



 「え?ギンエイさん?」


 「コヒナさんありがとう、すっごい面白いこと思いつきました!今手持ちこれしかないのですが、お礼は改めて。すいません、これにて失礼します。ほんとにありがとうございます!」



 既定の見料の20倍以上のゴールドを押し付けると、ギンエイさんは挨拶もそこそこに、びゅーんとどこかに飛んで行ってしまった。


****************



 それから、一週間後くらい。


「コヒナ殿~っ!」


 リアルも含めて初めての「殿」付けで呼ばれた。声を掛けてきたのは大きな二角帽子を被った、ひらひらした派手な服装のマーフォーク族の知らない人だった。



「やあやあ、お会いしたかったですぞ!あれからワタクシ色々と検討しましてな。吟遊詩人としてこの町でやっていくことにしました故、コヒナ殿には先輩としてご教授いただければと思っておりますれば、今後ともどうぞよろしくお願いしますぞ」



 わあ、すごいチャットの速度。私よりチャット速い人はこれで二人目だ。私を先輩と言うこのハデハデした見知らぬ後輩は誰なのだろうと驚いたが、よく見れば先日お会いしたギンエイさんだった。



「ギンエイさんでしたか~。ずいぶんと変わられましたね~」


「ええ!ええ!!そうでしょうそうでしょう!」



 ギンエイさんはオーバーアクションで頷く。服装もそうだけど、しゃべり方とか動き方の方がもう別人で、オーバーな動きと口上口調で、舞台の俳優さんみたいだ。



「変わったのですよワタクシは!そう、コヒナ殿のおかげで目覚めたのです!吟遊詩人、これこそがワタクシの生きる道!」



 びしっ、と天を指して決めポーズをとるギンエイさん。特に何も飛んでいない。



「ええと、でも、もともと吟遊詩人だったのでは~」



 ちちち、とギンエイさんは指を振る。



「それは違いますぞコヒナ殿。先日までのワタクシはいわばアマチュア。本当の吟遊詩人はモンスターを退治したりしないのですよ」


「は、はあ…」



 凄く変なこと言ってるなこの人。モンスターを退治しないのが本当の吟遊詩人て。じゃあ何をするんだろう。歌でも歌うんだろうか。



「百聞は一見に如かず、でございますな。一曲披露させていただきます故、ぜひお聞き下さい」



 ギンエイさんはそう言うと、くるっ、っと大通りの方を振り返った。


 え、本当に歌うの?



「さあさあ、道行く冒険者の皆様方、御用とお急ぎでなければお立合い。今宵、吟遊詩人ギンエイが歌いまするは、とあるギルドマスターのお話。


 このギルドマスター、見た目は筋骨隆々の大男。


 されどいつもギルドのことを考えている、心優しきギルドマスターにございます」



 そう言うとギンエイさんはリュートを取り出し、それを引きながら歌い始めたのだった。



 

大男はギルドマスター。小さいけれど、楽しいギルド。


メンバーを楽しませようと、大男はいつも一生懸命


でもある時一人が言いました


「友人のギルドに移籍します。いままでどうも、ありがとう」


頑張ってと笑って送り出したけれど


嫌な思いをしたのではないか、不甲斐無い自分のせいではないか


筋骨隆々の大男、大きな体で考えた。


ギルドが小さいからじゃないか


大事な大事な、みんなのギルド。


大きくなれば、守れるのじゃなかろうか


大きくならなければ、守れないのじゃなかろうか


さあさ、皆様お立合い。


どこかで聞いた話じゃないか、こいつはうちの話じゃないか。


何はなくともまずは見た目。ギルドの拠点を大きくすればと、建物、施設に大金つぎ込み。


白霊金剛の大戦斧の為にと、コツコツ貯めた貯金だって、ギルドのためなら惜しくなし。


ギルドの評価を上げねばならぬと、討伐依頼に精を出し、夜も寝ないで昼に寝る。


他所から狩のお誘いあっても、まずはギルドと断った。


メンバー増えねば大きくなれぬと、見た人皆に声かけて、されども道行く冒険者、既にギルドの加入者ばかり。



さても皆様お立合い。



この心優しき大男。ギルドのためにと必死でメンバーの勧誘をいたします。そこで出会いましたは、一人の女性。なんとこの女性、どうやらこの世界に来て間もない様子。


今ギルドに欲しいのは、即戦力のツワモノではありましたが、そこは心優しき大男。放ってはおけぬと声を掛けるのでありました。


お嬢さん、お嬢さん、見れば旅慣れぬご様子で。何かお困りごとはないか。よろしければ力になろう。


ありがとう優しい大男さん。


けれども私は旅の占い師。困りごとはございません。


でももしあなたがお困りならば、お力になることができるかも。


それならどうか、教えて欲しい、占い師さん


俺はギルドを大きくしたい。大きくしなければ、守れない。


大男さん、大男さん、一番大事なことは何?


そしたらきっと見えてきます。



あなたは初めから、一人じゃない。



さあさ、皆様お立合い。



目から鱗の大男。


そうして見ると不思議なもので、見えてなかったものも見えてくる。


守れなかったものなんて、一つもなかった初めから。



ある日ある時ギルドの前、メンバー皆が集まって


何の騒ぎかと問うてみれば、


何の騒ぎかとは何たるか。


何時も頑張っている大男に、贈り物をと集まった。


大男の留守に手に入れた、剛勇無双の大戦斧


その柄は齢千年経たる、白霊樹。


その両刃は、黒く輝く金剛石。


その力まさに無双なれども、その重さも無双にして、


世に振れるものは無しと伝わる、白霊金剛の大戦斧でありました。


さあさあ、どうだ皆さんお立合い。


なんとも泣かせる話じゃないか。


かくて筋骨隆々の大男。


斧を 受け取るが持ち上がらぬ。


それはそうだよ、かくも無双の大戦斧


泣き顔隠したその片腕で、持ち上がる道理のあるものかね。


「ご存じ優しき大男のお話。続きが気になる方は是非、


 http:// blog.xxx.xxxxxx.xx/karamu-cho


 もしくは、<エタリリ日記@カラムとゆかいな仲間たち>とご検索を」



 いつの間にか、たくさんの人が足を止めて、ギンエイさんの歌を聞いていた。凄いものだ。面白いお話だったけど、なんだか、どこかで聞いた話だ。そういえばダージール来た時にお世話になって、流れで占いをすることになった、ごつごつの戦士さん。たしかお名前をカラムさんといった気がする。


 そして、多分だけれども。ダージールで、いやこの世界で、占い師なんかやっているのは私くらいじゃないだろうか。白なんとかの斧の事は知らないけれど。



「さてお立合いのお客様方。ワタクシは吟遊詩人のギンエイと申します。ここで歌わせていただいて、日銭を稼いでおります。気に入っていただけましたら、どうぞご遠慮なく、投げ銭の方、お願いいたします」



 そういってギンエイさんは、帽子を取ってお辞儀をしながら、前に差し出した。それから、ふと頭を上げると



 「そうそう、投げ銭の金額でございますが、お気持ちのままで結構でございます。高いの低いのとは申しません。ただ、ナニブン小さな帽子でございますので、できれば畳んでから入れていただくようご協力お願いいたします」



 最後の大道芸人の決まり文句に、笑い声と、温かいヤジと、投げ銭が飛び交う。デジタル表記のゴールドには、もちろん紙幣なんて無いけれど。「冒険者」「ギルド」なんて言う言葉が当たり前に使われるこの世界。もしかしたらリアルの大道芸人さんに理解が深い人も多いのかもしれない。


 お客さんが引いた後、ギンエイさんが話しかけてきた。



「こんなわけでございましてな。ワタクシ、コヒナ殿を見習って、吟遊詩人としてやっていくことにしたのでございますよ」


「凄いものですね…ちょっと言葉が出てきません~。あんなに人が集まって、みんながギンエイさんのお話を聞いて。本物の吟遊詩人さんみたいでした~」



 漫画などで見る、吟遊詩人が歌って、それに道行く人が耳を傾ける光景。それが目の前で展開されたというのは、とても感慨深い。



「ほほほ、これは嬉しいお言葉。ありがとうございまする」


「カラムさんとお知り合いなのですか~?」


「ええ。あヤツ、このところずっと付き合いが悪かったのですが、急に昔に戻ったみたいに元気になりましてな。何があったのか聞いたところ、町で占い師に会った、などと言い出すものですから、最初は少々本気で心配したのですが」



 それはそうだろう。急に人が変わった友人に理由を聞いて、「占い師に相談した」と返ってきたら、何かの詐欺か宗教に嵌ったと考えるのが普通だ。



「詳しく聞いてみましたところ、ワタクシも興味を持ちましてな。それで先日お伺いさせていただいた次第でございまして」



 なるほど、それで噂の占い師さんだったわけか。そうだよなあ。ダージールについて一か月近くになるけれど、来ていただいたお客様は、全部で十数人。噂が立つにはあまりに少ない。うむ。うすうす感づいてはいた。



「いや、それにしても、カラムの言う通り。コヒナ殿の占いは流石で御座いましたな。おかげでワタクシ、毎日が楽しくて仕方ありませんぞ」


「ええと~、あはははは~。ありがとうございます~」



 カラムさんの時にも、ギンエイさんの時にも、実はたいした内容を言っていないので、笑ってごまかす。でもそれでいいと思う。私が読めていなくても、伝わって納得できる結果が出たら、占いは成功だろう。


 ただ、精進はしようと思います。ハイ。



「いや、本当でございますぞ?ダージールの母とか名乗ってもいいと思いますぞ」


「いえ、それは遠慮します~」



 十数人見て母扱いはさすがに名前負けが過ぎる。他の世界も合わせると見て来た人数はまあそれなりに多くはなるが。



「そういえば、カラムさんはこの詩のことはご存じなのですか~?」



 さすがに断ってないと問題になりそうだ。



「無論知っておりますな。カラムも、面白そうだし、ブログの宣伝にもなるからやってくれと言っておりました。でも、もう一人の許可はまだとっておりませんでしたな」



 もう一人?ああ、私か。



「名前も出てきていませんし~。チョイ役ですから、私の事はお気になさらず~。それこそお客様増えるのはありがたいですし~」



「おおう、チョイ役ではないと思いますがな。お気になさらぬのはありがたいが、それではワタクシの気も済みませぬ。先日の御礼も十分にできておりませんしな」



 ギンエイさんがバックの中からひょいっと取り出したのは花束だった。多分リアルには存在しないだろう、薄い緑色の薔薇を束ねてある。普通にバックから取りだしただけなのだけれど、物が花束だと手品みたいで面白い。



「うちの庭で、今朝がた花をつけましてな。これは贈り物には丁度いいと、摘んでまいりました次第でして。フロストグリーンローズと言う花でございます」



 何やらおしゃれな喫茶店で出てくる飲み物みたいな名前だ。注文するときにちょっと恥ずかしいヤツ。飲んでみるまで味が分からないタイプ。


 でもそのお花はとても綺麗だった。その名の通りの薔薇の花で、薄く青みがかった緑の花びらに、霜のようにうっすらと白い模様が入っている。すりガラスで出来た一級の細工品のようで、さらにはきらきらと輝くエフェクトを放っている。



「これはもしかして…大変に高価なものなのでは~」



 その美しさと、あとは花だったせいもあってつい受け取ってしまってから、あわてて確認する。やっぱりお花を貰うというのは憧れる物がある。



「まあまあ、それなりに値が張るものではございますが、何、頂いた物への御礼としては些か見劣りするくらいでして。お納めいただければ幸いでございます」


「でも私は~、高価なものをいただいても、使うことができないのです~」



 この薔薇がどのようなものなのかはわからないが、ネットゲームの世界に「ただ希少なもの」はそう多くない。希少なものというのは、世界にいくつしかない、というような極端なレアリティーを持っているか、あるいはその品物に何らかの付加価値がある消耗品かのいずれかで、恐らくこの薔薇は後者だ。


 優れた回復効果、希少で優秀なバフ効果、こういった効果を持っているものは高額で取引される。しかし町から出ることをしない占い師には、まさに宝の持ち腐れだ。



「いやいや、コヒナ殿。それは「使う」ものではございませぬぞ」


「?」



 頭の上に?マークを浮かべる。ではなんだろう、世界に数本しかないとかだろうか。そうだとしたら恐ろしい。



「家の装飾品としても一級でございますがな。その花は、染料の原料でございまして」


「えっ、この花がですか?帽子とかを、この花の色に染められると?」



 それはきっと、とても綺麗な帽子になるに違いない。



「そうですな。それだけあればドレスなどをお造りになった時にも染められるかと思いますぞ」


「ほんとですか!それは、とても楽しみです~。ありがとうございます~!」



 緑と言ってもいろいろな色がある。でもこの花の色なら申し分ない。



「喜んでいただけて何よりでございます。実はコヒナ殿が帽子を染める染料を探していると聞いたものですからな」



 ギンエイさんは、ほほほほ、と笑った。


 あれ?さっきはたまたま咲いていたからと言っていた気がするんだけど。



「そんな話、何処で聞いたのですか~?」



「おっとっと。そう、吟遊詩人ですからな。噂には敏感なのですよ。そうでないと流行りを逃してしまいますからな」



 そういうものだろうか。もしかしたら占いに来てくれたお客様と、そんな話をしたのだったかもしれない。吟遊詩人ってすごいな。一週間前に吟遊詩人になったばかりの、かつての最強の吟遊詩人さんは、また、ほほほほ、と笑った



************************



 私が被っている大きな緑のマギハットは、この時ギンエイさんに貰ったお花から作った染料で染めたものだ。もう少し後になるけれどお裁縫のスキルをあげてドレスを作り、同じ染料で染めたのが今のドレスだ。花束でいただいてしまったので一本は帽子にそのまま飾り、残りは大事に取ってある。花がしおれてしまわないのはゲーム世界のいいところだ。


 この後にも、何かにつけて「コヒナ殿には大恩があります故」とか言って色々助けてくれた。大恩があるのはこちらの方だ。ギンエイさんがいなかったら、エタリリでのお客さんの数は今よりずっと少なかったと思う。


 あれから二年。ギンエイさんは時々は戦闘もするようだけれど、今では誰しもギンエイさんと言えば歌う方の吟遊詩人、または、劇団ギンエイ座の座長さんを想像する。ギンエイさんはこの後もどんどん新しいことを始めて、この世界に劇団まで作ってしまった。メインストーリーを振り返る演劇をやったり、漫才だかコントだかをやる人たちがいたりで定期に不定期に諸々活動している。最強プレイヤーだった時よりよっぽど時間を取られていそうだが、全然苦にならないのだそうだ。好きなことと言うのはそういうものなのだろう。



 「ギンエイさんですよね?あの、お願いが」



 二人組の猫小人族の少年がギンエイさんに声を掛ける。同じ顔だけれど髪型は左右対称。同じ服を着ているけれど、染め方は左右対称で可愛らしい。ギンエイ座の入団希望者さんだろうか。



「それでは、コヒナ殿。これにて。何かお困りごとがあれば、何時でもこのギンエイにお声がけくださいませ」


「はい~。いつもありがとうございます~」



 そのあと猫小人族の二人組はギンエイさんの前で持ちネタを披露していた。


 そのネタの出来は…。頑張ってください。


 こんな風に既に超有名人であるギンエイさんだけど、でもさらにこの後、仲間たちとともにある一つの舞台の立役者となる。その奇跡とも言える舞台は世界の枠を超えて、ネットゲームの世界の伝説になるのだけれど。


 

 それは、もう少し先のお話だ。

ありがとうございました。


口上口調というのが大好きです。大道芸見るのも大好きです。


リアルでは駅などで歌っている方はいますが、吟遊詩人さんというのは見たことがないです。


でも、ネトゲ世界ではお会いしたことがあります。


その方みたいに素敵な詩が書きたいなと思っています。


面白いと思っていただけたら良いのですが。


ここまでで7章。12章くらいまで書いたら、他のサイトにも投稿してみるつもりです。

その時タイトル変えてみようと思ってるのですが


タイトル :ワールド ワンダリング フォーチュンテラー イン ワンダーランド

副題   :世界渡りの占い師はNPCなので世界を救わない


こう、頭文字をwwwで揃えたいなあ、ということなのですが、長すぎますかね…


まだだいぶ先の事なので、ゆっくり考えますが、もしアドバイスなど頂けたら嬉しいです。



次話はギンエイさん側からのお話。回想シーンの最後、ギンエイさんの胡散臭い笑いは何だったのか。


それは次回の講釈で。


3週間後位の投稿になるかと思います。

読みに来ていただけたら、とてもうれしいです。

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