ジャスティス・キューティー 2
いらっしゃいませ!
前々回の占いの続きになります。謎の美人アプリコットさんの正体や如何に!
そいつは初めて会った時からおかしな奴だった。
「あの、すいません」
声を掛けて来たのはナゴミヤの方からだった。正直面倒くさいと思った。
「僕は男です。なにか用ですか」
女性アバターを使っていれば時々妙な輩に声を掛けられるが大体こう言えば去っていく。だがそいつは違った。
「あ、そうなんだ。ちょっと安心。あの、その服めちゃくちゃセンスありますね。よく見せて貰ってもいいですか?」
意表はつかれたが構わないとこたえた。白いブラウスの上から赤い胴衣を紐で締め、下はロングスカートの上からエプロン。そして勿論真っ赤なフード付きケープ。自分でもうまくできたと思っていた服装だ。褒められるのは素直に嬉しい。
「おお、勇気出して声かけてよかった。今更ながら女の子だったらドン引きされてたかもしれない」
ナゴミヤが自分で言う通りだと思った。男だって引いてもおかしくない。ナゴミヤは奇妙な奴だった。
だから気になってしまったのだろう。二度目に会ったのは対人の戦闘が許されているダンジョン<ジャボール>の中。潜伏状態の自分の目の前を横切っていくナゴミヤについ襲い掛かってしまった。選んだスキルは背後からなら確実にレベル3の毒を与えるスキル<死の恐怖を覚える毒>。大抵の獲物ならこれで仕留められる。対人エリアに来るくせにレベル3毒を解毒できない者も多いし、解毒できるならそれはそれで大きな隙となる。
だが。侮った。この相手には<死の恐怖を覚える毒>ではスキル使用後の硬直時間が長すぎたのだ。
毒が入った直後、相手は短距離テレポートと範囲鈍化の魔法を使ってリンゴと距離を取り長距離テレポート可能なエリアまで移動。そのまま逃げおおせた。実に見事な手際だった。
再びマディアの町で会った時にはこちらから声を掛けた。
「やるじゃないか。この間は見事に逃げられたな」
「リンゴさんこんちは。あれごめん、なんか約束してたんだっけ?」
会話がかみ合わない。話を続けるうちにナゴミヤがリンゴと殺人者を同一人物だと把握していなかったことがわかった。
「いやーごめん。逃げるだけでていっぱいだったからさー。でも気づいてたら油断して殺されてたな。ラッキーだったかも」
見事自分から逃げおおせた男は申し訳なさそうにそう言った。それからそいつとは時折つるむようになった。
ネオオデッセイの世界においても「人殺し」は犯罪である。
人を殺した経歴はアバターにしっかりと刻まれ、ステータス画面を開けばリンゴが殺人者であることは誰にでもすぐにわかってしまう。
以前所属していたギルドのメンバーに罵声を浴びせて来たプレイヤーを殺害して以来、<リンゴ>はお尋ね者だ。当時所属していたギルドのメンバーのうち自分以外の全員が引退した今でも。その後もちょくちょく殺人は犯しているが。
殺人者へのシステム上の制裁は二つ。
一つ目は一部の町に入ることが出来なくなること。
二つ目は自分の首に賞金が掛けられること。
対人戦が可能なエリアでリンゴを殺すことは殺人として扱われなくなり、リンゴの殺害に成功すれば莫大な金額のゴールドが得られる。また殺人者に対して回復魔法をかけると一定時間「犯罪者」であるとみなされてしまう。
犯罪者を攻撃、殺害しても罪に問われることは無いため、対人戦エリアで犯罪者になれば面白半分によってたかって的にされる。
だというのに。
賞金目的のプレイヤーが徒党を組んで襲ってきた時、ためらいなく<リンゴ>に回復魔法をかけた挙句真っ先に殺される面倒な奴。それがナゴミヤだ。
そもそもモンスターの討伐を目的としたスキル構成でリンゴを倒すことは多少人数を揃えても不可能だ。
スキルだけではない。モンスターと戦うことと人と戦うことは全く異なる。人が次にどう動くか予測する。自分が何をしようとしているかを誤解させる。隙を作り、油断を誘い、隙を突き、油断を突く。思い付きで徒党を組んで襲ってくる者達など、リンゴから見れば訓練用のダミー人形と変わらない。
四人いた賞金稼ぎにはきっちりその無礼を償わせてやったが、後でナゴミヤには文句を言っておいた。僕は殺人者だ。対人エリアで回復や補助はするなと念を押しただろう、と。
「あー、そうだったね。悪い、忘れてた」
忘れてた、とナゴミヤは言った。飽きれた。あれだけ言ったのに忘れていたか。忘れていたのなら仕方ない。
システムの外でも、<殺人者>は他のプレイヤーからは歓迎されない。ギルドによっては<殺人者>をメンバーとして受け入れないところもあるし、<殺人>に激しい嫌悪感を持つ者もいる。当然のことだろう。
だがやはりこれだけのことだ。
受け入れてくれる友人が数人もいればこの世界で困ることは無い。
そもそもナゴミヤはリンゴなど問題にならないくらいの変人だ。
リンゴも現在のシステムでは流行らないスキル構成ではあるが、ナゴミヤに至っては戦闘用のスキルが殆どない。それで困らないわけはないのだが本人のプレイスタイルでは問題がない。何しろナゴミヤはプレイヤーどころかモンスターとも戦うということをしない。なるほど逃げるのが上手いわけだ。
その変人の周りもおかしな奴らだらけだった。
やがて変人<ナゴミヤ>がマスターを務めるギルド<なごみ家>にリンゴも所属することになる。
一時期は数人の引退者が出て活気が無くなっていた<なごみ家>だが、近ごろはまた賑やかになってきた。これはナゴミヤが連れてきたコヒナという新人のことが大きい。
ショウスケが来た時もそうだったが新人が入ってくるとギルドには活気がでる。
ネオデはソロプレイが基本であり、モンスターの討伐にあたってパーティーを組むことはそれほど重要ではない。ギルドの人数が減ってもたまに流れてくるギルドチャットに返事を返しながらモンスターの討伐を行うのに支障はない。
しかしオンラインゲームである以上一人で遊ぶよりもパーティーを組んだ方が効率が良く、楽しいのは間違いない。
コヒナは不思議な子だった。
何を教えても何処に連れて行っても楽しそうに目を輝かせるその子は、すぐにギルドの中心となった。リアルの事情でログインが減っていたメンバーも時間を作って顔を出すようになっていく。正雪自信も同様だ。
ネットゲームは非日常の世界だ。救いのないリアルを忘れてありたいままの自分でいられる場所だ。
<リンゴ>は自分の所属するギルドを、かつての仲間たちと同じくらいに愛していた。
□■□
ネオデにログインしてみるとコヒナが占い屋を始めるところのようだった。だが土壇場に来て怖気づいてしまったらしくナゴミヤと相談している。無理もない。ナゴミヤのような根っからの変人は別にして、個人で他のプレイヤーと違うことをするのには勇気がいる。ましてやコヒナはこの世界に来てまだ数か月程度だ。
丁度いいタイミングで来た。いつもの<リンゴ>ではなくサブキャラの<アプリコット>としてログインした正雪はコヒナに声を掛けた。
「占いか。面白そうじゃないか。見て貰えるかな?」
「hhy、はい!」
焦ったのかコヒナは盛大に噛んだ。焦った時の彼女の師匠のようだ。
「だいじょぶかい? 見て貰えるのかな?」
「見ます!大丈夫です!」
「じゃあ私はどうすればいいかな?」
「私」等と言うのは少々気恥ずかしいが「僕」と言ってしまったら気が付かれるかもしれない。名前からもリンゴとアプリコットは連想しやすい。別にバレても構いはしないのだが、知らない人を占ったというのはコヒナにとっていい経験になるはずだ。
「ではこちらにおかけ下さい~。タロットでの占いです~。何か気になることがあれば具体的なアドバイスもできます~。特になければ全体運と言う形で見ることもできます~。如何しましょうか~?」
散々練習していた「占い師のしゃべり方」でコヒナに言われてはたと気が付く。特に占ってもらうようなことを用意していなかった。
「じゃあ……そうだな。このところ何だか周りが急に色気づいてしまってね。自分だけ何もなくて肩身が狭いんだ」
とっさに出てきたのはそんな内容だった。「肩身が狭い」以外は嘘ではない。
ギルドメンバーのうち二人、ショウスケとブンプクはまさにこのコヒナの占いをきっかけにリアルでも付き合い始めた。
同じくギルドメンバーのヴァンクとハクイは昔から互いのスキル構成ががっちりと噛み合っていて息もぴったりだ。互いを相棒と読んでも差し支えない。だが共に既婚者である二人の共通の認識からそうはならない。
三千世界にパートナーは一人だけ。
三千世界には当然ながらリアルを含む。
二人のスキル構成はあまりにも互いを補うのに適しすぎている。同性だったなら問題ないだろうに、性別と言うのは厄介なものだ。結果として常に互いに文句を言っていなければならない間柄となる。ご苦労なことだと思うが嫌いな考え方ではない。
またこの占い師のコヒナもナゴミヤを師匠と呼び懐いている。自覚があるのかないのかわからないが、その懐き具合は少々師弟の域を超えている。ナゴミヤがログインしていないときのコヒナは目に見えてがっかりしており、気の毒にすら思える。
ナゴミヤの方も随分コヒナを可愛がっている。相当に気が向いた時でもなければダンジョンに潜ることすらしなかった奴がコヒナのサポートの為に装備の新調をしたくらいだ。相変わらず攻撃力は皆無だが。
「では、恋愛運を見てみましょうか~?」
「いや、恋愛運は興味が……。そうだな。じゃあ、この先何かいいことがないか見てくれないかな」
恋愛には興味がない。面倒だし誰かから好かれる性格でもない。
それにもし仮に誰かと付き合うことになったら、相手には損をさせてしまうだろう。自分はそういう性分だ。
「かしこまりました~。では少々お待ちくださいね~」
そう言うとコヒナは動かなくなった。占いの為にパソコンの前を離れているのだろう。ナゴミヤが一緒ならば問題ないだろうが、この間に話しかけられてもコヒナは対応ができない。話しかけるくらいならいいが、中身が離れているアバターに迷惑行為をしてくるような輩もいる。実害はないとはいえアバターにべたべた触られれば気分は良くない。
周りにはアプリコットとコヒナの会話を聞いて興味を持ったプレイヤー達が遠巻きに見ていた。丁度いい。この状況を利用しよう。客寄せにもなるはずだ。
「ふむ、結構時間がかかるものなのだな」
「まあまあ、もう少々お待ちを。リアルでタロットで占っているからね。でもその分しっかり自分向けのお話をしてくれるのでね」
アプリコットの正体に気づいているらしいナゴミヤが合わせてきた。
「なんと、リアルでカードを広げているのか。期待しつつ大人しく待つとしようか」
説明臭い会話だがギルドメンバーでもなければわからないだろう。ギャラリーも増えてきた。クリスマスにわざわざこんなところに来る奴らはみんなお祭り好きの者達だろう。面白そうなことがあれば積極的に参加しようとするはずだ。好意的なギャラリーは嫌がらせの抑止力になる。
そのうちコヒナが戻ってきた。
「お待たせいたしました~。一枚目のカードは正義と言うカード。右手に剣、左手に秤を持った女神さまが描かれています~。これはアプリコットさんが正義を大事にする人であることを指しています~」
正義。正義か。よりによって。
「うん。まあ当たっているかな。でも大抵の人はそうなんじゃないかな?」
周りにアピールする為占いの内容に関わらず大げさに肯定するつもりだったが、つい言い返してしまった。
「そうですね~。そうかもしれません~」
コヒナはそこには反論せずに次のカードの解説に入った。少し拍子抜けしたがそもそもの目的はコヒナの占い屋を軌道に乗せることだ。細かいことにこだわる必要はない。
「2枚目は現在の状態を示します~。出ているのは貨幣の5 正位置。雪の中を歩く二人の人物が描かれたカードです~。どちらも粗末な服を着ていて寒そうに見えます~」
これは当たりだ。まちがいない。少々当たりすぎていて怖いくらいだ。
「なんと、大当たりだ。雪じゃなくて雨だったけどね。帰ってくるときにちょうど降り出してね。おまけにコンビニで傘を盗られちゃったものだからびしょ濡れになってしまったんだ。ひどい目に遭ったよ」
今日あった出来事を細かく披露するとギャラリーから歓声が上がった。
「まあ、間違って持って行ったのかもしれないけどね。ぼ……。私の傘は無くなっていたが傘立てに似たような傘が残っていた。あんなに寒いなら私も間違えた振りをして持って帰ってきてしまえば良かったよ」
ギャラリーに向けて言ったつもりだった。寒かったこと、占いが当たっていることをアピールするための言葉だった。
なのに。
「でも、それはアプリコットさんにはできないのではないですか~?」
「……できない? 何故だい?」
「1枚目に正義のカードが出ています~」
言い返せなかった。何の準備もしていなかった。さっきはさらりとかわして油断させたくせに、占い師はまた<正義>の話を始めた。
もしかするとこの子には、対人戦の才能もあるのかもしれない。
「2枚目のカードは貨幣の5。望むものが得られない辛さを意味します~。1枚目の正義と合わせると、温かい服が手に入るとしてもズルはしない。ズルをするくらいなら寒さをこらえる方がマシ。アプリコットさんはそんな方なのではないかと~」
確かに当たっている。自分はそういう人間だ。それが正義かどうかは別として。
「当たってるとしたら、僕はずいぶん損な性格なようだね」
何を言われても肯定するつもりでいたというのに、当たっていると言えなかった。
「でも、アプリコットさんのおかげで濡れずに済んだ方がいます~ 」
「まあ、それはそうかもしれないけどね」
でも、そうじゃなかったかもしれない。自分があの傘を持って帰ってもだれも嫌な思いをしなかったかもしれない。ただ自分が寒い思いをしただけで。そんなものが正義であるわけはない。
「正義か。正義ってなんだろうね」
「ううん、それはわかんないですがー」
つい口をついて出た言葉に、コヒナはこてんと首をかしげて答えた。
まあ、それはそうか。雰囲気にのまれてつい妙なことを聞いてしまったと思ったが、首を傾げたままコヒナは続けて言った。
「でも、アプリコットさんの正義は、迷うことだと思います~」
僕の正義?
「迷うこと?」
迷うことが正義? 正しいことを行うことではなく?
「正義を大事にしている人は「正義とは何か」って聞かれても答えられないんじゃないでしょうか~」
「…………」
「正義の女神さまは剣だけじゃなくて、秤を持っています。きっと押し通すことだけじゃなくて、どうすればいいか考える事も正義だと思うんです~。きっとそれは苦しいことだと思います~。だから2枚目には雪が降るカードが出ているのだと~。アプリコットさんの正義は優しい正義です~」
優しい。
この僕を優しいと言ってくれるのか。それは正義で、この苦しさはそのせいだと。
そうなのか? そう思っていいのか?
もしそれが本当なら、自分の通ってきた道はずっと。
「ほんとはさ。傘、持って帰っちゃおうかって少しだけ思ったんだよ」
「きっと無理だったと、思いますよ~?」
「嘘じゃないんだ。持って帰ろうかって思ったんだよ」
「できなかったと思います~」
そうか。できなかったか。僕はそちらを選ぶのか。損する方を選ぶのか。でもそれは損を取る為ではなくて、苦しむためじゃなくて。
「参ったな。傘一つでここまで褒めて貰えるとは思わなかったよ。やれやれ。持って帰って来なくて良かった。この大勢の前で傘泥棒がバレてしまってはまずいものな」
いつの間にか静かになっていたギャラリーから笑いが漏れた。
「大当たり、と言うことにしておこうか。もちろんお代はしっかりお支払いしよう。500ゴールドだったね?」
内容に比べて随分安い設定だが、彼女が自分の師匠と相談して決めた金額だ。そこには口を挟むまい。
「ああ~、すいません~。まだです~」
「まだ?」
これ以上まだ何かあるのか? この先更に何か言われるのか?
コヒナや他のギャラリーはともかく自分が誰なのか気が付いているナゴミヤもいる。できればこの辺りで退散したい。
「まだ、三枚目の解説が終わっていません~」
言われて気が付く。占いが途中では逃げるわけにもいかない。
「これは失礼した。是非続きもお願いしよう」
「はい~。三枚目のは聖杯カップの2と言うカードです~。このカードには聖杯カップを持って向かい合う男女が描かれています~。新しい関係が現れることや相性ピッタリのパートナーとの出会いを示すカードです~」
「パートナー? 周りが色気づいてるからと言って私まで巻き込もうとしなくていいんだぞ」
大体ギルドにはもう人が残っていない。準メンバーのナナシはいるがあれは流石にない。一緒に遊ぶ分には面白い奴ではあるが、そもそも中身が男なのか女なのかもわからない。自分が言えた話ではないが。
女性型のアバターを使って殺人を犯す正雪はアバターがリアルのその人物そのものでないことを良く把握している。
同時にその人物そのものであることも知っているが。
いずれにしても自分がアバターを通じて恋愛感情を持つことは無い。
「恋愛に限ったことではないです~。分かり合える相手との出会いを意味するカードです。アプリコットさんの『正義』を快く思う方との出会いだと思います。もし今辛く感じていることがあっても、どうぞ安心してお進みください~。きっと報われたと感じるはずです~」
ああ、これも当たりかもしれないな。
なにせ、たった今目の前で「優しい正義」なんて言って貰ったのだから。
「うん、これはなかなかに恥ずかしいな。やれやれ、このキャラで来てよかった」
これは本心だ。でも、心の片隅で。アバターには現れない別の部分で。
もし<リンゴ>としてここに来ていたら。
「ところで占い師さん。後ろのサンタ服の人とはどういう関係なんだい?」
「この人は私の師匠です~」
師匠か。なんとも羨ましいことだが自分だって同じギルドの先輩だ。別に僻むことじゃない。
「そうかい。私の見た所コイツはいいヤツだが逃げ癖があるぞ。しっかり捕まえておくことだ」
ナゴミヤが何か言っているが無視する。自分だけが恥ずかしい思いをするのは割に合わない。弟子の成長のためにせいぜい損をすればいい。
「はい、気を付けます!」
さてこの占い師にも今の言葉が通じているのかいないのか。
「うん。そうするといい。さて待っているお客さんも多いことだ。あまり長居しても申し訳ないな。ありがとう。楽しかったよ」
「ありがとうございましたー!」
席を立った時、丁度雪が降ってきた。
「あっ、雪!」
それを見た占い師が声を上げる。
「クリスマスだからね。雪は振るさ」
「なるほど! 運営さんが降らせてくれてるんですね! 凄いですねー!」
ナゴミヤの答えにコヒナはより一層感動したようだ。口調が素に戻っている。
そうだ。この雪一つも優しさでできている。この世界に雪を降らせる優しい人がいて、その優しさに気が付く人がいる。
リアルもきっとそうなんだろう。自分が思っているほどひどい世の中ではないのかもしれないな。
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ログアウトした正雪は帰りに買ったプリンが冷蔵庫に入っているのを思い出した。そろそろ食べておかないと朝もたれるかもしれない。明日はクリスマス当日だが仕事が休みと言うわけではない。
大して選びもせずに買ったプリンだったが、表面に薄く白いクリームがのっていて思ったよりも旨かった。改めてコンビニの店員に感謝する。彼にもメリークリスマス、だ。
食べながら占いの内容を思い出す。そう言えばこの先分かり合える相手との出会いがあると言われたのだったか。
果たしてそれはどんな出会いなんだろうか。
占いなんてものを丸々信じているわけではない。そこに本気で期待などしない。所詮は占いだ。未来のことなんてわかるわけがない。
でも。
それでも、未来における確かなことが一つ。
もしこの先に今日と同じようなことがあって、傘置き場に置いた傘が無くなっていたとして。
僕は誇らしげに胸を張って、雨に濡れながら帰るのだろう。
お読みいただきありがとうございましたー。
やっとクリスマスが終わりました。予定ではこのあと年越しのお話入れるつもりだったのですが、さてどうしたものでしょうか。ネット越しの年越しも良い物なんですよー。
次回も張り切ってまいります。
また見に来ていただけたらとても嬉しいです。




