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前夜祭 2

いらっしゃいませー!


寒いですね~。

布団から出るのが嫌で仕方ないです。

お風邪などひかれませぬよう。

「第40567回! ナゴミ家ギルドイベント、クリスマス恒例プレゼント大会~~~~!」


「いえーい!」


「おい、間違えるんじゃねえにゃ」


「おっと、失礼。第59323回ナゴミ家と動物園合同ギルドイベント、クリスマス恒例プレゼント大会~~~~!」


「いえーい!」



 十二月二十二日。



 お仕事で遅れてやってきた師匠のお決まりの掛け声でギルド合同のクリスマス会が始まった。


 ギルド<なごみ家>では時々こういったギルド内のイベントが開催される。内容はその時によってまちまち。鬼ごっことか、宝探しとか。私がギルドの皆さんを見る占いイベントだった時もあった。結構当たってたみたいです。えへん。


 参加できる人数もまちまちだけど、クリスマスに関しては大きなイベントと言うことで全員参加可能な日を選んでの開催だ。


 はじめと後で数字が違うのを見てもわかるとおり、第40567回はデタラメである。最初聞いた時はそんなにやってるの!?と思ったけど、師匠が毎回適当な数字を並べているだけだと言うのは割とすぐに分かった。この間のタンジムの町でやったかくれんぼ大会が5247回だった。いつの間に十倍になったんだと言う話だ。


 参加者は私、師匠、裸パンツのヴァンクさん、白衣の天使のハクイさん、ドラゴンスレイヤーのショウスケさん、骨董屋のブンプクさん、毒ずきんちゃんのリンゴさん、それに名無しの猫さん。


 二つのギルドのフルメンバー総勢八人。わいわいと大変賑やかだ。このメンバーでクリスマスのプレゼントの交換をするというのが今回のイベントの趣旨である。


 前もって師匠がメンバーの名前の書いた札を用意しており、それをクジにして順番に引いて行き、誰のプレゼントが当たるかが決まるという流れだ。自分の引いちゃったら引き直しね。



「んじゃ、早速行ってみましょう。順番は適当。とりあえず隣にいたヴァンクから!」


「俺からか。どれどれ」



 師匠の並べたクジから一枚を選んでヴァンクさんが手にとる。そしてニヤッと笑った。



「コイツは大当たりだな」



 おや? まだ誰のプレゼントかわかっただけで中身が何なのかはわかってないはずなんだけど。



「コヒナだ」



 おおう、私か。いや、私のはたぶんハズレですよ。


 一生懸命準備したとはいえ私の力では限界があるのだ。ヴァンクさんには申し訳ないが最初で良かったかもしれない。ブンプクさんあたりからはきっととんでもないものが出てくるに違いない。



「ではヴァンクさん、こちらをどうぞ!」


「どれどれ。お、磨き粉か。サンキュー」



 私が悩んだ末に用意したのは武器や防具の手入れ用の<磨き粉>。


 地味ではあるけれど需要はあるし、誰でも手に入れられるけど手に入れるためのクエストはめんどくさいという類のもの。リアルで言ったら何になるかな。ポケットティッシュとかボールペン?ううん、いい例えが浮かばない。もう少し上だと思うんだけど。お米5キロとかかな?


 プレゼントなんだからと自分で用意できるものを頑張ったけど、私が自分で用意できて喜んでもらえるものと言うのは難しい。



「すいません! でも数はたくさん用意しましたので!」


「いや俺すげえ使うからな。ありがてえよ」



 ヴァンクさんはそう言ってくれた。良かった。見た目はアレだけどヴァンクさんは優しいのだ。



「じゃあ、次はコヒナさん引いてねー」



 お、次は私か。



「はい!」



 師匠に言われて引いてみたクジにはリンゴさんの名前が書かれていた。



「リンゴさんです!」


「お、コヒナに当たったか。フフフ。君に使いこなせるかな?」



 むむ、なんだろ。リンゴさんが籠バスケットからナイフの様なものを取り出して渡してくれた。それを見て思わず声を上げる。



「わわ、これ頂いていいんですかっ!?」



 それはリンゴさん特性の、レベル5毒の塗られた投げナイフ三本セットだった。


 レベル5の毒という物は自然界には存在しない、リンゴさんのような毒を極めた人だけが作り出し扱うことのできる猛毒だ。一定時間強力な持続ダメージを与える上、解除は困難。それが塗布された投げナイフは超がつく高級品でかつ使い捨てのアイテムとなる。


 毒を作るのも武器に付与するのも大変な技術と労力を要するのだ。投擲スキルも毒スキルも無い私では命中率がとても低くなってしまうが、もしも当たれば自分では絶対倒せない相手にも逆転できるかもしれないという代物である。


 毒の武器を手にするのは初めてでちょっと怖かったけどとても嬉しい。危ないものには魅力がある。お父さんに自分専用のナイフが欲しいとねだってやっと買ってもらえた時同じような感じだ。



「うっかり自分の手に刺さないようにね?」



 リンゴさんの警告通りこれは危険な毒だ。普段は持ち歩かない方がいいな。大事にしまっておこう。あ、でもお部屋の壁に飾って毎日にやにや眺めるのもいいな!



「はい、気を付けます!」


「うん。うっかり自分の手に刺さないようにね?」



 う。何で二回言ったんだ。フリか?これはフリなのか?


 毒自体は別にいいんだけど。ハクイさんがいるし絶対に助けて貰える。仮に死んじゃってもここなら問題ないし。でも貴重なナイフをネタで使ってしまうのはあまりに勿体ない。



「コヒナちゃん、大丈夫だから。流していいから」



 迷っていると間にハクイさんが入ってしっ、しっとリンゴさんを追い払ってくれた。リンゴさんは「ち」とつぶやくとすごすごと撤退していく。



「リンゴさーん、ありがとうございますー! 大事にしますー!」



 追い払われて遠くまで行ってしまったリンゴさんに改めてお礼を叫ぶ。



「使い捨てだから大事にすると言うのはどうなんだろうとも思うけど。気に入ってもらえたようで良かった」


「はーい! すごく嬉しいですー!」


「うん。そうか。うん。なんだかボクも嬉しくなってきたよ」



 遠くからリンゴさんの返事が返ってきた。彼方のリンゴさんに師匠が呼びかける。



「リンゴさ~ん、戻って来てクジ引いてね~」


「お、僕か」



 とてとて、と可愛い走り方で戻ってきた毒ずきんちゃんのリンゴさんがくじを引く。



「ふむ。マスターだね。宜しく」


「お、俺か。んじゃこれね。いっぱいあるから使わなかった分は売って資金にしてね」



 師匠のプレゼントは金銀パール他というレア染料の詰め合わせだった。ダイ狩りで赤い染料を集める時に出た余りだ。結構な数があるので全部使うのはちょっと大変。でも売ったとしてもかなりの金額になりそうだ。




「お、染料か。丁度衣装を新調しようと……おや? マスター、これはミスかな? 赤が入ってないんだが?」


「いやだって、ホラ。赤使うし……」



 師匠が赤の染料を集めるために湿地に籠っていたことも、プレゼントがその余りなののリンゴさんは百も承知のはず、なんだけど。



「なるほど。しかし、レア色ダイのセットに赤が入ってないと言うのはどうなんだろうね? もちろん貰ったプレゼントに文句なんかないが。ああしかし。新装備、赤く染めたかったなあ!」


「わかったよう!」



 師匠は頑張って手に入れた赤色のダイをしぶしぶ追加で渡した。



「ありがとうマスター。なんだか催促したみたいで済まないね」


「したよ! 催促したよ!」


「金銀もこれだけあれば派手なのが作れるな。良いプレゼントをありがとう。マスター」


「催促したぞ――――!」



 リンゴさんは赤ずきんちゃんスタイルなので赤は必要なんだろう。師匠もちょっとかわいそうだけど、クリスマスまではまだ日もあることだしね。



「師匠師匠、私がお手伝いしますから気を落とさないでください。頑張って集めましょう!」


「や、その。コヒナさんや。ありがたいんだけど、そんなに俺に付き合わなくても大丈夫だからね。ちゃんと自分の好きなことをするんだよ?」



 むう。お手伝いができると思ったのに。師匠はいつもこんなことを言う。師匠とお話しながらののんびりした狩りは結構好きなんだけどな。師匠はそうでもないのかなあ。



「んじゃ、俺は飛ばして。まだ引いてないのはー、んじゃ、ハクイさんどうぞ」


「はーい」



 元気に返事をしたハクイさんだったかクジを引くとぴたりと無言のまま固まった。



「ハクイさん、クジに書いてある名前読み上げてねー」



 師匠が声を掛けるも動かないままだ。ははあん。わかったぞ。



「ハクイさーん?」


「……。ヴァンク」



 観念してハクイさんがクジに書いてあった名前を口にした。



「ちっ、お前かよ」



 裸パンツなのに優しいヴァンクさんが凄く嫌そうに言う。



「ちっ、って何よ!」


「ちっ、ほらよ!」



 更に舌打ちを重ねつつもヴァンクさんはプレゼントを渡した。



「ちっ。つまんないもんだったら突っ返すからね」



 ハクイさんも舌打ちを返しながら嫌そうにプレゼントを受け取る。何かの大きな黒い塊だ。何だろあれ。



「うわ、センス無いプレゼントね。何よ……って、これニゲライト鉱石!?」



 黒い塊の正体を確認したハクイさんが驚きの声を上げる。


 ヴァンクさんの用意したプレゼントは<ニゲライト鉱石>という主に鎧の強化に使う真っ黒な金属の鉱石だったようだ。


 何種類かある<ネオデ>のオリジナル金属はどれも貴重品だけど、ニゲライトは最も価値が高い。なんと任意に数値を割り振って装備品を強化でき、さらに他の鉱石で強化した後からニゲライトによる強化を施せると言うネオデ世界の最強金属だ。ただし強化の成功率は低く、失敗すればニゲライトは失われてしまう。価値が高くなる理由はお判りいただけると思う。なにせいくらあっても足りないのだ。そんなわけでこのプレゼントには文句のつけようもないはず……なんだけど。



「なんで鉱石なのよ。精製して持ってきなさいよ。 嵩張るでしょう」



 ハクイさんにはヴァンクさんに対してとりあえず文句をつけなくてはいけないと言う使命感があるんだろう。他の人には優しいのにね。なにせ巷では白衣の天使で通っているくらいだ。



「うるせえ! 文句言うなら返せ!」


「そもそも鎧着ないあんたがなんでニゲライトなんか持ってるのよ」


「使わねえから持ってきたんだろうが! いらねえなら返せ!」


「貰ったもの返すわけないでしょ!」



 なんとなくわかってきたんだけど、この二人は仲が悪い、と言うわけではない。要は仲が悪いごっこをしているのだ。


 リンゴさんもさっきやってたけど、「ち」という舌打ちにしたってリアルで苛立ったときに出るお行儀の悪い「ち」チャットにわざわざうちこむ「ち」とは全然違う。こういうのもロールプレイって言うのかな?



「はーい、次行くよ~?」



 喧嘩を始めた二人にぱぱーん、と師匠の雷魔法が落ちる。誰かが止めておかないとずっと仲良く喧嘩し続けるからね。全く困ったものだよ。


 二人は互いに「ちっ」っと言ってそっぽを向いた。実にいいコンビだ。



「んじゃ、次はブンプクさんどうぞ」


「は~~い。えっとね、ハクイちゃんだ!」


「あ~、ブンプクに行っちゃったか。いっぱい持ってるよね、ゴメン」



 ハクイさんのプレゼントは可愛いプレゼントボックスに入った<フェアリークッキー>の詰め合わせ。



「ううん、全然そんなことないよ~~。嬉しい~~! ハクイちゃんありがとね~~!」



 このお菓子は妖精のダンジョンで手に入るアイテムで、食べると一定時間バフがかかる。そんなにレアなアイテムではないけど食べたら無くなってしまうので需要も多いし見た目も可愛い。


 でも実はこのプレゼントの本命は箱の方で、同じく妖精のダンジョンで手に入る<プレゼントボックス>は絵柄がランダムなんじゃないかと言うくらい沢山ある。アイテムコレクターであるブンプクさんにも嬉しいプレゼントだろう。


 そもそも<骨董屋>のブンプクさんが持ってない物ってあんまりないだろうしね。



「んじゃ、猫さんどうぞー」


「どれどれ。んにゃ、ショウショウだにゃ」



 ショウショウはショウスケさんのことだ。猫さんは独自のあだ名で人を呼ぶ。ちなみに他のメンバーはバンバン、はっきー、ぶんぶー、ごりん。さて誰が誰だかわかるだろうか。


 付け加えると猫さんは気分で呼び方を変えてくるのであだ名これだけに留まらない。私のことは基本「こっひー」だけど日によっては「なっちー」だったりする。なっちーが自分だと判断するのは難しい。師匠と三人しかいなかったからかろうじて分かったけど。ちなみに猫さんが師匠を呼ぶ呼び方は何通りもあってもはや原型を保ってない物もある。聞いたことのない名前が出てきたら大体師匠のことだ。



「はい。ナナシさん、こちらになります。お納めください」



 ショウスケさんの言うナナシさんと言うのは猫さんのこと。いや、猫さんの本名はナナシさんなんだけどね。猫さんはナナシの野良の猫さんだからね。名前はヒトツモナイノニャ。



「ほっほう! これは見事だにゃあ!」



 猫さんはショウスケさんから手渡されたプレゼントをみんなに見えるように空に掲げた。それは穂先から柄の末端までが青く透き通って見えるハルバードだった。


 凄い。こんなのもあるんだ。


 モンスターのドロップする装備品には稀に色違いが出現する。色自体にステータス的な意味はないのだけど、ゲームの世界では色違いというのはそれだけで高級品の扱いとなる。


 ショウスケさんの持ってきたハルバードにはかかっている魔法効果はないけれど、まるで宝石を加工して作った美術品のようだ。装飾品としての価値はかなり高いだろう。ツンデレ猫さんも納得の逸品である。



「青一色か。これは珍しいな」


「綺麗ね~」



 ヴァンクさんとハクイさんからも賞賛の声が上がる。



「ふふ~~。凄いでしょ~~?」



 ショウスケさんのプレゼントの評判がいいことに、ショウスケさんの彼女のブンプクさんも得意げである。なお、ブンプクさんにはそれが惚気であると言う自覚はない。



「んじゃ、最後はショウスケさん」



 正確には最後は師匠なんだけど、クジを作った師匠は全員が引いた後だ。



「はい。あのマスター、あと残ってるのはナナシさんとブンプクですよね?」


「えーと? うん。そうだね」


「ですと、あの申し訳ないんですが」


「ん? あ、あ~。ええと、ショウスケさんが猫さんのを受け取るでいいかな?」


「はい、それでお願いします」



 おお、なるほど。つまりブンプクさんのプレゼントをショウスケさんが受け取ると



「そうだね~~。ショウスケ君中身知ってるからつまらないもんね~~」



 うん。そう言うことですね。一緒に選んだのかしら。でもブンプクさん、ショウスケさんは口に出すのが恥ずかしくて遠回しに伝えようと頑張ってたんですよ。



「ショウスケ君には別にあげるしね~~」



 お~、そうなんですね~~。


 なおブンプクさんにはこれが惚気だと言う自覚は無い。無いのだ。



「んじゃこれだにゃ。ブンプクのプレゼントにはいろんな意味で及ばねーだろーが受け取れにゃ」


「すいません」


「なんで謝ったんだにゃ!? ショウスケおめー、なんかブンプクに似てきてねーかにゃ?」


「そ、そうでしょうか」


「にゃあ! 喜んでんじゃねーにゃ!」



 そういう猫さんのプレゼントも、しかしどうして豪華なものだった。


 ガダニエオオナマズいう大ナマズの大きいの。


 何言ってるかわからないかもしれない。しかし。


 ガダニエの町の近郊で釣れるガダニエオオナマズは大きいものでは三メートルという巨大なナマズである。でも猫さんが持ってきたのは何故か五メートルくらいあるのでこの言い方は正しい。


 五メートルを超える巨大魚がバックに入ってしまうのは数十個あるネオデの七不思議のひとつだ。剣や槍、プレートメイル一式だって入ってしまうんだからよく考えれば不思議でも何でもないところがこの七不思議の不思議なところ。


 ガダニエオオナマズは雷抵抗の素材が採れる貴重なお魚だ。これも鉱石と同じく捌いて加工した素材状態ならかさばらないのだけど、その辺は猫さんの漢の浪漫というやつだ。見栄えも魚のままの方がいい。身は食べれるし。



「んじゃ、最後ブンプクさんのプレゼントを俺が頂きますよ」



 クジを作った師匠が残ったプレゼントを受け取る。



「はいは~~い。じゃあナゴミヤ君、メリークリスマス~~!」



 ブンプクさんのプレゼントは流石<骨董屋>のブンプクさんと言うべきか。



<陶器の水差し> だった。



 ただの陶器製の水差しなのだけど、これは本来某NPC貴族の屋敷に置かれている美術品であり手に入れることはできない。


 ただ昔のイベントでキーアイテムとして使用されたことがあり、イベントが終わった今でもごく少数がこの世界に残されているのである。


 こういう「今は手に入らないアイテム」はネオデの世界にいくつもあって、<レアアイテム>と呼ばれる。レアリティーや見た目によって価値は変わってくるが、いずれもマニアにとっては喉から手が出るほど欲しいものばかり。そしてこのマニアたちの頂点に立つのがブンプクさんその人なのだ。


 私などではレアアイテムのうちどれの価値が高いのかもわからないが、<水差し>が見た目もかっこよく相当な貴重品であると言うことぐらいは知っている。貴族様のお屋敷に行ってみて持って帰れないかと試してみたことも、まあ、ある。取れるわけないよね。人のものを盗ったら泥棒だ。



「こ、これは流石に貰えないんじゃない?」



 師匠は水差しを前によだれを垂らしながらもなんとか欲望に抗おうとしている。でも「流石に貰えない」と断るんじゃなくて「貰えないんじゃない?」と言ってる当たりに理性の劣勢が伺えますね。



「あと三つあるからだいじょぶだよ~~。ナゴミヤ君なら水差しも喜ぶよ~~」


「いや三つて」



 師匠がぼそりとつぶやくけど、でも他のみんな同じ気持ちだったと思う。だって水差しだよ?レアアイテムだよ? 三つて。



「ありがとうブンプクさん。大事にするよ。どこに飾ろっかな~」



 師匠はふんふんと鼻歌をうたう。大変ご機嫌の様子だ。



「師匠師匠、私の部屋とかどうですかね?」



 冗談で言ってみただけなのにぱーんと雷魔法が飛んできた。その上師匠は両手を上げてシャアアアアアー!!と威嚇してくる。



「冗談です。取りません、取りませんから」



 それでも師匠はしゃああと威嚇を続けてきた。よっぽど大事らしい。


 しかしこうしてみるとやっぱり私の持ってきたプレゼントは地味になってしまうな。来年は私もこれは凄いっていうの用意したいなあ。



「んではこの後……といってももう大分遅いか」



 みんなで何処かに狩りにでも、と言うつもりだったんだろう。でも師匠の言う通りかなり遅い時間になってきた。ここから先遊んでいられるのは明日の朝が遅い師匠と私くらいのもんである。



「そうね。すこし荷物整理したら落ちるわ。楽しかった。ありがと」


「ごめんよ、もう少し早く帰ってこられればいいんだけど。どうにも忙しくてね」



 師匠は申し訳なさそうにハクイさんに言うけれど、リアル優先はこのギルド唯一の暗黙の了解によるルールだ。師匠に否はない。



「気にすんじゃねえ。どのみちお前がいなかったらこうやって集まることもねえんだ」


「いや、気にすれにゃ。 もっと早く帰ってこねーとなんもできねーだろーがにゃ」



 ヴァンクさんと猫さんもそれぞれの言葉で師匠を励まして、師匠はそれに「うん、ありがと」と答えた。なんだかんだ愛されている師匠である。


 師匠と二人残ることになる私は改めてお手伝いをアピールしてみることにした。



「師匠、じゃあ一緒に染料集めですね! 頑張りましょう!」


「コヒナさん、俺に付き合わなくてもいいんだよ? したいことあるならそっち優先してよ」



 むう。


 またさっきと同じことを言われた。私のしたいことと言うならお手伝いがしたいのだ。誰がしたくないのに自分で使うわけでもない染料集めをするものか。したくないことをするのはリアルだけで十分だ。



「いつもお世話になってるんですから、手伝わせてくださいよー」


「いや、そのね。お世話になってると言うのは考えなくていいから。そろそろ気づいてると思うけど、俺何もできないからさ」



 むう。師匠今日はめんどくさモードだな。時々あるのだ。お仕事で嫌なことでもあったかな?


 イベント企画して、準備して、私の面倒を見て。何もできないなんてこと絶対にないのに。



「おめーな、こっひーが嫌々手伝ってると思ってるのかにゃ?」



 お、いいぞいいぞ。猫さんもっと言ってやってくださいにゃ。


 猫さんの言葉にヴァンクさんやハクイさんも同調してくれるけど、師匠の態度は依然頑なだった。



「いや、そういうわけじゃないんだけど。でもクリスマスに服屋やるのは俺が好きでやってることだからさー。なんか申し訳ないっていうか」



 クリスマスもハロウィンの時と同じく店員さんをやるつもりでいた私はちょっとショックを受ける。



「えー、師匠、私クリスマスもお手伝いしますよー!」


「えええっ? クリスマスだよ、コヒナさんログインするの? 」


「しますよ! 他にすることもないですよ!」



 何を言わせるのだ。自分だってログインするくせに。



「いやでも、クリスマスってハロウィンの時ほど売れないよ? 服の種類も少ないし」



 あんまり楽しくないかもしれないよ、というニュアンスを込めて、師匠はお得意の予防線を張ってくる。


 ううん。私は売れなくても楽しいんだけどなあ。ハロウィンの時は売り物の服を着てマネキン役をした。それを見た人が可愛いと言って買ってくれるのはなかなかやりがいのあるお仕事で、師匠も喜んでくれてたと思ったんだけどなあ。



「ほんとにおめーは! こっひーがやりたいって言ってんだから一緒にやったらいいだろうにゃあ。わかってるのか? おめーのそのクセ、いらん勘違いされるぞ」



 猫さん、そう言ってくれるのは嬉しいけど言い過ぎも良くないですにゃ。いつものツンデレとは違う感じ。まるで本気で怒っているような。


 ちょっと怖い。



「いや、でも今回はつまらないかもしれないし」



 師匠がぼそっと返した言葉に猫さんがさらに何か言おうとした時。



「ねえねえ、私、凄くいいこと考えちゃった~~」



 悪くなりかけた場の空気を完全に無視してブンプクさんが声を上げた。全員の視線がブンプクさんに集まる。



「コヒナちゃんもナゴミヤ君の横で自分のお店出せばいいんだよ。それならナゴミヤ君も納得でしょ~~?」


「えっ、私がお店ですか?」



 それは考えてなかった。師匠の横で私がお店を出す。それは確かにいいアイデアなのかもしれないけど。



「でも私では商品を用意することが出来ません~~」



 おっと。ブンプクさんにつられて変な語尾になってしまった。



「商品はいらないよ~~。コヒナちゃんにはアレがあるじゃん~~」



 ん? アレ?



「なるほどアレか。いいんじゃねえか?」


「ナゴミーの店より客入りそうだにゃあ」


「そうですね。最初の一人は苦労しそうですが、実際やってるのを見れば人は集まりそうです」



 ヴァンクさん、猫さん、ショウスケさんも頷いている。


 ん? ん? 何のお話?


 私何か持ってたっけ?


 微妙なマジックアイテムとか捨てられないがらくたならいっぱいあるけど。あれはきっと値段が付かないしなあ。手持ちのアイテムで売れるものと考えをめぐらす私をほったらかしに、皆さんの話は進んでいく。




「ふむ。当日はログインしないつもりだったけど、覗いてみてもいいか」


「知らないプレイヤー相手だとちょっと不安だけど、隣にナゴミヤ君いれば安心ね」



 リンゴさんとハクイさんにも何だか分かったらしい。しかも賛成の様子だ。



「うん。面白いかもしれないな。それならサポートは任せて。まあ、コヒナさんがほんとにやるならだけどね」



 さっきまでさんざん渋っていた師匠までが何だか乗り気だ。私の話らしいのに何のことだかわからない。なんだか怖くなってくる。



「あの、その。何のお店でしょう?」



 勇気を出して言葉に出してみた問いに、ブンプクさんが答えてくれた。



「決まってるじゃん~~。占い屋さんだよ~~!」


ありがとうございました。


次回はクリスマス当日のお話になるのですが、クリスマスに間に合ったらいいなあ。

余裕のつもりだったんですけどね。


また見に来ていただけたらとても嬉しいです!

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