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 キャット・ザ・チャリオット4

いらっしゃいませ!

間が空いてしまい申し訳ありません。


お知らせにも書きましたが投稿直前でデータが飛んでしまいました。

書き直したら6000字だったのが9000字になってしまいました、


少々長くなりますが、どうぞよろしくお願いします。

「TERESIA!」


 私たち三人は各々封印の合言葉を唱え、第四階層へと転移した。



 Teresia。


 テレジア、あるいはテレサ。


 その名前はこの世界、<ユノ=バルスム>のあちこちで見かけられる。




 第四階層の奥に住む悪魔 <テレジア> は美しい女性の姿をしたモンスターだった。


 蝙蝠の羽、ねじ曲がった角、ピンク色の髪と真っ赤な瞳。


 周囲にいる女性型の悪魔、<サキュバス>達の女王といった風格だ。


 布面積の少ない煽情的な服に包まれた艶やかな肢体には、光る幾何学模様が鎖のように絡みついている。


 その姿は。


 端的に言って、えっちだ。



『アレが第四階層のぶっこわれモンスターにして、<ネオデ>好きなモンスターランキングでは常にナンバー1の、悪魔<テレジア>さんだよ』



 ふうん、そうですか。師匠はああいうのがいいんですね。


 姿隠しの魔法に守られて、私たち三人は扉の窓からテレジアさんのいる部屋を覗き込んでいた。


 近づいてくる<レッサーデーモン>は姿隠しの魔法を感知できるところに来る前に猫さんが瞬殺する。


 もっと強力な<グレーターデーモン>はクライで引きつけながら倒してくれる。


 絶対手を出してはいけない、と事前にきつく言われていた。グレーターデーモンはクライの影響下でも急にターゲットを変えて襲ってくるのだそうだ。


 デーモンでも私がかろうじて戦えたレッサーデーモンとは全然別物。


 恐ろしい姿だと思っていたレッサーデーモンが可愛く見えてくる。長い時間を経ていると感じさせるねじ曲がった角。丸太みたいな太い腕。鋼を思わせる灰色の身体は毛なんだか棘なんだかわからない物で覆われていて剣の刃が立つとは全く思えない。



 そんなグレーターデーモンを猫さんは余裕で倒してしまう。


 でもその猫さんでさえ、<テレジア>を一人で倒すことは難しいらしい。


 扉の向こうに見える女性型の悪魔<テレジア>は第四階層のボスではないのだそうだ。そもそも第四階層にいるのがおかしいような強さで、一番奥の第六階層にいるデーモンロード達と同格かさらに上らしい。


 此処にたどり着くのがやっとの私はその姿を見るのも申し訳ないような存在だ。



「あの悪魔<テレジア>には、彼女が元は人間だった、と言う説があるんだ」



 また師匠の長い話が始まった。



<ディアボ>成り立ちの伝承に曰く。



 男に捨てられた「ある女」が世界を恨んだ。



「こんな世界、滅んでしまえばいい」



 怪しい商人から、全財産をはたいて買った胡散臭い悪魔召喚の書物と、それに記された出鱈目な儀式。


 何処の世界にもある、滑稽な風景。


 だけど、その本の中には一ページだけ、「本物」が混ざっていた。


 結果、世界の壁に大きな穴が開き、異世界より大量の悪魔たちが流れ込んだ。


 ダンジョン<ディアボ>の真の姿は、当時の勇者たちによって作られた多重封印結界である。


 ここまでがさっき師匠がしてくれたディアボの成り立ちのお話だ。師匠や私が拠点としている<マディア>の町の大図書館にある本に記されているのだと言う。


 このお話に、事件の引き金となった女の人の名前は出てこない。



 でもマディアの南にある穀倉地帯の町<アウグリウム>に、よく似た話が伝わっていて、そこにはテレジアの名が記されている。


 「テレジア」という女の人が振られて悪魔を呼びだそうとしたところまでは一緒。


 でもアウグリウムのお話では呼び出そうとした理由がちょっと違っていて、世界を滅ぼそうとしたわけではなくて、その人に振りむいて欲しいがために悪魔と契約して美しい姿を手に入れようとしたのだ、となっている。


 振られた腹いせに世界を滅ぼそうとした、等と言うよりは綺麗になって振り向いて欲しかったと言う方がよっぽどしっくりくる。


 なるほど、これは同じお話をを違う解釈で見たのだな、と納得してしまいそうになる。ディアボを作ったのはテレジアなんだ、と。


 さらにこの話を裏付けるように、ディアボ4階には「テレジア」と同名の美しい女性の姿をした悪魔が住み着いているのだ。




 ところが、場所によって、テレジアについて全く別のお話が伝わっている所もあるのだと言う。


 マディアから見て南東の方角。プストニ砂漠と言う広大な砂漠を超えたさらにずっと先にある町、「ガダニエ」。


「水の町ガダニエ」は砂漠を超えてやって来た「勇者ロバート」という人が作ったとされる町で、ここには、テレジアとよく似た名前の「テレサ」と言う人が出てくる伝説が伝わっている。



 ユノ=バルスムの神様と言えばボナさんで、ボナさん教の第一人者と言えばユノ=バルスム王その人だ。


 ファンタジーの世界であるからしてボナさんはいわゆる「生ける神」だから、政教一致は当然だろう。



 でも、昔々、その昔。


 ボナさんが物心つく前の、「とある国」でのお話だ。


 現在のユノ=バルサムには国と言う概念がないけど、昔はあったということなんだろう。


 その当時も「神様」と言う概念はあって、神様を祭る大きな宗教団体があったそうだ。


 彼らが祭っていた神様の名前ももうわからないけれど、伝説ではその宗教団体のことを単に「教会」と称している。教会には魔法を使える人がいて、モンスター退治をしたり病気やけがの治療をしたりしていたけど、伝説の中では高額の謝礼金をふんだくる悪い組織として書かれている。


 その「ある国」には王様がいた。王様と教会はたいそう仲が悪かったらしい。


 テレサさんはそんな国で生まれた庶民というか一般ご家庭の人だったようなのだけど、魔法が使えて貧しい人にも無償で治療を行っていた。そのうち人気が出て来て「聖女テレサ」なんて呼ばれたりしたものだから、教会からは疎まれていたようだ。


 テレサさんにはマーティンさんという恋人がいた。なんとこの国の王子様。王子マーティンはモンスター退治で有名だったんだけど、一度大怪我をしてしまってその時テレサさんに助けられたというのが二人のなれそめである。


 素敵な話だが教会からすれば実に面白くない二人だったろう。



 教会はモンスター退治をしていた。


 その頃には「悪魔」というモンスターが突然町の中に現れて暴れ出すということが度々あった。人がいきなり悪魔になった、なんて噂もあったそうだ。教会が退治していたのは主にこの「悪魔」と言うモンスターだ。


 教会は彼らの神のむにゃむにゃで悪魔の出現をある程度予測できたらしい。できないこともあった、ということだ。できないのなら仕方がないのだけど、教会が予測できないのは教会にとって都合の悪い人が襲われる時だったというのは不思議だと言うべきか、ああなるほどと言うべきか。


 要は教会が悪魔という物を呼び出しては都合よく使っていた、ということだ。


 しかもそれをやりすぎたんだか失敗したんだかで、とんでもない悪魔を呼びだしてしまった。


 何と六体の魔王である。この魔王と言うのはボナさんに匹敵する存在だと言うのだからまさに世界の危機だ。


 教会はやらかしちゃったことを隠していて、王家も気が付いていたんだけどそれを追及している場合ではなくて。とりあえず手を組んで魔王をどうにかしなくてはいけなかった。


 この六体の魔王と戦ったのが六人の勇者で、王子マーティンと聖女テレサ、それにマーティンに仕える騎士ハンス、騎士ロバート、騎士アルバート。教会からは司祭ハルトマ。


 伝説によればこの六人が魔王とその軍勢を打ち負かし、自分たちの名前を封印としてどんどん元の世界に追いやっていったというのだから、なんとも凄い人達だ。


 で、最後の最後。


 騎士アルバートの死と言う大きな犠牲を払いつつも六体目の魔王を倒してマーティンの名の封印を施したところで。


 案の定、司祭ハルトマが裏切った。


 疲弊し、油断していたマーティンとハンスを殺害し、テレサに呪いを掛けて逃走したのだ。


 この呪いと言うのが教会の秘法で、大きな願いを持った人にそれを叶える力を与える代わりに悪魔にしてしまうという物だった。


 本来ならば聖女テレサに呪いなんか効かないんだろうけど、目の前で恋人を殺されたテレサは、呪いを受け入れてしまう。


 もちろん呪いなんかで死者の蘇生は叶わない。


 ならばせめて、私から彼を奪った者達にその報いを。


 場所はこの世界と悪魔達の住む世界の境目。テレサの願いに答えて現れたのは、七体目の魔王だった。


 魔王と融合したテレサはマーティンとアルバートの封印を受けつつも第四階層でハルトマに追いつき、復讐を果たす。


 さらに地上に出て教会を滅ぼそうとするのだけど、この時点で完全に悪魔になってしまっていた。


 悪魔になってしまったテレサには封印を超えることはできない。


 こうしてテレサはテレサから見て三つ目の封印—自分の名を持つ封印によって封じられることになったのだ。


 ガダニエの町の伝説にはこの物語の「ある国」の名前は記されていないし、ダンジョン<ディアボ>の名前も出てこない。


 そもそも気も遠くなるような昔の話で、本当かどうかもわからない。ただのおとぎ話なのかもしれない。


 でもガダニエは「勇者ロバート」が作ったとされる街。


 奇しくもテレサの物語の中で唯一生き残ったロバートと同名であって、奇しくもディアボ第二階層の封印の言葉「ROBERT」とよく似ている。


 そもそもマディアに伝わるお話ではダンジョンができた理由を説明しているだけで勇者の名前が出てこない。これもおかしな話だ。そこがメインになってもよさそうなのに。




 姿隠しの魔法に隠されながら覗き込む部屋の中。


 数多のサキュバスを従えて悠然と中央に立つ悪魔<テレジア>は光る幾何学的な紋様で束縛された美しい女性の姿をしていた。


 ガダニエの伝説そのままに。



『じゃあ、テレサさんは世界を救った英雄なのに、教会がお話を捻じ曲げて悪者にしたってことですか!?』



 師匠の長いお話のあと、私は湧き上がってきた怒りをどうしていいかわからずにとりあえず師匠にぶつけてみた。



『いやいや、どっちかわかんないってことね』


『むう』



 その辺りはっきりして欲しい。



『こっひー、いい反応するにゃあ』


『でしょー?』


『でしょー、じゃないです!』


『あんまいい反応してると、話の長い変人に延々この世界のこと語られるからにゃ。きーつけるんだにゃ』


『えー、そんな奴がいるのか―。それはうざいなあー』


『おめーの事だにゃ。自覚すれにゃ』



 姿隠しの魔法は言葉を発したり一定以上の速度で動いたりすると効果が切れてしまう。そのためパーティーチャットでの会話だ。


 モンスターから隠れて内緒話をしてるみたいで面白いんだけど、テレサさんのお話の内容は全然面白くない。許すまじ司祭ハルトマ。



『そんなことよりテレサさんのことですよー!』


『あんま興奮するなにゃ。わかんねーってのが実際のとこにゃ。まだ別の話もあるのにゃ』


『別のお話ですか? ハッピーエンドになるような?』



 それは興味深い。



『あっ、それは俺が話そうと』


『うっせーにゃ。おめーは話がなげーんだにゃ。俺が教えるにゃ』


『はい、猫さんお願いします!』


『ええっ!?』



 師匠の話は面白いけど長いのも本当だ。私は聞いててもいいんだけど、落ちないといけない時間が迫ってるのは師匠なんですよ。



『ハッピーエンドかどうかわかんねーんだがにゃ。ガダニエより遠くの、海渡ったとこにウルザゲライって町があるのにゃ。で、この町はにゃ、マーチンとテレサという二人の旅人が作られた、って伝説があるのにゃ』


『!』



 マーチンさんとテレサさん。これはもうマーティンさんとテレジアさんに違いない。



『じゃあ、二人は脱出してウルザゲライまで逃げて幸せに暮らした、って言うことですか?』


『オレもそう思うのにゃ。でもにゃあ。それだとアイツの説明がつかなくなるのにゃ』



 そう言って猫さんは悪魔<テレジア>を指さした。



『むう』



 テレサさんが逃げのびたのなら、じゃあ、あのテレジアという悪魔は誰なのかってことになる。



『誰かがテレサさんの為に偽物を置いたとか……』


『おおこっひー! ソレにゃ。オレもそう思うのにゃ。 オレの考えでは教会の人物だっていうハルトマがあやしーにゃ。このダンジョンは全部で六階層、封印は五個にゃ。ハルトマの封印はねーのにゃ。教会の奴が自分の名前残さねーとは考えらんねーにゃ?』


『たしかに! その通りだと思います!』


『だろにゃ? オレが思うに、ハルトマは魔王退治の旅の中でテレサに感化されたのにゃ。んで偽物の悪魔を置いて二人を、なんだったら全員を逃がしたのにゃ。実はハルトマって名前も怪しくてにゃ、他の五人の』


『えー、でもそれだと<テレジア>がめちゃくちゃ強いのなんかおかしくない?』



 師匠が熱の入ってきた猫さんの「ハルトマさん実はいい人説」を遮る。



『うっせーにゃ! 今いいとこだったにゃ! んじゃおめーはあのテレジアをどう説明するんだにゃ!』


『うーん、あれはやっぱりテレサさんで、生き残ったロベルトさんがマーティンさんとテレジアさんをしのんで作った物語(フィクション)がウルザゲライに残ってるだけ、とか』



 なんだとう!



『反対です! 解釈違いです!』


『おめーは人の心がねーのかにゃ!』


『くっ、猫にっ 。でも俺、悪魔の方の<テレジア>が偽物扱いなのはちょっと納得いかないっていうか。凄い苦労して倒した覚えがあるからなあ』



 偽物でもいいじゃん。悪魔の肩を持つなんてどういう了見なんだ。



『そんなにばいんばいんがいいんですか!』


『いや、何言ってんの!?』



 ふんだ。師匠のむっつりすけべ。


 断固、テレジアさんはなんかかんかあってテレサさんとして幸せになったのだ。マーチンさんと一緒に。経緯はよくわかんないけど異論は認めない。



『人として問題があるなごみーの意見は置いといてにゃ。テレジアについてはそれぞれ自分で納得いくように答え持ってるやつが多いのにゃ。こっひーも好きに解釈したらいいにゃ』


『本当に公式の見解がないんですね』



 あるいはあるとしても伝えていないのか。素敵なお話があって幸せになってくれるのも大歓迎だけど、こんな風に過去の物語の解釈に幅を持たせてくれると言うのも面白いのかもしれない。



『じゃああれはテレジアさんではなくて、テレジアさんの心意気に打たれた七番目の魔王、と言うのはどうでしょう』



 呪いによって呼び出されてテレジアさんに取り付いたけど、かくかくしかじかで離れてテレジアさんとマーティンさんを助けることになった、みたいな。



『ほう、悪くねーにゃ』


『あー、それはいいかも』



 これならテレサさんは幸せになってるし、七番目の魔王である悪魔テレジアが強いことの説明もつく。第七魔王はテレサさんには優しかったけどそれとこれはまた別の話、として未だにこの世界への侵攻を諦めてない人類の敵としても申し分ない。


 ばいんぼいんに魅了されてしまった師匠も納得だろう。



『よし。テレジアさんも見れたしこのへんでずらかろう。俺、時間ヤバい』


『おめーの話がなげーからだろーがにゃ』



 師匠の開いたゲートにかけ込みディアボを脱出。最初が私、次に猫さん。殿(しんがり)はゲートの魔法を使える師匠。


 ゲートの先は師匠の家だった。最後に出てきた師匠は「やっべえ、まじでやべえ、寝る!」とだけ言ってすぐにログアウトしていった。



「なごみー、明日はええんだろうにゃ」


「悪いことをしてしまいました」


「気にすんなにゃ。じごーじとくだにゃ」


「いつもお世話になってしまってますからねー。師匠もやりたいことあるだろうに、付き合わせてしまって」


「そこは心配しなくていいだろうにゃ」


「そうですか?」



 実は心配してるふりしてるだけだったりもするんだけど。いや、正確に言えば心配してないってわけじゃないんだけど、遊んで欲しいの方が勝つのだ。



「なごみ―は変人だにゃ。一人でいる時にやってるのは羊の毛だの妖蚕のまゆだの集めたり、ストラケルタ捕まえて売ったりにゃ」



 そう言えば最初に会ったのは羊さんの群れの中だった。きっと師匠も羊さんを探しに来ていたのだろう。全部剥いじゃって悪いことしたなあ。ストラケルタってなんだろう。聞いたことある気がする。



「人が集まれば狩りにも行くけどにゃ。なごみーは一人じゃ狩りできないからにゃあ」


「やっぱりそうなんですか? ほんとは強いのに隠してるとかじゃなくて?」


「弟子の夢を砕くようで申し訳ねーが、隠してねーにゃ。オレのスキル構成もめずらしいっちゃ珍しいがにゃ。なごみーは異状にゃ。世捨て人にゃ。自分でゲームやる気がねーんだにゃ」


「……」


「ネオデはソロでプレイできるようにスキル組むのが普通だにゃ。そりゃ大人数でパーティー組めばつええにゃ。でもそれはソロが集まったってだけにゃ。回復もバフも本来自分を守る手段だにゃ。なのにあいつのはそればっかだにゃ」



 確かに師匠が教えてくれるスキル構成も、一人でも楽しめるようにというのを前提にしている。私としては一緒に遊んでもらった方が楽しいのでついつい師匠を探してしまうけどね。



「なぜ師匠はそんなスキル構成にしているんでしょう?」



 ずっと疑問だったこと。猫さんなら知っているかもと思ったけど。



「わかんねーにゃ。聞いてみれにゃ。まあ好きでやってんだろうにゃ。スキルのことも、羊の毛のこともにゃ」



 羊さんの毛を刈るのは確かに楽しかったけど。



「狩りが嫌いと言うわけではないのでしょうか」


「にゃにゃ、それは無いと思うにゃ。メンツ揃えばオレやギルドの奴らと狩りは行くにゃ」


「ギルド? 師匠ギルド入ってるんですか?」



 ギルドと言えばネオデを始めた日の翌日にギルドに勧誘されたっけ。その後ギルドについては師匠は何も言ってなかったけど。むう。入ってるなら誘ってくれればいいのに。



「にゃにゃ? 入ってるってか、なごみーはギルドマスターだにゃ。ほんとに知らなかったにゃ?」


「ええっ、そうなんですか!?」



 なんで教えてくれなかったんだろう。ちょっとショックだ。



「あーにゃ。なごみーにわりいことしちまったにゃあ。念のため言っておくと、こっひーをギルドに入れたくないとかじゃねえにゃ。逆にゃ。なごみー、自分から入れとは言わねえにゃ。入りたいならこっひーから言えにゃ」


「むう? どういうことですか?」


「にゃにゃ、こっひーは大事にされてるってことだにゃ。あとは自分で聞けにゃ」



 良くわからないけど、ショックを受ける必要はないのかな。



「わかりました。聞いてみます!」


「おう。なごみーはいつもわけわかんねーことやって喜んでる変なヤツだけどにゃ。こっひーが来てからは更に生き生きしてるにゃ。こっひーがいない時も次は何をしようとか言ってるにゃ。遠慮はいらねーだろうにゃ」


「そうなんですかっ!」


「お、おう。食い気味だにゃ」



 それはいいことを聞いた。何処か連れて行けと言う度にぶつぶつ言うから遠慮してたのに。いやあんまりしてなかったけど。


 なんだー。師匠、猫さんのこといろいろ言ってたけど自分も一緒じゃん。安心したよ。今後は遠慮なくがんがん遊んでもらうことにしよう。ギルドのことも聞いてみよう。



「ま、なごみーでなくてもにゃ。ネオデは古いゲームだにゃ。ベテランプレイヤーが大勢いて、色々やりつくして、やることなくなってるやつが多いにゃ」


「えっ、こんなにやること多いのに⁉」



 スキルはあげなくちゃいけないし、装備品も揃えないといけない。まだ会ってないモンスターだってたくさんいる。それどころか一か月近く経つのに、この世界にどんな場所があるのかすらわからない。やることが無くなる日なんて来るんだろうか。



「それだにゃ。そーゆーやつがいるとこっちも楽しいもんだにゃ。だから遠慮すんじゃねーにゃ。なごみーいないときはオレにも声かけろにゃ。いる時もたまには声掛けろにゃ」



 猫さんはそう言って私をフレンドに登録してくれた。



「さて、オレもそろそろ落ちるにゃ」



 確かに結構な時間だ。



「あっ、これどうしましょう!」



 先ほどバーゲスト戦で手に入れたマギハットを被って猫さんに見せる。何しろ師匠から初の「お宝」認定が出た初の品物だ。何かいい使い道があるといいんだけど。



「んー、いいものだけどにゃあ。オレやなごみーが使う程ではねーにゃ。記念にこっひーが持ってろにゃ。何だったら売ってもいいにゃ」


「じゃあ、そうさせていただきます!」



 わーい。おったから~、おったから~。よーし、お部屋に飾ろうっと!


 ちなみにお部屋と言うのは私が間借りしている師匠の家の一室のことだ。ネオデ内で自分の家を手に入れるには莫大なお金が掛かる。今の私ではとてもじゃないが手が出ない。



「おう。魔法使いやってみたくなる時もあるかもしれねーにゃ」



 魔法使いかー。


 それも楽しそうだ。師匠の攻撃魔法は弱くてスライムも殺せないけれど、でも追いかけてくる沢山のヘルハウンドを一斉に足止めしたり、私の攻撃の瞬間にバフを合わせてくれたりしているのは見ててかっこいい。ちょっとやってみたくなる。うーん、やっぱりやること多すぎだと思うな。



「んじゃ、お休みだにゃ。今日は楽しかったにゃ。ありがとーにゃ」



 さっきは師匠も猫さんのこと言えないなと思ったけど、でも猫さんはやっぱり師匠の言う通りの人、じゃなかった猫なのかもしれない。


 でもこすられてはかなわないからな。その言葉は口にしないことにしよう。



「ありがとうございました! とても楽しかったです!」


 

 その夜私は夢を見た。


 師匠と猫さんと一緒に七番目の魔王<テレジア>を倒し、テレサさんのお話を聞くという夢だった。残念ながら魔王がなんて言っていたかは覚えてなかったけど。


お読みいただきありがとうございます!


データ飛んだ時のお話。


データ飛ぶ前、テレジアさんのお話ですが、三つ目のテレサ=テレジアと言う所までしか書いてなかったんですね。いつか「テレサ正伝」みたいなの書こうか、くらいで。


そしたらデータが飛んじゃって。


これは魔王テレジアさんのお怒りに触れたのかな、等と考えましてコヒナさんたちに想像を語って貰うことにしました。このお話が無事投稿出来てたらいいんですが。


皆さまでしたらテレジアにどんな物語をつけるのでしょうか。


次回はナゴミヤさんのギルドのお話になる予定です。


また見に来ていただけたらとても嬉しいです。

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