超番外 占い師と屍を従える王 4
遅くなってしまい、申し訳ございません!
コラボ小説の第四話、おとどけです!
メダカさんの「これから」に対して示された占いの結果は
一枚目、≪聖杯の5:正位置≫
二枚目、≪死神:正位置≫
三枚目、≪法王:正位置≫
この三枚のカードが示す、物語は。
「結果が出ました〜。申し上げてもよいですか〜?」
イケメルロン君が気を利かせて席をはずそうとしたけれど、メダカさんがそれを止めた。もしかしたら一緒に聞いて欲しいのかもしれない。お客様の意思に従い、結果をお伝えする。
「一枚目、ここは過去や原因を示します。出たカードは≪聖杯の5:正位置≫。倒れてしまったカップを嘆く人物が描かれたカードです~。倒れてしまったカップに気を取られ、倒れていないカップのことは考えられないようです。ネガティブ思考、失った物や持っていない物を嘆くことを示すカードです~」
メダカさんに思い当たることはあるだろうか。このカードは、残っている二つの聖杯こそ重要なのだけど。
「二枚目は現在、あるいはごく近い未来です。ここには≪死神:正位置≫が出ています~」
「え? ……し、死神?」
メダカさんが驚いている。気持ちはよくわかる。ごく近い未来に≪死神≫の暗示なんて、そこだけ見れば縁起悪いことこの上ない。
でも≪死神≫のカードが暗示するのは悪いことばかりでもないのだ。
「あ〜、いえいえ〜。びっくりしてしまうカードですが、普通は<死>そのものは意味しません。<終わり>を示すカードです」
「終り……ですか?」
メダカさんはまだ不安のようだ。そうだよね。名前だけでこんな不安になるカードなんてそうそうないだろう。
だけど、三枚目のカードを見るに、恐らくこの死神が意味するのは。
「名前の印象は良くないカードですが、周りのカードと合わせて考えるとこの『終わり』は『生まれ変わるための終わり』と解釈できると思います〜。生まれ変わったと実感できるような出来事があるかもしれません~」
何か大きな心境の変化が起こり、生まれ変わったような感覚になる。それが私がこの三枚から想像したストーリー。一枚目が元の自分。二枚目がごく近い未来に訪れる転機。
そして、三枚目がこの先の自分、だ。
三枚目にこのカードがあるからこそ、死神の解釈は生まれ変わりと解釈できる。
「三枚目、未来を示す位置に出ていますのは、≪法王:《ハイエロファント》正位置≫です~」
「≪法王≫?」
そーですよね。≪死神≫みたいなインパクトの強いカードと違って、名前だけじゃ全然ぴんと来ないですよね。海外だとそうでもないのかもしれないけれど。
「常識、広い視点、人との関わり、思いやり。直接に<生きるため>に必要というわけではないですけれど、人として生きる為に必要なことや、それを諭す人、頼れる大人を意味するカードですね〜」
カードの解説をしてみたけれど、メダカさんにはやっぱりピンと来ていないようだった。
「これはメダカさんの未来にこうなるかも知れないという占いですから〜。希望があるってことですよ〜。法王は人との関わり、優しさを意味します。本来ご自身の持つ優しさにも気付く事ができるかも〜」
「優しさ……ですか?」
そう。優しさ、だ。≪法王≫にはいろんな意味がある。でも一つだけ言葉を選べ、と言われたら「優しさ」だろう。他の意味は全部、「優しさ」の言い換えだ。
メダカさんはやっぱりピンとは来ていない様子だったけど、一枚目の≪聖杯の5:正位置≫でまだ手元に残っている「聖杯」はもしかしたら優しさなんじゃないだろうか。
だって、これだけ嫌な思いをして、『メルロンさんのお陰ですぐに助かりましたし』とか『ろくな下調べもせず、ゲームを始めた私も迂闊でした』なんて出てこないと思う。
これは優しさだろう。今めだかさんが抱えているもっと強い感情、例えば≪死神≫のカードの一面である「諦め」みたいなものに包まれているとしても。
嫌なことが積み重なったり、自分の無力さを痛感したりして自分でも忘れてしまっているのかもしれないけれど、この人の本質は≪法王≫なんじゃないだろうか。
「まとめてみますと~、一枚目、過去の位置に出ているのは後悔や嘆きを示すカードです。二枚目の死神はそこからの脱出、まもなく訪れる大きな転機。古い自分を捨てて、新しく生まれ変わった自分と出会う出来事があるかもです〜。三枚目の法王は人との関わり、優しさを意味します。このカードが生まれ変わった後のメダカさんですね~」
「エタリリの世界で…新たなアバターを作る。これは新しい自分ですね。なるほど」
メダカさんはゲームの中の話だと解釈したようだ。もともと、ゲームの中で起きた出来事から始まった占いだし、本人がそう解釈したならそれが正解である可能性は大きい。
イケメルロン君との出会いが転機、みたいな。
でも、ちょっと引っかかることがある。
「そうかもしれません〜。けど、何か特別な意味もあるかもです〜」
「特別な意味?」
「ええ〜。実はこのカードだけ、するりんと私の手元から滑って行ってしまいまして〜」
そう。≪法王≫のカードは私が開く前に、デッキから抜け出して三枚目の位置に納まったのだ。
「スルリン、と?」
あれ、するりん、って変? 通じない? 何が正しいんだろう。つるりん?
「はい~。するりん、と〜」
身振りでデッキからカードが滑り落ちる様子を再現してみるが、ううん。これ、伝わるかなあ。
「それで床にぽとりと〜」
「ポトリ、と?」
あれ、ぽとりも通じない? こういう擬音語とか擬態語って意外と方言多いんだよね。
ううん、ぽとりはどうやったら通じるかな。
考えていたら隣でイケメルロン君がぺい、と地図を一枚捨てた。多分発掘済みのクエスト用の宝の地図だ。流石のイケメルロン君。これなら通じるだろう。
「もしかして、さっき絶叫したのって……」
おお、メダカさん凄い。占い師の素質あるんじゃないだろうか。タロットフレは貴重なんですよ。ご一緒にどうですか。
「はい〜。お恥ずかしながら、机の下に落としたカードを拾う際、頭をぶつけてしまいまして〜」
「えっ、カードが床に落ちるのって不吉な意味じゃ?」
「いえいえ〜。そうとも限りません。こういう場合、何か別の深いメッセージが隠されている可能性もあります〜」
タロットカードのような「偶然」に意味を見出すタイプの占いを卜占という。卜占では「偶然」に意味を見出すわけだから、「偶然」を「偶然」として処理したりはしない。そこには何らかの意味があると捉える。手元からこぼれたタロットにも、占いの段階によって特別な意味があると解釈したり、アドバイスや占いの補足として解釈したり。実際にどう扱うかはその時次第だけど。
それにカード落とすのが不吉なら私は不吉占い師になってしまうからね。そこまでぽとぽと落としたりしているわけでもないけど。たまにですよ、たまに。むしろ大事な時だけです。きっと深い意味があるんです。
そんなわけで、この法王には特別な意味があると思う。ゲームの中だけには納まらない、もっと大きな意味が。
「<法王>にはあらゆる物事の変化、力強く発展させていくっていう意味もあります。前に出たカードも合わせて見ると、何か転換期にメダカさんはおられるのではないでしょうか〜」
手元にないもの、失ってしまったものを嘆いているだけの状態から、生まれ変わるような体験をし、法王の暗示する優しさと強さ、あるいはさらなる何かを手にする。
それが一番しっくりくる解釈だろう。
「……なるほど」
メダカさんはイマイチ納得いっていない様子だ。かなり良い占い結果だと思うんだけどな。
「むう。あまりお役に立てませんでしたか〜?」
「いえ、今の現状は当たっていますしね。ただ、どうしてもその未来に確信が持てないというか。それで戸惑ってしまっていて……」
まあそれは仕方がないことだろう。だからこそ一枚目のカードが≪聖杯の5≫なのだから。
でもその後でメダカさんはこう言ってくれた。
「……そうですね。本当はこのままゲームを止めてしまうつもりだったのですが……もう少し続けてみようと思います」
その言葉に私はほっと胸をなでおろした。
占いの結果がゲームの中のことを意味するのか、リアルのことなのか、あるいはその両方なのか。それは私にはわからない。
でも、ゲームを続けてくれると言ってくれた。ネットゲームの占い師として、とても嬉しいことだ。
「ありがとうございます~。今後ともご贔屓に~」
「こちらこそありがとうございます。あの、おふたりはリアルでもご友人同士なのですか?」
おふたり? 私とイケメルロン君のこと?
「いえ~」
そんな風に見えたかな? でもイケメルロン君とならリアルで遊んでも楽しそうだ。多分年もそんなに離れてないと思うし。もしかしたら私より年上かもしれない。最初はアバターが子供キャラだからもっと若いかと思ってたんだけど、
「なるほど」
メダカさんは私とイケメルロン君を交互に見やって何やら頷いている。
…………?
!
あ! わかっちゃった。ピンときた。メダカさん、イケメルロン君と遊びたいんだな!そうでしょ!
気持ちはわかる。イケメルロン君、イケメンだもんね。イケメルロン君、っていうくらいだからね。よし、それなら。
「これから、メダカさんはどうされるんですか〜?」
「ああ。とりあえず初期の村に戻ろうかと…たぶん、今のレベルならフィールドモンスターに殺されることもないでしょうから」
「実は私たち、これからあるアクセサリーを取りに行こうとしていたんです〜」
「ええ。それはお聞きしました」
「私はわけあって戦闘ができないのですが、もしよろしければ一緒に〜」
我ながら完璧なプランだ。イケメルロン君のイケメン振りを見て貰えば、エタリリをさらに好きになってくれるに違いない。
「……それはいいですね。直接攻撃では役に立ちませんが、魔法であれば遠距離の支援ができますし。多少レベルが上がった今ならば、私も全く役に立たないということもないと思います」
メダカさんはイケメルロン君の方を見てそう言った。やっぱり思った通りだ。占い師やってるくらいだからね。勘の良さには自信がある。
でもイケメルロン君は何やら困った顔をしている。流石に私たち二人を守ってと言うのは無理があるだろうか。
「リザードマンさんは、ウロコがあるから防御力が高いんですよね〜」
「ええ。ガリガリのリザードマンでも、コヒナさんの盾になるぐらいならできますとも」
「あ〜、そんなつもりは〜。それは申し訳ない事です〜」
「いえ、私もメルロンさんに助けられた借りを一刻も早くお返ししたいので」
その気持ちも凄くわかる!
無理そうならここはメダカさんにお譲りするべきだろうか。腕輪は凄く欲しいけれど、奥について話しかけるだけならきっとなんとかできる。
「……と、それは冗談です」
急にメダカさんがそんなことを言う。
「はへ?」
リアルで変な声が出た。
「はへ?」
出来るだけ忠実にキーボードで打ち込む。
「私、明日ちょっと仕事で早いんですよ。ですから、今日はもう落ちなければならないのです」
「え? そうだったんですか?」
リアル事情か。それはいかんともしがたい。残念だけれど、仕方がない。リアルで頑張るからこそ、ここに来れるんだから。
「ですから、メルロンさん。コヒナさんの護衛はあなたに一任せねばなりませんね」
「え? あ、はい……」
メダカさんの突然の提案にイケメルロン君が困惑している。実は私も困惑している。
「なんですか? その返事は? それで彼女を守れるんですか?」
ええと、それは多分大丈夫です。ここより推奨レベル20も高いダンジョン余裕で通り抜けて来たし。そもそもイケメルロン君だし。
「大丈夫です。コヒナさんは僕が守りますから」
お、おう、ノリいいなイケメルロン君。でもそれ、あまり女の子の前でやってはいけないよ? いつか刺されるかもしれないからね。そうでなくても時々心配なとこあるんだから。
「元々そういう予定でしたし」
ごもっともだ。改めて、本当にいつもありがとうございます。
「ということで、私も本腰を入れてレベルアップを致しますので。なるべく早く、メルロンさんより頼りがいのあるタフガイになって戻って参ります」
メダカさんはそんなことを言ってくれた。エタリリを続けることを選んでくれてる気がして嬉しい。
でもイケメルロン君より頼りがいのある、っていうと相当大変ですよ?
タフガイか。イケメルロン君も見た目はタフガイじゃないけどね。可愛い系男子だ。メダカさんがタフガイになったらどんな感じだろう。
蛇の魔術師からもうちょっと太くなって……トカゲの魔術師に……。いやリザードマンなんだからそこはもともとか。ニシキヘビの魔術師とかだろうか。
顔は今のままマッチョになったメダカさんを想像してしまう。魔術師なんだからマッチョでなくてもいい気がするけど。
タフでマッチョな魔術師。蛇みたいなリザードマン族で、名前はメダカさん。
「マッチョなメダカさん……あはははは」
思わず吹き出してしまった。メダカさんとイケメルロン君が怪訝な顔でこちらを見ていた。
「それでは」
「はい〜。またお会いしましょう〜。メダカさんの旅が、幸多きものでありますように~」
こうしてメダカさんは、次の冒険へと向かっていった。
そろそろ私たちも出発だ。
「さて、行きますか!」
「はい~! どうぞよろしくお願いします~」
あ、でもその前に。
「すいません、カード片づけてしまいますね~。少々お待ちを~」
「あ、そうですね。どうぞ」
大事な商売道具である。見た後はしっかりしまっておかなくてはいけない。
場に出ているカードをまとめようとすると、またぱら、ぱらとデッキから二枚のカードが続けざまに落ち、元々出ていた三枚のカードの両脇にまるで寄り添うように並んだ。
一枚目、まるで飛び出すかのように落ちたカードは≪女教皇≫。場に出ている三枚のカードの、私から見て右側に。
≪女教皇≫は≪法王≫の女性版。法王と同じ、神様の一番弟子。
二枚目のカードは一枚目よりは幾分控えめに、私から見て左側に。
≪月≫のカード。曖昧と、夜を意味する妖しのカード。
手元から離れて場に出たカードには特別な意味がある。ならばこの二枚にも何か意味があるのだろうか。
だって本当にカードの方から出て言ったような気がした。いえ、いいわけではなくてですね。
五枚になったカードをしげしげと眺めていたら、つるりと手が滑ってデッキそのものを取り落としてしまった。
いや、私がおっちょこちょい占い師だから、と言うわけではなくてですね。こう、ばらばら~っと。
あ、はいすいません。気を付けます。
先の三枚と二枚の周りに、ばらばらとたくさんのカードが広がっている。
戦車、吊られた男、貨幣の2,聖杯の9,貨幣の6、聖杯の6、剣の従者、貨幣の女王。向きもバラバラ。正位置、逆位置、表、裏。こうなってしまっては流石に解釈のしようがない。
それに伝えるべきメダカさんももう落ちてしまっている。また会えたら、心当たりがあるか聞いてみるのもいいな。続けてくれるって言っていた。そんな未来だってあるだろう。
今度こそしっかりとカードをまとめて箱へとしまう。
さて、こんどこそ行きますか。
おっと、忘れるところだった。出発の前にもう一つだけ。
「メルロンさん、こちらをどうぞ~」
私はイケメルロン君に、上手に焼けたコヒナ印のバーベキュー肉の、二本のうちの一本を差し出した。
「これは……もしかしてコヒナさんが……。あ、いえ大丈夫です。ごゆっくり食べて下さい」
イケメルロン君は何か言いかけたけど、私が残りのもう一本を食べているのに気が付いてやめたみたいだ。
すいません。なんか食い意地が張ってるみたいで申し訳ないんですが、そういうわけじゃないんです。ただおいしそうに見えただけなんです。
「あはは。おいしそうに食べますね。何だかもったいない気もしますが、僕もいただいてしまおうかな」
そうでしょう? おいしそうでしょう? どうぞどうぞ、召し上がれ。
口の中がお肉でいっぱいの私は首だけをこくこくと振る。もったいないようなものでもない。始めたばかりのお料理スキルでできるメニューなど、バフがかかると言っても微々たるものだ。
間もなく始まる冒険、私にとっては超高難易度の、イケメルロン君にとっては超低難易度のダンジョン攻略に向けて、私たちはしばし、無言でお肉を頬張った。
***
<隠遁所>の最奥で予言者さんに会えた私たちは無事に腕輪を手に入れ、ダージールの町へと戻った。
いつも私がお店を出しているNPCの裁縫屋さんの前にギンエイさんとカラムさんがいた。
「お、コヒナさんおかえり~。メルロン君こんにちは」
カラムさんはごつごつ筋肉、スキンヘットの大男さん。
こう見えて半巨人族ではなく人間族。マーソー団というギルドを率いる団長さん。筋肉が好き。前に何故半巨人族を選ばなかったのか聞いてみたことがあるのだけれど「人間族の方が筋肉的に美しい」というお返事だったのできっとそういう物なのだろう。
見た目によらず優しいしゃべり方をする人なのだけれど、ギンエイさんに言わせるとそれは私と一緒にいる時だけらしい。私から見るとギンエイさんと一緒にいる時だけ男っぽいしゃべり方になるのだけどな。
カラムさんとギンエイさんはとても仲がいい。お二人とも大変強くて昔はつるんでぶいぶいいわせていたそうだけど、今はいろいろあって別々の道を歩いている。
「おお、お二人とも、お帰りなさいませ。首尾はいかがでしたかな?」
「ただいまです~。見て下さい~」
じゃじゃ~ん。
ギンエイさんに言われ、私は右手を挙げて戦利品の<占星術師の腕輪>を見せつける。
「おお~、いいね~」
「これはこれは。大変よくお似合いでございますな」
「えへへ~」
そうでしょうそうでしょう。
三連の腕輪は身体が小さいこのアバターでは腕も短いのであまり映えないのではないかと心配だったけど、全然そんなことは無かった。大変可愛い。腕を動かすとちゃらちゃらなるのも良い。
手に入れた時イケメルロン君も付けてみたけど弓を引くときに邪魔になりそうだ、と言う理由で外してしまった。凄く似合っていたんだけどね。
「道中は何事もなく?」
「はい~。メルロンさんのお陰で私たちは~。ただ、途中でお会いした方が、大変な目にあったとのお話でした~」
「大変な目、ですか? と申しますと」
イケメルロン君がウィスクの町であったリザードマン族の魔術師、メダカさんのことを伝える。
「ああ、そのバグは存じてはおりましたが、よもやそのような……。メダカ殿、でしたか。大変お気の毒でしたな」
「気の毒でしたな、だと? おいギンエイ」
ギンエイさんの返事を聞いたカラムさんの気配が胡乱なものになる。凄く優しい人なんだけど、カラムさんの見た目だと、怒っているとやっぱりちょっと怖い。
「ああ、まあそう焦るな」
ギンエイさんがそんなカラムさんを宥める。でもカラムさんは怒ったままだ。
「焦るなだと? お前、わかってるのか。一歩間違えば同じ目にあったのはコヒナさんだぞ」
え、怒りポイントそこ?
ええと、大変ありがたいのですが……。
「ああ、わかっているとも。だから焦るなといっているんだ。そもそも、お前は一体何をどうするつもりなんだ」
「だから、俺たちでパトロールするとかだな」
「パトロールで捨てアカなんか捕まえたって仕方ないだろう」
「だから、その辺をお前が何とかするんだろうが!」
「無茶苦茶なこと言ってるぞ。大体お前は……。いや、いい。どうせ必要になる。とりあえず似たような手口を上げている動画を探して送ってくれ。多いほどいい。あとは、SNSで被害の訴えがあればその情報も」
「よし。精査はいらないんだな。ならギルドのメンバーにも手伝って貰う」
「ああ、片っ端からで構わない。大事なのは量だ。精査はこっちでやる。あとはどうやって、だが……よし。うちのイキのいいのを使うか。やるなら徹底的に、だ」
わ、わあ。
二人の間で何やらウルトラスーパー大作戦がくみ上げられていく。
うちのイキのいいのって。ええと、ギンエイさん、うちって劇団だよね? 他の何かじゃないよね?
どこの誰かは知らないし、気の毒に、とも思えないけれど、きっととんでもない人たちを敵に回したぞ。
事の成り行きに顔を見合わせる私とイケメルロン君を見て、ギンエイさんが笑った。
「ほほほ、メルロン君もコヒナ殿も、ご心配には及びませぬ。リアルではどうだか知りませんがな。この世界では悪意よりも善意の方が強いので御座いますよ」
その言い回しに、私は一緒に冒険をした無敵の女エルフさんを思い出した。
そう言えばあの人もギンエイさんと同じ吟遊詩人さんだったっけ。
そんなわけで、もう一話、おつきあいください。
次回がコラボ企画「占い師と屍を統べる王」の最終話になります
世の中に蔓延る病のせいでお仕事がたてこみ、
執筆予定が大幅にずれてしまいました。申し訳ございません。
コラボ最終話は27日中にはアップできると思います。
見に来ていただけたら、とても嬉しいです。




