超番外 占い師と屍を従える王 1
このお話は、所謂「コラボ小説」です。
「小説家になろう」に掲載されている小説「屍従王」を読んだ際に私が大変感動し、作者のシギさん宛に「このお話の主人公をタロットで見たらこんな風になります」と言うお話を送り付ました。
その内容をなんと作者のシギさんが「屍従王」の挿話、「屍従王と世界渡りの占い師」として小説にしてくれました。
このお話「占い師と屍を従える王」はシギさんにご許可を頂き、「屍従王と世界渡りの占い師」をコヒナさん側の視点で書いたものです。
ですので物語の性質上、会話文などは「屍従王と世界渡りの占い師」の内容をそのまま使わせていただいております。
「屍従王」をお読みで当店のご来店が初めてのお客様へ
このお話単独でも読めるように書きました。読んでいただけたら嬉しいです。
また、「屍従王」のファンの方におかれましては、私「琴葉 刀火」の解釈は納得がいかない、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
ひとえに私の力不足ではございますが、
どうか当たるもアルカナ、当たらぬもアルカナ、あるいは何方かの髪型のせいと目をつぶって楽しんでいただければ幸いです。
いつも当店にお越しいただいている皆様へ
コヒナさんやダージルのメンバーがやっていることはいつもと変わりません。懐かしいお話も出てまいりますので、いつも通りに読んでいただき、楽しんでいただけたらとても嬉しいです。
最後に
シギさん、本当にありがとうございます!
こんなお話を書く機会を頂けたこと、心より感謝申し上げます。
「屍従王」 https://ncode.syosetu.com/n3424ha/
「コヒナ殿は、アンデットモンスターはどうですかな?」
「アンデットモンスターですか~? どう、と言いますと~?」
ギンエイさんの言葉に私は首をかしげる。
<エターナルリリック>、略して<エタリリ>と呼ばれる人気MMORPGの世界の中でも最もにぎわう街、<ダージール>。
私はそこでプレイヤーさん相手に占い屋さんを営んでいる。
アバターはエルフ族という、人間族の子供位の大きさの、妖精のような種族。緑のマギハットに緑のドレス、いくつもつけたアクセサリーと見た目は派手な格好だがレベルは11。本来ならばこの町にいるのが申し訳ないような弱さだ。
声をかけてくれたギンエイさんはマーフォーク族。マーフォーク族はいわゆる人魚さん。足はちゃんとあるけれど。人間族と同じくらいの大きさで、体の所々に見えるヒレときらきら輝く鱗が特徴の種族だ。
二角帽子とスマートな顔に後からつけた感たっぷりの髭がギンエイさんのチャームポイント。チャームポイントと言いつつも髭は日によってあったりなかったりするので恐らく付け髭だが、凄く伸びるのが早い人だという可能性も否定できない。
ギンエイさんは私と同系統の変わり者で、この<エタリリ>の世界の中に「ギンエイ座」という劇団を立ち上げてしまったとんでもない人だ。私と違うのはギンエイさんがとても強いということで、過去には<エタリリ>の攻略動画でも相当な人気を誇っていたらしい。
ワタクシはとっくに隠居しました、みたいな顔をしているが、きっと今でも強いんだろうと思う。ギンエイさんのことを先生って呼ぶ人もいるくらいだからね。
ギンエイ座は大変な人気なので座長のギンエイさんは大変忙しいはずなのだが、ちょくちょく抜け出してきては私の話し相手になってくれる。
私としてはありがたい半面、心配にもなってしまう。
ギンエイさんに言わせると向こうにも同じ姿の「二号機」がいるので大丈夫、と言う話になる。冗談なのだろうけど、せめて向こうに置いてくるのを一号機にすべきではないだろうか。
「コヒナ殿はアンデットモンスター、ことにスケルトン等は苦手ではございませんかな?」
ギンエイさんの言葉に私はますます首をひねる。
「スケルトンですか~? いえ、特には~」
スケルトンが苦手ではファンタジー系のゲームはできないだろう。リアルで会ったら怖いかもだが、どうかな。小さい頃は骨格の模型とか怖かったけど、今ならなんか感動してしまいそうだ。
襲ってきたらもちろん怖いけど、それを言えば生きてる人間の方が怖い気もする。
「ならばよかった。コヒナ殿は死神に似たモンスターが苦手とカラムに聞いたものですからな」
「あ~、なるほど~」
私は占い師でありながら≪死神≫のカードが大変苦手で、それに似たモンスターを前に動けなくなってしまったことがあるのだ。
その時助けてくれた人達の一人がギンエイさんのお友達の斧戦士カラムさんだった。
グラフィックでしかないモンスターが怖いとは大変恥ずかしい話であるが、怖いものはこわいのだ。仕方がない。
しかし確かにスケルトンはガイコツ顔だけど、あまり怖くないな。
「アンデットモンスターは平気ですね~。あれは≪死神≫の暗示とは違うものだと思います~」
「ほう? というと?」
ギンエイさんはそう聞き返してくれる。けれど、大丈夫かな。こんな話興味があるだろうか。
「アンデットモンスターは「死なない」モンスターですので~。「終わり」を示す≪死神≫とは逆と申しますか~。アンデットモンスターをタロットで表すなら、≪死神:逆位置≫だと思います~。物語の設定次第でいろいろだと思いますけれど~」
「ほほう! 物語の設定と申しますと、例えば?」
意外にもギンエイさんは食いついてきた。こんな話、聞いてて面白いかな。大丈夫?
「例えばですが~。ヴァンパイアなんかは不死云々よりも「夜」に関わる要素が強いですから、≪月の正位置≫とか、≪太陽の逆位置≫の方がピンときますね~」
「おお、確かにそうかもしれませぬなあ」
「一枚で表そうとすると、ですけれどね~。<エタリリ>のリーパー種みたいにそもそもが≪死神≫をモチーフにしたアンデットもいるでしょうし~。でもそうなってくると、もうモンスターと言うよりもっと上の「神様」とか「奇跡」に近いものなのではないかと思います~」
リーパー種がアンデットなのか神様なのか、その辺はどんな風に扱われているのか私にはよくわからないけれど。
「奇跡、ですか」
「はい~。≪死神≫も悪い暗示ばかりではなくて、「死と再生」といった意味もあるのですが、あくまでちゃんと「終わって」から「新しく始まる」という意味ですし~」
≪死神≫が意味する「死と再生」は例えば動物が死んで、その死体から植物が芽を出すという意味だ。死んだ人が生き返ってくるという意味ではない。
死人が生き返ってくるなんて、神話の世界でも最上級の奇跡だ。大体は途中で失敗してしまうか、成功したとしてもバットエンド。「死」は、そのくらい人にとって絶対的な「終わり」なのだ。
<エタリリ>のようなRPGゲームにおいても死の扱いは難しい。
矛盾を避けるため、ゲームによっては<死亡>を<戦闘不能>として明確に区別している場合もある。
<エタリリ>ではアバターは「死」ぬし「生き返り」もするがこれはプレイヤーの、<主人公>の特権だ。
真のこの世界の住人であるNPCが物語の中で死んでしまったなら、彼らが生き返ることは決してない。「生き返り」はこの世界の外からやってくる私たち<プレイヤー>が操作する<主人公>だけの大いなる特権だ。
<主人公>に≪死神≫が付くこともあるにはあるけれど。
いずれにしてもこのシステムがなければ私は自分のしたいことができなかったろう。ただ、それは同時にNPCであることを目指す私にとっては大きな矛盾でもある。困ったものだね。
ほんとのアンデット―《死神の逆位置》は私かもしれない、なんて。
……これは自虐にしてもタチが悪いな。 よし、ここまで!
「それにしても、なんでアンデットなんですか~?」
「おお、そうそう。本題を忘れておりました。コヒナ殿は<占星術師の腕輪>というアイテムをご存じですかな?」
「<占星術師の腕輪>、ですか~?」
なんだろう。私がする占いはタロットで、占星術は関係ないとまでいかなくとも別の業ではある。しかしながら<占星術師の腕輪>なんて名前に引かれないわけがない。
「ご存じないですが、何ともそそられる名前のアイテムですね~」
「よろしければ是非、検索して見て戴きたく」
ギンエイさんにそういわれると気になるな。どれどれ。
私は運営のホームページから<占星術師の腕輪>を装備した際の動画を見てみた。
こ、これは!
「可愛いっ!」
三つの大きさの違う金色のリングがワンセットになっていて、細かい細工の鎖で繋がれている。一番小さい輪でも手首の太さよりずっと太い。
リアルでこの腕輪を装備しようものなら、手を下すことができないだろう。三つともがしゃーんと落ちてしまう。何なら手を上げるのも難しい。きっとずっと宙ぶらりんですごく肩が凝る。
しかしそこはゲームの世界。どんなポーズをしても何故か腕輪は落ちず、時に重なって綺麗な形を作り出し、時に触れ合ってかちり、と金属の音を立てる。
うわあ、こんな可愛い装備があったんだ。いいないいな。
「これは、おいくら位で手に入るものでしょうか~?」
ダージールに来てから一年以上が経っており、儲けの少ない占い稼業とはいえ実はかなりの貯金がある。普段使わないからね。カラムさんの持っている白なんとかの斧みたいな超高級なドロップアイテムでさえなければ何とかなるはずだ。
「それがですな。実はこちら、とあるイベントクエストの途中で手に入るアイテムでしてな。譲渡不可なのでございます」
「そ、そんな!」
がーん。
私のレベルは11。ダージール周辺の推奨レベルは50。町の外に出れば一瞬でモンスターに殺されてしまう。
なので基本的にモンスターを退治して何かを得ると言ったことは全くできないのである。
大抵のことは所詮自分はゲームに参加していないNPCなのだからと諦めてしまう私ではあるが、これはあまりにも残念だ。
「おっと、どうかご安心を。クエストとはいってもモンスターを倒すタイプではなく、とあるダンジョンの奥におります予言者に話しかけることで手に入るのです」
「おおお~」
やんややんや。
「そのダンジョンと申しますのが、アンデットだらけのダンジョンでございまして」
あー、なるほど! たしかにそこが死神だらけだったら私は動けなくなるだろうな。
でもアンデットなら大丈夫だ。ダンジョンのレベルにもよるが上手く敵を避けながら予言者さんの所までたどり着き、帰りは<帰還石>でダージールまでひとっとび。
<帰還石>は一度行ったことのある場所にテレポートできる魔法のアイテムで、初期アイテムとして各アバターに一つづつ配布されている。
それにもし死んでしまっても―戦闘不能になってしまっても問題ない。何故かダンジョンの奥に通りがかったNPC行商人さんが、<帰還石>にホームとして登録されているダージールの町まで私を届けてくれるはずだ。
恐るべしだねプレイヤー特権。NPCを目指すものとして、どうなんだろうな。
「コヒナさん、こんにちは。……ギンエイ先生も」
「メルロンさん、こんにちは~!」
「おおメルロン君、丁度よいところに来ましたな」
声をかけてくれたのはメルロンさんと言う方。
メルロンさんは私と同じエルフ族。子供キャラなので私よりも小さい。私はメルロンさんには信じられないくらいお世話になっている。そもそもメルロンさんと会えなければ私はダージールに来ることなどできなかったのだ。
金髪に青い目というイケメン容貌と助けてくれた時のイケメン行動から、私は心の中で「イケメルロン君」と呼んで日々感謝を捧げている。
実際にイケメンであるイケメルロン君の人気は高くて、一緒に遊びたい人が私の所に探しに来たりする。
言ってもイケメルロン君は別に私の所にいるわけではなくて、インとアウトの時に顔を出す位なんだけどね。ここから動かない私と一緒ではゲームができない。
ちなみに探しに来るアバターの割合としては女の子が多い。凄く困っていたところを助けてもらった、なんて言う話をしてくれた人もいる。流石イケメルロン君だね。私の時を思い出す。
居場所のことは実はどこにいるの、って自分で個人チャットで本人に聞けばわかるんだけどね。
でも町とかダンジョンで偶然会いたいんだよね。そこからじゃあせっかくだから一緒に遊ぼうか、みたいな流れ。わかるわかる。自分から一緒に遊ぼう、って声かけるのはいくつになっても大変なものだ。
確かに優しいしいろいろ気を使ってくれるし、一緒にゲームしたら楽しいだろう。私も一緒に遊ぶならイケメルロン君みたいな人がいいよ。
「丁度いいところに、ってギンエイ先生が呼んだから来たんですが」
「まあまあ、それは置いておいて。ちょっと一緒に話を聞いていただきたい」
「はあ……」
ギンエイさんの言葉にイケメルロン君が気のない返事をする。
この二人の関係もよくわからない。ギンエイさんは何かにつけてイケメルロン君のことを話題に出すし、イケメルロン君はイケメルロン君でギンエイさんのことを面倒そうにしながらも決して蔑ろにしないというか。
この二人の間にも私の知らない物語があるんだろうな。
「ええと、どこまで話しましたかな。そうそう、コヒナ殿が手に入れたい<占星術師の腕輪>がイベントアイテムで、手に入れるにはダンジョンの奥にいるNPCに話を聞かなくてはいけない、とここまでですな」
そうですな。
突然巻き込まれたイケメルロン君にもわかりやすく説明したんだろうけど、それにしても明快でわかりやすい説明だな。
「そのダンジョン、と申しますのがですな。リザードマンの二番目の町<ウィスク>の側、<予言者の隠遁所>という場所でございます」
むむむ。
<エタリリ>の物語の仕様上、アバターは全てキャラクター制作時に選択した種族の小さな村で生まれる。
同じ種族の町二つを経て経験を積み、それから中央都市ダージールを目指すという流れだ。
ダージールよりもレベルの高いところでなかったのは幸いだけれど、これはダージールの側からリザードマンさん達の三番目の町に抜ける必要があるということ。
つまり私がエルフの町からダージールに来るまでに越えて来たダンジョン、<嘆きの洞窟>と同程度のダンジョンを逆向きに超える必要があるということだ。
「ええ。一番の難所はダージールから<テキル>に抜けるダンジョン、<後悔の洞窟>でしょうな。とはいえこちらから通る際にはボスは出ませんので、ベテランの冒険者が一人おりましたらコヒナ殿の護衛も問題ないでしょう」
むむむむ。
それは裏を返せば、ベテラン冒険者がいなければ私一人では越えられないということだ。
「本来ならワタクシが同行したいところなのですが、 誠に残念ながらこれから劇団の方に顔を出さねばなりませぬ。嗚呼、どなたかコヒナ殿の護衛を引き受けてくれる勇者はいないものでしょうか……。おやっ?」
そういってギンエイさんはワザとらしくイケメルロン君を見て驚いて見せた。
イケメルロン君がはあ、とため息で答える。
「嗚呼とか、おやとか言いながらフレンドチャットでダンジョンの攻略情報送ってくるの、やめてもらえませんか」
「おっと、これはツレない。ワタクシ、弟子であるメルロン君の為を思えばこそですな」
「だから、そういうんじゃないですから」
またいつも通りのじゃれ合いが始まる。というか個人あてチャットって。私の見えないところでそんなことしてたのか。
しかし毎度毎度メルロンさんのお世話になるのもなあ。
無茶苦茶なゲームスタイルをしているのは私のわがままなのだから、私のできる範囲で行動すべきだと思うのだ。私のレベルもあの時は1だったけど、今はもう11。ダンジョン内のモンスターに噛まれても何回かは耐えられるはずだ。
「メルロンさん~、大丈夫ですよ~。自分で何とかしてみますから~」
「ああ、いえ。そこは大丈夫です。いつも言ってるじゃないですか。行きたいところがあったら言って下さい、って」
うひゃあ。
相も変らぬイケメン振り。流石イケメルロン君だね。
諸々ひっくるめてなんとかお礼をしたいものだけど、私が手に入れられるものでイケメルロン君が手に入れられない物なんか無いんだよなあ。
「うう、いつもすいません~」
「いや、言うほどいつも、ってわけじゃないでしょう。こういうのも刺激があって楽しいですから、気にしないでください」
「ううう、ありがとうございます~」
「おっと、マズいですな。よそ見しているのがバレました。キティが確認しに来る前に失礼をば。お二人とも健闘をお祈りしておりますぞ! 」
ギンエイさんは突然そういうと転移石を使って何処かへ逃げてしまった。もしかして本当に二つのキャラを操作してて副座長さんにバレたのだろうか。
なんてね。
「では、弓、ダンジョン攻略用のを持ってきます。ちょっと待ってて下さいね」
メルロン君が言う。
連れて行ってもらう、ついて行く。それだけだとしてもこういうのは確かに久しぶりだ。
「はいっ! ありがとうございますっ!」
「ん? あはは、なんだか元気ですね」
おっと、テンション上がりすぎたかな。つい素のしゃべり方が。といっても今のしゃべり方も大分長くなったので、どっちが素なのかもう私にもわからないんだけどね。
お読みいただき、ありがとうございます。
コラボ小説だというのにお会いするところまで行けませんでした。すいません。
次話投稿は恐らく20日の朝になるかと思います。
また見に来ていただけたら、とても嬉しいです。




