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世界渡りの占い師は NPCなので世界を救わない  作者: 琴葉 刀火
第一章 世界渡りの占い師
35/122

いつか辿り着く、はずの場所

いらっしゃいませ!

ご来店ありがとうございます。


今回のお話ではなんと、コヒナさんが占われる側のお客さんです!

 78枚のタロットカードに本来優劣はないけれど、それでも大アルカナの最初のカード≪愚者(フール)≫と最後のカード≪世界(ワールド)≫は特別だろう。


 タロットを物語と解釈した時、≪愚者(フール)≫は主人公だ。なにも知らない、何物でもない、目的すらない主人公が旅を始める。


 道を間違えたり、迷ったり、様々な「アルカナ」との出会いを経て成長して行く。いつしか己の目的を悟り、何かになって、それぞれの物語の≪世界(ハッピーエンド)≫を目指すのだ。


 辿り着けるとは限らない。


 何かのアルカナに出会った時に躓いてしまい、旅を続けられなくなることだってあるだろう。


死神デス≫が暗示する、旅半ばでの挫折。


 挫折と言う形での旅の終わりは苦しいけれど、それも新たな旅を始めるには必要なことだ。



 でも≪死神デス≫の暗示とは違う旅の終わり方もある。



 それは長い長い旅路の果てに、たどり着いた場所が目的の場所と違うこと。


 何処かで、あるいは最初から、何か決定的な間違いを犯してしまっていて、旅の全てが無意味であったと思い知ること。


 自分では旅に出たと思っていた愚者がとんでもない方向音痴で、長く歩いたと思っていたのに実際は元の場所から一歩も進んでいないような。


 タロットで表現するなら、≪世界(ワールド)≫の逆位置。



 物語で言うならば、≪バッドエンド≫。



 ******



 お客さんを待ちながらお裁縫をしていると隣に、にょっとカラムさんがログインしてきた。


<エタリリ>では街中ではどこでも即時ログイン、ログアウトができるのでみんな適当なところで落ちる。町の外では流石にできないけれど。



「おー、コヒナさんだ。おはよ~」


「おはようございます~。今日はログインされない予定だったのでは~?」



 昨日会った時、明日はリアルで用事があるからギルド活動もお休みだと言っていたような気がする。



「そうだったんだけどさー。予定が無くなっちゃってさ」


「おや、そうなのですか~?」


「うん。ダン……。うちの人がね、急に夜仕事入っちゃって」



 やれやれ、とカラムさんは肩をすくめて見せた。尚すくめて見せても相当に大きい。


 あと多分「旦那」と言いそうになってやめて「うちの人」にしたんだと思うんだけど、あまり修正できていない気もする。



「それは残念ですね~」


「まあ仕事柄しかたないんだけど。このところ多くてさ~」



 カラムさんの旦那さんは水道関係の仕事をしていて、緊急事態には夜中でも呼び出されたりするらしい。以前にも水道管の大きな事故があって出ていったという話を聞いた。しかも最近はそういったことが増えているのだという。大変なお仕事だ。



「んで急に空いちゃったもんだからさー。とりあえずインしてみたけど、ギルドの奴らもインしてないなあ」



 カラムさんのギルドの人たちはみんなカラムさんのことが大好きなので、カラムさんがいればインするし、いないと来ない。



「コヒナさんの方はどう? もうかりまっか?」


「ぼちぼちでんな~。ギンエイさんが宣伝してくれたお陰ですね~」



 私は色々な世界を回っているが、エタリリは多分一番お客さんが多い世界だ。ネットゲームはネットゲームでみんなやることがあって忙しいので、世界によっては殆ど声をかけて貰えない所もある。


 前に一度行ってみた宇宙船からモンスターを退治しに行くというシューティングタイプのゲームなんかは、一ヶ月間一人もお客さんが来なかった。つまり私は一ヶ月間パソコンの前に座っていただけということになる。流石に心が折れたね。アバターは可愛くできたんだけど。


 そこまでじゃなくてもプレイヤー同士の「会話」が重視されないタイプのゲームでは私の活躍の場はあまりない。


<エタリリ>はコミュニケーション多めのゲームだというのもあるけれど、ギンエイさんがゲリラライブの後とかにうちの宣伝をしてくれたおかげでエタリリでの私の認知度は非常に高い。なんと他の世界に旅立つときには別れを惜しむ見送りが付くほどだ。凄いね。


 ギンエイさんとカラムさんは仲がいい。

 

 ずいぶん昔からのお友達だそうで、ギンエイさんがうちに来てくれたきっかけはカラムさんからの口コミだ。カラムさんと会えたのはカラムさんとウタイさんの繋がりで、ウタイさんは……多分、これは私の想像だけど、イケメルロン君のお友達だ。


 (えにし)という物を感じる。


 この縁、伸びて伸びていけばいい。死神の大鎌に絶たれることなく。



 私がここ、ダージールの町に来たのは二年前。知り合いも増えたけれど、会えなくなってしまった人もいる。


 ルリマキちゃんは学校が大変らしい。でもたまにインしてきて私を見つけると、無言でぐいっと親指を上げていく。ゴウさんと一緒にいることが多い。そのゴウさんはイケメルロン君と一緒に時々見かけるけれど、ジョダさん、ウタイさんはめっきり見かけなくなった。前にゴウさんが二人ともリアルの事情でイン難しいみたい、というようなことを言っていた。


 二年というのは長い時間だ。その間に生活環境が変わる人だっている。ネットゲームというのは時間を食うものだ。インできなくなることだってもちろんある。私だって、数か月の間に一月間なので周りから見るとイン率は低いだろう。



「そういえば、タロットやってみてるよ。なんかちょっとわかってきた気がする」



 少々感傷的になっていたがカラムさんから嬉しいお話が出た。タロットカードに興味を持ってくれる人は稀にいるけれど、触れて続けて、という人はなかなかいない。



「おおー。占いしてるんですか~?」


「うん。まあ。本見ながらだけど。コヒナさんがカード覚えなくても大丈夫だって言うからさ」



 タロットカードはカードそのものの意味を暗記していなくてもいい。むしろ暗記して杓子定規に解釈しようとすると難しくなる場合だってある。別にプロってわけでもないのだから本を見ながらやってもいい。なるほどなるほどと思いながら、合っていそうな解釈を探すのだ。


 まあ、この間勉強のためにとリアルで立ち寄った占い屋さんが本を見ながら解説始めた時には、思う所も無きにしもあらずだったけどね!


 なんかそれ見てたら自信ついちゃったから別にいいけど。



「誰かのことを見てみたりしてるんですか~?」


「いやいやまさか。自分のことだけ。でもなんていうか時々考えさせられるね。はいすいません、おっしゃる通りです、みたいな」


「あ~、わかります~」



 タロットで自分で薄々答えがわかっていることを見るとその通りのことを言われる。


 これはこれで意味のあることだと思う。自分は何を考え、何を望んでいるんだろうと考えるきっかけになる。


 ある種の宗教や武道家の人が瞑想するように。書道をやる人が何度も同じ字を書いて心を平常にしていくように。タロットを並べて自分の中に起きていることを考える。


 占いとは少し違うかもしれないけれどタロットはそういう使い方もできる。


 ただ、人に見て貰うよりも容赦ないことを見せられてしまうので元気じゃないときはやらない方がいいかもしれない。


 例えば勇気が出ないんですがどうしましょうかと聞くと、タロットカードは「貴方には勇気がない!」と言ってくるのだ。場合によっては煽ってくる。


 アナタ、勇気がないですね、でも出せませんよね? 出てきませんよね? えー、出せるんですか? 出せるんなら出したらいいじゃないですか、みたいな。


 それもまた面白い。


 受け入れられるだけの元気がある時はだけど。


 自分のことを見るのも面白いけれど、「占い」なんだから他の人を見てみたいというのはやっぱりあると思う。私も高校生の頃、見させろ見させろと休み時間の度に各クラスを回って変人扱いされた思い出があるのでよくわかる。



「良かったら私のこと見てみますか~?」


「え、いいの?」



 普段はゲームの中とはいえお金を取って占いをしているので、見てもいいの? と聞かれるとなんだか申し訳ないような気持になるね。



「はい~、よろしければ~。私だったら一緒に考えられますし、面白いかもしれませんよ~?」


「お、そうだね。面白そう。ちょっとまってね」



 ごそごそごそ。


 これは私の頭の中だけの擬音だ。多分リアルでタロットカードを準備しているだろうカラムさんの身体は実際には全く動いていない。



「お待たせ~! んじゃ、何を見ましょうか」


「では~、そうですね。全体運をお願いします~」


「了解。 ちょっと待ってね」



 まぜまぜまぜ。まぜまぜまぜ。


 そう言えば人に見て貰う事ってあまりなかったな。それこそこの間勉強のために見て貰った時くらいか。自信はついたけどあまり勉強にはならなかった気がする。あの占い師さんもきっと勉強中だったのだろう。なんだったら見てきた人数は私の方が上かもしれない。


 一日平均五人お客様が来るとして、エタリリに来るようになってからだけでも二年。だいたい毎日いる。日によっては丸一日いる。そう考えてみれば我ながらちょっとびっくりするくらいの人数を見ている。



「おまたせー。ええとね」



 どんな結果が出るのかな。どきどき、わくわく。リアルで見て貰った時より緊張する。アバターを介して向かい合うという、自分と同じあり方だからかもしれない。



「一枚目のカード、過去のとこね。≪ソードの3≫、正位置」



 !



「二枚目のカードはええと、フール? ≪愚者フール≫の逆位置」



 …………。



「三枚目のカード、結果の位置に出ているのは」



 ………………。




「≪世界ワールド≫、逆位置」




 ざりっ、ざりっ、ざりっ、ざりっ。


 ざりざりざりざりざりざりざり。




「ええと、一枚目の意味はね。あれ? このカードって……」




 一枚目、≪ソードの3≫。


ソードの3≫というカードだから、剣が3本描かれている。そしてこの3本の剣の全てが、中央に描かれた大きなハートに突き刺さっている。


 過去の位置に≪剣ソードの3≫が正位置で出るような人は、このカードを見た瞬間にとても苦しい思いをする。カードに描かれたハートが、剣が、何を意味しているのか、占い師よりもはっきりわかるから。



 この三枚のカードが示す、ストーリーは。



 やだなあ、カラムさん。まだまだですねえ。全然当たってないですよ。


 私はここで占いをするのが、楽しくて仕方ないんですから。



 この結果じゃあまるで私が、


 深い傷を負いながら、見当違いの旅をしていて。


 その上結局、目的地にたどり着けない。



 そんな風に解けるじゃないですか。




「あははは~」




 おおっと、失敗失敗。



 私のアバターの「コヒナさん」が、表情を作らないまま、笑った。


読んでいただきありがとうございました。


ここまでを第一章「世界渡りの占い師」といたします。

お話はこのまま続きます。

次回からは第二章「愚者の旅路」


コヒナさんがイケメルロン君に会うよりも前のお話になります。


また見に来ていただけたらとても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うーん、意味深な感じの話ですね…コヒナさんの秘密の一端がそろそろ垣間見れるのかしら? [気になる点] エッ!? コヒナさんの中では、イケメルロンくんとウタイちゃんが……こいつは思ってもみな…
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