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世界渡りの占い師は NPCなので世界を救わない  作者: 琴葉 刀火
第一章 世界渡りの占い師
31/122

 女帝(逆位置)

いらっしゃいませ!


ご来店ありがとうございます!

お菓子でも食べながらゆっくりして行ってくださいね。

 タロットカードは22枚の絵札-大アルカナと、56枚の数字札-小アルカナの計78枚からなる。


 各々様々なものの象徴となるが、解釈の一つに大アルカナは一人の人間の「人生」を表している、という物がある。



 ゼロ番目の<愚者>は、おなかの中にいる状態。まだ生まれる前。


 一番目 <魔術師> 誕生。


 二番目 <女教皇> 自我の目覚め。


 三番目 <女帝>  初めて会う女性、すなわち母親。


 四番目 <皇帝>  初めて会う男性、すなわち父親。


 五番目 <教皇>  初めて会う両親以外の存在。祖父や祖母。



 こうして色々な人や出来事と出会い、成長していき、最後は<世界>、即ちそれぞれの目的地へたどり着く、そういう物語を表しているのだと言う。


 常に順番通りにはいかないが、順番通りである必要もない。出会わなかったアルカナと別の形で後から出会うことも多いだろう。


 でも何かの理由でアルカナとの出会いが大きく歪んでしまうことがある。


 おかしな形でアルカナと関わってしまうと、<世界>にたどり着くことが出来なくなってしまう。あるいは<世界>そのものが歪んでしまう。


 極端な例では本当は<恋人>との出会いが占めるべき部分を<死神>が占めてしまったり。


 こうなると<死>が<欲望>となって殺人快楽者みたいな人ができるわけだ。これと似たような考え方は心理学にもあるらしい。


 どのアルカナもとても強い力を持っている。おかしな関わり方や過剰な関わり方は可能なら避けたいところだ。


 このアルカナとの「おかしな関わり方」、「過剰なかかわり方」を「逆位置」と表現する。



 大アルカナが人生のメインストーリーを示すのであれば、小アルカナはサブストーリーだ。どちらが重要と言うことはなく、密接に絡みついている。


 サブストーリーの方が重要視される物語だって沢山あるし、サブストーリーが充実してこそのメインストーリーとも言えるだろう。


 これら小アルカナはトランプのマークの元になった四つのスート、ソード聖杯(カップ)貨幣(ペンタクル)ワンドに分かれており、各々1から10までの数字と、従者(ペイジ)騎士(ナイト)女王(クイーン)(キング)より成り立っている。


 四つに分けられたスートにも、剣ならば理性、聖杯ならば愛情と言った具合にそれぞれに意味がある。



「タロットカードは人生と言う物語を示している」



 この考え方をさらに拡大解釈していく。



「アルカナ」の意味を広く広く捉え、78枚のカードを森羅万象の寓意であるとする。


「アルカナ」との出会いが、人生そのものだけでなく、もっと短い日々の物語(ストーリー)の中にも折りたたまれて存在していると考える。


 見たい物語(ストーリー)の折りたたまれている部分を切り出し、広げ、虫眼鏡や顕微鏡で拡大する。この作業の代替として「アルカナ」を並べていく。


 並べられた「アルカナ」の示す、物語(ストーリー)における寓意化された出会いの意味を考える。


 何か問題はないか、何が問題なのか、これからどんな問題が起きるのか。



 こうして「タロットカードを並べること」に意味を持たせ、最終的には未来をも予測し得る「占い」と成す。



 この占いの方法を「タロット占い」と言う。



 ***


 今日のおやつは~、


 じゃん! 「キノコのやつ」!


 クラッカーにチョコレート。香ばしく焼き上げたクラッカー部分のかりっとした歯ごたえと微かな塩味。チョコレート部分も外側が香りの高いチョコレート、内側は滑らかなミルクチョコと細かな工夫がされており、味、香り、食感と食べる者の五感を様々に刺激する。いくつ食べても飽きの来ない調和。ゲームしながらつまんでも手を汚す心配がないのも高評価。言わばお菓子の完成品。この完成されたお菓子が近所のドラッグストアで大セール。なんと一個税込み88円。


 さらに!


 じゃん! 「タケノコのやつ」!


 チョコレートとクッキーの組み合わせは正に王道。チョコレートはこちらも当然隙を生じぬ香りとコクの二段構え。サクサクとした食感でありながら一度崩れるとほろほろほどけるクッキーとの相性は抜群。止まることなくいくつでも食べられてしまうがそこをぐっとこらえてブラックコーヒーを一口。コーヒーの苦みと香りは、チョコレートとクッキーの甘さをさらに引き立てる。王にとっては他者など引き立て役に過ぎないのだ。このお菓子の王様が近所のドラッグストアで大セール。なんと一個税込み88円。


 先にあけたキノコの上にタケノコをざーっと。軽くまぜまぜ。次はどっちにしようと狙って食べるもよし、見ないで食べて感動するもよし。完成品と王道の夢のコラボレーション。これぞまさに究極のお菓子。やっぱりラブアンドピースですよ。



 え、カロリー?



 私のいた世界にはなかった言葉ですが、それは世界から争いを無くすよりも大事なことなのでしょうか?



 究極のお菓子と、大きなマグカップになみなみのブラックコーヒー。


 これで長時間ログインしたままパソコンから離れずに過ごすことができる。休日のための完全武装だ。


 ゲームの中でお店を出しているわけで、せっかく話しかけられているのに画面の前にいないというのはやっぱり避けたい所。


 私はゲームの中で占いをするのが好きだ。チャットで話すのは楽しいし、当たっているなんて言われれば嬉しいし、感謝してもらえることだってある。何より占いの間はざりざりしないのがいい。


 というわけでお休みの日は可能な限りの時間をパソコンの前で過ごす。コーヒーとお菓子に囲まれて占いをする。最高の休日である。


 そんな占い大好きな私ではあるが、それでも苦手なお客様というのはいるものだ。



 ***



 お向かいの宿屋さんの前で猫小人族の男の子二人が何やら熱い議論を交わしていた。金色の目をしたトラ猫っぽい子と緑の目のロシアンブルー風の子だ。


 猫小人族は猫を人間にしたような見た目の可愛い種族で、全種族中ピクシー族に次いで二番目に体が小さく、大人でもエルフとしては小柄な私よりももっと小さい。というか大人と子供の区別がつかない。見た目のバリエーションも最も多い種族ではないかと思う。耳の形や毛の色が選べるし、毛の生え方も顔にも生えてくるタイプと生えてこないタイプとがいて、これもう同じ種族じゃないんじゃないかと言うくらい色々だ。


 ちなみに犬小人族と言う種族はいない。ただ、猫小人族の中にどう見ても犬小人だろうという見た目の人はいる。


 二人の議論の内容は「初対面でネカマさんを見分ける方法」。私はその主張を興味深く拝聴する。


 トラ猫君の主張は「化粧水どんなの使ってる? って聞けば一発だ」という物だった。



 ふむ。


 それはどーだろうか。


 同じ質問を私がされたとする。


 答えられぬ。



 私とて化粧水くらいは使う。使うが。何と聞かれれば「近所のドラックストアの店頭に置いてあった緑色のやつ」だ。


 多分緑色だったと思うが前に使ってたのとごっちゃになっている可能性もある。洗面所に見に行けばわかるけど。


「化粧水なに使ってる?」と男の子に聞かれてこれを答えるというのはなかなかに勇気がいる。多分言い淀むので、「ああ(察し)」みたいな反応をされる。


 別にいいと言えばいいんだけど、なんか釈然としない。それにネカマさんの女子力を舐めてはいけない。彼らは女優だ。同じ質問をしたとして私なぞよりよっぽど女子力の高い答えが返ってくるに違いないのだ。



 あとその質問、普通に気持ち悪い。



 占い師として諸々の相談に乗ってきた身としては「アバターからリアルのことはわからない」の一言に尽きる。


 相性診断の依頼を受けた中にはマーフォークの女性のことが好きな半巨人族の男性の中身が女性だった、と言うことは実際にあったし、そもそも相手のマーフォークの女性だって実は中身は女性が好きな男性の猫小人族である可能性だって否定できないだろう。


 なのでトラ猫君は初対面のお姉さんの性別について頭を悩ませるくらいなら「リアルの性別ってそんなに大事?」等と返しているロシアンブルー君のことをもう少し良く見た方がいいと思う。これはなかなかにコーヒーが進みますよ。ぐびぐび。チョコレートいらないくらいだね。いや食べるけど。ぽい。ぽりぽり。あ、きのこの方だ。


 二人のやり取りを妄想を交えながら堪能していたらお客さんが来た。常連のお客さんだ。常連のお客さんはありがたい、ありがたいのだけど。この人をお客さんと言っていいものかどうか。


 ドライアド族のミゼラさん。あちこちにスリットの入った、布地が多いのに露出度が高い不思議なふわふわのローブから、緑色に発光する肌がちらちら覗く。長くてつややかな髪も緑色のとても綺麗な人。ちょっと物憂げな雰囲気の、中身はあまり物憂げじゃない人。



 私はこのミゼラさんを少々苦手としていた。



「あ~、ミゼラさん~。いらっしゃいませ~」


「こんにちは。今日は対人関係でお伺いしたくて来たのだけど」



 言いながらミゼラさんはいつものように物憂げなため息を吐いた。

 相談内容もいつも通りだ。



「は~い。対人関係のお悩みですね~。では、お名前でなくてもいいのでお相手の方を示すキーワードとかあだ名とかを教えてください~」


「では<ロキ>で」


「ロキさんですね~。対人関係ということですが、何かトラブルがあったとかですか~?」


「トラブルと言うか。ロキが私をどんな風に見ているかをお願いします」


「は~い。かしこまりました~」



 このやり取りもいつものことなのだけど、一応やる。


 そして依頼を受けたからには仕事はしっかりやる。多分この後私のテンションは段々下がっていくのだけど、とりあえず頑張る。気合充填のためにぽいっ。あ、またキノコだった。ぽりぽり。ぐびぐび。



 ロキさんがミゼラさんのことをどう思っているか見せてください。



 一枚目≪愚者(フール) 逆位置≫

 愚者がゼロならその逆位置はゼロ以下。消極的な気持ちや、まだ始まりに至らない物語。


 二枚目≪貨幣(ペンタクル)の2 正位置≫

 陽気に楽しむ青年が描かれたカード。遊びに夢中で他に目がいかないことを示す。


 三枚目≪(ソード)の2 正位置≫

 二本の剣を持つ目隠しをした女性が描かれたカード。盲目的、拒絶、眼中にない。



 この三枚が示すストーリーは。


 

***




「結果が出ました~」



 伝えるとすぐに返事があった。



「はい。お願いします」


「お先に確認ですが~、ロキさんとはどのようなお知合いですか~?」



 同じ人を何度も見るとどうにも先入観を持ってしまうので一応確認してみる。



「ギルドの人の友達でこの間パーティーを組んだのですが、その後機会があったらまたご一緒しましょうとか言ってきたものですから。私そういうの困るんです」



 なるほど、一度だけ遊んだ人から社交辞令を言われたということだな。「そういうの」がどういうのなのかわからないし何で困るのかもわからないけれど。



「少しお話したらすぐそういう関係になろうとしてきて。嫌ですよね。そういう人」



 ふう~。とミゼラさんは物憂げなため息をついた。


 ふう~。ぽい。さくさく。お、たけのこ。



「なるほど~。では結果をお伝えしますね~


 一枚目のカードは≪愚者(フール) 逆位置≫。準備不足やまだ始まらない状態を示すカードです。


 二枚目は≪貨幣(ペンタクル)の2 正位置≫。楽しい遊びに夢中であることを示すカード。ここは現在のロキさんの状態を表します~。ロキさんはきっと<エタリリ>が楽しくて仕方ないのだと思います。なので普通に一緒に遊びたくてお誘いしたんじゃないかと思いますね~」


「そうなの? でも普通一回遊んだからって声かけたりしないじゃないですか。そういうの私なんとなくわかるんだけど。占い屋さんだとやっぱりそう言うことは無いんでしょうね」



 なんだとう! いやないけどさ! あなたのそれはっ!


 くう。だめだ何を言っても勝てる気がしない。


 社交辞令ならいっぱいあるんだ。占い師なんかやってればナンパされることもあるし、今日は一段とお美しいですな、とか嬉しいこと言ってくれる常連さんもいる。いるんだからな!



「そうなんですね~。難しいですね~。三枚目のカードは≪(ソード)の2 正位置≫。目隠しをした女性が描かれたカードです~。こちらを見ていないという意味になると思いますので、あまり気にしないでいいと思いますよ~」



 てんで眼中にないと思いますよ、をできるだけマイルドに伝えたのだけど



「やっぱりそうですよね。恋は盲目って言いますもんね」



 そう言ってミゼラさんははあ~と物憂げなため息を吐いた。

 この人が物憂げなら沢山ご飯食べた後の私だってなかなか物憂げじゃないだろうか。ぽりぽり。ああ、コーヒーなくなっちゃった。



「占いは以上ですね~。あまり心配しなくてもいいと思いますよ~」



 ご来店ありがとうございました~、と締めたいところなんだけど、案の定。



「では、次の相談なんですけどゴーフルっていう半巨人の方なんですが」



 くっ。わかってはいたけどっ。


 ミゼラさんは毎回これと同じような相談を数人分抱えてやってくるのだ。ナントカと言う人がいて多分私に気があるのだけど、とか待ち伏せされた、お話したそうだったのに別の人が来てしてあげられなかった、とか。


 ミゼラさんの中では全部真実なのだろうけど、聞いていてあまり気持ちのいい話じゃない。愚痴や自慢話は聞いていて面白くない話の代表だろうけど、それがいっぺんにやってくるんだよ。凄くない?


 多分他にお話を聞いてくれる人がいないのだろう。私が<エタリリ>にいる一月くらいの間に必ず二、三回は来てこの話を聞かされるので、遠くにミゼラさんのぴかぴかふわふわな姿を発見するとそれだけでうへえと思うようになってしまった。


 ネットゲーム上での恋愛についてはいろんな意見があると思う。フィクションの世界に真実の恋愛など云々なんて言う人もいる。それは一理ある。ただ問題はフィクションの世界かどうかじゃなくて、そこにいる二人がフィクションの世界をどうとらえているかだと思う。


 この世界で真実の愛を見つけました、なんて話は間違いなく奇跡だけれど、占い師なんかやってれば割とよく出会うレベルの奇跡だ。あるよ。ちゃんとある。ここと同じような世界で出会った二人の結婚式に呼んで貰ったことだってある。


 逆に二人が双方フィクションと捉えているなら、それはそれで良い気晴らし、疑似恋愛だと思う。それは否定しない。場合によっては美しいとさえ思う。


 そもそも占い師がどんな形であれ欲望を否定するなんておかしな話だろう。



 まあそうはいっても、やっぱり三千世界にただ一人、と言うのが好きだけどね。



 問題になるのは二人の「世界」と「相手」の捉え方に違いがある時だ。



 恋愛のことだけじゃない。ネットゲームの世界は確かにフィクションだけど、そこにいる人間は間違いなく本物で、だからそこで起きる人間関係だけはどこまでもリアルだ。


 だから、自分を引き立てるために関わった人を貶めるこの人の考え方は好きじゃない。あの人もあの人も私に気があるかも、なんて言うにも、嬉しそうにならそんなに嫌な気分にならないんだけど。



 それに、この人お金払わないんだよ!



 そりゃね、ご納得いただけない場合はお代は頂きませんって書いてるけどさ!そういう気持ちでやってるけどさ!おんなじ話何回も聞かされて納得いかなかったから、お代は無しでってさあ!



 ふう、取り乱しました。失礼。



 コーヒー淹れてこよっと。



 コーヒーメーカーをセットして戻ってきて、ログを見ながら占いをした。普段は絶対こんなことしないのだけど、NPC占い師だって中身のある人間なのである。


 ゴーフルさんのほかにもう一人同じような内容の相談を受けて同じような結果が出た。タロットカードって凄いね。


 三人目の方の時、最後に≪(ソード)の8≫が正位置で出た時は思わず苦笑が漏れた。≪(ソード)の8≫も≪(ソード)の2≫と同様目隠しをした人物が描かれたカードだ。「眼中にない」とも取れるけれど、「目を覚ましたら?」と言うアドバイスにもとれる。アドバイスに関しては既に何回かしてみたけれど、なぜかやっかみと取られてしまってめんどくさいのでもうしない。


 今回もミゼラさんとしては不本意な結果だろう。それでもいつもなら納得してくれるのだけど、今日はもう一つ見て欲しいと言い出した。



「うちの子のことなんですけど、全然言うこと聞かなくて。どうしたらいいか見て下さいますか」



 ミゼラさんはまたはあ、とため息をついた。


 ふむ。まあそういうことでしたら。きのことたけのこ一つずつ。コーヒーを一口飲んで気合を入れる。この人からソレ系の相談以外が来るのは初めてだ。きっと大事なことに違いない。



「かしこまりました~。お子さんのことですね~。少々お待ちください~」



 カードを混ぜていく。気持ちを切り替えるため、混ぜる時間はいつもより長くかかる。混ぜる作業に集中して、他のことは考えない。見たいことだけしか見えなくなるまで。



 ミゼラさんとミゼラさんのお子さんの関係を見せてください。



 一枚目:<(ワンド)女王(クイーン)> 逆位置


 二枚目:<(ワンド)従者(ペイジ)> 逆位置


 三枚目:<貨幣(ペンタクル)女王(クイーン)> 逆位置



 この三枚のカードの示すストーリーは。



 それは思わず、ぞっとしてしまうような並び方だった。



「結果が出ました~。


 一枚目に出ているカードは<(ワンド)女王(クイーン)>、逆位置です。強引過ぎる進め方を戒めるカードですね~


 二枚目のカードは二枚目<(ワンド)従者(ペイジ)>、こちらも逆位置になります。やる気をなくしてしまうことを示すカードになります。


 三枚目は<貨幣(ペンタクル)女王(クイーン)>、逆位置。不安定や自暴自棄を示すカードですね~。


 纏めてみますと、強引すぎる束縛はかえってやる気を削ぐことに繋がりそうですので」



 そこまで伝えると、ミゼラさんに先を遮られた。



「束縛って、それどういう意味?」



 気を付けていたつもりだったけれど、強い言葉を使ってしまったようだ。



「ああ~、すいません~。あまり窮屈にしない方が上手く行く、位に捉えていただければいいかと~」


「私はどうすれば言うことを聞くようになるかを聞いたの。なのに何で文句つけられなくちゃいけないの。大体あなたに何がわかるっていうの。束縛? 私はあの子のために言ってるの。貴方あの子の人生の責任取れるって言うの⁉」


「おっしゃる通りです~。申し訳ございません~」


「申し訳ございません、じゃないわよ。何なの。意味のないこと聞かされて、時間無駄にしたわ。その上侮辱されて。二度と来ないから」



 そう言うとミゼラさんは不快そうに帰っていった。



「申し訳ございませんでした~」



 これは完全に私の失態だ。ミゼラさんの言う通り。自分が頑張っていることを他人から否定されて嬉しい人がいるはずがない。


 占いなので結果は伝えなくてはいけない。だがそれだけに言葉選びは重要だ。


 ミゼラさんに対して苦手意識を持っていたのとカードの並び方とが重なって、自分の頭の中のストーリーを押し付けてしまった。それは絶対にしてはいけないことだったのに。



 でも。



 改めて開かれた三枚のカードを見る。



 一枚目:<(ワンド)女王(クイーン)> 逆位置

 二枚目:<(ワンド)従者(ペイジ)> 逆位置

 三枚目:<貨幣(ペンタクル)女王(クイーン)> 逆位置



 言葉での解釈としてはミゼラさんに伝えかけた内容と変わらない。


 ただ、このカードの並びを視覚的に捉えてみると、


 逆位置の従者(ペイジ)が二枚の逆位置の女王(クイーン)に挟まれているように見える。


 従者(ペイジ)は「子供」と解釈することができる。(ワンド)のスートは情熱。つまり<(ワンド)従者(ペイジ)>は情熱にあふれる子供。逆位置ならば情熱を失った子供。


 同様に女王(クイーン)は「大人の女性」を表す。<(ワンド)女王(クイーン)>の逆位置は「情熱を奪う大人の女性」と読むこともできる。


 貨幣(ペンタクル)のスートは「価値観」を示す。貨幣(ペンタクル)女王(クイーン)の逆位置は「価値観を奪う大人の女性」だ。


 本来は情熱的であったろうこの「子供(ペイジ)」を、二枚の逆位置の女王(クイーン)が挟み込み、その情熱を奪っている。


 過去には情熱を、未来には価値観を奪う二枚の女王(クイーン)は、一体何者だろう。


 二枚の女王(クイーン)の見た目はそっくりだ。もしかしたら同じ人物であるのかもしれない。



 これは私の妄想だ。



 たかがカードの並び方。ただのカードの並び方。そんなものから想像でよく知りもしない人を否定するなんて、絶対にしてはいけないことだ。



 それではあの時師匠を断罪した顔のない正義(悪魔)達と一緒になってしまう。



 だから、ただの妄想。ただの私の妄想。



 三枚のカードをデッキに戻し、混ぜる。


 満足するまで混ぜる。


 さっき見た三枚のカードのイメージが消えるまで。


 当たってたとしても、なにもできない。


 そもそも、当たってるなんて保証もない。



 それなのにただの妄想はなかなか消えてくれなかった。


 

 一旦手を止めて、冷めたコーヒーを飲む。その後チョコレートを一つ。コーヒーをもう一口。



 ざりざりざり。



 不幸な誰かがいるなんて、ただの私の妄想だ。



 だというのに。



 今口に放り込んだ究極のお菓子が、どっちだったのかもわからなかった。


後味の悪いお話になってしまいました。すいません。


次回は明るいお話を持ってこようと思います。


また見に来ていただけたらとても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひでぇクレーマーもいたものですね! コヒナさんがお菓子食べ過ぎてストレス太りしてしまう! [気になる点] すみません。『そもそも相手のマーフォークの女性だって実は中身は女性が好きな男性の猫…
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