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世界渡りの占い師と百人の勇者達 ⑤

いらっしゃいませ!

いつもご来店ありがとうございます。

「百人の勇者達」の最終話となります!

「コヒナさんの護衛、任せたぞ」


「うっす!」


「了解っす、リーダー!」



 お爺さん死神の範囲型即死魔法の効果が終わった瞬間を狙って、私の隣にいたごつごつ筋肉の斧戦士が飛び出した。念のために言っておくけどパンイチではない。ブレストプレートでしっかり武装している。


 ずがーんと地面をも震わせるカラムさん一撃は、死神おじいさんのHPバーをがっつりと削り取った。



「ああっ、その斧はまさしく、白霊金剛の大戦斧!」


「ではあなたはもしや、伝説の斧使い、カラム!」



 おお、伝説! シロ君とクロ君てば盛り上げ上手。


「……やめろ。ギンエイに何か仕込まれてるのか?」



 あ、カラムさんはちょっと迷惑そう。目立つの嫌いなのかな?



「カラム?」「 本物か?」「 カラムって誰? 」「お前知らないのか、斧つかってるくせに! 」「カラムとギンエイって仲悪いんじゃなかったの?」「<詩集め>ってそれで解散したんでしょ?」


 ぴろりんぴろりんとあちこちでチャットが変わられる。


 カラムさんも有名人だ。私がこの世界にくる以前にはギンエイさんと一緒にブイブイ言わせてたらしい。斧という武器の常識を覆したんだという話も聞いたことがある。


 それにしてもカラムさんとギンエイさんの仲が悪いかあ。 あの二人が?ってかんじだけど。


 さてはギンエイさんがカラムさんと話す時だけ素になるのを知らないな? それにギンエイさんとカラムさんはお互い「お前」って呼ぶけど、私の知ってる限りそれはお互いを呼ぶときだけだ。


 これもまた、知らないから生まれる偽物の物語なんだろう。


 カラムさんの登場で勇者たちも勢いを取り戻し、集団でお爺さん狩りを始める。なかなか良くない絵面だ。



「蘇生します、求護衛 座標D2」「千年人参薬売10個800k」「ぼったくり!」「買った!二つくれ!」「パーティー組みませんか、騎士即死耐性アリ」「蘇生薬売って10k出す」「G8 範囲バフ掛けます近くの人どうぞ」「即死耐性装備売ります」「今北産業」「死神を倒すとコヒナさんが嬉しい」「えっ、俺の嫁が?」「K2ジジのベルがトリデでシンフォニー求吟、森」「A6死者多数応援お願いします」



 ばしいぃいいいっ。



 ぴろぴろと勇者たちのチャットが飛び交う中、また聞いたことのない大きな音がした。新しい死神の登場だ。


 空間にできた裂け目から、のそりと現れたのはバケツみたいな兜をかぶったフルプレートの巨漢。手にはお決まりの鎌ではなく、先の方が重く太くなっている処刑人の首切り剣。


 真っ黒なオーラをまき散らしており、お爺さんよりもはるかにレベルが高い敵だというのが一目でわかる。



<タナトス>



 そう表示されたモンスターの、鎧の中身は空っぽのがらんどうで真っ暗……。違う。今中で何か動いた。バケツみたいな兜に十字に刻まれたスリットの向こうに、幾つもの目とそれを持つ黒くて小さい何かがびっしり……。


 うわああ、うわあああああ! なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ!


 虫だ。赤い目をした虫が詰まった鎧だ。よく見ると手とか顔とかにもしゃわしゃわ這いだしてきている。


 うわあああ。見ちゃった。ぞぞぞぞぞ。なんでこのゲームの虫はこんなにリアルなの? みんなアレ平気なの? ほんとに? 死神で虫とか絶対無理! 生理的に無理!



 ぢきぢきぢき。



 うわあ、うわああああ! 鳴き声? も気持ち悪い!


 大空洞の中央、裂け目から這い出してきた虫鎧が狙いを定めたのは、マーフォーク族の吟遊詩人。ギンエイさんだった。


 でもギンエイさんは逃げるでもなく、構えるでもなく、唯いたずらににやにやと、虫鎧のお化けが掲げた大剣を見上げる。



 ぢきぢきぢきぃ!!



 雄叫びなのか鳴き声なのか、動くと勝手に出る音なのか。とにかく大きな音をだしながら、虫鎧の怪物が首切り剣を振り下ろす。それでもギンエイさんは身動き一つしようとしない。



 がっきーんと、金属同士が凄い力でぶつかり合う音が響いた。



 ギンエイさんは同じ姿勢のまま微動だにしていない。虫鎧の首切り剣はギンエイさんの前に現れた真っ白なアバターの真っ白な大盾で、完全に完璧に受け止められていた。


 凄っ。ショウスケさんみたい。誰だろあの人。 人? 人でいいのかな? 多分リザードマン族の女の人。でもその姿はまるで、人とかリザードマンって言うよりも、真っ白な二足歩行のドラゴンみたい。


 鎧も、盾も、剣も、その肌さえも、真珠の様に輝く白。正確には肌じゃない。鱗だ。凄く綺麗。もう綺麗通り越して、神秘的ですらある。



「先生、躱そうっていう意思を見せてよ。間に合わなかったらどうするつもりだったの」


「それは考えなかったなあ。画面の端に君の姿が見えたからね」


「私、二年ブランクあるんだけど?」


「ああ、タナトス程度、準備運動にはちょうどいいんだろう?」


「相変わらず、弟子遣いが、荒い!」



 白竜の様なアバターが、大盾で首切り剣を跳ね上げる。虫鎧の怪物はたまらずたたらを踏んだ。



「カガチ!」「白竜の騎士!」「え、なんで?」「カガチだ!」「白蛇姫!」「え、キティさんでしょ?」「いや違う」「本物だ」「結婚して!」「本物の白蛇姫だ!」



 ぴろりんぴろりんぴろぴろりん。


 カラムさん登場の時以上のチャットと熱気が大空洞を覆う。白蛇姫というのは確かギンエイさんがやっている演劇のタイトルだったはずだ。じゃあこの人がそのお話の主人公の「白蛇姫」?



「死神の群れを排除せんと駆け付けましたのは、なんと皆様ご存じ『白蛇姫』、カガチ。さあて皆様、タナトスの攻撃は全てこのカガチが捌いて御覧に入れる。どうぞ皆様ご安心の上、離れて攻撃されるのが宜しいでしょう」



 ええっ、この人そんなに凄い人なの? さすが主人公なだけある。



「ちょっと先生、無茶言わないでよ。そもそも私のレベル70しかないのよ。ブランクだってあるし、ジンジャーも居ないんだから」


「ああ、それなら問題ない。代わりを呼んであるからね」



 だだだだ、と凄い勢いで駆け込んできたアバターがギンエイさんとカガチさんの前でぴたりと止まる。そして何の表情も浮かばない顔と操り人形を思わせる動きで、カガチさんにぴっと敬礼した。


 あっ、ルリマキさんだ! おーいルリマキさーん!



「あら。ずいぶん可愛いジンジャーだこと」


「見た目だけじゃない。腕の方も同等を期待していいぞ」


「えっ、本当? 貴方凄いのね」



 白蛇姫さんに言われたルリマキさんは両手を空中であわあわと動かす。多分凄い人から褒められて焦ってるんだと思うけど、無表情だから阿波踊りか何かを踊ってるみたい。阿波踊りがどういう表情で踊るべきなのか知らないけど。



「ああ。<歌集め>の動画を何回も見てくれているからな。それにその人は恐らく、私とよく似た目を持っている」


「ええっ⁉」



 よく似た目ってなんだろ。ギンエイさんとルリマキさんは石化魔法とか使えたりするのかな。


 白蛇のカガチさんは随分驚いたみたいだけど、ルリマキさんはもっと驚いたみたい。両手を顔の前でぶんぶんぶんと必死に振っている。多分石化魔法は使えません、って言ってるんだけど、ちゃんと伝わってるのかな、あれ。



「そう、それは……。ちょっと焼けちゃうわね。よろしく、ルリマキさん」



 カガチさんが改めて虫鎧の怪物と対峙する。



「カガチさん、大ファンです。よろしくお願いします」



 その後ろにルリマキさんが……うわあ、ルリマキさんがしゃべった!



 ルリマキさんの援護を受けたカガチさんに抑え込まれた虫鎧に、勇者たちの放つ幾つもの魔法や飛び道具が襲い掛かった。


 あっちこっちでぼんぼん、しゃらんしゃらん、がらんがらん、ばしーっと死神たちが現れる。私のすぐ近くにもガラガラおじいさんが出てきた。


 でもその直後におじいさんの頭は何処からか飛んできた一本の矢に射抜かれる。



「コヒナさん、大丈夫ですか?」


「い……、メルロンさん~!」



 矢を放ったのはイケメルロン君ことメルロンさんだった。だったんだけど。


 お、おや……? イケメルロン君の様子が……?



「どうしたんですかメルロンさん、その恰好!」


「ええと、ただのイメチェンです」



 イケメルロン君、ちょっと会わないうちにこんなに背が伸びて。男子三日合わざればという奴だろうか。三日どころかログアウトする前に会ったばっかりなんだけど。


 イケメルロン君はなんとアバターを大人型に変更していた。金髪碧眼美少年エルフから金髪碧眼美形お兄さんエルフになっていたのだ。イケメルロン君っていうより最早イケメルロンさんって感じだ。



「変でしょうか?」


「いえ~。とてもお似合いです~!」



 変なんてとんでもない。まったくもう、ますますイケメンになっちゃって。これはもう女の子たちがほっとかないね。強くて優しくてイケメンなイケメルロン君はただでさえモテモテなんだから。



「お~っす、コヒナさん。なんかすごいことになったねえ」


「ゴウさん~!」



 次の矢をつがえるイケメルロン君を守るのは騎士のゴウさん。イケメルロン君の親友で、私がこの嘆きの洞窟を超えるのを助けてくれた勇者の一人。


 そして一緒に懐かしい人もう一人。ドワーフ族の戦士さん。ショートスピアと身体が隠れちゃうようなラウンドシールド。



「コヒナさん、お久しっす!」


「ジョダさん~! お久しぶりです~!」



 ジョダさんも<嘆きの洞窟>を超える時にお世話になった六人の勇者の一人だ。あのあと少しして、ジョダさんはエタリリに姿を見せなくなっていた。リアルで色々あって忙しくなったってゴウさんから聞いてたけど、戻ってきたんだね。



「やっと会えたっす! 今度占って欲しいことあるっす。よろしくお願いするっす」



 そうだったんだ。探してくれてたのかな?



「勿論、喜んで~!」



「あ、でもそん時はジョダじゃなくて別アバで来るっす。ホントは今日もそっちできたかったんすけど、レベルが低くて」


「畏まりました! お待ちしてます~」



 ジョダさん、アバター作りなおしたんだ。期間空いちゃったし、心機一転かな? 二年もたてばストーリーも忘れちゃうしね。



「んじゃ、俺らも行こうか」


「ちょ、待って下さいっす。俺ジョダでもジジ限界っすよ」


「だいじょぶだいじょぶ、メルロンが倒してくれるから。人いっぱいいるしレベル上げに丁度いいよ」


「マジすか。だったらユダガで来るんだったっす」



 イケメルロン君とゴウさんとジョダさんも死神退治の輪に加わっていった。ユダガさんというのが新しいアバターなのかな?


 ぼんぼん、しゃらんしゃらん、がらんがらん、ばしーっ。


 現れる死神たちは大勢の勇者たちにより駆逐され、次々とぱしゃーんと光になっていく。



 間もなく、彼らは私達の物語を救う。



 彼らはそのことを友達に自慢するだろう。酒場の武勇伝のごとく、何度も何度も繰り返し語られる勇者たち自身の物語は、何度だって師匠に被せられた偽りの物語を駆逐し、塗り直すだろう。


 それと同じことが師匠の心の中でも起きる。師匠の中に現れる死神を、勇者たちが何度だって退治する。


 それだけにはとどまらない。


 勇者たちの武勇伝はきっと、ネット上で様々な形になってエターナルリリックを超えて広がる。エターナルリリックの外にも、この話を信じてくれる人はいっぱいいるはずだ。



 だって、私、旅をしたもの。



 世界を渡るおかしな占い師「コヒナ」のことを、いくつもの世界の勇者たちが知っているもの!



「パターン変化、死の波動来ます」「タナトスの次何?」「旧ボス」「スタン入れます狙って下さい」「蘇生ありがとう!」「なにこれイベント?」「カバーナイス」「四人組アイドルユニット<ドライアーズ>です。応援してね♡」「宣伝すな」「京子愛してる」「リア充爆裂」「結婚して」「デスサイズげttっをおおおおお!」



 物語が変わっていく。

 自分たちの物語を楽しむ勇者たちによって、師匠の物語が正しい姿をとりもどしていく。


 そして、物語が生まれていく。

 素敵な結末を与えられて、馬鹿な私の無意味な旅が、物語に成っていく!



 ぼぼんぼんぼん、しゃらんしゃらん。がらんがらん、がらんのばしーっ。


 ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん、ぱっしゃーーん!


 私が怖くて仕方がなかった幾つもの「終わり」が光になって消えていき、最後に一つの「終わり」だけが残る。


愚者(フール)>が様々なアルカナと出会いながら目指す物語の「終わり」、<世界(ワールド)>だけが残される。



「さてさて、魔王最後の抵抗は、この先さらに激しくなることでございましょう。つきましては改めて、この地に偶然居合わせた勇者の皆様に、お願い申し上げる!」



 自分でこの状況を作り出したギンエイさんが大声を張り上げると、画面のあちこちでぴろぴろ繰り広げられていたチャットがぴたりと止まった。


 え、なんで? 凄っ。ギンエイさん凄っ!


 大声は英雄の素質って聞いたことがあるけれど、それってチャットでもそうなのかな。


 死神達は沸き続けているし、戦闘は続いているんだけど、それでもみんなおしゃべりをやめてギンエイさんが次に何を言うのかと聞き耳を立てている。



「さあコヒナ殿、どうぞ」



 えっ?


 え、えええっ、ここで私⁉


 ギンエイさんに集まっていた視線が、ざざっと全部私へと向けられた。


 この状況で? 私がお願いするの⁉


 いや、でもそうか。それが筋ってものかもしれない。助けてもらうのは私なのだ。だったらお願いは私がしないと。


 うう、でも緊張するなあ。


 じゃ、じゃあその、いきますよ? いいですか?


 こんなにたくさんの勇者様を待たせるわけにもいかないので、いっちゃいますよ? いいですね?



 ふう。では。


 せーの!



「勇者様、お願いです。どうかあの恐ろしい死神共を打ち破り、私たちを魔王の呪いから解き放って下さい!」



 ……。


 …………。


 ………………。


 ぴろりん。


 ぴろりん。


 ぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろ。



「わかりました!」「おっけー」「おお~~」「あれ、コヒナさんじゃん何でこんなとこにいるの」「ラスボス倒せばコヒナさんが救われるらしい」「俺の嫁が?」「任して」「はい」「だれかパーティー組んで!」「だれか結婚して!」「承知!」「マジで?」「←お前じゃねえよ」「燃える」「萌える」「私が倒してしまっても構わんのですよね?」「俺明日仕事」「乙」「仕事乙」「ワシゃあワクワクして来たぞ」「ワシもじゃあ」「オラも」



 いくつものYesが画面を埋め尽くす。誰が何を言っているのか、もうさっぱり全然わからない。




 こうして私の願いは、百人の勇者に届いたのでした。


本日もご来店、誠にありがとうございました。


さて、「世界渡りの占い師はNPCなので世界を救わない」はいよいよ次回が最終話と相成ります。

サブタイトルは勿論「世界」と書いて「ハッピーエンド」。


改めまして僭越ながら、「乞うご期待」でございます!

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