真実の愛
それは、とある王国の話だった。
その昔、王国はとても栄え、今では他の国となっている場所も、その頃は、王国の領土だったという。
それほど栄えた王国だったが、ある日、ふらりとやってきた、たった一人の女のせいで、国を割り、滅ぶ寸前までいったらしい。
女は、悪名高い性悪で、ここに来るまでも、幾つかの国を混乱に落として入れてきたそうだ。そんな女に入り込まれてしまっては、さしもの王国も為す術はない。
しかし、それを高名な魔法使いが治めたおかげで、国が滅ぶことはなかった。
今も王国はあり、一頃ほどの栄華はないとはいえ、名もそのままに、昔の栄華も備えながら、まだまだ、栄えた国であった。
そんな王国に、またもや不穏の種が蒔かれた。
妻を愛し、亡くしたあとも、頑なに後妻を娶ることを否定していた王が、突然、後妻を迎えた。
王子はまだ幼く、一人しかいない。出来うることなら、もう一人と、家臣は思っていたが、仲むつまじい夫妻の姿も知っているが故に、強く進言も出来ずにいた。
無理なのではとあきらめていたところに、この朗報。
みな、新たに結ばれた婚姻に、祝福を送り、諸手を上げて喜んでいた。
そんな中、王子だけが、不審な目を向けていたが、幼い王子は、王の後添いが気に入らないだけなのだろうと、誰も真剣に取り合わなかった。
そうしているうちに、すっかりと、王国は、新たな王妃を中心に回り始めた。
王すら、王妃に追随する。
おかしいと思ったときにはもう遅く、城のほとんどは、王妃に心酔するものばかりになっていた。
浮かされたような城の者達を見、このままでは、王子の命が脅かされるのではと、危ぶんだ、まだ正気を保っている家臣の一部が、命をとして、王子を城の外に逃がした。
それを知った王妃は怒り狂い、王子を亡き者にせんと、追っ手をかけた。
しかし、今一歩遅く、まんまと王子に逃げられてしまう。
城から遠く離れたちで、なんとか追っ手を撒いた王子一行は、いずれ力を付けて、あの王妃を引きすり下ろすことを心に誓った。
幼い王子は、数名の家臣と共に、信頼できるものを集めていく。
その最中、王子は一人の不思議な少女に出会った。
少女は森の中で、王子を待っていたと言い、自分も連れていってほしいと懇願した。
こんな森の中で出会った少女に、仲間は不信の目を向け、警戒したが、王子だけは何故か、少女を恐れることが出来なかった。
はじめは危険だと渋っていた王子だったが、余りに熱心な少女の訴えに、とうとう折れる形で同行を許す。
初めは少女を警戒してたいた仲間達だったが、道中幾度も少女の不思議な力に救われ、少しずつ、少女に信頼を寄せていった。
少女のもつ不思議な力は、王子にもあるものだと、少女は伝える。そんな力など無いと取り合わなかった王子だったが、物は試しと、少女のお家を受け入れると、不思議なことに、王子も少女と同じような不思議な力が使えるようになった。
少女の言うとおりに修行をすればついていく力に、この力があれば、あの王妃を退けることが出来ると王子は確信していく。
真実の愛が、王国を救う
彼の魔法使いが残した言葉。きっとそれは、国を思う心なのだと王子は思う。
そうして、力を付け、再び城に戻ってきた王子は、すっかりと様変わりをしてしまった王を見て、心を痛める。
街は荒廃し、城は享楽に耽る声が漏れ聞こえる。己の力のなさを嘆きながら、辿り着いた玉座には、ぼんやりと玉座に座る王と、その王を取り込むように抱き締めている王妃の姿があった。
「あなた」
柔らかな声音で、不思議な少女は、王に語りかける。
ノロリと上げられた顔は、こけて血色も悪い。今にも死にそうなのではないかと思われるその姿に、王子は言葉を失った。
「一人にしてしまって、ごめんなさい」
なにを言っているのかと王子たちは少女をみた。
しかし、王はその言葉に低くうめくような声を発すると、女の手を振り払い、よろよろと立ち上がり、両手を広げ、少女をきつく抱きしめた。
「ああ。戻ってきてくれたのか。もう私を置いていかないでおくれ」
きつく抱きしめ、懇願するようにすがる王の頭を優しくなでながら、その言葉には返事をせず、少女は穏やかに笑う。
「あなたはこの国の王なのですよ。さあ、女の呪縛など断ち切ってください」
少女の言葉に王は、女に向き直ると、離縁を告げた。
「お前とは、今をもって離縁する」
あの枯れ果てたような体のどこから出したのか。厳かな声は、広い玉座の間に力強く響き渡る。
その声が終わると、女はこの世のものとは思えないような声を発し苦しみ始めた。
元よりここは、女を封じた場所。未だ魔法使いの力が残っていたのだろう。王の拒絶によって、女はここに居る資格を失った。
王の後ろ盾を失った女は、本性を露わにしたが、王子と、王子の集めた勇気ある若者達の手によって、討ち滅ぼされる。
そうして今度こそ、王国は平和を取り戻したのだった。
と言うストーリーの小説だか、ゲームだかがあったんだよね。
まあ、この流れを見て分かるとおり、真実の愛って、前王妃と王様の話なんだよ。このラストバトルの下りを見た瞬間、「誰得だよっ」と叫んだのはいい思い出だ。
で、まあ、そんな不思議な少女が私です。
前王妃じゃないじゃないかって言う突っ込みは、本当待って欲しい。
いや、確かに私は前王妃じゃないんだけども、私という存在そのものが、前王妃でないわけではないんだよ。
『ごめんなさいね』
鈴を転がすような穏やかな声が、私の中で響く。そう、なにを隠そう彼女こそが、前王妃なわけですよ。
私の中には、私っていう、ここじゃないどこかの記憶を持っている私と、前王妃だった私が両立しているわけです。
いや、物語の中で、このヒロインの優柔不断さに実にイライラとしたけど、こうやって、自分がヒロインになってみると、分かることもあるもんだ。
たぶん、私っていう存在は、王妃様の存在のせいで、消えるか寝るかしていたんだろう。
で、王妃様は、王様を止めればそれで良かったから、その後を考えて、彼女が誰とでも仲良くなれるようにと、ちょっとアドバンテージを残して上げていたんだろうと思う。
だって、王妃様がいなくなって、なにも分からない私が残されたら、そりゃ大惨事だ。
生まれた村から飛び出して、何年も留守にしたというのに、その間のことはすっかり記憶にありませんなんて、眉唾も良いところ。そんなアホみたいな言い訳で、村に戻れるはずがない。
よしんば戻れたとしても、記憶の無い間の純潔の証明など出来るはずがないから、良くて後妻、悪ければ、一生独身だ。
私の前の人生だったら、女の一人暮らしも、出来なくはなかったけど、この世界では、まず生きていくだけで精一杯になるだろう。
女一人で生きていくなんて覚悟を決めたところで、死なない程度で生きていけるかも知れないといったところだ。
「まあ、ほら、この世界魔法があるわけだし、ホムンクルスは無理としても、魂のない空の肉体を作るくらいは出来るんじゃないかと思うんだよ。そんでもって、魂をお互いに分割して、どっちかがその肉体に収まれば問題ない」
問題は、作った肉体に生殖機能が備わっているかだけどね。
『そんなことが出来るのだったら、作った体には私が入りますよ』
「でも、王様と、その、アレじゃない?」
『今更ですよ。息子も大きくなっているのに、子供なんて、混乱の元です』
そいや、王位継承権というものがあったなーと、遠い目をした。王族って、至極面倒くさい。
『それでも、私とあの人は、幾分自由に生きてきましたが』
王妃様と王様は、政略と見せかけて、大恋愛の末の結婚らしい。互いに一目惚れで、会った瞬間恋に落ち、互いの気持ちを育んで、結婚に至ったとのことだった。
ちょっと馴初め聞いたら、半日語られたからね。
出会って、恋に落ちたところから、お忍びデート。果ては、初夜のキャッキャッうふふまで語られそうになって、その生々しいのは止めろってストップかけました。
天井の染みを数えている間に終わるよくらいで留めておいてください。なにが悲しくて、赤裸々に他人の初夜事情を生々しく聞かねばならないのだ。いや、現在身一つ心二つなので、赤の他人とも言いきれないところだけど。
「まあ、問題は」
別段私がふらふらとしていたわけではないんだけど、と言うか、むしろ積極的にお近づきにならなかったのにもかかわらず、微妙な逆ハーレムが出来上がっている。
なんでこうなったのか、心底分からないんだけど、王妃様は分かるらしく。
『だって、あんな必死に一人でがんばってる女の子、放っておくなんて、男の子じゃないわ』
そう言って、コロコロと笑う。
意味分かんないです。一人でがんばってんだから、放っておけば良いと思うんです。だいたい、国に置いてきてる人居るって最初に言ってただろお前等。
『そんなの、得体が知れなかったあなたを牽制していただけよ』
「私に好かれたくなかった初志を貫徹して貰いたいところですね。個人的には」
ギスギスするので、そこまで言わないけど、好かれたくない一心でやってきたあれこれを決して、決して私は忘れないからね。
皆ギリギリだから、私は弱いので優先しろと言うつもりはない。足手まといなのは重々承知しているので、戦闘時のどさくさで、置いて行かれたりするのも、仕方ないだろう。
ここまでは私も割り切った。だって、本当に、こと、あの女狐関連以外は、私は足手まといどころか、手足着いてて邪魔な荷物なのを理解しているから。
なので、少々どころじゃなく邪険にされるのは、仕方ないかなと思ってた。
でもだ。思っているからって、全部許容できるわけじゃない。
戦闘のどさくさで置いて行かれて、物語を知っているから分かっている場所にもなんとかかんとか辿り着いた私に、あいつら、「なに遊んでたんだ」って言うんだよ。
命からがら逃げてきて、集合場所も分からないところで放り出されて、なんとか辿り着いた女の子に、遊ぶ余裕があると思っている頭を実にかち割ってやりたい気持ちでいっぱいになりながら、無視をしたよね。
何を言う気にもなれなかった。
と言うか、どうせだったら、場所も知らせてないのに辿り着いた私を不気味に思うくらいしたほうがいいんじゃないかとも思った。
けど、どうにもあいつら、その辺、自分に都合の良いように思っているらしく。辿り着いたのは、誰かがちゃんと言ったから。誰かが教えているなら、ここに辿り着くまでその誰かに守られていたはずだ。なのに遅いのは、遊んでいるからに他ならない。と言う論法になるらしい。
そこに気が付いた瞬間、夜中に頭かち割りに行って良いかなって本気で思ったけど、それだけの腕力が無いので諦めた。
あと、王妃様が必死で謝っていたので、王妃様に謝らせるのも違うだろうと、矛を収めて、三ヶ月。
やっと、あの女狐の息の掛かった刺客が追いついてきて、一戦交えたところで、私の持っている。いや、これって王妃様が持ってるのかな。まあ、不思議な力が発動して、それを撃退できた。
ここでやっと、私は王子にもこの力があるのだと伝えることが出来て、王子に訓練を促したが、ここからも長かった。
助かったって言うのに、今まで伝えてない待ち合わせ場所に訪れていた方がよっぽどホラーだろうと思うのに。
この力を持っている私を、不気味なもののように扱い始めた。
さすがに、このときは、もう、世界とか、国とかどうでも良いから、離脱しようかと思ったけど、一体二心の辛さですよ。王妃様に、それはもう愚痴られた。三日三晩愚痴られたところで私が根負けした。
眠れないのは、地味所じゃなく辛かったので。
まあ、そんなこんなで、半年粘って、やっと王子に訓練をさせるところまで漕ぎ着けた辺りから、あいつらの視線が変わった。
好意的になっただけなら、ここまで嫌悪しないが、そこに恋愛的な何かが混じり始めて、やたらめったら構い出した。
トイレに行くのも一苦労な状態になった今現在が、あの王妃様との会話だ。
『本当にいや?』
「むしろ、今までを踏まえて、どこに好きになれる要素があるのかと」
そう言うと、今までの、命を脅かしていた塩対応を思い出したらしく、黙り込んだ。
『でも、人は変わる物よ』
「そうですね。心変わりをしますね。でも、私、根本的なところは絶対に変わらないって思ってるんですよ」
よって、あいつらは、周りをよく見ることが出来ない阿呆どもであるという烙印を私に押されているわけである。
何度だって言うよ。
指定されてない集合場所に、本来は誰も辿り着けるはずがないんだよ。しかも森の中だったり、平原だったり、湿地だったりの目標のないところで。
それに気が付かないで、私を不気味がらないような人たち、信じられるものか。
と言うか、信じたら一緒に沈む未来しか見えない。
そんな辛辣なことを思っていると、王妃に溜息を吐かれた。
付きまとわれているせいで、肉体の生成に取りかかれてなくて、本当に迷惑しているんですけど。
そして、肉体の錬成目処が立たないまま、最終決戦地に辿り着いちゃった訳ですが。
とりあえず、後は王妃様に丸投げするしかないと、主導権は引渡し済みだ。
だって、突っ込みどころ満載の王様を救う真実の愛を語れるのは、王妃様しかいないわけだしな。
そんなこんなで、自動的に進んでいくのを眺めながら居たわけですが。
いや、無事女狐を成敗したとこまでは良かったんだけど。
「もう君を離さない」
と、まあ、病みすぎ王様が私の体を離さないお陰で、今度は、男同士の戦いが勃発しそうなんですよね。王様はなんとかしてよ。王妃様。
「あなた。この体は私だけのものではなく」
「ああ分かっている。だが、もう君と離れたくないんだ」
グズグズとぐずる王様に、王妃様は困った顔をしながら、私に助けを求めるように意識を向ける。
「あー。王様」
主導権を王妃様から奪って、表にでれば、王様は何とも言えない色をした瞳を向けてくる。
苛立ちがほぼ、嫌悪が次いで、殺意がにじんだところで、私の笑みが深くなったのに気が付いて、視線をはずした。
「とりあえず、今後のことは王妃様と打ち合わせ済みで、そう悪いことにはならないと約束しますよ」
人体のみの錬成。
今なら意外と簡単にそれが出来そうなんだよね。
いや、まさか自分の使ってる体が、元は魔法使いのものだったとか、知りたくなかったんだけどね。
魔法使いは本当にあの女狐のことを憎んでいたらしくて、女狐がいずれ、封印を解くだろうことも、わかってたらしい。
だから、女狐と一緒に自分も封印した。女狐が目を覚ましたら、封印が解けるようにして。
そして、封印が解け、魔法使いも目覚めたわけだけど、そこで、魔法使いは自分では女狐を抹消できないことにも気づいてしまったらしい。
だから、自分の体を基にして、あの女狐を潰せる魂のみを召喚、魂にあわせて、体を変換したあと、魂が入れ替わるまでの間に、村のものに私を託し、王様の切り札として、死んだ王妃様の魂を呼び出し、自身の魂は肉体から離れた。
まあ、魂だけになって、その辺をうろついてるのかもしれないけど、さすがに魂なんて肉眼では見えないのでわからない。
王妃様の魂だけで良いんじゃないかと私は思うんだけど、そこは、この世界のルールがじゃまをするらしい。曰わく、死者はこの世界に影響を及ぼせないとかね。
だから、他の人格と共生でき、かつ、王妃様が動けない状況に陥ったときのスペアとして、私を召喚したらしい。
まあ、そう言うわけで、女狐を無事抹殺できたので、女狐抹殺するために人質とでも言うように封印されてた記憶がよみがえったわけですよ。
その上、肉体の記憶も引き継げたらしく、魔法使いの知識も使える。
なにがいいたいかって言うと、材料として死体を使えば、人体を組み替える魔法は使える。そして、魂の定着方法もバッチリ。
ただ、その辺の死体の再利用を王妃が了承するか何だよね。
この知識は魔法使いの体に魂を定着させた私しか閲覧できないので、間借りしてる王妃様には見えてない。
そう考えると、この体は私が使った方がいい。いや、この体は私しか使えない。
なんたって、子供を作ったりしたら、世界に影響を及ぼすってことで、天罰が降るってことだから、そういうことのできる肉体を王妃様に与えることはできない。
子作り的な意味では、この体も怪しいんだけど、死体とこの体の違いは、生きたまま術を行使したか、死んだ状態で術を使うか、という差だ。まあ、時間さえかければ、新たに体を作るのも出来なくない気もする。
私が、熟考している間に、男共は一触即発の状態を復活させているようで、だんだんと声が大きくなってきていた。
そろそろ、決着をつけるべきだろう。
「王妃様。実は、手段として、二つあります。
一つは、1から肉体を作り上げる。この場合は、肉体ができあがるのにどれだけの時間がかかるか分かりませんが、少なくとも、誰かの何かは消費しません。
もう一つは、そこらに転がっている死体を元にして、肉体を組み替え、新たに作るものです。すでに素体はあるので、時間はかからず、お渡しできます。
どちらの手段をとったとしても、子をなすことは、残念ながら禁忌に触れるようなので、機能を持った肉体には入れたとしても、天罰を食らうか、そもそもは入れないかになるかと思うので、おすすめしません」
簡潔に王妃様に事態を伝えると、そっと辺りを見回して、次いで王様を見て、深いため息を付いた。
ああ。うん。王妃様的には何年かかっても良いけど、王様的に無理だよね。まず、私に切り替わったときに、殺気をにじませてるあたりで、個人的にはアウトにしたいし。
『ごめんなさい。いやなことをさせるわ』
「いやいや、王妃様だって諸手をあげてって訳じゃないのは分かるので大丈夫ですよ」
死んでまで苦労するとか、前世でどんだけ業を背負ったのかとか思っちゃうけど、この場合、罪深いのは、魔法使いだよな。
さてと、話はまとまったし、とっととやってしまおう。
脳裏にある魔法陣を死体の山に向けて描く。一瞬で魔法陣が組み上がり、世にもおぞましい光景ができあがりそうな予感に、慌てて、防音と不可視の結界を組み合わせた。
そうして、待つこと半日。
一応私は中を確認できるので、出来上がり具合をみるのに中の確認はしてたけど、しばらくお肉はちょっと良いかなって言う光景が出来上がってた。
いや、まあ、組み替えだからね。そうなるよね。
中を覗いてたのは、容姿とかその辺の微調整のため。
出来上がったのが王妃様に似てなかったら、王様、なんか、勘違いしそうだし。
ほら、生まれ変わり的なそういうやつ。
それを懸念して、ちょいちょい微調整をしつつ、新しい肉体を作り上げ、魂の定着まで終わって、王妃様は目を開けた。
途端に、王妃様は王様にかっさわられ、今まで苦労したのを労い合ったりとかの感動の場面は、なくなった。
ちょっとイラッとしたが、どう考えても病んでる人なので、言葉で言っても肉体言語でお話しても無理そうなので、諦めることにした。
まあ、とりあえず、我ながらいい仕事したなってことで、満足する。
で、話半端に放置していた王様以外の男性陣。
なんだか、わくわくしながらこっちを見てるんだけど、いや、まず己の行いを振り返ってからにしろって、本気で思う。
「まずはじめに、絶対にお前等はないから。だいたい、か弱くはないが、仲間になった人間を、平気で放置できるやつを信頼できない。あと、私って言う存在の不気味さに気が付いてないような、盆暗も信用できない。というか、泥船だと思うのでごめん被る。全員王妃様監督の元、1からやり直せ」
「そんな」
全員が口々にそんなことを言うから、私の機嫌はさらに急降下だ。
「いや、だいたい、お前等、何度、私を置き去りにしたと思ってんだ? その上、待ち合わせ場所を私に告げたことないだろ。告げてない待ち合わせ場所にことごとく現れる私に不信感抱かない、危機管理能力の低い人間なんて、いつ死ぬか分かったもんじゃない」
言われて初めて気が付いたって顔するな。そんなん気が付け。見ろ、王妃様があまりの申し訳なさに、身を縮こまらせてるじゃないか。
「そういうわけだから、私は魂だけでもいいから、帰還方法を見つけるための旅にでるよ。ああ、お供は要らない。とにかく、王妃様とお勉強コース頑張れ」
まずは根性入れ直すことから始めろよ。盆暗共。
と、捨て台詞をはくと、魔法使いの知識にあった、移動の魔法を起動する。
本来は己の行った場所にしか使えない魔法らしいけど、私の知識は魔法使いのものもあり、私の肉体は魔法使いの者であることから、魔法使いの行った場所ならば選べる。
それならば、そう簡単に見つからないように、ここから一番遠い場所を選んで移動した。
その後、王様の統治していた国はそこそこ持ち直したとか、なんか、王妃様うり二つの、若い女が後妻になったとか、王子と側近は、後妻にしごかれてるとか、女狐の死亡が明らかになって、ざまあって、いろんな国が喜んだとか、風の噂で聞いた。
そう、未だ私は放浪中である。
まあ、魔法使いの知識のおかげで、困ることってほとんどないし、魔法を使うのが楽しかったりするし。
なのでまあ、まだ体も若いし、のんびりと帰還の方法を探そうと思ってる。
「まずは、魔法使いの行ってない場所の踏破だな」
最近手に入れた近隣の地図を見ながら、まだ見ぬ場所に、帰還のための手がかりがあることを祈り、揚々と私は一歩を踏み出した。
ヒロインが、ヒーローとくっつかないどころか、母親だったって言うどんでん返しとか、ありだなって思って。