弓浜半島沈没
その日50メートルも100メートルもあるような大津波が弓浜半島を襲った。
地面にあるものすべて海中に引きずり込まれる。
「毅くん! あたしの家、海岸近くなのよ。父さんや母さん、弟が心配だわ」
久美子が半狂乱になって叫ぶと、
「いってみよう! まだ生きてる人がいるかもしれない」
毅は久美子の手を手を取ると走り出した。
津波のあったあと、どんどん弓浜半島の砂は海水に侵食されていく。
人々は海岸線から遠ざかろうと必死だ。
「おい! おまえたち、死にたいのかっ!!」
海岸に向かうふたりを目にした土方風の男が怒鳴った。
だが、久美子は気にかけずに走っていく。
「あたしの家が…あたしの家族がっ!」
「すみません! 気を遣ってくださってありがとう」
毅は、そう男に謝ると、彼女を追いかけた。
「ば…ばっきゃろう……いったって無駄なのによう……」
男は涙ぐむと、ふたりとは反対の方向に走り去った。
そして、ふたりは久美子の家のあったところに立っていた。
だが、そこにはすでに何もない。
何もかも津浪にさらわれてしまったのだ。
「あたしたち、これからどうなるの?」
毅は彼女の肩をギュッとつかんで寄せると、
「何もかも大人が悪いんだ。あんな…あんな恐ろしい爆弾なんかつくっちまって……。これは始まりさ。今に世界中が海の底に沈んじまうのさ」
「こ…こわい…」
そう語り合うふたりの目の前に、今度は200メートル以上もありそうな大津波が迫ってこようとしていた。