白夜─ビャクヤ─
北欧でもないのに白夜だわ──
私は見なれた道を歩いている。中学からの帰り道。
でも、なぜ夜に──こんな夜中に外にいるのだろう。
あ──橋がある。
私は渡ろうとして、ふと西の空を見た。
「きれい……なんてきれいなお月さま……でも、どうしてこんなに大きいんだろう?」
西の空にくっきりと映っている、その月のようなもの──また、あるいは太陽のようにコロナのあるものは、巨大な円だった。
そして、七色の幾何学的な美しさの模様が、様々な形に変化している。
私は、あまりの美しさに、橋の上にいつまでも佇んで見つめた。
ふと気づくと──どこかの家の中からラヂオの音が聞こえてきた。
「地球の皆様。今宵は最後の団欒を、静かな音楽でおくつろぎください」
そして、ラヂオから、物悲しいヴァイオリンの音色が流れ出した。
「………………」
私は知らず涙を流していた。
泣きながら、幻想的なまでに燃え盛る月のようなものを見つめた。
それは──その月のようなものは──水星だった。本来ならばこのような大きさの惑星ではない。
「どうして……」
異様に膨れ上がり、太陽も月をも飲みこんでしまった水星を、私は、あとからあとからあふれる涙で見ることができなくなってしまった。