6話 事後
カタルーニャ大聖堂内最上階。警備兵達が数多く押し寄せ、黒焦げの小悪党と縄でぐるぐる巻きにされている男性が警備兵に連行されていた。そしてそれとは裏腹に、ボロボロの少年に対しハグをする老婆が一人。
「イズモ! 大丈夫だったかい!?」
「あはは…… まぁ、おかげさまで」
「待ってな、今回復させてやるからね!」
マギアが魔法を唱えると、緑のオーラがイズモを包む。全快とはいかなかいが、大部分の傷口は塞がり、体中のアザも次々に治っていく。
「マギアさん、ルーにも回復魔法かけてあげて! 俺達のこと助けてくれた友達で、多分俺より怪我が酷いはずだから」
「勿論だよ。そこの嬢ちゃん、その子をこっちに連れてきな」
マギアはルーの元に駆け寄っていたミラノにそう言うと、ミラノは急いでルーを抱えて連れてくる。
「ん、お前さん、サフィール家の娘だね? という事は…… この子はコランダム家の跡取りか」
「ル、ルーは、私の大切な友なんですの! ど、どうか、助けてくださいませ……」
泣きながら懇願するミラノの手の中で眠るルーの体は、イズモ以上に傷だらけで、至る所に打撲の痕や切り傷だらけだった。しかし、マギアが魔法をかけると、その傷達もみるみるうちに治っていく。
「疲労が溜まってるみたいだからまだおきないだろうけど、命に別状はないさ」
「……っ! あ、ありがとうございます!」
「とはいえ、医務室には運んだ方がいいだろうね。アレン! 警備兵貸しな!」
既に警備隊長であるアレンを差し置き、警備隊を牛耳っているマギア。近くにいた警備兵を3人ほど見繕うと、付き添いのミラノと共にルーを医務室へと運ばせた。
「イズモっ!」
「わっ、マシロ……」
マギアと一緒に2人を見送っていたイズモの胸に、涙でぐしゃぐしゃになった顔でマシロが飛び込んでくる。それを両手で受け止めるが、その肩に触れただけで震えているのが感じ取れる。
「ごめんね怖い思いさせて。俺がもっと強ければ良かったんだけど……」
イズモの言葉に、マシロは無言で首を振る。
「私が…… 私が悪いの! 私のせいで、イズモも、ルーくんも、ミラノちゃんも、こんな事に巻き込まれちゃって……」
「マシロそれは違うって! マシロは何も悪くないよ!」
「でも……! わ、私さえ、いなければ……!」
自責の念に駆られるマシロ。マシロは偶然、神宿りに選ばれてしまったためにコール侯爵に狙われたので、マシロに非がある訳では全くない。しかし、自分のせいで友達を傷つけてしまったと事実から、自分が悪くないという事が分かっていても自分さえいなければと考えてしまう。そんなマシロに対し、イズモは責任は自分にあると言い張るが、マシロも一歩も引かずに自分の責任だと言い張る。そんなイタチごっこが何回か繰り返した所で、ふたりの耳に手を叩いた音が聞こえる。2人は音のする方を見ると、マギアが手を合わせて2人を見ていた。
「そこまでさ。全く、真面目すぎるのも考えものだね」
マギアはため息を吐く。
「お前達は良くやったよ。たった4人、それもまだ10歳の子供が大人の本気の悪意に打ち勝ったんだ。上出来すぎるくらいさね」
「全くもってご婦人の言う通りです」
マギアの言葉に、男性の声が同調する。それは警備隊長であるアレンのものだった。
「あなた達に非はありません。全ての責任はこの式を執り行っていたオリーブ学園国家にあります。さらに具体的に言うならば……」
そして、その両手には満身創痍で引きずられる、オレア・コラン学園教師シオンとメトルの姿があった。
「警備任務をほっぽり出してアホやってたこの2人のせいですから」
「「ほ、本当に申し訳ございませんでした」」
イズモ達に土下座するメトルはなにかに焼かれたように丸焦げで、同じく土下座しているシオンは体中に殴られた痕をこさえていた。そして2人は仲良くその脳天に出来たてほやほやのたんこぶが高くそびえていた。
「いやいやいやでも、でもですよっ! 確かに私達がサボってたのはごめんなさいって感じですけど! 他にも警備の先生がいたじゃないですかっ!」
「た、たしかにシオンの言う通り! 俺達だけのせいにされるのは……」
「ほらほら先輩だってこういってますしっ! ねっ! アレンさん、ねっ!」
諦めが悪い今回の戦犯2人。そんな2人にアレンはさらにゲンコツをすると、2人はその場に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなる。
「イズモ君、マシロ君、本当に申し訳ない。あんなのでも我が学園屈指の実力者でね。他にも警備をしていた教師や警備兵もいたんだが、コール侯爵の策略を打ち破れるのはあいつらくらいだったのさ。その2人がサボってしまってたので……」
「な、なるほど……」
アレンの話に受け答えしつつも、あんな大人にはならないようにしようと、イズモは心に決めた。
「さて、私はこの場に残って事後処理をしますが、皆さんはそろそろこの場を離れた方がいいでしょう。コール侯爵のような暴挙に出る方が他にもいるかもしれませんし、これ以上目立ちたくはないでしょう?」
マシロが神宿りであっただけでも十分な注目を集めていたのに、コール侯爵による襲撃によってイズモ達への注目度は上がってしまっていた。そのことに気づきイズモは頷くと、アレンは口元を綻ばせる。
「ん、そういえば、君達はオレア・コラン学園に入学するのか?」
「はい、そのつもりです」
「そうか。なら、これだけ書いてくれ」
アレンは1枚の紙と羽根ペンのセットをイズモとマシロそれぞれに渡す。そこには、名前、出身、年齢、種族を書く欄があった。
「入学するのにこれだけは必要だからな。今ここで書いてくれれば、その時点でオレア・コラン学園に入学完了だ」
「あの、種族って……?」
「あぁ、そこは気にしなくていいよ」
イズモとマシロの2人はその紙に指定された事項を書いていく。書き終わると、描いた文字が黄金色に光り、書いた紙がひとりでに紙飛行機の形へと変化する。そして、その紙飛行機は風もないのにどこかへ飛んでいく。
「うん、OKだ」
「紙、飛んでっちゃいましたけど……」
「大丈夫大丈夫。入学担当の元へ飛んでっただけだから。そのうち帰ってくるよ」
イズモの指摘に、アレンは朗らかに返す。
「ほ、本当にこれだけなんですか……? こう、もっと色んな書類とか、お金とか必要なのかなって思ってたんですけど……」
「そんなのないない。学びたい意欲さえあれば、それで十分ってのが学園長の考えなんだよ」
そうこういっているうちに、さっき飛んでった紙飛行機が2人の元へと帰ってくる。2人がそれを受け取ると、紙飛行機の形からひとりでに元に戻る。受け取った2人はその紙をもう一度見てみると、先程イズモ達が書いていた面の一番下に、「おっけ~」と書いてあった。
「担当はシオンに負けず劣らずの阿呆だからな、気の抜けた返事に関しては気にしないでくれ」
「いや気になりますって。なんかこう、ハンコ押すとか、『承認』って書くとか、もっとやりようありますよね?」
「イズモ、あいつにそんな正論言っても無駄さ……」
「え、マギアさんその人について知ってるの?」
「昔の話さ。それより、2人とも裏を見てみな」
2人はマギアに言われるがままに裏面を見ると、オレア・コラン学園内の地図と、「好きなのえらびな~」というメモの下に施設名が10個ほど書かれていた。
「ん…… これは?」
イズモが尋ねると、アレンは施設名の一つにタッチする。すると、地図がその施設の場所を表示し、さらにその施設の情報と画像が地図を飛び越え空間に投影される。そして、「入居しますか?」という項目と、その下に「はい/いいえ」という選択肢も同じく投影された。
「この施設名は全て、寮の名前なんです。これから学園生活をしていく上で、住む場所は必要不可欠ですからね。施設名にタッチすると情報を見れるので、それを駆使して、これから住みたい寮を決めてください」
「凄い……」
「その紙、30分経つと効力無くしちゃうので、お早めに」
「あ、時間制限あるんですね……」
イズモはマシロの紙に書いてある施設名も見せてもらうと、ひとつだけ同じもので、それ以外は全て異なっていた。
「これ、なんでマシロと俺の表示されてる施設名は違うんです?」
「オレア・コラン学園内の寮は膨大な数がありますからね。その中から向いてそうな寮を担当者が気分で選んでるんです。まぁ、くじ引きみたいなもんです」
「くじ引き…… ま、まぁ、とりあえず。二人一緒の寮がいいので、唯一被ってるこの寮にします」
2人が被っていた寮は『アルベキナ寮』という名前だった。2人はその寮の名前をタッチし、「入居しますか?」という問いに「はい」を選択する。すると、施設名が列挙されていたメモが淡く光り、『アルベキナ寮』以外の施設名が次々に消えていく。代わりに『アルベキナ寮』の文字が一番上に上がっていくと、その下に部屋番号が表示される。マシロは001番、イズモは002番と、2人の部屋番号は連番だったので、隣部屋どうしだと推測される。
「さて、寮も決まった事だし、早くそこに行って休んだ方がいい。寮の防衛設備は鉄壁だから、安心してくつろげるぞ」
「「はい!」」
2人は元気よく返事をする。
「保護者は行事以外じゃ学園内に入れないから、あたしゃはここまでだね。イズモ、マシロ、気張りなよ!」
そう言い残すと、マギアは2人に何も言わせないまま転移魔法で去っていってしまう。
「……行っちゃった」
「まぁ、マギアさんなら転移魔法でいつでも来てくれるよ。それより、マギアさんに心配されないようにしっかりと力をつけてかないと!」
「そ、そうだね!」
2人がやる気満々で決意を胸にしていると、アレンはおもむろにゲンコツをこさえているシオンの元に行き、引きずりながら連れてくる。
「ここから『アルベキナ寮』までは結構遠いし、今の状況で2人だけで向かってもらうのは危ないからな。こいつを護衛兼案内役としてつけておく」
問答無用で頬を叩いてシオンを起こすアレン。起きるやいなやいつもの調子で悪態をつくシオンだったが、アレンが二言、三言呟くだけでみるみるうちにその勢いは削がれていった。その様子に一体何があったのか気になるマシロとイズモだったが、それを尋ねる暇もなく、シオンは転移魔法を起動する。
「それじゃあ、2人共元気でな。また会おう」
その言葉を後に、3人はカタルーニャ大聖堂から姿を消した。
□□□
「ついたよーっ! ここがっ、オリーブ学園に百ある寮の1つ! アルベキナ寮だよっ!」
放心するイズモとマシロの目の前には、レンガ造りの巨大な洋館がそびえ立っていた。
「こ、こ、こんなにでかいんですか!?」
「え、これでも寮の中じゃ小さい方だよーっ? 学校に至ってはほぼ城だし、こんなので驚いてちゃダメダメ~!」
そう笑いとばすシオンが先へと進み出したので、2人もそれについて行く。その洋館には軽い門があり、そこを抜けると街頭とレンガの道が洋館の入口まで繋がっている。
「さぁさぁこっちっ! ここがアルベキナ寮の正面入口だよぅぅ!」
アレンの前とはうって代わり、謎にテンションの高いシオンはそのままの勢いで木製の扉を開く。扉の先にはリビングらしき場所が広がっており、大小様々なソファや椅子、机があった。
「ここは入居者誰でも使えるリビングだよん。つっても、今は君たちしかいないけどねぇ。ほら、君たちの部屋まで案内してあっげよ~う!」
「この学園って100個の寮があるんですよね? シオンさん、その全てを把握してるんですか?」
「ん、100? 500だけど?」
シオンはきょとんとした顔でそう返す。
「えっ!? で、でもさっきシオンさんが、『百ある寮のひとつ』って……」
「いやぁ、五百ある寮のひとつって言いづらいじゃんか」
「語感で決めてたんですか……」
「いやいや、ある意味百ある寮ってのは正しいんだよっ? んー…… よしっ、それも含めて学園のことをレクチャーしてあげよ~ まっ、とりあえずは部屋に行こうか。ここだと後々人が来るかもだからねぇ」
そう言ってシオンは階段の方へ向かっていくので、2人はそれについていき、階段を使って1階から3階へと行く。そこは001番~050番の部屋があるフロアだった。
「君らは001と002だから、階段上がってすぐのとこだねぃ。じゃ、イズモくんの部屋を借りようか。ほら、イズモくん開けてみっ?」
シオンに勧められるままにイズモはドアノブに手をかける。
「あれ、開かないですよ? 鍵かかってるのかな……?」
「まぁまぁそう焦らずに~ そのままそのドアノブを強く握ってみっ?」
言われるままにドアノブを強く握りしめるイズモ。すると、イズモが触れている部分かドアノブが徐々に光り出し、その光がドアノブ全体に伝播しきるとガチャンという音が鳴る。その音を聞き、試しにドアノブを捻ってみると、先程とうってかわって抵抗なく開く。
「ほい、魔力登録かんりょ~。この扉、魔力によって鍵をかけてるんだよねぇ。 登録には部屋番号書いてあるメモが必要だから、他の人に登録されることは無いよん」
「魔力の登録……って、かなり高等技術じゃなかったですっけ!?」
「そ、そうなのイズモ?」
「う、うん。知ってる限りだと、王室とかにしか導入されてないはず……」
王室に使用されている技術が、この寮の一つ一つの部屋に使われている。もし他の寮でも同じように使われているのなら、その数は千や二千を超えるだろう。
「その技術を開発した人、ここの学園の教師なんだよっ!全ての寮に導入されてる訳じゃないけど、ここは新しい寮だからね~ ほら、入った入ったっ!」
シオンに押し込まれるようにして部屋の中に入るイズモ。その部屋は一人で暮らすには十分すぎるほど広く、ベッドや机といった最低限の家具が既にあった。シオンはいの一番にベッドに向かうと、そこに腰かける。
「あれ、く、靴は脱がなくていいんですか……?」
「んぇ? 普通土足でしょ? あれ、マシロちゃんは天地出身なんだっけ?」
不思議に感じるシオンを見て、やってしまったと顔でイズモに助けを求めるマシロ。
「いえ、俺もマシロもリベルタ出身ですよ。ただ、家主が変わり者で、俺達の家は土足厳禁だったんですよ」
「あーそうだったんだ。土足厳禁の人はたまにいるからね。まっ、そんなわけだからマシロちゃん、気にしないで入っておいで~」
シオンに促され、イズモとマシロの2人はベッドの前に置いてあった椅子に座る。
「さてさて。それじゃあ軽くこの寮、ひいてはこの学園について、天才魔術師のシオンちゃんが説明してあげよう~」
自分で自分のことを天才言い放ったシオンは、自ら拍手をして盛り上げる。それに2人が乗ってこなかったのが気に食わなかったのか、2人に拍手をねだる。拍手をしない限り終わらないと感じた2人が拍手をすると、シオンは満足気な表情をして話し始める。
「まず、なぁーんで私がこの寮について詳しいかを答えてあげようっ! 何を隠そう、私はこの寮の担当教師なのさっ!」
「担当教師……?」
「そう。この学園内には500個の寮があるって言ったでしょ? その一つ一つの寮に、教師が一人一人担当する事になってるのさ~」
シオンはそう説明し、今度は魔法を唱えて学園全体の地図を投影する。
「次は学園について説明するねっ! 学園はこのように5つの区間に分けられてて、学年によって住む場所が違うんだ~ 私達が今いるこの地区は一学年区、当然一年生が多いんだけど、たまーに上級生も遊びにくるねっ!」
「あっ、じゃあシオンさんが百ある寮のひとつって言ってたのって……」
「お、察しがいいねイズモくんっ! イズモくんの想像通り、一学年区には100個あるんだよん」
そう言うと、投影した地図の中で、一学年区を拡大する。
「ここが一学年区。ここが図書館、そっちが訓練所、ここに武具屋…… そんで、この中央にドーンとあるのが一学年専用校舎だよ~」
シオンの説明に連動するように、地図上の各施設が色づく。そして最後に、一学年区の中央に存在していた施設が光る。
「明日から2人が通うのはここ。絶対受けなきゃいけない授業は特になくて、一年間通じて、昇級課題さえクリアできれば昇級できるよん」
「しょ、昇級課題ですかっ!?」
「大丈夫大丈夫。課題は選べるから得意なものをすればいいし、チーム組んで取り組めるからそんなに心配しなくていいよっ!」
チームを組んでも取り組めるという言葉を聞いた途端、マシロはすがるようにイズモを見る。
「イ、イズモ……」
「分かってる分かってる。一緒にやろうね」
「あ、ありがとう!」
マシロは一安心したようで、胸を撫で下ろす。
「シオンさん、チームって人数制限あるんですか?」
「いや、ないない。ただ、6人以上のチームは、その人数に応じて課題自体も難しくなるから気をつけてぇ~」
「そうしないと、優秀な人と組むだけで合格しちゃいますしね……」
「まぁ、5人までは難易度変わんないから、例年5人のチームが多いかな~」
5人までなら難易度が変わらないなら、ルーとミラノも誘ってみようとイズモは思った。
「あ、ちなみに今までで一番多かったのは百人だっかな? 学生達が腕試しがてらに挑戦したんだよ~」
「ひゃ、百人ですか!?」
「そーそー。今の…… 最高学年になる子達かな? その子達が3年生の時にしたんだよん」
最高学年になる子達、つまりはアルコ達の代であることをイズモは理解する。そして、アルコの人となりを知るイズモは、その腕試しを提案したのはアルコだろうということも同時に理解した。
「そ、その時の、課題って、なんだったんですか……?」
「んーっとね、選んだ課題が戦闘系だったから…… 教師5人対学生100人の模擬戦だったね」
「そ、それ、勝負として成り立ったんですか……? 教師側の圧勝な気がするんですけど」
単純な人数比だけでいえば、教師1人に対して学生は20人で戦える。とはいえ、そんな単純な話ではないことをイズモは知っていた。範囲攻撃が得意な教師がいれば数の差なんて関係ない上、子供達に戦闘を教えている教師達はそのどれもが紛れもない強者である。それに対する学生達はどれだけ才能があるとはいえまだまだ発展途上、イズモが教師側に軍配を上げるのも無理はなかった。
「それがねっ!この勝負、学生達が勝っちゃったんだよっ! いやー、ほんっと驚き、私も学生時代それすれば良かったーっ!」
「えっ、勝ったんですか!?」
「うん、勝っちゃった。しかも、実質たった5人で勝ったんだもん、ホントすごいよね~」
「ご、5人……!?」
「ま、君らも頑張りなっ!」
その後、シオンは2人に対し寮や学園について更に説明する。
「んじゃ、あとは机の上に色んな資料あるからそれ読んどいてねっ! そんじゃっ!」
説明し終わると、シオンはそう言い残して部屋を去っていった。
「んー…… 明日から授業だし、今の内に受けたい授業決めちゃおっか」
「う、うん!」
「えーっと、これかな?」
机の上に置かれた資料の中から、開講される授業一覧が書かれている資料を手に取る。
「そうだなぁ、命符に関する授業は受けるとして…… マシロはなにか受けたい授業ある?」
「えーっと…… 魔法の授業は受けたいなぁ……」
「そっか。じゃあ魔法系も学ぶとして…… 商売系は学ばなくていいよね?」
「そ、そんなものまであるの……?」
「商人志望の人もいるからね」
オレア・コラン学園への入学者は、なにも冒険者志望だけでは無い。命符も人それぞれ、戦闘系以外の者もいるため、商人志望も結構いるのだ。そんな人達のため、戦闘系以外の授業もしっかりと揃っている。
「他にも、機械工学とか、帝王学とか、料理教室とか色々あるよ?」
「な、何それ……」
「色んな人がいるからね。まぁ、とりあえずは魔法系と命符系は受けてっと…… あ、俺は剣術の授業も受けようと思うんだけど、マシロはどうする?」
イズモがそう聞くと、マシロは苦笑いを浮かべる。
「うーん…… こ、怖いなぁ……」
「そっか。まぁ無理にしなくてもいいしね」
「あっ! 私、この世界についてもっと知りたいかな」
「じゃあ、初級座学かな」
そんな調子で2人は受けたい授業を選んでいく。10分ほどで大体決まったようで、2人はメモに書き込む。
「よし、あとは受けたくなったらその都度増やしてこっか。飛び入り参加もOKみたいだし」
「そうだね。えーっと、初めての授業は……」
「……シオンさんの、初心者魔法講習だね」
シオンの駄々をこねる状況を頭に浮かべた2人は、その授業に一抹の不安を感じる。
「ま、まぁ、ちゃんとしてる時はちゃんとしてるし……」
「そ、そうだね……」
その後2人は明日の予定も全て決めた後、明日の準備をして一日を過ごした。夜が近づくにつれてほかの入居者もやってきたようで、寮全体が騒がしくなり始めた。神宿りとして注目を浴びているマシロに会うと、余計な騒ぎがまた起こると考えた2人は早々にベッドに潜り込む。今日一日で肉体的にも精神的にも疲れきっていたのだろう、2人は直ぐに夢の世界へと誘われた。