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星雨の誓い  作者: yappoi
3/7

2話 出立

朝日が出たばかりの頃。イズモは寝室で目を覚まし、むくりと体を起こす。寝惚けた思考で目を擦り、ぼやけた視界を整える。


「……あぁ、そういえば一緒に寝たんだっけ」


イズモの横には小動物のように丸まって寝ているマシロが居た。少女は規則正しい寝息を小さく立てていた。


「起こさないよーにしないとね」


イズモは適当に服を見繕うと、忍び足でその場から離れる。洗面所で顔を洗い、魔法を駆使して寝癖を直すと、寝間着から着替える。リビングで机の上にあった鞄を肩から下げ、玄関へと向かう。玄関に行くと、少女用の服が複数と、靴が置いてあった。


「あぁ、ヤードムさん、服作り終わったのか。……流石元服飾屋、仕事も早いしクオリティも高いな」


置いてあった服をリビングの上へと運び、靴は玄関の端へとずらす。イズモは自分の靴を履き、ドアを開けて外へと出る。朝特有の爽やかな、しかし肌寒い風を浴びる。


「うぅ…… 上着ようかな……」


イズモは鞄に手を突っ込むと、その中から上着をとって体に纏う。そのまま、村の出入り門へ向かい、出入り門のすぐ側にある見張り台へ登る。


「あれ、モケさんがいない……? まだ帰ってないのかな」


イズモは見張り台から村の外へ飛び降りる。魔法で風のクッションを作り、着地の衝撃を和らげると、森の中へと入っていく。少し進むと、ひらけた所に、一部分だけ抉れている大樹がある場所に出た。


「今日は…… そうだなぁ、水魔法にしようかな」


イズモは大樹に向かって構えると、魔法を唱えて5m程の水球をつくる。


「……ふん!」


さらに力を込めると、今度は水球が徐々に圧縮され手のひら程の大きさへと縮む。イズモは、縮めた水球を大樹に向かって飛ばすと、水球は風切り音を立てながら大樹にぶち当たり、当たった瞬間に爆発する。その衝撃で大樹はゆらゆらと揺れ、木の葉が数十枚落ちる。


「【遊戯魔法】水鉄砲 改式」


その魔法を唱えると共に、イズモの手のひらに水球が現れ、拳銃に姿を変えていく。イズモはそれを手に取り、落ちてくる木の葉の一枚一枚を狙って引き金を引く。

拳銃から水でできた玉が勢いよく飛んでいき、木の葉に当たる。しかし、威力はまばらで、本物の銃の威力さながらのものもあれば、その名の通り水鉄砲程度の威力しかないものもある。


「30発近く打って、まともな威力だったのは3つってとこだな」


不意に、イズモの後ろから声がした。イズモは声の主の方へ振り向くと、上半身から下半身まで血で真っ赤に染まった老人が血で真っ赤な槍を片手に木の枝上に座っていた。その木の下には、竜の死骸が3つ転がっており、その体には不自然につけられた穴の痕があった。


「……何覗いてるんですかモケさん。ゴブリンにトマトでも投げつけられたんですか?」

「いやなに、昨日の夜、ゴブリンの群れを倒しに行っただろ?普段なら森の奥深くにいるもんだが、すぐに接敵したからこりゃあおかしいと思ってな。仕方なく森の奥地へ行ったら、ワイバーンがうじゃうじゃいたんでな、戦ってきた。面倒だから3匹しか持ってきてねぇけど」

「あぁ、それで帰ってくるの遅かったのか…… 【生活魔法】クリーン」


イズモが魔法を唱えると、光がモケを包み、血で真っ赤に汚れていた服を元通りにする。


「お、ありがとな。しっかしおめぇ、ほんと器用だな。【遊戯魔法】であれだけの威力出してるやつ、そうそういないぜ。まぁ、まだ実践じゃ使い物にならんだろうが」

「魔法に関してはマギアさんに習ってるからね。俺は強い魔法を覚えるの苦手だから、弱い魔法を応用してかなきゃ」

「なるほどねぇ…… 俺ァ槍一本だけで戦ってきたからな、魔法使えるだけでもすげぇと思うが」

「槍だけっていったって、モケさんの槍さばきはほぼ魔法みたいなもんでしょ」


イズモはモケが仕留めてきたワイバーンを見つつそう言った。ワイバーンの体には槍でつけられたと思われる穴があるが、その穴の大きさは少なく見積っても槍の直径より5倍は大きい。明らかに不自然ではあるが、モケの戦いを見た事があるイズモには、その理由が容易に推測される。端的に言うならば、刺された衝撃によって消し飛んでるのだ。その威力はワイバーンの体を貫通させることから察せるほどで、魔法ではないので魔力を必要せず、体力のある限り攻撃可能。さらに言うならば、これはこの老人の通常攻撃(・・・・)であり、奥義やスキルといった類のものでは無いため、魔法などというものより余程タチが悪い。


「そらぁ命符のおかげさね。……そういやお前、今日が命響式だったか」


老人は未だワイバーンの傷から目を離さないイズモにそう言った。それに反応してイズモは目線をワイバーンから老人へと移す。


「そうだよ。どんな命符もらえるのか、楽しみでもあるけど、ちょっと怖いかな」

「んーなんだ、強い命符が欲しいか?」

「いや、うーん…… まぁ、そりゃあ……ね?」


歯切れの悪い返答を受けて、モケは吹き出して笑う。


「はははっ! お前は妙に賢い時もあるが、やっぱりまだまだ子供だなぁ」

「なっ! つ、強い方がそりゃあ良いじゃんか! モケさんだってそう思うでしょ!?」

「ま、強え方が良いってのは賛成だが、大した努力もせずに強くなるのは嫌いだね」


モケは笑顔でそう言い放つ。


「そもそも、命符がどれだけ強かろうが、それにあぐらをかいてるやつは負けるのさ。俺の周りにも神やら概念やらの命符をもらって調子に乗ってるやつがいたが、全員のしてやったよ」

「……でも、それは、モケさんの命符が強かったからでしょ?」


イズモは未だに納得ができないようで、モケへ質問する。


「俺の命符はそこまで強くない、ありふれたもんだったしな。だから、強くしたのさ(・・・・・・)

「え?」

命符は成長する(・・・・・・・)。どんなに弱い命符でも成長し、化ける。成長した命符は、時に神の御業としか思えない力を、所有者に与えるのさ」


初めて聞いた内容に、頭がこんがらがって困惑する。


「それとな、よく勘違いする馬鹿がいるが、命符に優劣はねぇんだ。命符ってのは所有者の本質を、個性を目に見える形に表したものに過ぎねぇ。それなのにあの命符が優れてるだの、この命符はダメだだの、それを審議する時点でお門違いさ」


モケはさらに続ける。


「そもそも、命符によって活かせる場面・状況は異なるからな。もっと言うなら、強えやつは命符云々によらず強え」

「む…… た、たしかに」

「わかったらとっとと修練しな。お、なんなら餞別代わりに俺が手合わせしてやろうか?」

「餞別代わりって…… 毎日やってるじゃんか」


イズモは毎日のようにモケに手合わせをしてもらってる間柄であり、有り体にいえば剣の師匠である。といっても、足さばきや剣術を手取り足取り教えるわけではなく、イズモが練習してる所にモケがふらっとやって来ては突然襲いかかられるのだ。


「なら、餞別ってことで特別に槍使おうか?」


モケの提案を聞いた途端、先程のワイバーンが頭に浮かんでしまい。顔を青ざめ、必死に首を横に振る。


「こ、殺す気!?」

「はははっ! 冗談冗談。俺が槍使ったら、餞別の内容があの世ツアーに変わっちまうわ。いつも通り、俺は素手、お前は魔法と木刀つかっていいぞ。一撃食らわした方の勝ちな」


モケは枝の上から降り、屈伸や伸脚をして準備運動を行う。その様子に、いつもながらこの老人は何を言っても聞く耳を持たないなと諦めたイズモは、仕方なく鞄の中から木製の小太刀を取り出す。


「お、今日も小太刀か」

「俺の剣速じゃまだモケさんを捕えることできないからね。なるべく速く振れる小太刀がいいかと思って」

「まぁ、懸命だな」


雑談をしつつも、イズモの脳内はぐるぐると思考を巡らせ、モケに対してどうすれば勝てるかを考えていた。今まで挑む(襲われる)こと5年、千を超える戦いをしてきたが、勝ち星はゼロ。モケの初撃で終わった戦いは9割5分、残りの5分も二、三撃目で終わっている。これ程の敗戦を積み重ねている理由は、ひとえに老人の規格外の反応速度と攻撃速度である。それがわかっているからこそ、勝つための策の1つとして攻撃速度の高い小太刀を構えたわけだが、それで勝てると思うほどイズモはこの老人を舐めてかかっていない。


「んー…… 【遊戯魔法】風蜻蛉(かざとんぼ) 改式」


イズモが唱えた魔法は、【遊戯魔法】風蜻蛉(かざとんぼ)。その魔法は地面に風を集め、蜻蛉(とんぼ)のように空に浮くための魔法であり、その効果から子供に大人気の魔法である。しかし、その出力は弱く、地面から50cmほどしか浮くことができず、風を発生させるだけなのでコントロールは効かず、効果時間も短い。良くも悪くも遊ぶための魔法なのであり、戦闘に用いることはない。しかし、イズモがその魔法を使うと、炸裂音と共に鉄砲玉のように弾き飛ぶ。


「……圧縮か!」


突然の事に面食らうモケだが、流石は歴戦の勇士、すぐにその仕掛けに気づく。モケの推測通り、イズモの魔法の鍵は圧縮(・・)である。先の水鉄砲でも行っていたように、風蜻蛉(かざとんぼ)を限界まで圧縮させ、踏み込みと共に解放する事で出力を上げている。しかしそれでも、モケを捕えることは出来ず、軽く避けられる。


「まだまだァ!【遊戯魔法】風蜻蛉(かざとんぼ) 改式!」


イズモはすれ違いざまに、モケの足元に魔法を放つ。それはすぐに破裂し、圧縮された風がモケを空中へと吹き飛ばす。


「【遊戯魔法】水鉄砲 改式!」


宙へ浮いたモケ目掛けて、水鉄砲を乱射する。まだまだ未完成とはいえ、一撃もらえば負けのルールにおいて、まともな威力のものが紛れているため、一球も軽視できない。


「なめるなよ、イズモォ!」


モケは大気を殴ると、まるで空気砲のように殴られた空気が飛び、水玉の一つ一つを弾き飛ばす。


「【遊戯魔法】煙玉」


魔法で煙玉を作成すると、モケの落下地点付近に投げつける。地面に当たった途端に弾け、灰色の煙が蔓延する。


「ふん、関係ないわ!」


モケは地面に向かって、先程よりも大振りで、力を込めてパンチする。殴られた空気が地面に当たり、一瞬で煙を吹き飛ばす。


「はは! いい線いってたが、残念だったな!」


そう、猛攻をしのぎきったと確信したモケの胴を、風の速さで飛んできた小太刀が捉える。流石のモケも反応が遅れ、呻き声を漏らし尻もちを着く。


「ふふ、魔法で小太刀を飛ばしたんだ! あぁぁやっと勝てた!!」

「くっそ、油断した……」


モケは苦虫を潰したような顔でそう漏らす。


「何が攻撃速度上げるため、だよ。軽いから飛ばしやすいから小太刀にしてたんだろ」

「ふふん。ハッタリ使えなきゃ、モケさんには敵わないかなって」

「ちっ、まぁその通りだな」


モケは立ち上がると、イズモの頭に手を載せ撫でる。


「ばーさんに習ってることを鵜呑みにするんじゃなく、応用してる。そんなお前なら、命符に恵まれなかろうとやってけるさ」

「……ありがとう」


老人に褒められ、少し照れるイズモ。


「さて、帰るか。日も昇ってきたし、そろそろばーさん達も起きるだろうしな」


そう言ってモケは、ワイバーンの死体を槍に突き刺し、その槍を方に乗せて帰路に着く。イズモは小太刀を鞄に片付け、その後を追うようにして村へと帰った。村に帰ってすぐにモケとは分かれ、モケはワイバーンを置きに解体屋へ、イズモはマギア宅へと向かった。


「ん…… まだ起きてないか」


イズモは寝室を覗いてみるが、2人とも起きる様子すらなかった。リビングにある時計の針は6の文字を指しており、朝ご飯を作り始める時間帯だった。米をとぎ、炊くために鍋にセットし、火をつけようと試みる。


「今日は火がつくかな…… 【生活魔法】イグニッション」


手のひらに炎が現れ、その炎を少し圧縮してコンロへ放つ。しかし、その炎はコンロにたどり着く前に、何かにかき消される。


「……マギアさんめ、鬼畜設定にしてるな」


マギア特製魔術訓練用コンロ。このコンロの特殊な所は、火をつけることがかなり困難な所である。まず、コンロであるのに火をつけるためには魔法でつけなければならない。さらに厄介な点は、このコンロからは魔法を無効する魔法を微弱ながらも発している。そのため、込められた魔力が弱ければ掻き消されてしまう。この魔法の威力は調整可能で、今日の調整はどうやら鬼設定のようだ。


「【生活魔法】イグニッション」


再度着火に挑戦する。今度は炎を出来るだけ圧縮し、スピードも上げてかき消されないよう注意する。


「よかった、何とか()いた」


上手いこと火がついたので、今度は主菜を作るためにマギア特製魔道冷蔵倉庫の中を確認する。


「今日は…… ベーコンハムエッグ……? いや、ベーコン切らしちゃってるよな~」


マギア特製魔道冷蔵倉庫の中身と睨めっこしながら、メニューを考える。


「あ、鮭あった。焼くか」


鮭の切身を3つ取りだし、両面に塩をふりかけ、油をひいたフライパンに載せる。先程の要領で反対側のコンロにも火をつけ、フライパンを乗せる。


「んぁ…… おはようイズモ……」


匂いにつられたのか、目を擦りながらマシロがリビングへとやって来る。白く染めた長い髪は少しボサボサになり、寝癖もついていた。


「おはようマシロ。よく眠れた?」

「うん。久々に、あんなにフカフカのお布団で寝れたから」

「そっか、それなら良かった。もう少し待ってて、もうちょっとで朝ご飯できるから」

「うん、分かった…… なにか手伝うことある?」

「大丈夫大丈夫。それより、寝癖直さないとね……」


マシロは顔を赤らめて自分の髪を触る。手触りで寝癖があることが分かり、急いで洗面所へと向かった。その間にイズモは焼き鮭とご飯を皿に盛り、テーブルへと運ぶ。さらに魔法で湯を作り鍋へ注ぐと、空いたコンロに置き、作り置きの出汁を加えて火にかける。次にワカメと豆腐を取りだし、小さく切って鍋へ入れて火を通す。


「イ、イズモ~! ね、寝癖なおらない!」


マシロが焦った様子で戻ってくる。その髪はたしかに、洗面所へ行く前とそこまで変わっていない。


「こっち来て、直してあげる」


イズモは魔法で水球を作ると、クシの形に変化させる。そのクシでマシロの髪をとかす。


「あれ、温かい……」

「水じゃ冷たいかと思って、40℃くらいにしたんだ。ほら、こっち向いて」


後ろ髪をとかし終わり、今度は前髪をとかす。クシでとかされた所から、寝癖がどんどん整えられる。


「あれ? 髪が濡れてない……?」

「あはは、濡らしたあと、すぐに乾かしてるんだよ。シャワー浴びた後にすぐ乾かされてる感じ」

「すごーい! やっぱりイズモ、魔法上手だよね?」

「昨日も言った通り、覚えるの苦手だけど、マギアさんに教えてもらってるから細かい操作や応用は得意かな」


とかし終わると、先程までボサボサだったマシロの髪には、寝癖ひとつなかった。


「ありがと!」

「いえいえ。あ、そういえばヤードムさんが作ってくれてた服、完成したみたいだよ。ほら着てみたら?」


イズモから渡された服を受け取ると、マシロは嬉しそうに、軽い足取りで着替えるために部屋へと戻る。イズモはその間に火にかけておいた鍋に味噌をとき、味見をしてから器に盛る。


「味噌汁も完成っと……」


出来た味噌汁と箸をテーブルに配膳し、準備を終える。イズモは魔法を唱えて半透明の鳩を作ると、マギアの部屋へと飛ばす。それから少し経つと、気だるそうに欠伸をしながらマギアがやってくる。


「【生活魔法】伝書鳩か。うるさいったら無いねぇ」

「そうでもしなきゃ、マギアさんは起きないじゃんか」

「まぁそうだけどね…… ん、マシロは? まだ寝てるのかい?」

「いや、ヤードムさんが作ってくれた服に着替えに部屋に戻ったんだ。そろそろ来ると思うけど……」


そういうや否や、バタバタと大きな足音が近づいてくる。足音がする方を向くと、丁度よくヤードムお手製の服に着替えたマシロがいた。


「あ、マ、マギアさんおはようございます」

「あぁおはよう。ふぅん、中々似合ってるじゃないか」

「うん、マシロの髪の色も映えるし、可愛いね」


マギアとイズモの褒め言葉に照れるマシロは、冒険者風の動きやすい服に、それらを覆い隠すように白を基調としたフード付きの上着を纏っていた。


「このフードで顔も隠しやすいし、流石だね。あとは…… 自動修繕・自動清浄の魔法をかけてあげるよ。ついでだ、防御魔法もかけるかね」

「ほ、ほんとですか?」

「……やり過ぎないでね、マギアさん」


孫を可愛がるかのように甘やかすマギアを、イズモがジト目で釘を刺す。


「分かってるよォ、人は成長する生き物さ。アルコの時みたいなことはしないさ」

「ア、アルコの時って……?」


マシロは首を傾げる。


「マギアさん、アルコが命響式の時に今みたいに魔法を付与した服をプレゼントしたんだ。その時の服、名のある剣で切っても切れない上に、自動修繕の力が強すぎて着用者の傷も治してた」

「そ、それはなんていうか…… 凄すぎますね……」

「あん時は青かったのさ。今回は大丈夫、自動修繕の範囲を服だけにしたし、服自体の防御魔法は弱いよ。魔法耐性は少し強めにしたけど、防げて初級魔法程度さね」


マギアは悪びれずにそう言ったが、そもそも自動修繕に防御魔法がかかってる服は十分高価なものである。それを知ってるイズモは指摘するか迷うが、マシロのためならいいかと指摘するのを諦める。


「マシロ、十分高価なものになったから、あっちに行ったら魔法が付与されてることとか言ったらダメ。悪い大人に目をつけられるからね。分かった?」

「う、うん。分かった」

「なんだい、十分手を抜いたってのに。そんなの欲しがるやつそうそうおらんよ」

「絶対いるって。それにこれ、ヤードムさんが作ったってことは着用者に合わせてサイスが変わるでしょ。冒険者なら喉から手が出るほど欲しいはずだよ」


その言葉にマギアが黙ったことで、イズモは己の推測が正しかったことを確信する。


「そんなわけで、絶対に話しちゃダメだからねマシロ。同世代の子にも、先生にもね! それでも何か聞かれたら、俺が魔法かけたってことで説明して。マギアさん程じゃないけど、俺もあの魔法使えるから嘘じゃないし」

「わ、分かった!」


そんなこんながあったが、3人は朝ご飯を食べ始める。マシロは故郷の朝ご飯とほぼ同じことに驚いていたが、イズモが心細い思いをしているだろうマシロのために合わせて作ったのだ。早々に朝ご飯を食べ終わると、イズモは後片付けを始め、マシロはそれを手伝う。2人はその後、歯磨きをして支度を終わらすと、自分の部屋から荷物を取ってリビングへと戻る。そこには、おめかしもして準備万端のマギアが椅子に座っていた。


「さて、それじゃあ行くとするかい。あ、それとこれ、命響式を迎える2人へ、あたしゃからプレゼントさ」

「あ、ありがとうございます!」

「マギアさん、ありがとう」


マギアが2人へ渡したのは、肩から下げるタイプの茶色い鞄だった。何の変哲もない、使い勝手のいい鞄に見えるが、イズモはすぐになにかに気づく。


「……マギアさん、これ、マジックバッグ?」

「おぉ、よく分かったね! そう、マジックバックさ!

昨日の夜から急ピッチで作ったから、容量は部屋1つ分くらいしかないけど」

「いや、昨日の夜からなら十分す……」

「代わりに、マシロの服と同じ魔法かけといた」


その言葉に、イズモは空いた口が塞がらなくなった。


「いや、だから、やり過ぎだよ!」

「大丈夫さ。それに加えて、これは所有者を設定する魔法をかけたからね。なくしても、誰かに盗られても、魔法を唱えれば戻るようにしといた。その魔法についてはメモを中にいれといたから、覚えときな」

「いや、それなら人質にとられ…… いや、もうダメだこの人に何言っても聞く気ないや…… マシロ、とりあえずこれも他言無用でね……」

「う、うん!」


ネジの外れっぷりに驚き通り越して呆れ果てたイズモ。

そんなイズモとマシロの手をマギアは握ると、


「さ、行くよ!」


紫の魔法陣を広げ、学園都市オリーブへと飛んだ。


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