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私が髄膜炎になった話

 皆さんは「髄膜炎」って病気をご存じですか?


 私はかなり昔……それこそ小学校くらいの年の時ですかね。それにかかったことがあります。


 ただ、私がなったのは「無菌性髄膜炎」と言う方だったようで、これが「細菌性髄膜炎」とか、菌のある方だと何でも後遺症が残ったり、最悪、死に至るのだとか……。と当時の先生から脅されました。


 でも実は……髄膜炎と言う病気事態で覚えていることはそんなに多くないんです。


 そりゃ小学校の時の事ですから、記憶なんて朧気です。ほとんど覚えていないと言っていいくらいです。


 どんな症状だったのかとか、どんな治療をしたのかとか、入院生活がどんなだったかだとか。


 そう言うことはほとんど記憶に残っていません。


 それでも……それでもこの病気については強烈に覚えていることが一つあるんです。


 大人になった今でも忘れられず。時々思い出してはイヤーな気分になることが一つ。


 それは……髄膜炎の「検査」についての記憶です。


 どういう経緯でその病院に行ったかは覚えてませんが……確か一週間経っても全然風邪がよくならずに、少し大きな病院に行ったとかそんな感じだったと思います。


 先生は症状から「髄膜炎かも」という事で「検査」を行うことになったんです。


 皆さんは髄膜炎の検査って、どうやるか知ってますか?


 「髄液」と言うものをある場所から取ってそれを検査するんですよ。


 この「髄液」はどこを流れているか知っていますか?


 「背骨の中」です。


 この「背骨の中」を流れている「髄液」をどうやって……一体どうやって取得すると思います?


 ……えぇ、方法なんて一つしかないですよね。


 注射針を背中に直接ぶっ刺すんだよおぉぉぉぉ!!


 ……すいません、取り乱しました。


 わかります? 小学生で背中(背骨?)に直接針をぶっ刺される恐怖。


 ちょっと医療に詳しい方からすると表現が間違っているかもしれませんが……私は背骨に針を刺されるんだと……泣きそうになりました。


 しかもその注射針のぶっといことぶっといこと……その辺は記憶補正がありそうですけど、あれにはこの世のどんなものよりも恐怖を感じました。


 背中を丸めて、病院の看護婦さん(当時は看護師ではなく看護婦さん呼びなので、あえて看護婦さんと呼びます)が私の背中に針を刺そうとします。


 麻酔なんか無かったと記憶してます。


 暴れないようになのか……私はもう一人の看護婦さんに身体を固定されていました。


 もしかしたらそれは、私を安心させるために身体に触れていてくれたのかもしれませんが……私にはそれすら恐怖に感じられました。


 今から針を刺される恐怖。


 覚えているのは、針を刺された瞬間に自分の口から出た小学生とは思えぬ大絶叫の悲鳴。


 今まで感じたことのない、背中に挿入された針の冷たい感触と異物感……。


 そして何より……背中から全身にしびれる様に広がる激痛!!


 早く終わってくれと願いながら……涙と鼻水と涎で顔をグシャグシャにしながら……なんとか耐える……いや、耐えられてはいませんでしたけど、とにかく終わることを祈っていたんですが……。


 現実は非常です。


 私の背中から注射針を抜いた看護婦さんはボソリと……でも私の耳に届く大きさで呟きます。


「あ、失敗しちゃった」


 は?


 失敗。


 小学生でも分かる単語ですね。


 でも理解できません。


 失敗?


 失敗って何?


 何が失敗したの?


 失敗したら……何をどうするの?


 疑問符の浮かびまくる私に、看護婦さんはやさしーい……天使のようなやさしーい声色で私に告げます。


「ごめんねぇ~。()()()()()()()()()()()()


 天使のような……悪魔の一言です。


 もうね、声になりません。


 看護婦さんは柔らかく言ってますけど、この時はじめて私は優しい声色に恐怖を感じるという事を覚えました。


 そして再び、私は別な看護婦さんに押さえつけれられ……もとい、触れられて……針を背中に刺されます。


 今度は違う場所を。


 再びの大絶叫。それを咎める言葉は誰も言いません。多分、言えないでしょう。


 多分今……私が再び髄膜炎になって背中に針を刺されたら……いいおっさんの私でもきっと大絶叫すると思います。


 主に痛みとトラウマで。


 それぐらい、小学生の私には痛みと恐怖が凄い体験でした。


 そして幸い……この二回目で無事に髄液は取れたようです。


 しかし……私はこの後のことを全く覚えていません。


 私は数日間の入院をすることとなったのですが、どうやって病室まで移動したのか、どんな会話をしたのか……一切が記憶から抜け落ちています。


 覚えているのは、寝返りを打つたびに、起き上がるたびに、歩くたびに、ご飯を食べるたびに走る背中の二カ所の痛みです。


 髄膜炎になった話なのに、それがどういう症状で何をして治ったかとか、小学生の記憶だから覚えていないのは仕方ないと思うんですよ。


 でも、それだけは未だに鮮烈に思い出せるんです。


 入院してたけど、記憶にあるのはその前の記憶のみ……。


 正直、今でも……たまに悪夢に見ます。


 私は固定されていて動けず、背中にゆっくりと注射針を刺される……。


 その当時の看護婦さんの顔も、先生の顔も覚えていなんですけどね。それがまた恐怖なんですよ。夢の中では顔が真っ黒ですから。


 それが私が髄膜炎になった時に残っている記憶です。


 今でもその病院はあったりしますが、名前も変わっていてきっと当時の先生も看護婦さんもいないでしょう。


 これが良くあることなのか、それとも医療ミス系の事なのかはわかりません。


 でも私はこの話で皆さんにお伝えしたい……。


 病院を選ぶときは……慎重に……。少しでも評判の良い病院を選んでください。


 いやでも、当時行った病院は評判良かったはずなんですけどね……。


 コロナも怖いけど、皆さんも髄膜炎にはならないようにご注意ください……。あれは、物理的な痛みを伴いますから。


 余談ですが……この話を友人にしたことがあるんですが、その時にゾッとすることを言われました。


「それさぁ……失敗して髄液取れてなかっただけだからいいけど……下手したら神経に触って麻痺したり、後遺症残ったりしたんじゃない?」


 と……。


 私は青ざめると共に……10年以上越しに……その時の失敗が、実は不幸中の幸いだったのではないかと思い至るのでした。

いやほんと……病気怖い……。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやすげぇ…… 特に痛風ってそんなに痛いのか……骨逝ったことあるけどそんなには痛くなかった気がする……
[良い点] 病気って痛くて怖いですよね〜。僕も遺伝の難病持ってるので怖さがよく分かります。健康であるのが一番ですよね。 [一言] 面白かったです。病気を包み隠さず話している点が。
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