特訓の成果
修行のため山に籠って10日が経った。
山籠りといっても家が山にあるから毎日帰れるんだけどね。
修行をしていくつか分かったことがある。
・既存魔法等の自分が作製していない魔法を使うとすぐに疲れる
・一度魔術書を綴ったオリジナル魔法は魔法を使ってもあまり疲れない
・魔術書を綴ることができるのは1日1冊まで
特訓のおかげでオリジナル魔法を何個か増やすことができたので、今日はダリ爺のところに行くことにする。
「ダリ爺ー! いるー?」
店内でカウンターの奥に向かって叫ぶ。
ダリ爺が出てきた。
「ユル坊か、よく来た。お主の魔法、なかなか好評じゃぞ」
僕の名前がユル坊呼びになっていた。
いや、それより魔法が好評ってどういうことだろう?ダリ爺にはまだ1冊しか渡していないはずだから魔術書を買うことができるのは一人だけのはずだ。
疑問についてダリ爺に尋ねる。
「魔導書を作ったんじゃよ。性能がよく分からない魔法の魔術書なんて高価すぎて皆手が出せんからのう。
わしはもう引退しておるが大賢者じゃからな、習得した魔法の魔導書を作って販売したわけじゃ。」
どうやらダリ爺は購入した魔術書を自分で使用して僕の魔法を習得したみたいだ。
その事実にちょっとショックを受けたけど、たしかに魔導書とは金額の桁が違う魔術書はそう易々と買えるものじゃないだろう。ましてや未知の魔法なのだから買ってくれる人が現れるかどうかも怪しい。そう考えるとダリ爺のやり方は賢い。
それだけじゃない。魔導書によって僕の魔法が認知され好評を得たことで、魔術書が売れる可能性が高くなったわけだ。魔術書が売れなければダリ爺は僕から魔術書を買ってくれなくなるわけだから、これはお互いにとってメリットがある。
「そっか、好評なんだね。それは良かった」
僕は素直にそう答える。
「ふむ、勝手に魔導書を作ったことを怒られるかと思っていたが、ユル坊はなかなか器が大きいようじゃのう」
ダリ爺は笑いながらそう答える。
「それより魔術書を持ってきたよ。新しい魔法の魔術書もある」
「なんと、ユル坊は驚かせてくれるのう。ならば見せてもらおうかの」
二人は裏庭へ移動する。
僕はじゃあ見ててね、と言うと右の手の平を前に突き出し構えをとる。
『奔流の水牢』
大きな水の球が前方に浮かび現れる。
水の球の中は複数本の水の流れが複雑に絡み合い絶え間なく流動している。
魔法を解くと水の球はその場に崩れ落ちた。
「どうかな、この魔法。自信作なんだけど」
「これはまた恐ろしい魔法を編み出したのう。空中で囚われたら最期、水牢の中を流され続けてろくに身動き取れずに溺れてしまうか」
ダリ爺は少し考え込む。
「この魔法の魔術書は22000ドニーで買い取ろう。最初の1冊は24000ドニーじゃ」
豪火球よりも倍以上の値がついた。
ダリ爺はそれだけこの魔法の技術力を評価したのだろう。
「それじゃあ魔術書の買い取りだね。実は複数持ってきているんだ。
<豪火球>が7冊と、<奔流の水牢>3冊で合計10冊。全部買い取ってもらえる?」
僕は背負ってきた鞄から魔術書を取り出していく。
「そんなにあるのか。まぁ良いじゃろう、全部買い取ってやる。
<豪火球>が1冊10000ドニー、<奔流の水牢>が1冊22000ドニー、そして初版分の2000ドニーを追加してしめて138000ドニーじゃな」
すごい大金だ。でも僕はこれから大きな買い物をすることを決めている。
「支払いなんだけど、お店で買いたいものがあるんだ。ちょっと待ってて、いま持ってくるね」
僕は前回店を見て回ったときに目をつけていた品物を手に取る。
一つはメタバッグだ。肩掛け鞄型のもので、魔導書よりも小さいものしか入れることができないが、容量は魔導書500冊分だ。魔導書と同じサイズの魔術書は入れることができるし、水や携帯食料も小さいものは入れることができる。無駄に分厚い魔術書を何冊も持ち歩くのは嵩張って困っていたから僕にとっては垂涎の一品だ。
もう一つは思念の腕輪だ。通常魔導書を使用するためには本を手に持って読む必要があるが、この腕輪をつけていれば本を手に持っていなくても唱えるだけで所持している魔導書を使用することができる。つまりこの腕輪と魔導書があれば見た目は完全に魔法使いとなる。
あとは適当に気になった魔導書をいくつか持ってくる。魔法使いが初めに覚えるようないわゆる初級魔法を僕は使うことができないから、その辺は多めに購入する。全く使えないわけじゃないけど、初級魔法でも1回放ったらすぐ疲れちゃうからね。
購入金額はメタバッグが98000ドニー、思念の腕輪が3400ドニー、魔導書が合計で2000ドニーで全部で103400ドニーだ。
「では差額の34600ドニーを支払うとするかの。今回も現金で用意したほうがよいか?」
「いや、銀行登録をしてきたから振込でお願い」
僕は登録番号をダリ爺に教える。銀行登録は冒険者カードを見せたらすることができた。
「振込が終わったぞ。おまけで<豪火球>の魔導書も何個か持っていくといい。勝手に魔導書を作った詫びみたいなもんじゃ」
ダリ爺は魔導書を10冊持ってきてくれた。1冊100ドニーで売られていたから1000ドニー分だ。お礼を言ってありがたく頂戴していく。
これで疑似魔法使いになれたことだし、冒険者ギルドに行ってクエストを受けてみようかな。




