綴ります
「山にきたけどやっぱりまずは火魔法を試したいな」
はじめての魔法は火が良い。それがなんとなく王道って気がする。
ひと目につきにくい場所を探して山の奥深くまできたけど、ここだと周りに木が多すぎる。
火事になっても嫌なので開けた場所を探すことにする。
数十分ほど歩いたところである程度ひらけた場所を見つけた。
ここで試してみることにしよう。
纂術士としては新しい魔法を創造しないといけないみたいなんだけど、いまはそんな難しいことを考えるのは一旦おいておこう。
「まずはこれだよな。よしっ」
絵本で見た憧れの魔法の再現に挑戦してみる。
魔法がもたらす現象を強く鮮明にイメージする。
そして大きく息を吸い込んで、思いっきり吐く。
『豪火球』
口から吐き出された炎は大きな球を形成し、その場で燃え続ける。
イメージ通りだ。
直後、どっと疲れが押し寄せてくる。魔法を一回使っただけなのにかなりの疲労を強いられるようだ。
すると、今度は急に右手が光に包まれた。
「手が、光ってる。これって…」
いきなりのことで戸惑ったが、僕はこれが魔術書が作れる状態になったことだと何故か確信する。
そのまま直感に身を任せる。
「ユール=クイーネが綴り著す <豪火球>」
宣言とともに右手の光が輝きを増す。
光が収まるとそこには魔術書が顕現していた。
魔術書の表紙には独特な字体で豪火球と書かれており、下の方に小さく 製作者:ユール=クイーネ と記されていた。
僕の名前だ。
「すっげー。最高じゃん」
初っ端から上手くいったことに喜びを抑えきれない。
いまにも小躍りしてしまいそうだ。
しかし製作により疲労感が増したためこれ以上魔法を放てそうにない。
「…帰ろう」
作製した魔術書を持っていくのは明日にしよう。
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家に帰ると兄弟たちが夕飯の準備をしていた。
僕は8人兄弟の一番上だ。3年に2人のペースで兄弟が増えている。先月にも新しい兄弟が生まれたばかりだ。
母親と祖父母が僕たちの面倒を見てくれているけど、そろそろ限界がくるんじゃないかと思う。
特に問題なのは買い出しだ。街まで2時間くらいかかる上、僕や兄弟たちではあまり多くの荷物を運べない。たまに運び屋にお願いしたりもしているが、料金が高くそう易々とは頼めない。
「あの魔術書、いくらになるかな」
先ほど作った魔術書を思い浮かべる。兄弟たちにうっかり読まれて消滅しては困るので、一応隠してある。
魔術書の相場というもの良く知らないけど、ダリ爺は高く買い取ってくれると言っていたし期待が膨らむ。お金がたくさん手に入るようになれば、遠慮なく運び屋にお願いできるし、家だってもう少し街の近くに買うことができるかもしれない。
そんなことを考えていると、怒っているような呆れらているようなトーンで妹に声をかけられる。
「ちょっと、ユル兄もはやく手伝ってよ」
帰ってきてからしばらくその場で立ち尽くしてしまっていたようだ。
ごめんよ、と謝りながら僕はお手伝いを始めた。




