れっつ冒険者登録
街には何回か来たことはあるけど、冒険者ギルドの中に入るのは初めてだ。
物語の中だと新参者は強面の男に絡まれるシーンがよくあった。
もちろん主人公たちはそんなもの返り討ちにするのだけど、僕にはそんな技量はない。
恐る恐る建物の中に入ってみると、中には冒険者と思しき装備を身に纏った人たちがたくさんいた。
みんなカウンターの列に並んでいたり、小グループで話し合ったりしていて、僕に気づいて迫ってくる人はいないようだった。
少しほっとした。
受付の人に話しかけるべく列に並ぼうと思っていると、ひとつだけ空いているカウンターを見つけた。
そっちにいって聞いてみることにする。
「あの、冒険者になりたいんですけど」
すると僕と同じくらいの身長のお婆ちゃんが対応してくれた。
「嬢ちゃん、そんな可愛い顔して物騒なこと言うもんじゃないよ。悪いことは言わないからやめておきなさい」
断られてしまった。
というより女の子と勘違いされてしまったようだ。たしかに中性的な顔立ちでよく間違えられるけど、ちょっとムッとする。
「僕は男だよ。もう12歳だから登録できるはずだ」
そう言うとお婆さんは僕のことをジッと見つめてきた。
「そうかい、そりゃ悪かったね。登録費の50ドニーは持ってきてるかい」
あっさり認めてくれたみたいだ。僕は角鉄貨10枚を机カウンターの上に置く。蓄えていたお小遣いのほとんどが消えてしまったけど仕方ない。
「それじゃついてきな」
お婆さんに連れられて小部屋に通された。部屋の真ん中には大きめの水晶が鎮座していた。
「お前さんの職業適性を審査するよ。それに両の手で触れてみなさい」
水晶を手のひらでつつむように触れてみる。水晶はひんやりしていて気持ちよかった。
10秒ほど触れ続ける。
「もう手を離していいよ。お前さんが選べる職業はこれじゃな」
そう言うとお婆さんは職業がかかれた紙を差し出してくれた。
水晶に何かしら変化が現れると思っていたけどそんなことはないみたいだ。残念。
紙には4つの職業が書かれていた。
・格闘家
・魔法使い
・斥候
・纂術士
「その歳で魔法使いに適正があるとはお前さんなかなか賢いようじゃな。見事なもんじゃ」
お婆さんが褒めてくれる。魔法使いは高い知力を必要とする職業だ。腕っぷし自慢が多い冒険者にはそのハードルはなかなか超えられない。
いままで勉強なんてしたことなかったけど、絵本を読みまくって未知の言葉をそこそこ理解できるまでに成長した僕はそれなりに知力が鍛え上げられたのかもしれない。
最初は敬遠していた文字ばっかりで絵が少ししかない本も少しは楽しめるようになったくらいだ。
魔法が使えるようになるのはかなり面白そうではある。魔法を使って絵本で読んだいろんな技を真似してみたい。
でもこの結果を見て正直なところ僕はちょっとがっかりした。
本当は勇者とか魔王とか特別な職業が出ることを期待していたからだ。
でも仕方がないか。僕は転生者とかいうものではないし、ご先祖様も特別な存在ではなかったみたいだ。
ならば他の成り上がりパターンの可能性はどうか。
「ねぇお婆さん、全部の職業の中で一番人気があるのと一番人気がない職業ってなに?」
不遇職と呼ばれている職業が実は一番強い職業だったというケース。この展開を目指すのもアリだ。
「そうさねぇ、一番人気なのはやっぱり剣士かねえ。上級職の派生が多く、多種多様じゃ。
でも魔法使いの適正が出た人は大抵みんなそれを選ぶ。なにせそれなりにレアじゃからな。
不人気なのは僧侶じゃな。魔法やアイテムで回復や補助の役割をある程度カバーできてしまうというのが理由のようじゃ」
なるほど、たしかに物語の中でも補助回復要員は不遇的扱い受けるケースが多かった。
僧侶か…創意工夫で化けそうな感じがするけど、残念ながら適正がないから選ぶことができない。
「しかしわたしゃ纂術士なんて職業は初めて見たよ。長く冒険者ギルドに努めてきたけどこんなことは初めてだね」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。これはもしかするとユニーク職ということだろうか。
なんだか一気に興奮してきた。
「お婆ちゃん、僕は纂術士になるよ!」
僕の力強い宣言にお婆ちゃんは驚いた顔をする。
「本当にいいのかい?サポートしてやりたいけど情報がないからあまりしてやれないよ」
「大丈夫!なんとかするよ」
もうこの選択肢以外は考えられない。
「…わかった、決意は固そうじゃな。少し待っていなさい」
お婆さんはなにやら作業を始めた。しばらく待っていると、作業を終えたお婆ちゃんがカードを渡してくれた。
「ほれ、これがお前さんの冒険者カードだよ」
お礼を言って受け取る。手のひらサイズのカードには僕の情報が記載されていた。
「本来ならこれから依頼や報酬についての話をするんじゃが、まずはその職業について知っておかねばならんな。
ダリ爺の魔法具店へ行ってみなさい。あやつなら何か知っているかもしれん」
そう言うとお婆ちゃんは魔法具店までの行き方を教えてくれた。




