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飛竜船に乗って


「お待ちしておりました。聖女殿。私はこの国の将軍職に就いているクラークという者です。マノアまで聖女様をご案内いたします」


 王都の外れにある飛竜船乗り場の前で出迎えてくれたのは、この国で12ある騎士団の騎士団長であるクラーク将軍だった。がっしりとした体格の、ゆっくりとバリトンボイスで喋るロマンスグレーなおじ様だ。戦いで失ったのだろうか、右目には眼帯を付けている。それを見たナナが「おぉー」と嬉しそうに歓声を上げ、目を輝かせている。この子、こういうの大好きだからなあ。


 とはいえ、今回の指名依頼の相手が国であるということが、これで立証された訳だ。もしかしたら、あの王女様の差し金なのかもしれない。




【クラーク】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 :42歳

HP :288

MP :120

力  :212

防御 :202

魔力 : 89

早さ :102

器用さ:133

知力 :178

魅力 :242


武器適正

剣 :B

槍 :B

斧 :C

弓 :C

格闘:C

杖 :D


魔力適正

火 :D

水 :D

土 :D

風 :D




 将軍というだけあって中々なステータス値だ。知力にも優れた良将なのだろう。その雰囲気からも厳しさの中に常に温厚さが感じられる。俺も仕事で偶然大企業の偉い人と関わることがあったが、その人もそういう雰囲気を漂わせていたなあ。立ち振る舞いとかに隙がなくて、常に社会の中の己の立ち位置を理解しているのだろう。俺にはできなかったし、今世でも無理だが。


「今回はよろしくお願いします」


 一応将軍ということもあり、俺は頼まれる立場だが深々と頭を下げる。国家権力に不当に立てついても何の意味もないからね。そういう思想とかも特にもってないし。いざとなったら、どこか適当な国に逃げればいいし、実際万が一のために計画は練っている。


「いえ、今回は我々がお願いする立場。そのように頭を下げるのはやめてください」


クラーク将軍は、そんな俺を見て、自身も腰をかがめながら必死に制止する。これ以上の謙遜は確かに互いによくないだろうと、俺も頭をあげる。そんなクラーク将軍は皆を一瞥すると口角を吊り上がらせながら、好漢らしく豪快に笑った。


「しかし、ストレイキャッツの武勇伝は某も耳にしましたが、そこで語られる美貌。これもまた詩に聞く以上ですな。特に聖女殿は人ではなく妖精のようだ。これは王女殿下が熱狂されるのもわかりますな」

「いや、それほどでも」


 想像していた人物の名前が出て、俺は今回の件がその人物の仕業に違いないとの確信を深めた。


「こんなところで立ち話も何ですからな。どうぞお乗りください」


 俺たちは案内されて、飛竜船へと飲み込む。船は中型のもので、遠目から見るとそれほど大きく見えないが、いざ間近でみると結構な迫力だ。


「はぇ~、船だねえ。でも竜さんがいないよ、リコ姉」


 ノアが呆けたように船体を見上げる。木組みで作られたその船は、確かに海に浮かんでいるのが自然に思えるだろう。


「ノア、あなた以前も乗ったでしょう。覚えていないの?」


 エリスが俺に代わって、呆れたようにそう指摘する。そう、これに乗ったのは初めてではない。確かノアはそのときにも、同じようなことを言っていたな。


「飛竜船は風龍石を動力にして、飛ばす船なのです。実際に竜が飛ぶわけではないのです」


 ナナがノアにそう説明する。まあ確かに紛らわしい名前ではあるな。俺も最初乗った時は竜がいないのを疑問に思ったものだ。幸いにして口に出すことはなかったが。


「風の古龍が寿命を迎え、骨と魔石のみになり、長い間自然の中でマナを蓄えたものを風龍石といいます。統一王朝時代、魔導科学が栄え、空にはこれがどんな街にでも飛んでいたと言われております。が、現在は作る技術が失われているため、僅かに残るものを修理して使っているのです、ノア殿」

「へー」


 いわゆるロストテクノロジーというやつだ。クラークさんも詳しく解説してくれ、俺は申し訳ない気持ちとなる。たぶん、明日にはその知識はノアの頭の中からは失われているだろうから。


「でも、これまだ飛ぶ原理ってのも解明できてないんだろ。なのに、普通に利用するってのも大分アレだけどな」


 余計なことを言ってくるスタン。乗ることを辞めたくなるセリフは言わないで欲しい。ただでさえ、酔いやすい俺にとって乗り物はまさに天敵なのだ。


「だが、今は俺たちを目的地に運んでくれる最適の手段だ。そういうことを考えるのは

別の時でいい」


 アレクは相も変わらず、沈着冷静だ。物静かに佇むその姿には主人公の風格すら漂っている。アレクのような男に転生できていたら、楽しかっただろうなーといつも思わされる。


 飛竜船に乗り込むと周囲の船員たちがあわただしく駆けずり回っていた。そして船体全体がブルルと振動し始める。この振動を感じると、一見すると木組みのこの船が、空中で解体しないかという妄想に襲われ、いつも俺の体を震えてしまう。


「さあ、皆さま。準備はいいですか」


 クラークの声に、俺たちは一斉に頷く。クラークは部下たちへとよく通る大音声で指示を下す。


「それでは、各員配置につけッ‼ 我らはこれよりマノンの救援へと向かう」


 あわただしく船員が動く中、体が浮遊感に襲われるのを俺は感じた。俺の三半規管よ、耐えろ。そう念じている中で、船は完全に浮き上がり地面を離れる。ノアやナナが歓声を上げる中、既に軽いめまいを感じながら俺は、覚悟を決める。戦いはまさに今、はじまったのだ。


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