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祝福


「いっちょ、お前のその目でコイツを見てくれねえか?」


 やはり、そういうことだったか。だが、予想は出来ていた。俺に視てほしいと頼んでくる冒険者は多い。自身の才能が分からずに、努力の方向性を間違えてしまっている勿体ない冒険者たちを、俺はこの世界で何人も見てきた。冒険での失敗は死に直結する。


 だから、顔見知りの冒険者には気が向いたら助言を与えていたのだ。実際、助言を与えた冒険者はより成果を上げるようになり、今ではギルドから頼まれて新人を見たり、顔も知らない同業者に頭を下げられ頼みこまれることも多々ある。


「別にいいですけど」

「ありがてえっ‼ それじゃ、いっちょ頼まぁ」


 俺が承諾すると、周囲から「いいなぁ」と羨ましそうに声が上がる。俺も見てやりたいという気持ちはあるが、毎度毎度対応すると時間を大幅に取られてしまうので、こちらから積極的には行うことはしない。押しに弱いから、お願いされればやっちゃうんだけど、あまり来たことはない。絶大な名声を博すストレイキャッツに少し遠慮があるらしい。


「じゃあ、ガンツさん。こっちに」

「っス。それと、呼び捨てで構わないっす。自分、年下っすから」


 そうなんだ。顔が厳ついからリコよりは年上だと思ってた。でも、無愛想だが、謙虚で礼儀正しい子だな。俺も精神年齢は一応38歳だから、そっちの方がありがたい。


「じゃあ」


 俺はガンツをまっすぐ見据え、マナを研ぎ澄ませる。ガンツはなにが始めるのかとビクッと身を固くする。数値みるだけだから対象者には特になにもないんだけどね。




【ガンツ】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 :15歳

HP :185

MP : 48

力  :169

防御 :158

魔力 : 88

早さ :125

器用さ:127

知力 : 98

魅力 :189


武器適正

剣 :D

槍 :B

斧 :A

弓 :D

格闘:B

杖 :F


魔力適正

火 :F

水 :F

土 :C

風 :F




 うん、パラメーター的には若いボルトさんって感じだな。15歳でこれはトッププロスペクト間違いなしだ。それに以外と魔力も高い。槍の適正値も高いからサブの武器に据えてもいいかもしれないな。今ガンツが持っている装備は剣だが、これは諦めた方がいいかな。


「うん、15歳でこれは有望株だね」

「おうっ、聖女様のお墨付きが出たぞ。よかったなあ、ガンツ」

「っス‼」


 ガンツも嬉しそうに歯を見せて笑う。その姿はまるで純朴な高校球児だ。


「それに魔力も結構高いね。それに四元では土属性との相性がいい。魔法を覚えれば戦略の幅が広がるから、学んでみるのもいいかもね」

「魔法っ! そいつはいいや。俺の妹は器量もいいが頭もよかったからなあ。旦那も地主の息子だし、その息子だからなあ」


 ガンツに魔法の資質があると知り、ボルトさんは嬉しそうだ。でも、魔力と知力の関係はあまりわからないのが現状だ。ただ、魔力が高いと知力も高い傾向には確かにある。


「でも、魔法かあ。今は道場なんかも結構やってるけど、紛い物も多いしなあ。まあ、それはギルマスにでもお願いするか。あの爺、コネだけは持ってるからな」


 かつて、魔法は魔法使いか貴族の血を引いてなければ使えないとの俗説がまかり通っていた。だが、俺が見た限りでは大抵の人がMPや魔力を持っていた。なので、それを実証しようとアレク達に魔術の訓練を進めた結果、ノア以外は皆魔法を覚えることが出来た。


 他の冒険者にもそのことを伝えた結果、今ではそれが俗説ということが証明されている。ただ、魔法の行使に関しては教えるものが少なく、難儀するものもおり、教えてもものにできる冒険者は限られている。落ちこぼれの魔術師が、多くの魔法道場を開き、金だけむしり取られるケースも多々あるという。全くもって嘆かわしい。


「後は武器だけど、ボルトさんと同じで斧との相性がすっごくいいよ。槍も斧ほどでないけどサブ武器に据えてもいいレベルだね」

「ほら、言ったじゃねえかガンツっ」

「ッ⁉」


 俺の言葉に喝采をあげるボルトさん。それに反して俯いてしまうガンツ。ガンツは俯いたままチラリとアレクの背負っている長剣へと目を向ける。


「まあ、なんにせよ天眼の聖女が言ったんだ。これからのお前の武器は斧だな」

「……いやっス」

「何ィ⁉ どうしてだ?」


 拒否されたボルトさんは、驚きの声をあげる。ガンツは決意した表情で顔を上げると、アレクを熱のこもった視線でみる。


「自分、アレクさんに憧れて冒険者になりたいって思ったっス。隣国でのデスナイト事件、たった一体で一都市を殲滅させた化け物を単身で迎え撃ち、激しい斬り合いの末、打ち倒したアストリアの剣聖。それを吟遊詩人から聞いた時、思わず全身が震えたっス」


 あー、あの事件か。古の魔術師が統一王朝時代に作り上げたというモンスターを、軍が密かに兵器に出来ないか研究中にうっかり封印を外しちゃったやつ。抑えきれなくなったから正式に国を通して、ウチに討伐依頼を出してきたんだよなあ。確かに、あの事件は今でも吟遊詩人がよく謳う題材となっているって聞くな。


「オメエなあ、冒険は憧れだけでやっていける甘いものじゃねえんだぞ」

「ぐっ」


 ボルトに窘められ、悔しそうな顔のガンツ。だが、まだ十五歳の少年だ。気持ちは解る。俺もゲームなんかではとりあえず主人公は剣を持たせていたからな。ハンマーとかどんな高性能でも絶対ねえわ、って思ってた。でも、それはゲームの話で、実際の冒険はボルトさんがいうように甘くない。


「ガンツ」

「……はい」


 俺はガンツに話しかけるが、葛藤しているのか、語尾にスすらついていない。


「私の眼は結構確かだけど、万能じゃない。努力で才能を凌駕した例もある。だから、もしかしたらガンツにとって剣が一番適正のいい武器になる可能性もあるよ」

「本当にっ⁉」

「うん。でも、ガンツがその領域にいくまでに死んじゃう可能性もあるってわかってるよね」

「……そう、っスね」

「最悪自分だけならいいけど、仲間が自分の力が足りなくて死んでしまうのは、きっと辛いよ。でも、最後に決めるのはガンツ自身。冒険ってのは、自分の足で踏みだすものだからね」

「はい」


 前世で凡庸なアラフォーおっさんだった俺に出来る助言はここまでだ。この世界の若者は頑張っていると思う。冒険者なんて常に命を懸けてるし。最後に俺は悩める若人にエールを送るため、その手をそっと掴んだ。突然のことに驚愕するガンツ。


「えっ、聖女様、何をっ⁉」

「あー、おまじないだ。いいなあ」


 羨ましそうなノアの声。それを聞きながら、俺は両目をそっと閉じ、ただガンツのステータスを視る。そして祈った。ガンツもパワータイプだから力を伸ばすのがいいだろう。スピードも悪くないが、長所の方が伸びがいいからな。そんなことを思いながら祈り続けると、途端に自分の体から相手にマナが流れ込んでいくのが分かる。それと同時にHP、力、防御の欄が淡く光り輝くのを確認する。


「ふー」


 強い疲労感に襲われ、俺は大きく息を吐く。ガンツは自分に何があったかわからないようだが、何かを感じるのか握られた手をじっと見入っている。


「リコ、すまねえなあ。まさか、祝福までしてくれるとは」

「未来ある若人への門出のエールだからね」


 ボルトさんの礼にそう答えながら、俺は周囲が静まり返っていたことに気付く。そんなとき、その中から誰かがポツリと呟いた。


「……祝福だ」


 その一言を皮切りに周囲がどっと沸きだす。「いいなー」「マジかよ」「あの若造、リコ様に手を」「クソッ、どうして俺じゃないんだ」と羨望の入り混じった声が周囲を満たしていった。




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