表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鮮血の刃  作者: 黒崎揄憂
8/14

吸血鬼二人

 事件の翌日、ドロシーはディサイドの町の地下街を歩いていた。その性質上地下街に警察は介入しにくい。


「見られた。もう捕まるのも時間の問題ね。」


 ドロシーは周囲を確認して怪しげな喫茶店に入った。喫茶店の中は黒く塗られ、レムリア大陸の様々な悪魔信仰をモチーフにした装飾がなされている。来店する客もわけありの者が多く、ドロシーもその一人。


 ドロシーはチャイを注文すると店の窓際にいる二人の男性に近寄った。


「久しぶり。セドリック、アンダーウッド。」


 口を開いたドロシー。二人の男性はほぼ同時に顔を上げた。ドロシーにとってはなじみのある顔。二人の赤い瞳がドロシーに向く。


「こちらこそ久しぶり。ところで、その赤い目はどうしたんだ?屋敷にいた頃はきれいな青い目をしていた。」


 セドリックはドロシーに尋ねた。この半年以上の間、ドロシーの身に何が起きたかセドリックもアンダーウッドもわからなかった。


「あなたたちと同じ。私は人間をやめたわ。デンホルム・フォースターもこの手で殺したの。やっと解放されたわ。」


 ドロシーはいつにない笑顔を見せた。彼女を支配するものは間違いなく狂気。だが、今の彼女は明るさも見せていた。すでに怯えている様子はない。


「先生を殺したのか……」


 セドリックは一瞬うつむいた。先生、デンホルム・フォースターはお世辞にもいいひとではなかった。過去に助手を何度か殺しているという悪い噂もある。だが、そのデンホルムを殺したドロシーを手放しで称賛することはできなかった。


「私が解放されたかったの。でも、現実はそう上手くいかないわね。」


「何が言いたい?」


 アンダーウッドは尋ねた。


「簡単なことよ。私に協力して。」


 ドロシーは言った。彼女の一言でセドリックは顔をしかめる。明らかに彼には迷いのある状態だった。


「君は先生を殺している。いくら嫌な目にあわされていたからといって先生を殺した人物に協力すべきかわからない。」


「セドリックは決断できないんだな。俺はドロシーに協力する。もう見てられねえよ。」


 アンダーウッドはここではっきりと言った。彼はドロシーにも思い入れがある。そもそもドロシーに会う頻度がセドリックと比べても多かったのだ。


「わかるよな、セドリック。俺は個人的な感情でドロシーに手を貸すだけだ。お前は好きにしろよ。」


「そうだな。俺もドロシーに協力するよ。君とドロシーだけでは心配だ。」


 こうしてドロシーはアンダーウッドとセドリックの協力を得ることに成功。だが、彼らを追う存在も黙ってはいなかった。



 そして夜になる。昨日の襲撃もあり、残業をする会社も減っている。だが明かりのついている会社もあるようだ。


「俺が陽動。アンダーウッドは危なくなったら逃げろ。」


 彼らは町に出た。



「氷を操る吸血鬼が敵だとのことだ。心してかかれ。特に吸血鬼が犯人だから今日も現れる可能性が高い。」


 ディサイドの町の警察官たちが町を見張る。警察官たちがそれぞれの持ち場についたとき、吸血鬼は現れる。


「予想外だっただろう?」


 切り落とされる警察官の首。警察官はその姿を認知できなかった。氷を操る吸血鬼ドロシーとは全く違う吸血鬼。彼も夜の町にいた。


「誰だ!?」


 今度は一人が焼き殺される。ガソリンをかけて燃やしたほどによく燃える警察官。吸血鬼は一人ではない。周囲に緊張した空気が走る。だが、氷を操る吸血鬼は未だ登場しない。


「話に聞いていたのとは違う!エリックは何をやっていた!」


「少し黙れよ。」


 燃やされる警察官は二人目。あかあかと燃え上がる人。その炎で空間の温度が上昇する。そして炎で照らされて吸血鬼の顔が明らかになる。


「黙るものか。誰だ!」


 身長の高い警察官が言った。


「炎の吸血鬼アンダーウッド。残念ながらあの犯人じゃねえよ。」


 にっとアンダーウッドは笑う。アンダーウッドはすぐに足を踏み出し、身長の高い警察官を殴り倒した。それだけにはとどまらない。アンダーウッドを囲む警察官6人。アンダーウッドは正面にいた者から順に殴り倒す。ひしゃげる顔。飛び散る血液。瞬く間に倒される6人。


「簡単だ。陽動くらい俺にも……」


 と、アンダーウッドは言いかける。事情が変わった。背後からは何者かの気配。吸血鬼の勘がアンダーウッドを逃げろと駆り立てる。アンダーウッドはふいに振り向いた。


「見つけたぜ、吸血鬼。」


 赤茶色の髪、健康的に日焼けした肌、雷を纏ったサーベルを持っているその少年は魔物ハンター。しかも警察お抱えのではなく鮮血の夜明団所属。その名はシオン・ランバート。


 シオンはアンダーウッドが抵抗してくると考え、身構えていた。光と雷の混じった複雑な魔力がシオンの周りでほとばしる。そのシオンが危険だと判断したアンダーウッドは警戒した様子で叫ぶ。


「ここは任せたぞ、セドリック!」


「ああ!お前はあいつを……!」


 言葉を交わした後、アンダーウッドシオンに向かって走り出す。


「来るか!命知らずな吸血鬼だな!」


 シオンは光の魔力をサーベルに集める。すれ違いざまに斬ろうとしたがアンダーウッドはひょいと刃を飛び越える。


「なに!?」


 アンダーウッドは不敵に笑う。そのままシオンの後ろに着地したアンダーウッドは炎の壁を放つ。これでシオンはアンダーウッドを追えない。そのままアンダーウッドは路地に消える。


「ああ!一人取り逃しちまった!」


 シオンは焦る様子を見せる。その後ろでもう一人の吸血鬼、セドリックが言う。


「お前の真の敵は見えているか?」


 シオンは忘れていた。セドリックはまだこちら側にいる。一人の敵にばかりとらわれていてはいけない。夜の町でシオンはセドリックを相手取る。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ