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鮮血の刃  作者: 黒崎揄憂
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協力者エリック

 フォースターの洋館も手掛かりなし。ただし、地下への階段を塞いでいた氷は消えており、その先にドロシーはいなかった。アンジェラは鮮血の夜明団の影響が比較的少ない都心部へ向かった。



 町が騒がしい。アンジェラは道行く会社員に話を聞いたところ、残業の多い会社が吸血鬼に襲撃されたという。


「目撃者はいないのですか?」


 アンジェラはとある会社員を問い詰めた。


「パトロール中だった警察お抱えの魔術師が目撃したそうです。今彼が追いかけているみたいです。」


「有難うございます。なんでも氷で入口がふさがれていたと聞いたんですよ。」


 アンジェラはそう言い残して走ってゆく。警察お抱えの魔術師を探せばわかるかもしれない。魔法を使える者を探し出すことはそう難しいことではない。魔力は魔力に反応する。魔物ハンターのアンジェラはそのようなことを理解していた。


「絶対に私が討つ。逃げないでね。ドロシー。」



 ディサイドの町、繁華街のはずれ。ドロシーを追っていた人物がドロシーを追い詰めた。


「君の凶行は見ている。大人しく捕まれ。」


 赤髪の青年は言った。


「断るわ。私はあなたに殺されることを選ばない、エリック。」


 エリック・コードル。それが赤髪の青年の名前である。20歳にして町の警察組織お抱えの魔術師であり魔物ハンターでもある彼は吸血鬼にも通用する実力者であった。

 実力のある魔物ハンターと吸血鬼。二人の間に緊張感が高まる。夜の町、不穏な気配が漂う中でエリックが動いた。光の魔法を纏った丸太。エリックは丸太を振りぬいた。ドロシーは瞬時に氷の盾で受け止める。


「遅いわ!」


「どこに行く!?」


 エリックが気づいても遅かった。ドロシーは盾から瞬時に手をはなし、盾を蹴り上げてひょいと飛びあがった。人間を超越したジャンプ力はエリックの理解をはるかに超えている。

 ドロシーはすぐ近くのビルの屋上に着地。地上にいるエリックを見下ろしている。


「待て!」


「誰が待つって言うの、鈍間(のろま)。わたしはここを去るわ。」


 ドロシーはそのまま夜の闇に消えた。いくら光の魔法が使えても逃げられては撃退どころではない。


「逃げられた。やはり鮮血の夜明団に連絡すべきだな。」


 エリックは夜の町にたたずみ、ドロシーに関する事を手帳に記録した。



 10分ほど経過し、エリックの元にアンジェラが現れる。警察官の服装をしたうえで魔力をじんわりと放っているエリックが警察お抱えの魔術師であることは明白だ。


「すみません。私こういう者ですが、金髪の女吸血鬼を見ていませんか?」


 アンジェラはエリックに言った。それに伴ってえんじ色の手帳を見せる。これはアンジェラが鮮血の夜明団に所属していることを証明するもの。エリックにとっても彼女と連携することはメリットが多い。何よりアンジェラは吸血鬼関連のエキスパートなのだ。


「これはこれは。連絡を取る手間が省けました。僕はエリック。警察組織と連携している魔物ハンター、つまり貴女と同業者です。」


 エリックも名乗った。これでお互いがお互いを知る。


「吸血鬼ならば先ほど見ました。逃げられてしまったのですがね。氷の魔法を使っていましたよ。僕も彼女を追っています。」


 エリックはフウ、とため息をつく。ここでアンジェラとエリックの目的は一致した。二人は立場こそ違うものの、ドロシーを追っている。


「お願いがあります。私に協力してください。」


 アンジェラは言った。二人の状況からすれば自然なことだろう。


「そのつもりです。鮮血の夜明団と連携できれば彼女を捕まえることができるはずですからね。」


 エリックはにやりと笑った。20歳くらいの青年は礼儀正しく現実的で、頼もしい雰囲気を放っていた。


「それでは事件現場にでも行きましょう。」


 エリックに案内され、アンジェラは事件現場と言われているビルに向かった。



 クラウン社。事件が起きた会社のビルがある。窓には氷が残っており、中央部分が割れている。ここから脱出したであろうことは容易に想像できた。


「あの窓から入りましょう。僕の魔法なら可能です。」


 エリックは言った。どうやって入るのかアンジェラは見当もつかなかった。エリックは光のはしごを窓の割れ目にかけ、のぼりはじめる。どうやら光のはしごは実際にのぼることができるらしい。アンジェラもエリックに続いてのぼる。はしごに手足をかけるたびに光の魔法の感覚が伝わる。太陽の光を浴びている感覚だ。


 やがて二人は事件のあった場所にたどり着く。クラウン社ビルの4階。窓枠が凍り付き、通信設備がことごとく破壊されている。さらに入口のドアは氷で完全にふさがれている。社員たちはことごとく死んでおり、吸血の痕がある。若い男性社員の近くには木の杭も転がっていた。


「ひどいな……」


 エリックは思わず声を漏らした。ほぼ密室の状態でこの社員全員が殺されている。そのはずなのに、別のフロアでは残業だって続いている。


「このやり方、間違いなくドロシーです。去年、とある会社で起きた吸血鬼が上司を殺した事件。あれを解決するときにドロシーが使った手口と同じです。」


 と、アンジェラは言った。彼女が思い出すのは去年の同じころに起きた事件。ドロシーの活躍で事件を鎮めた時も同じようにして吸血鬼とその上司を隔離していた。


 アンジェラはこの状況を詳細に記録した。やり方からして完全にドロシーがしたことだとアンジェラは考えている。


「エリックさん。情報収集をお願いできますか?ドロシー……犯人は私が向き合えば逃げません。きっと。」


 と、アンジェラは言った。エリックはややその言葉に疑いを持っていた。しかし、アンジェラは鮮血の夜明団の人間。エリックはアンジェラを信用することにした。




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