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鮮血の刃  作者: 黒崎揄憂
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抱えるもの

 アンジェラは寮によると思いきや、その先のパン屋に向かった。寮の近くということもあって鮮血の夜明団関係者がよく訪れる。アンジェラも例外ではないのだ。


「おお、いらっしゃい!ドロシーはどうしたかい?」


 中年男性、このパン屋の店主であるロッジは言った。そのロッジをアンジェラがきつい目つきで睨みつける。今、アンジェラにとってドロシーに関することは禁句。


「どうもこうもありません。ドロシーは私を裏切った、それだけです。」


「……これ以上は聞いてはいけないだろうか。嫌ならこれ以上聞かないぞ。」


「そうですね。聞かれると私がどうなるかわかりません。最悪私があなたを殺してしまうかもしれない……人間だけは殺したくないのでできればやめてください。」


 アンジェラは答えた。明るい表情を一切見せないまま彼女は店に陳列されているパンをトレーに取り、会計をすませる。


「アンジェラ。無理はするなよ。」


 ロッジがアンジェラに言うとアンジェラは頷き、パン屋に備え付けられている食事のできる席に座った。その様子を見るロッジ。特別な関係のあるわけでもないロッジでさえアンジェラの異変には気づいていた。


「前から気づいていたがあいつは相当精神がおかしい。黒インクよりどす黒いものを抱えている。隠そうとふるまっても意味がない。」


 もちろんアンジェラはロッジの言葉など聞いていなかった。興味を示さないものに対してのアンジェラは冷淡ですらある。


 アンジェラはパンを食べ終えるとトレーを返却して店の外に出て寮へと向かった。ドロシーを探す前にやることがある。


 自室に着くとアンジェラは紙とペンを取り出す。書き残すことがある。遺書だ。アンジェラもドロシーの強さはよく知っている。人間だった頃から彼女は強かった。手合わせをしてもアンジェラでは敵わない。いくら吸血鬼になり弱点を突けるようになってもアンジェラは決してドロシーを侮らなかった。


 ――鮮血の夜明団の皆様へ。ドロシーは吸血鬼になりました。フォースターの洋館にてこの目で確認しました。ドロシーは氷の魔法を使う吸血鬼。私より確実に強いです。だから私が殺される可能性も十分にあります。だからこうして遺書を書いています。私はヨハネさんに頼んで2週間休暇を取りました。


 遺書を書き終え、アンジェラはひどい眠気に襲われる。そういえば徹夜をしていた。アンジェラはシャワーを浴び、部屋のベッドに横になった。そのまま10時間は眠っていただろう。



 寮に戻ったのが午前9時。今がだいたい午後7時頃。目を覚ましたアンジェラは自室の外に出た。ここで一人の女性魔物ハンターと目が合うアンジェラ。その相手はカナリア。アンジェラ・ストラウスに光の魔法を教えた師匠であり、かつて共に吸血鬼討伐などの任務を請け負った仲間。


「アンジェラ。何があったの?」


 カナリアはアンジェラに何かあったことを察したのか、アンジェラに聞いてきた。


「私に隠し事はできない。包み隠さず話すんだよ。」


 アンジェラはこのときカナリアに心の奥を見透かされたような気がした。答えなくてもゆくゆく明るみに出るだろう。アンジェラが嘘をつくようなことがないのはカナリアの存在が大きい。


「ドロシーが吸血鬼になったんですよ。」


 と、アンジェラは言った。ドロシーが吸血鬼になった事実を未だ認められないような口調だ。


「吸血鬼……たしかにあんたは嫌っているね。でも鮮血の夜明団のメンバーにも吸血鬼はいるだろう?スリップノットにいる二コラとジョシュアとかね。」


 諫めるような口調のカナリア。彼女の言う事はもっともだ。しかしアンジェラにはまだ言っていない事がある。


「確かに吸血鬼でもあの二人はそうですよね。ドロシーは違います。彼女は罪もない人を殺しました。しかも家族を殺すなんて理解に苦しみます。」


「そんなことがあったか。にわかに信じられない。あのドロシーが……」


「そうです。私、2週間休みを取ります。詳しい事は言えません。」


 アンジェラはそう言って話を終わらせようとした。しかしカナリアはそれを許さない。


「アンジェラ。」


 呼び止めるカナリア。アンジェラは振り向いた。


「死ぬことは許さない。弟子に先立たれることはいくら私でもつらい。」


 アンジェラはカナリアの言葉を聞き、寮を出た。ここからドロシーの行きそうな場所へ向かう。まずはフォースターの洋館。アンジェラが最後にドロシーを見た場所。あの場所でドロシーは吸血鬼となっていた。もし地下にでも籠っているのならば楽に探し出せるだろう。




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