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鮮血の刃  作者: 黒崎揄憂
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喪失、そして慟哭

 3時間ほど待つと氷の枷が砕けて消えた。アンジェラは自由となり、階段を防いでいる氷柱を見た。これは砕くことができるだろうか?アンジェラは指揮棒を構えた。


「ドロシー。どうせこの下にいるんでしょう?」


 アンジェラは息を吸う。今の彼女はあまりにも冷静だ。正確に言えば冷静とは程遠い怒りと悲しみゆえに殺意がわき、彼女を冷静にしている。


 魔力を練り、望む形に光を集める。探偵チームのリーダーほどではないが波長を気にしない高威力の光の魔法も使えるアンジェラ。そして彼女は魔法を撃った。


 結果、魔法は氷を砕けなかった。ただ氷に反射されてシャンデリア一つを破壊したにすぎない。アンジェラは魔法で砕くことのできなかった氷を見つめた。氷にアンジェラの顔が映る。虚しさと怒りの入り混じる複雑な表情のアンジェラ。彼女は氷から目を背け、膝をつく。目から涙も溢れ、もはや感情に蓋などできない。


「ドロシー!!!何が吸血鬼を救いたいだ!あなたが吸血鬼になってしまって!」


 張り裂けるような声だ。この声が地下に届くかはさておき、アンジェラの慟哭は止められない。アンジェラは震える喉に力をこめた。


「うぉあああああああああああ!!!」


 泣いた。アンジェラはひとしきり泣いた。それでもアンジェラの思いが晴れることはない。涙の筋がほほを伝う。気持ち悪い。自分自身の涙なのに。



 40分ほど泣いた後アンジェラは涙を拭った。それで解決したわけではないがアンジェラは自分のすべきことを思い出す。ヨハネへの報告。


 来た道を戻るアンジェラ。ふと、彼女の目にあるものが入る。ナイフで固定され、壁に刺さった手紙。アンジェラはその手紙を手に取った。丸いかわいらしい文字。これはドロシーが書いたもの。内容は鮮血の夜明団内部の出来事。アンジェラも知りえない事実が書かれていた。もし本当ならば鮮血の夜明団の存続にかかわる大問題だ。


 ――ドロシーはもはや人ではない。この洋館の人間3人を殺害したことも彼女自ら告げた。アンジェラにはドロシーを殺すしか道は残されていない。しかし、手紙の内容も不可解だ。ドロシーを殺したいとともに、彼女に聞きたいこともある。


 アンジェラは一言たりとも発することなく洋館を後にした。もう元には戻れない。ドロシーが反省しても意味はない。アンジェラ・ストラウスという人間も鮮血の夜明団も裏切りには敏感で、裏切りを激しく嫌うから。



 鮮血の夜明団本部。ヨハネはロビーのベンチでシオン・ランバートという魔物ハンターと談笑していた。そこに現れるアンジェラ。泣き腫らした彼女の顔からヨハネはそれとなく事情を察した。


「アンジェラ……」


 ヨハネは思わず声を漏らした。


「なあ、ヨハネさん。アンジェラに何が……」


 シオンがヨハネに尋ねた。その何気ない一言がアンジェラの心を容赦なく打つ。


「ドロシーが……私はドロシーを殺さなくてはならない。裏切られたのよ。」


 心の底から、魂の奥底からこみ上げるアンジェラの言葉。彼女の怨嗟は彼女自身を駆り立てていた。はたから見れば彼女が狂っているかのように見える。実際シオンからはそう見えている。


「私にドロシーを討たせてください、ヨハネさん。これは私のけじめです。彼女は吸血鬼になった上、人まで殺した。」


 重い。アンジェラの一言がこの場の空気を重くした。


「大丈夫なのかい?確かに君が嘘をつくことはほとんどない。それも真意なんだな?」


「私は平気です。2週間。2週間私に休暇をください。どうせ休んでいませんでしたから。」


 相変わらず気圧されるような威圧感だ。いくらヨハネが年上であってもアンジェラに逆らうことはできない。アンジェラ・ストラウスには謎の重苦しいカリスマ性があるようだ。


「ああ、許可するよ。君は休んだ方がいい。少しでも心を……」


 そのヨハネをアンジェラが睨む。彼女の真意をヨハネはくみ取れなかった。


「とにかく休暇の申請は書いておく。多分通るはずだよ。」


「ありがとうございます。それと、ドロシーが書き残したもののようです。参考までに持っていてもらえませんか?」


 アンジェラはヨハネに紙切れを手渡した。その紙切れにはナイフで刺された跡がある。フォースターの洋館でアンジェラが見つけたドロシー直筆のメモだ。


「ああ。わかったよ。2週間後に生きて会おう。」


「はい。」


 アンジェラは踵を返し、鮮血の夜明団関係者の寮へと向かった。このときの彼女から死相を感じ取るシオン。アンジェラは果たして大丈夫なのか。




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